第37話 水精霊の福音
その場に居る全ての者が目を疑った。
リンクが居た場所には、吸い込まれてしまいそうなほど清らかな水色ツインテールの髪をなびかせ、美しい女妖精が立っていたのである。
「あ、あの、誰ですか?」思わずそう尋ねる雄也。
「雄也さん、あまり見ないで下さい……恥ずかしいですから」女性がそう答える。
「え? リンクなの?」
女性の声は確かにリンクだったが、思わずそう問いかける雄也。あまりの美しさに見惚れてしまう……身長も、美しい髪も伸び、そして何より、羽衣から豊かに実った二つの果実が溢れそうになっていた。
「ゆ、雄也さんのえっち……」
胸を隠しながら顔を赤らめてそう言うリンク。
「い、いや……そういうつもりじゃ……」
いつの間にか胸に視線が集中していた事に気づき、慌てて目をそらす雄也。
「
リンクが雄也にウインクした。
「な、なななんですかーーあの破壊力抜群の果実はーー!?」
「優斗、鼻血出てるにゃー」
先ほどの光に包まれた事で、優斗とブリンクも、影を縛っていた
「何者かは知らんが、何をしようと無駄だ!」
リンクに向け、
「な、なに!?」
気づくと、リンクの着ていた羽衣から水しぶきが溢れ、リンクの周囲をキラキラと輝く青白いオーラが覆っていた。
「その眼……
ナイトメアが眼の色を見て、目の前に居る妖精が
「ならばこれならどうだ!
ナイトメアの掌から、今までにない強力な闇の波動が放たれ、リンクを吹き飛ばす。
「くはははは……どうだ! 手も足も出まい」勝ち誇った表情のナイトメア。
「それでおしまいですか?」
しかし、笑顔のリンクが何事もなかったかのように立ちあがる。
「ば、ばかな!」
「次はこちらから行きますよ」
刹那、リンクの姿が視界から消え、ナイトメアの四方に魔法陣のようなものが出現する。四方の魔法陣にリンクの姿が現れては消え、現れては消える。舞う度に美しい髪が揺れていた。
「
魔法陣の外にリンクが出た瞬間、四方の魔法陣がある空間から放射状に何百、何千という無数の水流の閃光が光線のように放たれた。ナイトメアの身体を一気に貫いていく。
「がっ!?」
ナイトメアの身体から緑の血が溢れ、肉片が周囲に飛び散った。
「もう、終わりにしましょう。これ以上、何をやっても今の私には勝てません」
「くくく……そうか……漆黒の衣を纏っていない今の身体では負荷がかかるから使わなかったが、そうも言ってられないようだな……」
突然含み笑いをするナイトメア。
「リンク、あいつまだ何かする気だ」
雄也がリンクに声をかける。
「はい、大丈夫ですよ、雄也さん。シャキーンです」
いつもの無邪気な顔ではなく、うっとりとした笑顔でのシャキーンに思わず見惚れてしまう雄也。ナイトメアに向き直り、すぐに素早い動きで舞を始めるリンク。
「あぁああああーー大人リンクさん、結婚して下さいー」優斗が叫ぶ。
「お前は黙ってるにゃ」思わずペシっと突っ込みを入れるブリンク。
「これで終わりだよ、ワシの身体も少し焼かれるが、仕方あるまい、これで最後だ!
