第38話 聖魔大戦の奇跡

「こ、これは……」


 空間の様子が変わり、雄也達が周囲を見渡す。


 ナイトメアが消滅した後、魔界のような禍々しい空間は、古都〝アルティメイナ〟の荘厳な王の間へ姿を変えた。玉座の奥には大きな古都の紋章が壁面に掲げられていた。ナイトメアの生命が尽きた事により、術が解けたのであろう。


 尚、リンクの魔力も元に戻ったようで、リンクは元の姿に戻った。大人リンクは期間限定だったようだ。


「雄也さん、さっきの……内緒ですよ?」


 頬を赤らめて目をそらすリンク。


「う、うん……だ、大丈夫だよ」


 雄也も人前での抱擁が恥ずかしかったようだ。


「ああーー俺の大人リンクがぁーー夢と希望の蒼穹……いや双丘へのダイブがぁーー」


 頭を抱えて約一名残念そうに唸っていたが、話がそれるのでこれ以上は問わない事にしよう。


「なんで優斗が残念がるにゃ」


 ブリンクが代わりに優斗へツッコミを入れていた。



 その後、王の間奥の扉からエイトとレイアが出て来る。二人が事の顛末を説明してくれた。


 キャッツボーンはキャッツ五兄弟の下っ端で、子供の夢見る力ドリーマーパワーを使い、光の国ライトレシアへ結界を張っていた他、夢の欠片ドリームピースを精製し、各ナイトメア幹部達へ力の素として配布する役回りを担っていたらしい。


 雄也がどうやってそんな事聞いたのか問うと、レイアさんがブチ切れて、キャッツボーンを一瞬で締め上げたらしい。脅されたキャッツボーンはナイトメアが計画していた事をペラペラと喋ったようだ。


 それにしても、エイトさんはキャッツボーンとの戦闘には全く参加しなかったそうで、レイアさんどれだけ強いんだよ、と皆がレイアさんに視線を集中させていた。


「いえ、今までの悪事を思うと、つい力が入りまして……」


 とレイアさんが言っていた。


 部屋の奥には、ヤマシタゲンキ君(服に学校の名札がついたままだったそうだ)という男の子が特殊な機械に繋がれたまま眠っており、魔導連結部アークリンクユニットの特殊指令室にある、パンジーとヨロズが使っていたあの機械と似ていたため、エイトがゲンキ君を解放したらしい。


 ゲンキ君は光と共にその場から消え、後に、夢の欠片ドリームピースとピンク色の宝石が残ったそうだ。


「これで、光の国ライトレシアを包む結界もなくなって、覆っている雲も晴れているんじゃないかな?」


 エイトの言う通り、この日、光の国ライトレシアは光に包まれた。


 いや、光の国ライトレシアだけではない。土の国ウッドリアーノを始めとする、光の国ライトレシアより光の恩恵を受けていた国々に光が戻ったのだ。


 雄也達、ナイトメア討伐部隊は、一人も欠ける事なく、無事に聖都『ブライティエルフ』へ帰還する事となる。


 聖の討伐部隊セイントアドバンスメンバーや、聖の守護部隊セイントガーディアンの何名かの犠牲は出てしまったが、聖都『ブライティエルフ』は勝利の歓喜に包まれ、或る者ははしゃぎ、或る者は酒を飲み、或る者は犠牲者に祈りを捧げた。


 そして、その翌日……。



「皆の者、よく集まってくれた。今日は堅苦しい会話はなしじゃ。この場で勝利の喜びを分かち合おうぞ!」


 王への『謁見の儀』終了後、王の呼びかけで雄也達との会食が行われた。

 雄也達パーティーメンバー全員と、エイト、アラーダ、クレイ、ライティ、レフティ、そして、魔導連結部アークリンクユニットより、隊長まほろばとメイドのメイア、コボルトのヨロズ、聖の守護部隊セイントガーディアンより隊長ルーディス。ついでにくまごろうとウリリンにまでペットフードを入れるような皿が用意されていた。


