レクイエム

よもぎもちもち

第1話 エテルナム

 青いワンピースを着た小柄で華奢な女の視線を感じた。


 僕は色弱なので正確には“青っぽい”になるのかな。


 1Fは小粒の綺麗な石達がガラスケースの中にポツンポツンと置かれ寂しそうにしていた。何の石かはさっぱりわからない。


 通路は、人がすれ違うのに気を使いそうなくらい狭い縦長のビル。壁の材質は木だったので、僕は築50年になる実家の壁を思い出した。


 2Fが僕の目的であるラブドールの展示会場になっていて、そそくさと階段を上がった。その女もすぐ後についてきた。


 ちなみにラブドールは、主に男性の性具用に使用されるシリコン製セックス人形の事なのだけれど、最近は女性がアートとして撮影に来る事もあるらしい。

 だから僕はそっち関係に興味のある人なのかも知れないな、と思った。


 人間そっくりのドールを最初は芸術作品を鑑賞するように見た。造形美やら肌の質感を。次に性的な目で妄想膨らませ、脳内で舐めまわしていた。


 すると僕のすぐ左横にその青いワンピースの女がやってきた。

 肩甲骨まであたり伸びるサラサラの黒い髪。キュートで、ちょっとずる賢そうな、男受けするタイプ。


 「何見てるの?」

 女は僕の見ている石原さとみ似のドールを見つめながら言った。


 「あそこにへんなものがあるんだ。見えるかな?」

 僕は石原さとみの足元の少し横を指さした。

 もちろんそこには何もないのだけれど。 


 「そうね、ちょっとだけへんかも」

 「こんな所にあんなものがあるなんて、不思議だよね」


 「もしかすると私達だけにしか、わからないのかも知れないね」

 「そうだね」 


 「ねぇ、あっちに行ってみない?面白そうだよ」

 「いいよ」


 僕らは同じフロアの角にある紙細工のアンテナショップに行った。

 設置も撤去も簡単そうなブースに数人、店先に客引きが1人いて声を掛けられた。

 

 職人の技巧やら紙細工の歴史やら熱心にアピールされたけれど、女は幾重にも折り込まれた鶴の作品をただじっと眺めていた。

 僕がうんうん大人しく聞いていると、他のスタッフも集まってきて博多弁が飛び交うようになった。売り込みに熱が帯びる。突然、ひときわ大きな声で芸人・博多華丸が

 「うるさいけん静かにしときぃ!」

 と笑いながら怒った。生で見る博多華丸は目がギョロギョロ血走っていた。

 ネタともつかない営業トークを披露しながらも、彼らは仲間内で楽しそうに話をし始めたので、僕らは静かにブースから離れることにした。


 

  

 

 


 


 

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