近森!~近所の森に行ったら妖精界と繋がっていた件『剣が使えないので可愛い妖精と水鉄砲で世界を救います』

とんこつ毬藻

序章 始まりはシャキーンから~妖精界転移へ

プロローグ 始まり~Wonder Forest~

 三井雄也みついゆうやはどこにでも居るごく普通の高校生だ。


 私立アラタミヤ高校、それほど人口も多くないアラタミヤ町にある進学校。

 そんな進学校の普通科で真ん中くらいの成績、容姿も普通、もちろん今までモテた経験もない。運動神経は優れている訳ではないが、運動音痴な訳でもない。そう、普通と検索すると『それは三井雄也の事です』と言わんばかりの、ちょうど平均的な高校生なのである。まぁ、雄也本人はごく平凡な生活を送りたいと願っているので、願ったり叶ったりなのだが。


 今日は春休みの終業式だ。退屈な校長の話も終わり、ようやく終わりのホームルーム。


「皆さんも知っての通り、今ここアラタミヤ町では幼児~小学生の連続行方不明事件が起きてます。今月に入ってもう七名の子供達の行方が分かりません。決して迷いの森と言われている、水霊の森には近づかないように。夜道は一人で出歩かない。森に入っていく子供を見たという目撃情報から、警察も捜査しています。くれぐれも気をつけるように。それでは皆さん、元気な姿でニ年生の始業式に会いましょう」


 担任の山本先生から注意喚起があって、ホームルームは終わった。


「よっしゃー、春休みだぜ! 雄也、優斗、夕方十七時、水霊みりょう神社の鳥居前集合な」


 ホームルームが終わり、雄也に声をかけたのは雄也と同じクラスの新井和馬あらいかずま。勉強は出来ないがスポーツ万能。入学当初は運動部を中心に、様々な部活動から勧誘があったそう。本人は遊びたいからという理由で断ったらしい。たぶん何もしなかったら相当モテるんじゃないかと思う。実際モテるらしいが、彼女は居ないようだ。


 さて、上記の発言で分かる通り、そんな和馬は、好奇心旺盛だ。芸能人が来る、マスコミが騒ぐような事件がある、などという話題になりそうな出来事に真っ先に飛びつくタイプの人間である。


「いや、和馬、聞いてなかったん? 水霊神社って水霊の森の横やん? それダメやろ? さっき山本先生が注意したばっかりやん」


 和馬に声をかけたのは森山優斗もりやまゆうと。和馬と雄也、優斗の三人は、小学校からずっと一緒だった友人同士だ。優斗は三人の中では一番頭がいい。中学の時は陸上部で足だけは速い。顔立ちも悪くなく、眼鏡をかけた優しい印象の青年だが、彼の場合はアニメ、ゲーム好きなヲタク青年で、妄想癖がある。もちろんの事だが彼女イナイ歴イコール年齢だ。


「和馬、俺も今日は家で大人しくしてるよ」


 優斗が乗り気じゃなかったのを見て、雄也も同調する。


「雄也君よ、いつから君は俺に反対意見を述べるようになったのかね? いやぁー、俺はとても悲しいよ。俺が森を探検しようと言えば三人で森の奥の湖まで探検したあの頃の純朴な少年は、今はもう居ないんだねぇー」


 突然口調を変えて、和馬は続ける。


「あ、あと誰も森に行くとはひと言も言ってないぜ? 俺たちは〝神社〟に行こうとしか言ってない」

「んで、神社のいつもの裏道から警察の目をかいくぐって森に入るんだよね?」


 雄也がため息をつきながら小声で諦めたように言う。


「いやぁー、さすが雄也君、分かってるねーー!」



 という訳で、神社の鳥居の前に三人集まった訳だが……。


「お兄ちゃん達ーー! まさか森に行こうって魂胆じゃないでしょうね!?」


 突然の可愛らしい声がどこかから聞こえた。が、雄也が周りを見渡しても誰も居ない……。


「いや、ここよ、ここ! なんで気づかないの!」

「あ、ごめん、なんだ三葉か。ちっちゃくて気づかなかったよ」


 雄也が下を見ると身長百二十センチくらいの黒髪ツインテールで巫女服の少女が彼を見上げていた。


「三葉ちゃん、こんにちはー。今日もお手伝い偉いねー」


 優斗が間に入って仲を取り持つ。いつもの光景だ。


「ありがとう優斗お兄ちゃん、やっぱり雄也と違って優斗お兄ちゃんは私の凄さを分かってるわよねー。こう見えても私、じきとうしゅよとうしゅ!」


「三葉、それ……分かって言ってる?」雄也がすかさず突っ込む。


 三葉みつはと呼ばれたこの女の子、母親が実はこの水霊神社の巫女であり、第十七代水無瀬家みなせけ女当主なのである。今では町の小さな神社である、この水霊神社も、このあたりの水の精霊を祀っていたらしく、昔はこの神社を中心に夏祭りが行われていたり、季節毎に催事が行われていたそうだ。


 齢十歳にして巫女としての才覚を現わしつつあるこの三葉が次期当主と言っているのも説明がつく。


「おいおい、子供の相手してないで、二人共行くぞ」


 和馬が先に行こうとする。


「だからー、和馬お兄ちゃんも、森に入っちゃだめなんだってばー。ママに止めろって言われてるんだからー」


「え、ママって水無瀬先生のこと?」優斗が尋ねる。


「ちょっと待った、水無瀬ってうちの保健医だろ? なんで水無瀬が出てくるんだ?」

「あ、和馬知らなかったんだっけ? 水霊神社の当主って水無瀬先生だよ? そして、この子がその娘の三葉ちゃんね。ちなみに神社の仕事は儲からないから保健室の先生はアルバイトみたいなもんなんだって」