「うまいにゃーーお肉にゃーーいただきますにゃーー」

「旨いくまーー。魚じゃないけど旨いくまーー」

「ムムムムムムームー(お肉美味しいームー)」


 ブリンクとくまごろう、ウリリンが目の前に並んだお皿に手をつける。


「光の国には川がないからのー。しかし水の都アクアエレナとこれをきっかけに交友関係が持てたのなら、魚料理も提供出来るようになるじゃろうて」


 アラーダがブリンク達の様子を見て話かける。


「お魚おんぷおんぷにゃーー! 食卓にお魚が並ぶの嬉しいにゃーー!」ブリンクの瞳がおんぷおんぷになっていた。


光の国ライトレシアと交友が持てるなら大歓迎です! シャキーンです!」

光の国ライトレシアでしか獲れない農作物もあるでしょうから、エレナ王妃も喜ぶと思います」リンクとレイアが賛同した。


「では、今後正式に国交の条約を私から王妃へ提案しよう」王が笑顔で答える。



「この肉料理に野菜、卵料理だけでも凄い綺麗ですし、充分美味しいですよ!」

「雄也これヤバイよね! 僕の街にはこんな美味しい料理ないよー!」


 雄也とパンジーが、美味しそうに目の前にあるホロホロ鶏のふわとろオムライスを口にした。宮廷オムライスのふわふわ卵は雄也の口の中で溶けていった。


「わぁーー、そういってもらえると嬉しいですー! 私とそちらのレイアさんと宮廷のシェフで作ったんですよー」


 そう言ったのは、まほろばお付のメイド、メイアさんだ。


「やべーな、この肉、口の中でとろけるやつだな」


 和馬も高級ステーキに舌鼓を打っている。


「あたいはこの肉料理だけで充分だぜ」


 ファイリーは、高級ブランド皇帝牛馬ジェネラルミノホースのステーキを涎を垂らしながら頬張っていた。


「はぁ……エイト様……そのスープを口に含むお姿……素敵ですわ……」


 まほろばは、エイトがスープを口にする姿を見て涎を垂らしていた。素晴らしい料理そっちのけでエイトの横顔をじーっと見つめてうっとりしている。


「ま、まほろばさん……そんなに見られると食べづらいんだけど……」


 エイトは苦笑いのまま、野菜たっぷりのスープを口にしていた。


「す、すいません、うちの隊長、普段はいい人なんですけど……」コボルトのヨロズが代わりに謝っていた。


「おい、ルーディス! 寝てる場合じゃねーぞ! 飲め飲め!」

「クレイさん……もう飲めませんよ……おやすみなさい」


 お酒を飲んで高揚したクレイがルーディスにお酒を強要している。


「優斗ぉおーー私……優斗の戦う姿……見たかったわーー。ねぇー、今日の夜も私の部屋に来てね? 待ってるからぁー」

 

