第2章 妖精界奔走(光の国)編
第13話 <第2章プロローグ>光の国~ライトレシア~
ここはとある国の王宮の一室 ――
「〝
「は! 申し訳ございません。
「ええい! もうよい、下がっておれ!」
「は!」そういうと兵士は引き下がる。
髭面で帽子を被った貴族風の男は、苛立ちを隠せずにいた。
――〝
貴族風の男――いや、風ではなく、まさしくエルフの大貴族であるバイツ公爵にとって、国の一大事も敵の討伐もどうでもよかった。大事なのは自身の保身のみ。敵の討伐を自身の手柄にする事で、議会での自身の影響力が強くなるというもの。議会のメンバーの中には、有事にいかに手柄を立てて、自身の影響力を強くするかを考える者がたくさん居た。バイツ公爵もその一人であった。
周辺には〝
バイツ公爵はブライティエルフ国ブライティ城内の一室で吉報を待っていた。
数ヶ月前より
よって、連合国では有事に備え、軍部、研究部、行政部を伴う議会がある。議会員はブライティエルフから約三十名、残りの国や地域から二十名で構成されていた。
結界に覆われたその日、臨時議会の招集がかかったが、サラマンディアから代表者は来なかった。結界が原因で通信が届かなかったのかもしれない。
集まった四十五名の決議により、〝
――これではガディスの思う壺ではないか。
バイツ公爵は舌打ちする。
――これでは困るのだ。〝
時を同じくして、敵本拠地を探索していた〝
妖魔の数は日に日に増えており、敵が、ブライティエルフに攻めて来るのも時間の問題ではとの見解であった。そこで先日、〝
「も、申し上げます! 〝
息を切らしつつ、先ほどとは別の兵士が部屋に入って来た。
「おぉ! その吉報を待っておったぞ! 戻って来たのだな!」
「い……いえ……〝
「な! ……今何と言った……!」
「は、はい……全滅と……」
―― 馬鹿な! 聖の力を扱える討伐部隊だぞ! ましてやグールなどという下級妖魔など……
バイツ公爵は驚きを隠せないで居た。討伐に時間がかかっているとは思ったが、敵の数が思ったより多いのであろう程度に思っていた。エルフの兵士の中でも聖なる力を行使出来る事に長けた者を厳選して構成した討伐部隊。全滅するなど想像もしていない話であった。
―― 一体、何が起きていると言うのだ。
「ぐはっ……はぁ……はぁ……」
金髪で端正な顔立ち、長い耳の青年……若く見えるが、その実力は他のエルフとは比べ物にもならない。そう、彼こそが〝
五百名からなる討伐部隊、国家規模からすると少数精鋭かもしれない。だが、一人一人の実力が違った。中でも隊長のプレミアの力は一級だった。下手するとあの有名な〝
そんな討伐部隊の仲間が皆倒れている。
「くそ……みんな……済まない……」
上司であるバイツは気に食わない存在であったが、〝
討伐は順調であった。アルティメイナまでは一日前後で到着出来る。馬を走らせ討伐部隊は進む。妖魔である小さなグールや、インプが出迎えてくれたが、全て一掃した。小さなグールは負の
古城〝アルティメイナ〟の手前で野営をして二日目――
異変は城についてから起きた。
城の敷地内に立ち入った瞬間、数倍の負の
城の奥に入ると今まで戦ったインプやグールが出て来た。
が、なんとグールは身体が二倍程度に大きくなっており、攻撃しか出来なかったインプは
負の
回復しながら襲ってくる敵に若干手惑う。ハイグールも一度の
魔力は無限ではないのだ。敵の居城である以上、恐らくこのインプやグールを仕切っている魔物が居ると考えるのは当然だ。特に隊長のプレミアは力を温存していた。
城の奥にある吹き抜け部分についた時、
「た、隊長……あれは……!?」
「ぐおおおおおおおおおおおお!」
体長五メートル近くあるのではないかと思われる巨体。巨体の咆哮が吹き抜けに響き渡る。
目の前のグールは異常だ。何体ものグールがより集まって出来た存在……。
それは〝グランドグール〟だった。
「ぐおおおおおおおおおおおおーーーー」
刹那、グランドグールが叫び声と同時に暗黒の
「い、いけない! みんな、離れろ!」
プレミアの声も虚しく、前方に居た百名近い者達が暗闇に覆われ……たった一撃で
「皆、撤退だ! 下がれ!」
体制を立て直さないとまずかった。
恐らくこいつは勝てない。隊長は身体に感じる負の
仲間を逃がす。そしてこいつは足止めする。
それがプレミアの判断だった。
「隊長! しかし!」
「早くしろ!」
「わ、わかりました! ご武運を!」
「ぐ、ぐおおおおおおおおーーー」
「ぐわぁあああー」
しかし、逃げる相手に向けて無情にも放たれた
「貴様! この俺が相手だ! 浄化せよ!
聖剣ブライトブレイドより放たれる聖撃は、グランドグールの右腕を両断する。
しかし、うねうねと両断した部分が蠢いたかと思うと、腕が再生された。
―― くそ、なんてやつだ……。
プレミアの
敵の攻撃を受ける度に尽きていく魔力……もう勝負は見えていた……――
そして、先ほどの場面へと戻る。
「ぐ、ぐおおおおおおおおーーー」
目の前の化物の口から周囲を覆う
「こんなところで……負ける訳には……邪を受け止めよ!
負の妖気力を受け止め、浄化する
「く、今ので魔力が尽きたか……エイト……俺はもうこれで終わりみたいだよ……」
そういうと最後の力を振り絞り……プレミアは何かを呟いた……やがて、折り紙で出来た鳥のような形の小さな青色に光る物が現れる……。
「
青い鳥が空へ舞い上がった瞬間、大きな化物の足がプレミアの視界を遮った。
ぐしゃり。
その瞬間、プレミアの生命は途絶えたのだった。
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