第72-2話 夢見御殿にて《後編》

「あの、お取り込み中すいません、十六夜いざよいさん。あの後還った後、優希ちゃんの事もそうなんですが、人間界も色々おかしくなっていまして……もうご存じかもしれませんが……」


 十六夜と優希のやり取りが落ち着いたところで雄也が尋ねる。


「ええ、巫女の知り合いに聞きましたよ? 行方不明の子供達は無事に見つかったようですね。皆さんが対峙したアリス、あの子が倒された事が恐らく原因でしょう」

「え、そうなんですか?」

「アリスは夢渡りの力ドリームポーターに加え、人間の夢見る力ドリーマーパワーまで扱える存在だった。敵側としては利用しない手はなかったのでしょうね」


 目の前にあった紅茶に手をつけ、一息つく十六夜。アリスが子供をさらった張本人……という事になるのだろうか?


「じゃ、じゃあ、妖精界も救われたって事なのか!?」


 和馬が十六夜に質問する。


「そうであればよかったのですが、残念ながら各地で異変は起きています。私も含め、先ほどまでその件について四大巫女で話をして来たところです」

「四大巫女で!? そんな大変な事になっているの?」


 優希の発言は、ルナティの意思あっての事であろう。


「自体は思っていたより深刻ですね。夢の国ドリームプレミアに張られていた、制限結界リミテッドフィールドにより夢見の力が封じられている間、雄也さん達が救った国以外の場所でも異変が起きていたようです。風の都ウイングバレーと、土の国ウッドリアーノ闇夜大国ナイトルーディア……本来はこちらの三国にも子供達が関与していたのでしょう。アリスが居なくなった事で子供達の夢みる力ドリーマーパワーを維持出来なくなり、やむ負えず解放したのではないでしょうか?」


「待って下さい……パンジーが住む花の街フラワリムは、確か土の国ウッドリアーノの中にあったはず……」

「お、おい、ウインクさん風の都ウイングバレー出身じゃねーか!? ウインクさんは確か風の都ウイングバレーへ戻るって!」


 雄也と和馬がそれぞれ反応する。


「雄也さん、和馬さん、そして、優希さん……いえ、優斗さん。ここからの戦いは今までより激しくなる可能性もあります。本来妖精界フェアリーアースの問題、これ以上あなた方を危険へ巻き込みたくない……ですから、あなた方の意思を尊重します。もし還りたいと言うならば、私はこれ以上あなた方を巻き込みません」


「何言い出すんですか。俺はパンジーが心配です。それにここまで来てそれはないですよ? 十六夜さん?」

「そうだぜ! 俺もウインクさんが心配だ。すぐに風の都ウイングバレーへ向かわせてくれ!?」

「俺は早く優斗の姿に戻りたいやん。それに、ルナティの身体失う訳にはいかないやん?」


 三者三様の答えだが、皆妖精界フェアリーアースを救うという意見は一致しているようだった。


「皆さんなら、そう言って下さると信じていました。ありがとうございます」


 十六夜が立ち上がり、お辞儀をする。


「そう決まったなら、リンクを呼んで花の街へ向かおう」

「こっちもファイリーと風の都ウイングバレーへ」

「いや、俺はルナティを……」


 三人がそれぞれ呟く。


「雄也待て、風の都ウイングバレーが先だろ?」

「待って和馬、土の国ウッドリアーノも大変って」

「いや、俺はルナティを……」


 これ? どうするんだよ? と三人が話していると……。


「はい、皆さん。ここからはしばらくそれぞれで行動してもらいます。雄也さんは花の街フラワリムへ、和馬さんは土の国ウッドリアーノへ。そして、優斗さんは光の国ライトレシアのブリンクさんと合流してもらいます」


 十六夜の頭の中には今後のそれぞれの行動が全て入っているようで……。


「え? 別行動!?」

「ま、マジかよ?」

「なんで光の国ライトレシア?」


「一つ一つの事象を順番に解決してもよかったのですが、時間がありません。ですから、それぞれで行動していただきたいのです。それからもう一つ、大事な事があります。雄也さんと和馬さんは、それぞれリンクさんとファイリーさんなし・・で、向かってもらいます!」

「え!?」

「な!?」


 十六夜の発言に驚く雄也と和馬。


「それはどうしてですか、十六夜さん」


 代わりに優希が尋ねる。


「今リンクさんとファイリーさんは、水精霊ウンディーネの試練、火精霊マーズの試練へ向かってもらっています。強くなるための試練です。これからの戦いに備え、それぞれが動く必要があります。雄也さんは花の街フラワリムのパンジーさんと、和馬さんは風の都ウイングバレーのウインクさんといち早く合流して下さい」


「俺達が還っている間に、そんな事になっているんですね……わかりました」

「マジか……ウインクさんが心配な事には代わりないから、俺は行くぜ」

「まさかの別行動はちょっと驚きだけど……まぁ、俺はルナティがついてるから大丈夫か」


 三人の意思は固まったようだ。




―― おいおい、俺が来る前に話まとまってるじゃねーか!?


 その時、巫女の部屋入口から誰かが入って来た。黒光りした鎧に燃えるような赤いマント、腰には剣を携えており、黒髪で短髪、髭面が特徴の男だった。


十六夜いざよい様、シュウジ・・・・様を連れて参りました」


 シュウジと呼ばれた男に続き、弥生やよいが入って来る。

 

「え? 大人の人間?」

「な、まさか!?」

「どうして、大人の人間なん?」


 雄也、和馬、優希がそれぞれ反応を示す。


「ご紹介します。元勇者であり現『夢都冒険者協会ギルドマスター』であるシュウジさん。今後の事もあって、私が此処に連れて参りました。勇者引退後も、彼には夢の都ドリームタウンのギルマスとして、後世の育成に力を注いでいただいてます」


 十六夜が目の前へと現れた男を紹介する。


「勇者なんて居たんですね……」

「マジかよ……」

「へぇー、ルナティも知ってる位、有名な人なんだね」


 突如目の前に現れた元勇者の登場に、同様を隠せない三人。しかも、大人の人間と妖精界で遭遇したのは光の国ライトレシアに居た如月エイトに続き二人目だった。


「ま、そういうこった。よろしくな。さて、と……」


 軽く会釈をした後、なぜかシュウジは剣を引き抜く。刀身は黄金色に輝いていた。


「……ま……そうなるよな……」


 次の瞬間、シュウジは剣を持ったまま、その場から消えた・・・。雄也が気づいた時には、なぜか和馬がブライトブレイドを引き抜き、シュウジの金色に輝く剣と和馬のブライトブレイドがぶつかりあう。激しい金属音が部屋へ響き渡った!


「ま、この位受け止め切れねーと、これからの戦いには巻き込めねーからな!」

「おいおい、あんたの仕事は特殊警備隊・・・・・じゃなかったのかよ! 親父・・!?」


 刀身を重ねたまま二人が対峙する。


「え!?」

「な、なんだってーーーー!?」


 雄也と優希は突然の出来事に頭がついていかない。


「雄也さん、優斗さん。見ての通り、元勇者のシュウジは……人間界での名前はアライシュウジ。そこに居る新井和馬あらいかずまさんの父親です」


「お前等、息子が世話になったな! ……っと!?」

「親父……あんたには聞きたい事が山程あるんだ……」


「その目……やる気だな……」

「俺たち兄弟を今までほったらかしてたんだ。色々答えてもらうぜ!?」


 元勇者とその息子……まさかの親子喧嘩が、ここに始まろうとしていた ―――― 

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