第2話 ラクリモサ 涙の日
夜。立ち飲みのバーに僕らは寄った。
先客が3人いたが、僕らが入るともう店は満員になった。
女が外のトイレに行くとバーテンが詰めてきた。
「かわいい子ですね」
「ええ、まぁ」
「え?聞こえません。もっとハッキリ喋ってくださいよ」
客達も、みんな僕のことを凝視している。
高田純次に似ているチェックのシャツ着た中年が顔を突き付けてきた。いや、挑発してきた。
「若いと思ってんの?あなたも中年なんだから、ちゃんとハッキリ言わないと」
純次の目は笑っていなかった。
僕はどうしてそんなことを言うんだろうと、悲しい気持ちになった。
女が戻ってくると彼らは何事もなかったかのように酒を飲み、バーテンはグラスを拭いていた。
僕は思わずその場で女をギュッと抱きしめた。あの紙細工のように簡単に壊れてしまいそうだ。でも、しっかりそこに感触があった。
女は無言だったけれども、こうして人前で抱かれることに恍惚としている様子だった。
夢から醒めるとなぜか僕は昔付き合っていた年上の浮気相手を思い出した。
背の高い女性で服のセンスも良かった。
そして、そのしなやかな体を僕は何度も狂ったように抱いた。
「今、同棲している彼女とは別れたいんだ」と言いながら。
1年ほど、逢瀬を重ねた頃。
「もう飽きてしまった」
と僕は浮気相手に伝えた。秋の葉がパラパラ雨粒のように落ちる公園で。
浮気相手は顔を背け泣いていた。
レクイエム よもぎもちもち @yomogi25259
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