第75-1話 雄也サイド①《リンクの試練とそれぞれの道へ》

「はぅう……凄い水流なのです……」


 目の前に巻き起こる水流を見つめ……思わず溜め息をついたのは、エレナの巫女であるエレナ王妃の娘、蒼眼妖精ブルーアイズのリンク・ルーシーである。


「それにしてもこれ……全部、魔水晶ですね……雄也さんに持って帰ったら水鉄砲も強くなるし、喜んでもらえるかな……」


 辺り一面、壁という壁が水色に輝く魔水晶に囲まれており、目の前には巻き起こる水流、その奥に次の階層への扉が見える。試練の間に入ってすぐ、透明な水晶で出来た長い階段があり、階段を降りた先にあった最初の間がここだったのだ。どうやら、一つ一つ、課せられた試練をクリアしていく必要があるらしかった。


「……はっ、そんな事言ってる場合じゃないのです! 行きますよ、シャキーンです!」

 

 リンクはそう呟くと、舞を舞い始める。優雅で可憐な動き、見る者を魅了してしまいそうな舞……やがて動きを止めるリンク。


「――水の戯れ<レイジング>」


 リンクがそう呟いた瞬間、目の前に巻き起こる水流がリンクの手の動きに合わせて後方へと流れ出し、やがて目の前にあった水流はリンクの能力スキルによって見事になくなっていた。


「えへん、この位、簡単なのですよ! 雄也さん、待ってて下さい。強くなって戻って来ますから」


 そういうと、リンクは次の試練へ向け、扉を開いて進むのであった ―― 



★★★


「ん……何か今、リンクに呼ばれた気がする……」

「なっ!? 僕の名前ならまだしも、リンクがお前の名前なんか呼ぶ訳ないだろ!?」 

「そうです、お嬢様は試練の真っ最中ですから」


 雄也の発言を真っ向から否定したのはパンジーとレイアだ。

 十六夜いざよいとシュウジによって、妖精界フェアリーアースへ来た宿命を知った雄也達はその日、夢見御殿ゆめみごてんにて一泊した後、それぞれ旅立った。その際三人は約束を交わす。


 みんな必ず生きて帰って来る事。


 目的が達成された際は、他のメンバーと合流する事。


 身の危険を感じた際は、夢の都ドリームタウンへと戻る事。


 この三つだ。


 優希は光の国ライトレシアに居るブリンクと合流し、ブリンティス山の麓にある、ブリンティスの森へと向かっている。そう、あのユニコーンに逢いに行く事が目的らしい。十六夜によると、ルナティの身体を回復させるには、ユニコーンの力を借りる必要があるとの事だ。ユニコーンに会ったら驚くだろうな……と、ノリがいいユニコーンと一度出会った事のある雄也は一人思うのであった。


 そして、和馬は風の都ウイングバレーへと向かっている。ただし、ファイリーを使役出来ないため、弥生やよいが一緒に付いている。巨大な白蛇が出現した際は、三人共驚いた。しかも名前はぴゅあちゃん……というらしい。和馬と弥生は、まさかのぴゅあちゃんに乗って、風の都ウイングバレーへと向かったのである。和馬に弥生を付けた理由は、単に風の都ウイングバレーへ和馬を連れていくだけの目的ではなく、その場でウインクと契約出来るように……と十六夜いざよいが補足していた。巫女に準ずる力を持つ弥生は、妖精と人間の契約に立ち会う力を備えているらしかった。


「あのぴゅあちゃんには、私も驚かされました」


 優希と和馬の事を雄也が説明していると、レイアさんが相槌を打って反応していた。どうやら夢の都ドリームタウンであの白蛇のぴゅあちゃんを見事に乗りこなす、弥生と遭遇したらしい。


「で、頼りないけど残りの雄也が僕のところへ来た、という訳だね」

「頼りないけど……は余計だろ? これでもパンジーを心配して来たんだよ?」

 

「な、なんだよ。心配されなくても僕はこうして元気だし、花の街フラワリムも平和だっつーの!」

 

 そう、十六夜いざよい夢渡りの力ドリームポーターにより花の街フラワリムへと送り届けられた雄也。そこには色とりどりの花が咲き、美しい景色を取り戻した花の街フラワリムが目の前に広がっていたのである。パンジーには『雄也、何しに来たの?』と言われる始末だ……。そして、そんな雄也の前に続けてレイアが現れた。なんでもリンクが水精霊ウンディーネの試練を受けている間、エレナ王妃とリンクに雄也の護衛を頼まれたらしい。


「俺って、そんなに信頼されてないのかね……」


 雄也が溜め息をつく。


「心配される事はいい事ですよ、雄也様」

「ありがとう、レイアさん」


 レイアのフォローに苦笑いするしかない雄也なのである。


「それにしても、恐らく土の国ウッドリアーノに異変が起きているなら、恐らく、リアーノの森の奥にある首都――森妖精都市トレントシティじゃないかな?」

森妖精都市トレントシティ?」


 パンジーの発言に雄也がそのまま聞き返す。


「森妖精都市は花の都フラワリムの南に位置する土の国ウッドリアーノの首都ですね」


 レイアが補足してくれた。


「そうそう、確か花の街がこの間おかしくなった時も、土の国の首都である森妖精都市に助けを求めても音沙汰なしだったもんね。もしかしたら、その頃から何か起きていたのかもだね」


 うんうん、と、パンジーが約一名、腕を組んだまま納得したかのように頷いている。


「そうと決まれば早く、森妖精都市へ向かおう」

「えーー、やだよーー」

「え!?」


 まさかの拒否反応に驚く雄也。


「だって、僕、森妖精トレント苦手なんだよね。あいつら僕を馬鹿にするんだよー。森妖精の方が花妖精フラワーフェアリーより上位の妖精なんだってさー、酷くない?」


 頬を膨らませて訴えるパンジー。


「分かりましたパンジー様、もしパンジー様を脅す輩が現れた際は、私が間に入って差し上げましょう。それでよろしいですね?」


 いやいや、レイアさん、それこそ脅しにならないか……よろしいのですか? そう思う雄也だったが……。


「まぁ、レイアさんがそう言うなら……」


 パンジーは渋々納得していた。三名はこうして、リアーノの森へと向かう事になる ――



―― 光の主よ……大地を見据え司る者よ……光の途へ我等を導きたまへ……闇を照らす道標として我等に希望の灯を与えたまへ……


 リアーノの森、入口へと辿り着いた雄也、パンジー、レイア。大きな樹が立ち並び、どこが入口かは分からない。そんな場所でパンジーが、光の国ライトレシアに向かう際、光源の樹の前で使用した呪文を詠唱する。するとどうだろう……大樹と大樹が蠢き、左右へと大地が開き、道が出来たのだ。


「凄いな……」

「どう雄也? 僕の事見直した?」


 両腕を腰にあて、自慢気なパンジー。


「あ、でもこの間と同じ呪文なんだね」

「いやいや、そこは別にいいだろ? 土精霊ノームも違う呪文作るの面倒くさかったんじゃない?」


「え? そういう理由?」

「もう、細かい事はいいだろー」


「雄也様もパンジー様もなんだかんだで仲がいいですね」


 レイアがそのやり取りを見つつそう告げる。


「こ、こんなのと仲良い訳ないだろーー!」

「そういう事みたいです、レイアさん」

「ちょ、笑うなーー雄也ーーー」


 雄也の肩をポカポカ叩くパンジー。でも弓矢を使わないという事は、出会った頃と違い、パンジーに、雄也への敵意はない事が分かる。その様子を微笑ましく見つめるレイアなのであった。

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