「それ、マジか?」

「うん、マジ。んで、そこに居る雄也は水無瀬先生の甥っ子にあたるんだな」


「いや、優斗、それ言わなくてよくね?」


 雄也がようやく発言する。


「んで、私が雄也の従妹いとこの三葉ですぅー。どうしても森に行くんだったらママに魔よけの鈴預かってるから、これ持っていってよ」


 と三葉が雄也に鈴を渡した。


「魔除けって……いつの時代だよ……」と呟く雄也。


「いや、そうでもないんじゃね? ここの神社のお守り、結構人気だし。健康のお守りとか、厄除けのお守りとか。巫女である水無瀬先生が渡す魔除けなら効果あるかもよ、雄也」

「そうだよ、無料であげるんだから文句言わず受け取りなさいよー」

「わかったよ。そうまで言うなら」と雄也は鈴を受け取ったのである。


「よし、じゃあ森へ出発だ!」


 先頭を切って和馬が神社の裏にある水霊の森へと足を進めて行く。


――俺だけ呼び捨てなのって、誰も突っ込まないのね……。





 さて……


――どうしてこうなった!


 雄也は悩んだ。水霊の森は幼い頃から遊んでいた森だから、道を知っている者にとって見れば、脇道にそれなければ迷う事はない。


 いつもなら水の精霊の加護があるという森の奥にある湖まで行って、水を汲んで帰るのが定番ルートだったりする。地元の人からするとこの国一美味しい水じゃないかと言われるほどミネラル分たっぷりで美味しい水なのだ。


 森の正面入口は警察が捜査をしていて立入り禁止だったが、水霊神社の裏からのルートは地元の人間でもごく少数の者しか知らないルートだ。半分は事件があってるからっていう興味本位、半分は湖の水が美味しいから探検名目で飲みに行くくらいのつもりだった。


――どうして迷った?


 雄也は森の奥を歩いていた。いつもなら隣から聞こえる声もない。なぜなら今雄也は一人だった。

 いつもより霧が濃かった。変わった点はそのくらい。どこかで道をそれてしまったのだろうか?


「おいおい、湖って、こんなに遠かったか?」


 和馬の最後の言葉。


「引き返した方がよくね?」


 優斗の最後の言葉。


 気づけば二人共深い深い霧の中に消えていくように、いや、さっきまで〝隣〟に居たはずなのに、いつの間にか姿が見えなくなっていた。


「優斗ーー!  和馬ーー!」


 声は高い高い樹に囲まれた森に響くだけで、反応はない。


――そうだ、携帯……!?


 携帯を見るも、圏外だった。

 電話をかけても繋がらない。

 そして方向感覚を狂わすように前後左右、見回しても同じ景色に見えてしまう。あてもなく歩きながら雄也は叫び続ける。


「おーい! 優斗! 和馬! 返事してくれよ!」


 ……


 リン♪――


 そのとき、確かに何か、音がした気がした。


 リン♪――


「え?」


 雄也がポケットに手を入れると、さっき三葉にもらった鈴が鳴ったようだ。

 しかし、手に取り鈴を振ってみても、全く音は鳴らない。



「そこに誰か居るのですか?」



 突然背後から、女の人の声がした。振り返ると、水しぶきを模様にしたような水色の羽織、美しい水色ショートの女の子。……なぜか彼女は、植物の蔦に絡まって・・・・いた。


「……ちょうどよかったのです。この蔦どうにかしてくださーーい、絡まっちゃって動けないのですーー」


 彼女が動く度、余計複雑に絡み合う蔦。どうやったらそうなるんだろう? それにしても、どうしてその衣装なんだろう? 髪の色からして外国の人? ――様々な疑問が浮かぶが、今はあたふたしている彼女の様子に思わず和んでしまい、笑みを浮かべる雄也。


「ちょ、ちょっと待ってね!」


 知恵の輪のように絡み合う蔦を解くのにひと苦労する。蔦が食い込んだ二つの果実・・・・・の膨らみに触れないよう視線をそらしつつ解き……ようやく解放される女の子。蔦が色んな所に絡まっていたせいなのか、心なしか彼女の頬が紅い気もする。


「はぁ……はぁ……ありがとうございました……」

「でも、どうしてこんなところで蔦に絡まっていたの?」


 そのままの疑問を口にする雄也。


「いえ……実は人探しをしていたんですが、道に迷ってしまい、気づいたらあんな状態になっていたのです……」


 こんなところで人探しって……一体誰を探していたのだろうか……。それにしても透き通るような蒼い瞳だ。純粋な心を投影するかのように美しい。


 リン♪――


「えっと……その人は鈴を持っているはずなんですが……あ!」

「え!?」


 今……鈴って言ったような……鈴を掌に乗せたまま雄也が女の子を見ると……彼女は一歩、二歩、後ずさりする。


「よかった! 無事会えましたぁ! お迎えにあがりました、三井雄也・・・・さん! シャキーンです!」

「え……どうして俺の名を……」

 

 雄也の疑問に答えられる事はなく……。

 急に視界が真っ白な光に包まれる。


 リン♪――


 ……そして、雄也は意識を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る