第12話 思惑~旅立ち~
真っ暗な回廊……たいまつの灯のみが回廊を照らしている。そんな回廊の一番奥、人間の平均身長の二倍はあるのではないかという大きさの重々しい扉……その向こうにひとつの部屋があった。
部屋の奥には似つかわしくない金色で縁取られた赤いソファーとクリスタルで出来たローテーブル。鮮血のように真っ赤なワインを片手に誰かが壁にかけられたモニターを眺めている。モニターを見ながらその部屋の主はうっすらと笑みを浮かべる。
――ほほう……その剣筋を交わすか。
モニターには長く赤い髪の女妖精と、漆黒の騎士が戦っていた。漆黒の騎士は熟練の剣さばきを見せ赤い髪の女妖精に迫るが、女妖精も見事に剣筋を受け流し、時折刀身から炎を放出、騎士に反撃を見せていた。やがて刀身に炎を溜め、騎士が特攻の型で攻め入るタイミングで見事にカウンターの一撃を与え、とどめを刺していた。漆黒の騎士はやがて黒煙となり姿を消していった。
「あら、何か面白いものでも見つけたのかしら?」
部屋に突然女の声がした。振り返る事もなく部屋の主は女へ返事をする。
「……サタナイトが倒されたようだ」
「あらー、それは残念だったわね。貴方のお気に入りだったでしょうに……」
「ふん、相変わらず思ってもない事を口にする」
「だって、部下が倒された割に笑みがこぼれていたわよ?」
「ふ……まぁな、奴が倒されようが倒されまいが、ワシには関係のない事よ。これを見ると分かるさ」
そういうとモニターに部屋の主が手を翳す。モニターに映し出された映像は、録画映像のように巻き戻り、先ほどの戦いのシーンに戻った。
「へぇ、この子確か有名な妖精よね?
「そのようだな。しかし、この位の強さではワシの相手ではない。問題はその奥だ」
モニターの奥がズームしていく。戦いの奥、一人の男が少し映ったのである。
「あら、これってもしかして……人間? あらー、そう! それは面白いわね」
女の表情も変わる。どうやら部屋の主が映像を見せた意図が分かったらしい。
「それに、『適合者』は一人ではないようだぞ?」
「あら? そんな事があるの?」さすがにその言葉に女は驚く。
「しばらくはワシを楽しませてくれそうよ。この国の兵士達があまりに弱く、退屈していたところだしな」
―― しかも、まさか〝
「そうね、私も期待せずに待っておく事にするわ。それじゃあ、そろそろ私も
そういうと女は一瞬で姿を消したのだった。
物語は漆黒の闇の中……少しずつ動き始める……。
ディーネリア宮殿の大広間……
「こんな改まって指輪をもらうって照れるな……」
「ぼ、ぼくは、まだ君を認めた訳じゃないんだからっな!」
「確かにいま、エレナ・ルーシーが雄也殿とフラワリー殿の契約を見届けました。人間の子、三井雄也を、
あれから、ディーネリア宮殿を訪れた雄也達は、人間界で起きていた出来事を王妃に伝えた。王妃によると、やはり人間界……アラタミヤ町で起きている事件、そして今回の
「わーい、おめでとー、雄也、パンジー!」リンクが拍手で出迎える。
「お二方共おめでとうございます」レイアも祝福している。
「くそー、雄也が先にハーレム形成じゃん」
「雄也の癖に生意気だぞ!」
――優斗と和馬は台詞からして、祝福しているのかよくわからないが。
「あ、ありがとう。毎回契約したのかよく実感が湧かないんだけどね」
――リンクの時なんかはいつの間にか契約してたしね。
そして、エレナ王妃が妖精との契約について色々教えてくれた。
この世界では、妖精との契約はお互いが適合者であればそんなに難しくはない。
お互いが隣同士に居る状態であれば、その場で使役出来るのだが、そうでない事が多いため、この
ただし、例外もある。二名以上の妖精は同時に使役が出来ないらしい。使役中は
「確かにエレメンタラーだって精霊召喚するの一度に一匹ってパターンが多いしね」
と優斗が何か言っていた。
それと
「私と雄也さんとの相性はバッチリだから大丈夫です! シャキーンです!」
とリンクが得意のシャキーンをやっていた。
「それから、使役出来る妖精が複数なら、戦う相手や戦況によって、使役する妖精を変えるのもいいかもしれませんね。人間の
「という事は、僕は適合出来る妖精だったって事? リンクなら分かるけど、僕なんかでよかったのかな……?」
急に不安気なパンジー。
「大丈夫よ、パンジー! 私の友達なんだし、自信を持って!」と笑顔のリンク。
「ありがとう! リンク! リンクがそう言ってくれると自信が持てるよ!」
「あ、あのー、ちょっといいですか?」
「どうしました? たしか優斗殿、でしたね?」
エレナ王妃に尋ねたのは優斗だ。
「いや、こっちに来てからなんですが、自分が契約してるルナティ……えっと
そう尋ねると、目を閉じ、しばらく考えこむエレナ王妃。
「優斗殿……今すぐルナティ殿を使役してみて下さい。それから和馬殿はファイリー殿を」
「え? 分かりました」
「俺も……ですか?」驚きながらも返事をする二人。そして……。
「
「
和馬の前の地面は赤い魔法陣が浮かび、そこに深紅の長い艶やか髪と、戦乙女のような赤い鎧が特徴の
「な……」驚きを隠せない優斗。
「
「え? お前ら知り合い?」と和馬が驚く。
「嗚呼、昔から知ってるぜ。何せリンクは
「ファイリーさんご無沙汰です。ファイリーさんも契約したんですねー。それにいつの間にか有名人ですねー」と駆け寄るリンク。
「お前に言われたくないよ、
「え? リンクってそんなに有名なの?」雄也がびっくりする。
「その呼び方苦手なんです。私そんな器じゃないので……照れちゃうんです……」
と下を向くリンク。心なしか顔が赤い。
「リンク様の御力は特別ですからね。他国にその名が知れ渡るのも無理もない事」
「ちょ、ちょっと……レイアまでやめてよー」
「さっすが僕のリンクだね!」
「もうーパンジーまでー!」
みんながリンクをからかっている中、一人浮かない顔の青年が居た……。
「優斗殿、
「そ、そうですか……」エレナ王妃が声をかけたものの、心配そうな表情の優斗。
「使役が出来ないのは恐らく
「優斗さん、きっと大丈夫ですよ」とリンクが声をかける。
「そうだよ、優斗、大丈夫さ」と雄也。
「そうだね、信じるしかないか。てか、使役出来ないって事は……ヤバくね、俺だけ役たたねーじゃん」がっくりうな垂れる優斗。
「おう、じゃあ優斗は当分荷物持ちだな!」と調子に乗る和馬。
「いやいや、そりゃないやろ!」
「皆さん仲がよろしいのですね」とレイア。
「優斗さん、大丈夫ですよ、敵は私とファイリーでやっつけちゃいます! シャキーンです!」
「えー、ちょっと僕も活躍するよ」皆の会話にパンジーが割って入る。
だんだん賑やかになって来た。こういったやり取りをしていると、今
「よーし、じゃあまずは僕の住んでいる街、
「じゃあパンジーの街へみんなで向かいましょうー!」
リンクの
こうして雄也達は、
雄也達を待ち受けるものは ――
運命と思惑が今交錯する ――
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