第74話 妖精界の歴史と受け継がれた血筋
かつて、人間界に人類の存在が確認されるよりも前、
精霊は
人間の夢を正しく導くために夢妖精を生み出し、夢の力を正しく扱うため、
人間界と妖精界の自然調和を監視し、精霊とやり取りが出来る存在として、
妖精界に巣食う魔族の存在を監視し、魔力や結界に長けた存在として、
そして、人間界と
やがて魔界より君臨した魔王の存在により、力の均衡が乱れ、
「やがて、妖精と契約出来る
十六夜がどこからか持って来た苺のショートケーキを食べつつ話を進める。
「でも、それって……何百……いや何千年、何万年も前の話……ですよね?」
雄也がそう尋ねる。
「そうですね、私が生まれるよりずっと前の話ですから」
「だな、まぁ、俺はその勇者の子孫っつー訳だな」
どうだ、凄いだろう? というような表情でシュウジさんが珈琲を飲んでいる。『俺は珈琲派なんだよ』というどうでもいい情報まで補足してくれた。
「え? でも、シュウジさんは
そう聞いたのは優希だ。
「ええ……つい最近の事ですが、ニ十数年前、かつて倒されたはずの魔王が復活したのです。今までも強大な魔物が現れる事はしばしばありましたが、魔王が復活する事はなかった。事は一刻を争いました。この時、人間界で巫女が探し出し、見つけた適合者が
適合者として
「だがな、俺の力ではやつは倒せなかったんだよ……」
「ど、どういう事だよ親父……」
和馬がそう尋ねる。親父の力を目の当たりにした今、それでも通用しなかったという言葉が信じられなかったのだ。
「俺達と魔王との戦いは激しさを増していった。俺達は、魔王に傷をつける事は出来ても、最後まで倒す事は出来なかったのさ。やがて皆が疲弊し、もう手段がなくなって来た時……」
シュウジがそこで息を呑んだ。
「シュウジ達は魔王を
「本当は皆あの時、彼女を守りたかったのさ……だが、彼女は命を賭して魔王を封印したんだ。救世主は俺じゃない、彼女だったのさ」
そこまで語り終えたシュウジが、初めて天を仰いだ。
「そして、今、再び世界が闇に包まれようとしています。それがあの日、封印されし魔王の仕業なのか、何なのかは私にすら分かりません。しかし、強大な敵の影が迫っている……私はそう考えています」
「―― 和馬、お前は目の前で仲間が死ぬ事を受け入れられるか? そんな状況になっても敵を倒す! そう言い切れるのか?」
和馬をじっと見つめるシュウジ。
「そ……それは……」
「やってみせます!」
和馬が下を向く中、そう続いたのは雄也だった。
「仲間が死ぬのは見たくないし、守れるかは分かりません。でも、俺は守りたい! たくさんの人が苦しむ姿を見たくない。そうだろ? 和馬?」
「和馬、いつもの和馬らしくないやん? いつもの和馬なら、俺が世界を救ってやるぜ! ……って言うところだろ?」
雄也と優希が続いた。
「ふ、いい仲間を持ったな、和馬」
「……あんたの言いたい事は分かったよ親父。もう俺は逃げねぇさ」
和馬の……そして、皆の決意は固まったようだ。
「あ、あの……
「はい、なんですか、優斗さん」
優希……いや優斗が頭の中で引っかかっていた事を口にした。
「今
雄也も同じ疑問を抱えていたらしく、思わず息を呑む。そう、二十数年前という事は、以前如月エイトが話していた、
「なんだ、お前等、
疾風迅雷の勇者――
そして、現、
「エイトさん……やっぱり……って、え? 葉子おば……お姉さん!?」
「な!? 水無瀬先生!?」
「おいおいマジかよ……!?」
それぞれが驚きの声をあげる。ここで水無瀬先生の名前が出てくるとは、誰も思っていなかったのである。しかも
「雄也さん、もう貴方は気づいたのではないですか?」
「ま、まさか……俺が
雄也は
「ええ、そうです。雄也さん、貴方が
「あ、あの……じゃあ俺は……」
十六夜の雄也に対する回答を聞き、優希がそう続く。
「さぁ、どうしてでしょう? ……と、隠しても仕方がありませんね。先ほど名前が挙がった、亡くなった
「ま、まさか……」
優希が自分の両手を見つめる。
「そして、こいつ、和馬は俺の息子って訳だな。子の世代を巻き込みたくなかったんだがな。こうなってしまっては仕方がない。俺が最後まで面倒を見てやるよ」
「マジかよ……」
今まで家にもろくに帰らなかった親父が勇者だった……それだけでも和馬には衝撃的な出来事だったのだ。まさか三人とも……そう思う和馬。
「そう、貴方達が
★★★
「ママは本当に昔、
「そうね……最終的に救ったのは私じゃなくて
水霊神社の社務所で会話をする母と娘――
「そのお友達は今も元気にしてるんですか?」
「いいえ……その戦いで……死んだわ」
「ご、ごめんなさいです……」
「いいのよ、もう過去の出来事だから。私達はね、
昔を思い出したのか、物思いにふける葉子。
「でも、友達が居なくなるのが辛い事なのはわかるのです……」
「ええ、辛かったわ。頭の中がぐちゃぐちゃになる位にね。もう何年も会ってないけれど、エイトも
最後は自分に言い聞かせるようにして語る葉子だった。
「あ、ママ。そう言えば、あの小娘はどうするですか?」
三葉はそう言うと、
「そうね……この
美優の寝顔をじっと見つめ、答える葉子。
「ママ、でもどうしてこの娘は、
三葉がずっと疑問に思っていた事を口にした。
「さぁ、それは私にも分からないわ……どうしてかしらね……」
「ママにも分からない事があるんでしゅね」
三葉には一瞬、母がはぐらかしたかのような印象を持ったが、深くは聞かない事にした。
「さぁ、私はこの娘を送り届けるわ。留守番よろしくお願いね」
「わかったです」
葉子は眠っている美優を肩から担ぎ、その場を後にしたのである。
―― これも血筋……かしらね……。
社務所を出た葉子は一人、そう呟いたのであった ――――
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