第7話 英雄の目的
「まずは私の目的を話さないとな」
落ち着いてみてみればモルデアイはかなり背が低い、並べて見ると青髪の女より少し小さそうだがそれ以上に2m近い白の髪の毛を垂らしているのが目立つ。足運びを間違えば踏みそうなそれを躊躇もせずにあの戦闘をこなしていた。
「その女。お前を保護しに来た。男、お前もおまけだ」
先ほど敵対していたため、別の動きを持っているとは思っていたが。政府直下の黒服と政府上部で意見の食い違いでもあるんだろうか。
青髪の女はこう言った言葉に聞き覚えがあるのか若干ばかりの疑いの目を向けている。
「なぁ、あんたは黒服の奴らとは別なのか? 同じ政府の一員だろ?」
「私は政府とはほとんど関係ない。政治や駆け引きに関わる気はないし、軍人は国防を十全にこなせばいい」
「さっき、黒服とぶつかる前に国のトップとかなんとか言ってなかったか?」
「随分と気にするな。女のためか? 恋心なら止めもしないが」
「はぁ? そんなんじゃない、その……あれだ。この子が怖がってるからだ。
いきなり出てきてそれっぽい事言ったってこの子にとっては黒服となんら変わりない」
モルデアイはまた吊り上げるような笑い方をする。
からかって楽しんでいるようにしか見えないのが、やはり俺には好きになれないタイプだ。
「女だけならまだしも、お前の前では詳しくは言えない。
離れてくれと言ったら、それはそれで拒むんだろう?」
さっきの戦闘を見れば分かるが俺では何もできないだろう。
だが、もしそうなったらそうするかもしれない。
俺はこんな正義感にあふれるようなキャラじゃなかったし、だけど昨日からの一件から徐々に変わってきている気がする。
「本来は、女をこちらの施設で保護するのだが……。そうだな都合のいい物件もある。
男、お前の所属する学校は中央大学付属高校で間違いないな?」
「あぁ」
この街のちょうど中央にある大学はクレデリア屈指の大学であると同時に様々な付属施設がある。高校もその一つであり、大学ほどではないが高校の中でも有名な方だ。
「だがなんでそんなことを聞くんだ?」
「ここまで聞けばわかるだろう。君の学園に女を編入させる」
なぜ、なぜ俺のためにそこまでする?
力は歴然で、権力も財力も比べられるものではない。ここで会話もせずに強引にでも持ち去るのが一番とは言わないまでも優れた方法のはずだ。
「当然私の部下が護衛に入るが、気にしない方がいい。そんなことで精神をすり減らしたところで報酬は何もない。
女、何か問題はあるか?」
いきなり話を振られ、驚きつつもこちらを見て、軽く頷く。そこがどんな場所かわからないためにこちらに任せるつもりなんだろう。
「なぁ、あの学園だって国立、政府からくるものだぞ。だったら黒服は入りたい放題じゃないのか」
「……。さっきお前が聞いたトップとまとめて答えよう」
上着のポケットから小さなスクロールを取り出した。その紙には封蝋が施されている。
の、だが正直に言ってその印がどういう物なのかよく知らない。モルデアイのいう事だからこの国にいる4人のトップの誰かなんだろうが一市民の俺にそんなものが分かる生活は送っていない。
「…………すまん。それがどういう奴か全然わからん」
数秒間沈黙した。
「それもそうだな。商会の代表の奴だ、古臭い封蝋を使うのはあいつ等ぐらいなものだし……気になるならこれから役所に向かうか?」
「いや、そこまではいい」
そうか。と一言つぶやいてスクロールを戻す。
「本当に事実なら俺が寮に戻るまでにこの子の部屋を用意できるか?」
「可能だ」
ここから、そうだな10分で着く距離だがそもそもこいつはそれを知らない。もし本当にできたのなら多くの機関、施設に折衝し、騙して悪いがと短期間に繰り返し干渉すれば大きな信用問題に繋がる。
「5分あれば十分、今からでも向かってかまわないぞ? そうした瞬間から確定し待ったは聞かないがな」
「あぁ……、信じてやる。1回信じてやったんだ、今回も信じてやる」
踵を返し、青髪の女はそれに続いてくる。
「帰りの道で襲撃されないようにしておいた。出来だけゆっくり帰りな」
振り返るとモルデアイは空へと飛び上がり屋根へと消えていく。青髪の女もつられて振り返るがすぐにこっちに向き直した。
「ごめんね、全部任せちゃって……。でもありがとう、君って優しいんだね」
「そんなんじゃ……そんなんじゃないよ」
女の前で見栄を張る、かわいい奴だったりすればもっといい奴ぶってみる。人は結構簡単にできているのだと実感する。
「もともとこんな昼間に出歩いてる時点で俺はろくでもないさ」
「そうかな?」
「そうだ」
あれだけ騒いだというのに人が集まってくる気配がない。壁となっている建物だって全てが無人ではないだろうに、それでも様子を確認しようと窓や扉から出てきた者も見なかった。
この女は、元々誘い込まれていたんだろう。
なんであれ通報され写真を撮られ、新聞に俺が登場するなんてことにならなくて安心した。
「でもありがとう…………あ!」
数歩の間の沈黙の後に青髪の女は大きく叫んだ
「どうしたっ! 何かあったか?」
急いで振り返ると女は照れたように顔を赤くしていた。
「ほ、ほら。君の内臓の話すっかり遅くなっちゃってたよね」
そういえばそうだ。いきなりモルデアイに回復を強要されたことで記憶から抜けていた。
「ちょっとまっててくださいね」
胸と腹に掌を添える。同じことをしていたのが十数分前とは思えないほど濃い時間を過ごしていた。
魔法陣が描かれ奇妙な感覚を得る。
「動かないで、力を抜いて……自然体に」
魔法陣が組みあがる、それはたっぷりと時間をかけて数を増やし8個目を完成させた時。
「〈入れ替わって〉」
何かが切り替わった。
肺は窄みきっていて、息が苦しい、腹の中の各所に痛みを感じる。それは肉が軋むような、骨が割れるような、さざ波の様に痛覚に押し寄せるものだった。
これは間違いなく機能味わった不快感と同質で、だが同時に昨日と違う点もある。
「〈組み替えろ〉」
1日どのような保管をされていたのかは不明だが、肉体外にいた各種器官はそれぞれが何らかの支障をきたしていた。
例えば血の凝着や一部の壊死に腐敗の初期段階と数え切れないが、悪意があったものではない。それに俺は昨日空っぽのままに20分も歩いたのだ、そのままでも数日で治る範疇だっただろう。
「あ、すみません……、何か問題がありました?」
彼女はそれに気づいていない様子だった。知っている知識と知らない知識がある、これもそういったものでしかない。
「いや、気にしなくていい」
だが、少し体の力が抜け脱力感が沸いてくる。
「疲れてないか? 空間魔法は燃費が悪いって聞いていたが」
「あ、あはは。実は私も今のでほとんど空っぽで……。さっき移動に使ってたらちゃんと戻し切れていたか……」
「俺もだ、ちょっと連続で使い過ぎた。寮にいったら一旦休もう」
もし部屋がなかったとしても俺の部屋を貸してやればいい、その間に俺は隣の部屋に世話になるだけだしな。
話疲れない程度に談話としつつ、俺たちは寮に向かった。
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