第3話 再びアルフェ診療所

 アリナと共にいくつかのバライティを見て、締めにニュース番組を見ていた。

 流れていたのは昨日のテナントビル倒壊などもありしばらく見ていると。

『貴族院立大学は校舎の一新を行うために3ヶ月の間休校、中央大学と一時的な合同授業を行うとの発表です』

 ローカル番組であるため近隣の細やかな事情を発信するものだが丁度良かった。

「へぇー、この人たちとも学園で会うのかな?」

「もしかしたら、ぐらいだけどな」

 立ち上がりテレビの電源をリモコンで切る。

 もう深夜前になりかけている。

 ちょっとだけ頭がふらつき始めたアリナの為に早く寝てしまおう。

「もう寝る?」

「わかったー」

 のたのたとアリナは立ち寝室へと移動する俺の後に続く。

 部屋のベットが広くて良かったといつも思う、ダブル並みに広い訳じゃないが二人がちゃんと並んで寝れるサイズだ、狭くて困るというとこはない。


 白いシーツに二人一緒になって寝転ぶ。

 こうしただけでまぶたが重くなってきて、夢に落ちる前に最後の挨拶をこなす。

「おやすみ、アリナ」

「おやすみなさい、アーシャ君」

 夢の中へ没入していく。


 最近よく夢を見る。

 内容は大したものではないけれど、記憶のどこかに引っかかるような言い表せないものたちだ。


 白く曖昧な夢の世界。

 そこはどこまでも続くような広いガーデンだった。

 どこか、懐かしく、また落ち着いた場所。

 影は多くあった。大きい者、小さい者もする様々で人型ですらないものもある。

 俺は母と共にその場に居た。

 この場に居る誰もがみんなのために努力し協力していた。

 だけれど……。


 ガーデンはその端から枯れていく。

 この楽園は失われていく。

 誰もがそれに抗っていたのに、誰もが諦めて塵になって風に消えてしまう。


 結末だけは、変えられず、俺も母も全てが無に落ちていく――。


 今日もまた、一つの世界が滅んだ。

 五感が0になり、感じるもの思うものがどこに届かない。

 だけれどこれは夢。


 また、いつものように朝がくる。

 徐々に暖かになりつつある陽光は少し肌寒い大気を溶かしていく。

 まだアリナは起きていない。

 昨日は起こされてしまったが今日は早く起きる事ができたようだ。

 交代制ではないが、今日は俺が朝飯作っておくか。

 時計は五時過ぎでまだまだ余裕がある。

 学園も休日でそれほど急ぐ必要はない……この朝に既視感がある。

 アリナが初めてこの部屋で起きた日のことだ、あの時もこんな感じでくつろいでいたところに妖怪ドア叩きが乱入してきた。

 流石に何日もあっていないのは俺も木になる。

 今日だけはドアの外で待っておこう。


 寮の廊下はシンプルで濃い色の木材を使っているのに踏めはきしむということはない。

 がっしりとした建物だ。


 数分と待つことはなかった。

「アーシャ」

 現れたのはレイバーヌだった。

「起こした?」

「いや、大丈夫だけど……なんでここに?」

 シーアの警護を優先すると聞いていたから、てっきりこっちには緊急時以外来ないのかと思っていたが違ったようだ。

「ならいい。今日は下見にきた。

 図面だけでは困る事になる」

「あ、あぁ。なるほどね」

「じぁ、多分二度と会わないけど」

 声だけで別れを告げて靴が木材に小気味よい音をたてさせて、離れていく。


 結局、そのあと一時間――流石に外で待てないので部屋に戻ったが――待ってもシャルがくる事はなかった。

 拡張の時に追い出される事になったシャルの新しい家の事も次にモルデアイとその関係者に会った時に聞いておかないと。


 サラダとトマト。薄切りベーコンと潰した芋に青野菜と少しの調味料を入れて和えたもの。

 簡単なものではあるがアリナはそれでも喜んでくれる。幼い精神をしているが好き嫌いはまずない。

 そんな朝をいつも以上に平穏に過ごして、その後アルフェ診療所に向かう予定を立てた。

 到着するまでそれほど時間はかからない。

 半刻と少しというところで到着し扉をくぐり扉についた鐘が高く鳴く。

「アリナは、初めてだっけ?」

「うん」

 アルフェが来て診てもらうことは何回かしていがこちらから会いに来ることはなかった。

 連絡すら入れていないが初対面という訳ではない気軽にいこう。

 どうせこんなボロボロの診療所に人なんて来ないのだから。


 人のいない受付、薄暗い部屋、前にきた時と大差ない。

「おや、おやおや。

 アーシャ君じゃない?」

 音でやってきたのはアルフェと、その背後からニーナだ。

「やぁ、歓迎するよ! と、言いたいんたけどこっちも込み入っててね……」

 若干元気のないアルフェは初めて見るために少し驚いた。

「ど、どうしたんですか?……ちょっと頬もやつれてますし」

「よく気づいたね、君には医学の才能があると私は見たよ……。

 それは重要なことじゃない、問題なのは」

 ニーナが前にでる。

「コイツは三日前からなーんにも食ってネぇんだよ」

 呆れたように息を吐いたニーナ。

「それは、いつもニーナが1日3食作ってくれてたからだよ!

 ご飯がでないなんて聞いてない……」

「外に買いに行けばイイじゃねぇカ」

「お金がないんだよ……つらいよね?

 その癖君は毎日無駄に元気だし」

「そりゃ毎日チャンと食ってるからな。

 アンタと違って貯金があるンでな」


「ちょ、ちょっと待ってください。

 えーっと、なんで飢え死にしそうなんですか?」

 今の口論でさらにやつれたようなアルフェが遠い目になる。

 その目によってほぼ死にかけにしか見えないが、ひとまず話を聞こう。

「話せば長くなるね……。

 あれは、事件が解決された日の晩の話だよ……」

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