第4話 ニーナ
時間は過去に遡る。
それは俺が気絶していた二日前の事だ。
「私はいつも通りに起きたわけ、
その時は気持ちよい朝だったね、その時だけは」
アルフェが心も体もしなしなになりながら解説をしてくれる。
なぜこれほどまでに彼女が疲労しているのかを。
「朝起きたらコイツが居たんだ」
指差したのはニーナだ。
「いいじぁネえか、オレを住み込みで雇ったのはお前だゼ?」
すかさず反論を飛ばすがアルフェは気にもとめない。
「それで、私はいつも通りに頼むわけさ。
朝ご飯はなんだ? 白い三角形以外がいいなって」
「自分で作って食ってナ」
「それだ!」
再現を行われたのでなんとなく理解できてきた。
「ニーナのサンドイッチだけが私の生きる栄養だったというのにこいつはぁ……」
だが確かアリナはニーナからサンドイッチを教わっていなかったか?
言うと更に荒れそうなので黙っておく。
「それ以来私は栄養剤と入院食を食べるしかなかったんだ……」
「ん、結局食べれてるんじゃ?」
「あー、それならオレが、
医者が患者のモノ食うんじゃネェって取り上げてやったゼ」
あぁ……なるほど。理解できた。
「だけど俺から医療費奪っていったじゃないか? それで出前でも頼んだらいいんじゃ」
アルフェがより深く突っ伏した。
「モルデアイが来たんだよ、
前の事件で私とシルビアには罰金が課せられたからね、その徴収だ。
払わないとこの診療所を差し押さえるって言われたら払うほかないじゃないか?」
ひょこりと顔だけを上げて俺に訴えかけるように見つめる。
少し哀れに思えてくる姿だ。
「シルビアは、公務員みたいなものなのにお金全然持ってなくて仕方ないから立て替えたんだ。
そしたら君から奪っ――、支払ってもらった額になってね……」
モルデアイの厳しいに驚くが、しかしあの時はモルデアイとは離れていたはず。透視能力でもないかぎり……。
いや、ドローンや監視衛星の方が現実味があるな。
アリナは哀れすぎる彼女に恐る恐る近いていく。
「あ、あの。最近お料理の勉強してるんです、私のので良ければ作りましょうか……?」
アルフェが神でも見た信仰者の装いで拝みはじめる。
変な宗教でも起こされては困るが空腹からくる信仰だ、明日には断絶しているだろう。
そのままアルフェ達と昼飯を食べる運びとなる。
上の階からシルビアが降りてきた事には驚いたが、もうしばらくは彼女の黒服の部隊は待機指示が出されているようだ。
不格好な白い三角を囲んで食事しシルビアが変わった話をする、そうやって時間が過ぎる。
「アリナ、診療所の上を探索してみないか?
君好みであることは約束しよう」
シルビアが俺とアルフェに目配せして、アルフェが頷く。
「えっ、いいんですか?
だって皆さんの部屋なんですよね?」
「部屋を見られて恥ずかしがるなら、アルフェは外すら歩けないだろうな」
「ひどいよねぇ、まぁコイツの言うとおり見ていいよ。
物がほとんどないから殺風景なのは諦めてほしいけどね」
確認を得たアリナはシルビアに連れられて上に登っていく。
ある程度足音が離れたことを確認してから俺とアルフェ、ニーナの間に沈んだ空気が包みだした。
「さてと、アーシャ君はきっと訊きたい事がいろいろあるよね。
私とニーナが揃った時に説明すると伝えてただろう?
つまり今だね」
ニーナはあまり面白くなさそうに崩してイスに座りなおす。
「シーシェ・シルビアの魂は、どうなったんですか?」
訊きたい事はいくつかまとめてある。
「現在はニーナの中で眠って……はいなのだっけ?」
疑問したアルフェにニーナがそれを引き継いで答える。
「簡単に言エば、夢みてぇナもんだな。
今もちゃんと感覚はあるゼ、オレが体の主導権を持ってるがくれてやったラいつも通りってワケだな」
そうしないのはきっとコイツが肉体を欲しているからだろう。
《憑依》の魔法体系はあの後軽く調べていた。構造として、本来一つの体に一つの魂であるところに自身の魂を上乗せして体一つに魂二つという状況にするらしい。
「ニーナさんは、ずっとこのまま何ですか?」
「安心してくれたまえ、新しい体を用意している……いや、存在する」
「このニーナの体みたいな……?」
ニーナを指差す、アルフェが作ったという人工体を。
「それとはまた別だ、君ならもしかしたら思いつくかと思ったけどヒント不足かな?」
思いつく?
もしかして知っていることなのか?
「君の内臓を治療したときにその内臓はどこから来たと思っているんだい?」
確かに、誰かの内臓を詰めて治療したと言っていた――、その誰かの、肉体?
「ここアルフェ診療所の地下特別冷凍保存室には………二つ肉体がある」
「2人……?」
「一つは私の友人ヒューベルト。
もう一つは……、彼女との約束だから名前は教えられないけど女性であることだけは言っておこうか」
腹を右手でさする、自分のものではない、誰かのものを。
「君の体にはヒューベルトの内臓を使わせてもらった、ニーナの新しい肉体はこの内臓を抜いたヒューベルトを使う」
「ニーナさんがヒューベルトになるってことですか?」
「あぁそうだ。もともと私は魂を剥がしてニーナとヒューベルトを今の肉体にした。
もう一度するなんて造作もないね、一切の不安要素があり得ない」
いつも通りの自信ありげな顔だが、瞳の奥で、肉体の奥のこころという場所では固い決心であるのは聞かなくても理解できる。
「成功するのを俺も願っておく。
ニーナやシルビアにだって訊きたいことがあるしな」
「ただしばらくは失った内臓を補填する準備だろうね」
友人の体を使ってまでも助けてくれた、それはきっとシルビアからの願いがあっただろうがそれでも助ける為にそこまでしてくれたんだ。
そこでふと思い出す。
「そういえば……アリナが俺の内臓をまだ持ってたはずだ……」
二人が驚いた顔をして静止する。
それを打ち破ったアルフェは微妙な顔をして訪ねてくる。
「本気で忘れていたのか君は……。
私はてっきりもう捨てられたのか、あったとしても移植でもしているのかと思っていたよ。
君は回復魔法が使えるだろう? だから療養していればある程度は定着していくだろうと」
アリナがそれをまだ持っているのか、そもそもどこに保存されているのかは不明だが、もし利用できるなら――。
「俺の方でアリナから訊いておきます、もし使えそうなら使ってください」
「んー……そうだね。いまさら君から内臓を取り出して本人に返そうにも変化していて合別人の内臓を一から改造するとの大差ないだろうね」
アリナの探索が終わるまで二人と話して時間をつぶしていた。
明日は学園自体は休みだがアリナを教師たちに合わせたり、他の生徒と足並みをそろえる為に個人授業を設けられている。
俺もそれについてこいと、学園からメールが来ていた。
まだ今日には余裕があるがすぐにでも夜が来るだろう。
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