地獄から呼び起こす炎は、ナイトメアにも負荷がかかる。漆黒の衣がある状態だと、負のオーラが絶対防御となるが、今はそうはいかない。ナイトメアの身体を燃やしながら、漆黒の炎と紅蓮の炎が舞い上がり、全てを焼き尽くす巨大な渦となってリンクへ放たれたのだが……。
「
リンクの手の動き、足のステップ、全ての動きに合わせ光の筋が現れ、水しぶきがあがる。やがてリンクの周囲に光輝く水流が巻き起こり、ナイトメアに向かっていく。
輝く水流は漆黒と紅蓮の炎渦をも飲み込み、ナイトメアへと向かっていった。浄化の力を携えた最大級の水流が、
「ば、ばかな! 我は漆黒の覇者、ナイトメア! こんなところで負ける訳が……ごぼぼおおあああ」
水流に飲み込まれ、やがて巻き上がった水流が光へと変わっていく。周囲に響き渡る轟音と共に、水の滴が上空より地面へと落ちていく。そこには魔界のような空間に似つかわしくない小さな虹が出来ていた。
「ナ、ナイトメアは!?」
雄也が虹の出来ている場所を見ると……。
ナイトメアが先ほど飲み込んだ、
「や、やった……!」
「す、凄いにゃーー」優斗とブリンクが声をあげる。
「雄也さん!」
雄也達の前に立っていたリンクが振り返り、キラキラした瞳で笑顔を見せる。そのまま雄也のところへ走り、なんと雄也を抱きしめた。
「おぉーー雄也ー羨ましい!」
優斗が恨めしそうに見つめる。
いつもなら雄也より背の低いリンクだったが、今は豊潤な二つの果実に雄也の顔がちょうど収容される。
「やりましたーー雄也さん、怖かったですー」
若干大人びた声に聞こえるが、口調はいつものリンクとそう変わりない。ぎゅっとリンクが力を込めるにつれ、雄也の顔が柔らかな双丘に埋もれていく。
「リ、……ンク……息が……」
「あ、ああ、ごめんなさい、つい」
慌てて雄也を引き離すリンク。
「いや、でも、もうちょっとこうしていたいかも……」
雄也がリンクへ再び近づいた。
「えっちぃのは嫌いですよ……でも今は私もこうしていたいです」
再び互いの身体を引き寄せ合うリンクと雄也。
「あ、あのーー俺、空気? 空気?」
優斗が自分を指差しながらアピールする。
「優斗? あれ気持ちいいのかにゃ? うちらもやるかにゃ?」
ブリンクがつんつんと優斗の脇腹をつついた。
「え、ああ、ブリンク、俺等までしなくて大丈夫だとは思うよ?」
「そうかにゃー。わかったにゃー」少し残念そうなブリンクなのであった。
★★★
「報告します! 交戦していたグランドグールの負の
「おぉ!」
その場に居た貴族達から歓声が湧き上がる。
「皆の者! よくやった!」国王が自ら兵士に声をかける。
「ありがたきお言葉、感謝致します!」兵士が敬礼をして、下がる。
「ガディス、そしてサナギよ、この度の働き、見事であった」国王がガディスに声をかける。
「あ、ありがとうございます!」研究部大臣である、サナギがお辞儀をする。しかし、ガディスが下を向いたまま喋ろうとしない。
「ん? どうした、ガディスよ。そなたの
――それでは困るのだよ、王よ。
ガディスは胸中で思い、両隣に居た兵士の剣を素早く奪い取る。
「ガディス公爵、何を!?」
同時にガディスの両隣に居た兵士が斬り捨てられる!
「ガディス! お主!」
「それでは困るのだよ、王よ。グランドグールを倒してしまっては、ナイトメア様の計画が崩れてしまうではないですか」
「貴様、ガディスではないな!」
ギロっと睨みつけるブライティ王。ざわつきだす貴族達。
「この姿もちょうど飽きて来たところだったのだ。ガディスとかいう男は俺様が食ってやったよ」
そういうと、ガディスの姿がみるみる変わり、紫のフードを被った猫顔の妖魔が現れた。近くに居た兵士がすぐさま斬りつけようとするが、素早い動きで飛び上がり、剣で斬り返されてしまう。
「まぁ聞け、俺様は『キャッツブーン』。キャッツ五兄弟の三男にして、
「妖魔が戯言を! 死ね!」
兵士の剣をかわし、素早い動きで王のところへ飛びかかるキャッツブーン。
王の目の前に刃が向けられる!
――なっ!
しかし、キャッツブーンの刃が王の目の前まで来た瞬間、キャッツブーンはピタリと止まり、動かなくなった。王はそうなる事が分かっていたかのように全く動じない。
「貴様……何を……」声を振り絞るキャッツブーン。
「――やはり
その時キャッツブーンの影から突如、老人姿の光妖精が出現した。そう、アラーダだった。
「お前!? 俺様に何をした……」
「言った通りじゃよ。ワシが王宮にてお主と会った時、影に
「く、くそ、これでは俺様とナイトメア様の計画が……」
「恐らくナイトメアも倒されているじゃろうて。お前達の作戦は失敗じゃよ」
キャッツブーンにそう言うと、キャッツブーンの身体が動けるようになった。その機を逃すまいとアラーダに斬りかかるキャッツブーン。が、アラーダが居たはずの場所には誰も居なかった。
「
「な、嘗めた真似を!」
「魔を滅せよ!
アラーダが今回の戦闘において刀を引き抜いたのは、これが最初で最後だった。人間界のものと酷似する刀を引き抜き、キャッツブーンの身体を一閃する。太刀筋は光の一閃となり、キャッツブーンの身体を真っ二つに斬り捨てた。
「我々の勝利じゃの」アラーダが王へ向き直る。
「感謝する、アラーダ」王が頭を下げる。
「王を守る事は当たり前の事じゃろう」笑顔になるアラーダ。
戦時対策室が歓声に包まれる。
ブライティエルフ、勝利の瞬間であった――――
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