第34話
グロリエスの指示で動き始めた彼らを、ルルは爪を使って礫を撒き散らし、妨害する。
「くぅ……!」
「アイーシャ! 今の内に畳み掛けて、時間を稼いで!」
言うが早いか、ルルは大きく息を吸い始める。
「わかった!」
理解するよりも速く、アイーシャは動く。
流れるように魔力を紡ぎ、一言、
「炎よ!」
するとグロリエスたちを囲い込むように幾つもの火柱が上がり、その間隔が徐々に縮まってゆく。
赤く照らされたグロリエスの顔が歪む。
「く、エン、スクあなたたちは切れるだけ切りなさい、ユリエス、ランギネスもです! シャロルは防御壁を展開しなさい!」
返事をする余裕もないのか、各々が即座に動き始める。
まず二人の青年が火柱を切り捨て、散り散りにする。
ほぼ同時に、放たれた矢が火柱を貫き、霧散させる。
そして放たれた闘気が火柱を吹き飛ばす。
残った火柱は、正面に三本。
「魔力よ、我が名に従い盾となり、敵攻の前に立ちはだかりなさい!」
展開された魔法壁は、大きく分厚い。
六人はその後ろに避難し、火柱を凌いだ。
「シャロル! このまま盾を45°まで傾けなさい! はやく!」
アイーシャの火柱を三つ同時に弾いたシャロルは得意げな表情を浮かべていたが、グロリエスが叫ぶのを受け、焦りながらも角度を変える。
60°程まで傾いたその時、
ゴォォォォォオオオ!!!
地面の表面を削りながら、白い光の筋が一直線に魔法壁へとぶつかった。
ルルの、ブレスだ。
「所長! このままでは潰されます!」
シャロルが声の限り叫ぶ。
シャロルの魔法壁は、角度を変えて鋭角にブレスへと挑むことで、破損は逃れたのだが、威力そのものを受け流すことはできず、物理的な圧力に屈しそうになっていた。
「ロンギネス!!」
グロリエスはロンギネスの手を掴み、魔法壁に触れさせた。
「ぐぅ……!」
ジュ……と、肉が焼ける音がブレスの轟音に掻き消される。
「スク! 冷やしなさい!」
スクは、ロンギネスが触れている部分に、氷魔法を放ち、冷却を行う。
肉が焼ける匂いが収まった。
代わりに、辺りには凄まじい量の水蒸気が吹き荒れ、視界を奪う。
「これは幸運ですネェ……。ここを抑えれば我々の勝ちですよ! さぁ! 抑えなさい!」
ルルの放つ光の筋は、次第に細くなり、その威力を弱めていった。
吸い込んだ分を、吐き切ったのである。
「やったの……?」
アイーシャは、しがみついていたルルの背から顔を出し、向こうを覗き込む。
だが霧が凄い。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ルルは呼吸を整えながら首を振る。
ルルには、弾かれた光線が見えていた。
……畳み掛けた大技が二つとも躱されたことで、二人は氷を首筋に当てられたような寒気がした。
嵐の前の、静けさがこの戦場に訪れる。
と、その時だった。
パリン!
「きゃあ!?」
敵陣で響いた、何かが割れる音と悲鳴。
そして、霧が晴れてゆく。
「「キリシャ!!」」
敵陣で何かをしたのは、山から落ちたはずのキリシャだった。
「それはヨルムンガンドの毒液だ」
キリシャの指差す先には、割れて散らばったガラス管と、緑色の液体に濡れたシャロルの姿があった。
「そんな!? ヨルムンガンドの毒液!?」
ヨルムンガンドの毒液……それは魔力を吸い上げる効果を持つ毒液だ。
そして、この毒の持ち主は契約により、キリシャとなっている。魔力のラインは今は亡きヨルムンガンドではなく、キリシャと繋がっているのだ。
つまり魔力を吸い上げるのは、キリシャである。
「なぜそんなものを!? そもそもあなたは山から下り落ちたはずでは!?」
グロリエスが今までにあげなかったような金切声を出した。
「考える時間は幾らでもあったからな。対処したんだ」
キリシャはことも無げに言った。
魔力を自在に操るキリシャにとって、考える時間は幾らでも作れるものなのである。
「くっ……! シャロル、魔力はいつまで保ちますか?」
そう聞いた時、シャロルはこと切れたように倒れた。魔力切れだ。
「シャロ!! この野郎よくも!!」
激昂したのはロンギネス。
その身に魔力を迸らせてキリシャへと殴りかかった。
「やめなさい! 魔力は!!」
平静を失ったロンギネスに、グロリエスの言葉は届かない。
「【逆行】」
ロンギネスの動きが、怒りの表情のまま、止まった。
――残りは
キリシャは勝利を確信する。
ルルとアイーシャも、距離を詰めて、キリシャの側へやってきた。
「もう降参したらどう?」
「そうよ、キリシャにあっという間に
アイーシャが腰に手をやって胸を張った。
「おいアイーシャ、今なんて言った?」
「え? もう勝ち目なんてないじゃないって」
「違うその前だ!!」
キリシャがそう叫んだと同時に、グロリエスの大きな笑い声が響いた。
「やはりチャンスとなると
バキュュュュン!!
瞬間、物陰からキリシャ、ルル、アイーシャの元に放たれた特大の矢。
戦場に揃っていなかったキリシャらの間には、倒した人数という、重大な
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