第3話「夢オチ」

 目を覚ましたら、家で寝ていた。


広志「あれ? なんで? 夢? 夢にしては、リアルやったなぁ。あはは、いくらなんでも犬が喋るなんて、ないない。それに火星人って! 我ながら変な夢やったなぁ」


 あまりの馬鹿げた夢に、よくもまぁ、あんな夢を見たもんだと、ひとしきり笑った後に、或る事に気づいた。


広志「ん? 待てよ……てことは……えー! 肝試しまたやんの!」


 夢とはいえ、せっかく勇気を振り絞ったのに、なんだか損した気分だった。


 イタズラに鳴る太鼓や笛のが、祭りまでの時を刻んでいる。


 チャイムも鳴らさずに、安夫は玄関を開けると、二階に居るであろう僕を呼んだ。


安夫「広志ぃ~、まだかぁ~?」


 こ、これがデジャヴってヤツか……

 ボソッとそう呟いた後、声を張って返事をした。


広志「待って、もうすぐ降りるから」


 それにしても、夢といい、現実といい、安夫はガサツな男やなぁ~などと思いながら、壁に掛けてあった浴衣に袖を通し、安夫の居る一階へ降りた。


 僕は安夫と色々な屋台を覚えていないくらい渡り歩き、最後の盆踊りに至るまで祭りを楽しんだ。

 夢のような時間は、いつだって早く過ぎて行く。


 あぁ~あ、肝試しかぁ~、嫌だなぁ~。


安夫「んじゃ、帰るか?」

広志「へ? 肝試しは?」

安夫「はぁ? お前、またしたいんか?」

広志「え?」

安夫「お前も好っきゃなぁ~、流石に二日連チャンは、ダレてオモンナイって!」

広志「えぇ!」

安夫「ハイハイ、お前が肝試し好きなんは、よう解ったから、また来年な」

広志「あ、あぁ……うん」


 昨日、どうやって帰ったのかを聞くのが怖かった。

 頭の中は混乱し、何が何だか解らない。

 とりあえず、落ち着こうと、大きく深呼吸して、ゆっくりと昨日の事を整理していった。


 祭りは、一週間あるから、今日あってもオカシイない。

 昨日、肝試しがあって、

 僕が赤い目の犬を見て、

 気絶して、

 帰りが遅いのを心配して、

 和兄ちゃんたちが、連れて帰って……ん?

 いやいや、待てよ、そうやったとしたら、この安夫が「お前も好きやな」なんて言う筈がない!

 こいつなら絶対「昨日は大変やったわ~」とか「お前、ヘタレやな」とかって、言う筈や!

 そう、こいつは、そういうヤツや!


安夫「ほな、広志しまたな」

広志「あ、あぁ、またな」


 安夫と別れてからも、道を辿るように、昨日のことを繰り返してみたが、考えても考えても、頭が混乱するばかりで、答えが出ない。

 そうこうしている内に、いつの間にやら家に着いていた。


広志「ただいまー」

 母「アンタねぇ。祭りやからって遅いよ!」

広志「ごめんなさーい」

 母「それから……アンタが預かったんやから、アンタが世話しいよ!」

広志「へ?」

 母「へ? やないでしょ、ホンマにもう、この子は……秋男君が旅行に行くからって、預かったんでしょ!」

広志「えぇ!?」


 母は、再び疑問符の付いた言葉を発した息子に呆れ、目を見開いて我がバカ息子を怒鳴りつけた。


 母「遊び呆けて、忘れてしもうたんか!」


広志「あぁ! 犬やね、犬。覚えてるよ。覚えてる!」


 あまりの怒声に驚いて、慌てて考える間もなく、咄嗟に返事をした。


 母「シッカリしてよ! 預かった犬死んでも、お母さん知らんよ!」


 僕は、その場を逃げるように庭へと向かいながらも、アレが居る怖さも同時に感じていたので、柱の陰から庭の様子を伺ってみた。


広志「居る……やっぱり喋るんやろうなぁ、この犬」

 犬「誰が犬やねん!」

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