 こちらはお酒を飲んで優斗の横をガッチリキープしているライティ。


 槍術を披露していたあの華麗なるライティさんはどこにも居なかった。ナース服のような服の胸元をちらつかせながら誘惑する光妖精ライトフェアリー


「ラ……ライティ……さん! 俺……今日はダメなんです! ごめんなさい!」

「え? どうしたのー? この間は神聖なプリンとか言ってたのにー?」


 いつもと違う様子の優斗を惹きつけようと、さらに近づくライティ。レフティさんが横目で呆れた表情をしつつ、様子を静観している。


「いえ……ライティさん! ライティさんももちろん魅力的なんですが……ダメなんです! こないだ見た大人リンクさんのメロンが強烈に俺の眼に焼き付いてしま……」


 ガタン!――

 その瞬間、顔を真っ赤にしたリンクが椅子を倒して立ち上がっていた。


「ゆ、ゆゆ、優斗さん!」リンクが声を露わにして思わず叫ぶ。


「え? 大人リンクって何?」ライティが目を丸くして優斗とリンクを交互に見る。


 あの場に居なかったメンバー誰もが何の事か分からない表情をしていた。雄也があちゃーという顔をして頭を抱える。ブリンクは気にも留めず、目の前の料理に夢中だ。


「リンク! いや、リンクさん! 俺はあのリンクさんの華麗な姿を一目見て感動したんです! だから俺、リンクさんと――」

「雄也様ならまだしも、お嬢様は貴方のような下衆ゲスには渡しません。さようなら」

「え?」


 気づくと、リンクの横に居たはず・・・・・・のレイアがいつの間にか優斗の背後にまわりこみ、左手に何か料理の皿を持ち、右手の匙を優斗の口に捻じ込んでいた。


「んんん!? ぐぁああああああ! 口がぁー口がぁー」


 何かの名言のような発言を残しつつ、唇を真っ赤にして優斗が泡を噴き倒れてしまった。


「ええ!? 嘘? レイア?」リンクが困惑する。

「お嬢様、大丈夫です。ハバネイロのチキンカレー(辛さ千倍)を食べさせただけですから。一日お腹がぐるぐるなる程度で治りますから心配する必要はありません」


「熱い……熱いよぉ……燃えるよぉ……」


 優斗が気絶したまま何かを呟いていたのであった。



★★★


 宴の時間はあっという間に過ぎ、翌日雄也達は聖都『ブライティエルフ』を旅立つこととなった。


 王や宮廷のメンバーは戦いの後で忙しいらしく、エイトとアラーダ、ライティ、レフティが見送りに来てくれた。


「また夢の欠片ドリームピースを手に入れたら、ブリンティス村か魔導連結部アークリンクユニットのまほろばを訪ねるといい。雄也君達の魔力が多くなると、もっと戦闘が有利に運ぶはずだからね」


 エイトが雄也達にそう伝える。


「ありがとうございます。エイトさんはこれからどうされるんですか?」


 雄也が代表してお礼を言う。


「実は、ブライティエルフの組織にも今回被害が出た事で、幹部に戻らないかとも言われてるんだけどね。僕は自分のペースで研究を続けたいから、ライティとレフティと一緒に村に戻る事にするよ」

「その代わり、俺が聖の討伐部隊セイントアドバンスを新しく作る依頼を受けてね、しばらくは聖都に残る事になりそうだよ」クレイが続けて答えた。


「まぁ、わしはお付が居なくても一人で敵を倒せるからのー。ほっほっほ」と余裕のアラーダ。


 そういえばアラーダさんはこの戦いでどこに居たんだろうか。今ここに居るメンバーに知っている者は少ない。


「レイア先輩、いつでも遊びに来て下さいね!」

「ええ、レフティも元気でね」レイアとレフティが握手を交わす。


「うちは一旦ここに残るにゃー! 優斗、何かあったら使役でうちを呼ぶにゃー!」


 使役があるため、ずっと付いていく必要はないのだ。ブリンクは一旦村へ帰る事になった。


「おーへーわかったおーーブリンク」


 ブリンクに返事をした優斗は、眼にくまが出来、明らかに様子がおかしかった。昨日のハバネイロの影響だろう。


「お、おい、優斗、大丈夫か?」


 和馬が心配そうな顔で優斗を見ている。優斗は唇が通常の三倍仕様の大きさになっている。尚、三倍では動かない。


「んん。和馬。あいおうぶあよ(大丈夫だよ)。はべりにくいだけあから(喋りにくいだけだから)」


「優斗……またいつでも戻って来てね。待ってるからね」


 お酒飲んでいない通常仕様のライティが心配そうな瞳で優斗を見つめていた。


「あ、あいあとうライティさん……うう……と……と……とひれ!」


 下腹部を押さえながら、優斗が駆けだしていった。下腹部の動きだけは通常の三倍だったようだ。


「み、皆さん、この度はありがとうございました! また遊びに来ますね!」


 気を取り直して、リンクがペコリと頭を下げた。


「クレイさん、あんたの修行であたいも強くなれた。ありがとうよ!」

「おぅ、またいつでも稽古つけてやるよ!」クレイがファイリーにそう告げた。


「あ、エイトさん、まほろばさんに会ったら、ゲーム楽しかったです! って伝えといて! それで伝わるハズだから!」

「え? ああ、分かった。伝えとくよ」


 パンジーはあの音ゲー作業の事を伝えたかったようだ。


「今回は本当に世話になったな。代表して御礼申し上げる」アラーダがそういうと、


「ありがとうございました」


 エイト、クレイ、ライティ、レフティが頭を下げる。


 そして、皆、笑顔になった。

 空の光が大地を照らし、皆の活躍を称えているようであった。


 ナイトメアと光の国ライトレシアとの戦いは『聖魔大戦の奇跡』として、後の世に語り継がれる事となるのだが、今の雄也達は知る由もない。



 この後一行は、ケンタロウス馬車で、パンジーを花の街フラワリムへ送り届け、雄也達は一路水の都アクアエレナへと戻る事となる。


 そう、雄也達が人間界へ、再び戻るその時が近づいていた――――

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