第1章 水の都(アクアエレナ)編
第1話 水妖精との出会い
……
―― 綺麗な歌声が聞こえる。
会場は静まり返り、みんな凛とした歌声に聞き入っている。
聞いた事のない曲だが、聞いていて気持ちが安らかになる曲だ。
よく見ると、耳の長い人、人型だが、猫の顔の女の子、全身真っ白の毛だらけの人……
仮装イベントだろうか……見渡す限り、人間の姿は雄也達だけのようだ。
……
……助けて。
――!?
頭の中に声が聞こえた気がした。
横に目をやると、優斗に和馬、知らない女性が三名……
……だが、周りの人が言った訳ではないらしい。
ホールの真ん中にはアイドルの衣装を身にまとった少女。
そして少女の瞳に吸い込まれるように視界がズームしていき……
……助けて。
――!?
視界はそのまま暗転する ――
「んん……」
雄也が飛び起きる。どうやらふかふかの布団の中で寝入っていたようだ。
何か夢を見ていた気がするんだけど覚えていない。いやぁ、それにしてもよく寝たよ。いつの間に寝てたんだっけ? 寝ぼけ眼で目をこすりながら考える。
少しずつ目が覚めて来た。そういえば、春休みか、優斗と和馬と
ガバッ――
その瞬間雄也は飛び起きた。
――ここはどこだ。俺の家のベットはこんなにふかふかじゃないぞ!? いや、そういう問題じゃないか。
お金持ちの家のように広い部屋、ダブルベットのように広いベット、水色の布に銀色の刺繍がほどこされたふかふかの布団。部屋全体に家具は少なく、ベットとこれまたふかふかしていそうなソファーと小さなガラスのテーブルのみ。クリスタルの装飾が施されたシャンデリアが天井から吊り下がっている。
――優斗と和馬はどうなったんだろう。考えても仕方がない。牢屋じゃないって事は攫われた訳ではなさそうだし。
雄也がそう思い、入り口の扉を開けようとした時、扉が開いた。
「お目覚めのようですね」
「うわぁっ!?」
眼前の扉が開いたので後ろに思わず飛びあがる雄也。そこにはメイド姿で美しい銀髪の女性が目の前に立っていた。
「着替えはこちらに置いておきます。貴方の国の服装は目立ちます故、この服装にお着替え下さい。ゴホン、貴方の来ていた服は私がその奇妙な袋に入れておきました」
この人はお世話係なのだろうか。色々気になる事がある。貴方の国の服装って、ここはアラタミヤじゃないのだろうか……。あれ、そういえば、いつの間にかバスローブのような服装になっている。奇妙な袋は俺のリュックの事だよな。
「あのー、このバスローブって……貴方が着替させてくれたって事ですか?」
「そ、そんな事は気にしなくて結構ですから、は、はやく着替えて下さい! お嬢様がお待ちです」
顔を赤らめたメイドは踵を返し、すぐに扉へと向かう。
「わ、わたしは外で待っていますから」
シルクで出来たような肌触りのよい生地の長袖シャツに、紺色のベストとズボン、一見するとどこかの貴族のような格好に着替えた雄也は、メイドに連れられて、長い廊下を歩く。途中すれ違った兵士姿の者がお辞儀をしていたという事は、このメイドは偉いのだろうか。
「雄也様はレイアと呼んでいただいて構いません」
「雄也様って俺の名前をどうして知ってるの?」
「……着きましたよ」
質問に答えられる事なく、目的の場所に着いたようだ。長い廊下を抜けると、そこは高い天井の開けた空間。ガラスのように磨かれた水晶の柱、白く磨かれた床は宝石が散りばめられたかのようにキラキラと輝きを放っている。今までに見たことがないような美しい場所だった。
「あ、よかったー! 目が覚めたんですねーー!」
広間奥の玉座のような椅子から少女姿の女の子が飛び降り、こちらへと向かって来た。
改めて彼女の風貌を見る。そうだ、あの時森で出会った子に間違いない。水色の美しい装束、水しぶきがそのまま織り込まれたような模様に、天女のような白い帯風の輪っかの布がヒラヒラしている。肩にかかるくらいの水色のサラサラヘアーが特徴的だ。
「あの後、そのまま気を失われたので心配したんですよー! あれですかね、疲れてたんですかね。あ、もしかしたら普段は触れる事のない妖精の
ドテッ――
―― この子、めちゃめちゃ喋る……てか転んだ。
「お、お嬢様、慌てないで下さい!」
「りみたいでよかったーー。雄也さん、これから……よろしく……お願いしますね!」
あまりに急いで走って来たせいか、途中から肩で息をしながら女の子が喋っている。一通り喋り終わった後、雄也の側に辿り着く。
「君は水霊の森で出会った女の子だよね。 どうして俺の名前知ってるの? ここはどこなんですか?」
思っていた疑問を口にする雄也。
「あ、すいません、順番にご説明しますね。えっと……雄也さんの名前を知っているのはずっと雄也さんの事を〝
「うーん、話がついていけないんですけど……」
「無理もありませんね、人間界に住む人々の中で妖精の存在を知っているのはごくごく少数ですから……」
―― これ、どう考えても夢だよね……。
「そう、思っていただいても構いませんよ」
――!?
突然広間奥の玉座から声が聞こえる。そこにはいつの間にか美しい女性が座っていた。いや、それより驚いたのは、心の中で考えた事に反応があった事だ。
「本来貴方達が見る夢とは、過去見聞きしたものや得た知識を基に膨大な記憶を脳が整理する際に断片的な映像を見せるもの……或いは希望や願望の具現化、神のお告げ、幻覚などと、人間界では様々な解釈がなされている。そして、私達の世界と貴方達の世界は、本来は人間界から介入出来ないように出来ている……しかし、〝夢〟を通じて時に妖精と人間の世界は繋がる事が出来ると言われています。貴方の見ているこの景色は夢かもしれないし、現実かもしれない」
とりあえず難しい事は分からないため、雄也はほっぺたをつねってみる。
「……うーん、地味に痛いね……」
「何やってるんですかー雄也さん、大事な身体なんですから、傷つけようなんて思わないで下さい!」
突然心配した顔でリンクと名乗った妖精が近づく。
「え、えっと、リンクさん……でいいのかな?」
「はいーー! リンクって呼んで下さいーー!」
満面の笑顔でリンクが答える。
「あ、はい、じゃあリンクさ、じゃなかった……リンク、今つねったのは傷つけようって思ったんじゃなくて、夢かどうか確かめたかったんだけど、結局痛かったって事は現実なのかなーと思いながらいまいち納得出来てないだけだよ」
「傷つけたんじゃないならよかったですー!」
「続けていいかしら、リンク?」
「あ、ご、ごめんなさいーお母様ー」
―― お母様という事は、この人はこの国の王妃様?
「ご想像の通り、私は
そういうと、王妃はゆっくりと話し始める。
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