第6話 回復魔法
全てが、一瞬の一幕として終わり、反動として静けさが場を支配した。
その中でモルデアイがこちらに向いて歩いてくる。
「お前、回復魔法とか使えないのか?」
傷を見てからの事だろう。
「お悪いが………、いや。申し訳ないが――」
「敬語はいい、話が無駄に長くなる」
それは俺も同感だ、手短にした方がいい。
結局こいつの立ち位置がよくわからないのだから、助けてもらいはしたが、それが敵でないと限らない。
敵の敵は味方であればいいんだが。
「俺は火と地の魔法しか使えなくてね。そういうのはできないんだ」
「……本気で言ってるのか? 魔法の適正なんて研究所が勝手に言ってるだけだろう。そんなもの幾らでも塗り替えれる」
モルデアイは端で座っている俺の腕を掴み傷口に無理やり押し当てた。布が肉の断面に接触し、身悶えるような痛撃が走るが気にも留めようとしない。
「規則? ルール? そんなものをお前は信じているのか。
魔法に上限も下限もない。つまらないと切り捨てたのはお前の方だ」
言う、モルデアイはこちらの嫌な部分あらかじめ知っていたかのように言い続ける。
「魔法にもっと憧れろ、夢を見ろ。お前の生きたいという欲望を過信しろ。
もしできないのならできる理論を編み出せ」
押し当てる力は徐々に強くなる、もはやその手で俺の腹を潰そうとしているとしか思えない。
「あ、あの!モルデアイさん!苦しそうですよ、なんでそんな無茶をさせるんですか!
できる事できない事は誰にでもあるんですよ!!」
「お前の場合はそうだろう、だがコイツは違う。
諦めた奴だ、できる癖に諦めた奴を覚まさせるならこれが一番だ。
ほら、治して見せろ、できなきゃ潰れて死ぬぞ」
あ、ああ、あああああ!
クソ、クソクソ!!
魔法は自由と思ってるのか? だとしたら相当なメルヘン頭脳じゃないか!
「魔法の分類分けなんて、結局はわかりやすくしただけだ。
本来は全ての地続きのそれを切り分けてできないと言ったところで思い込みでしかない」
こいつが気にくわない、このモルデアイとかいう英雄は自分が有能なあまり他人も有能だと信じている奴だ。
何もかもを諦めた目をしているのはお前の方だろうが!
学園と研究所の理論が間違っていると本気で思っているのか?
だが、もし本当にそれが事実だとしてそれができる保証がどこにある?
けれど、もし。
本当にそうであるならば俺の学園での生活少しは変わるんじゃないか?
「私を信じろ」
………………こいつに一泡吹かせるために、頭の中で理論を組み上げる。
重要なのは止血だがそれはもう抑えられているためパスして次、損傷した内臓だ。昨日のように全部なくなったわけじゃない、この程度の穴ならそれぞれの内臓を塞ぐだけで応急処置として上等だ。
魔力で肉体を作る、参考にするのは周囲の健康な部分からだ、それらを多少引き延ばすことになっても形を整えれば肉体の自然治癒によって十二分に治せるだろう。
そして最後に残るのは雑菌の事だ。
外部から侵入した細菌は膿や炎症となって現れ、物によってはその他の病気の原因になる。
ただ傷を塞ぐだけで完治させれるわけではないのだ。
加え今回は止血とはいえ少し汚れたものを傷にあてている、不要な細菌だけを取り除くのは細かすぎるためにロスが大きい。
ならば、雑菌の入り込んだ場所ごと作り変えればいいんじゃないか?
地属性の魔法は、分解と再構築を基本に行われる。
傷も雑菌も純粋な魔力まで分解してしまえば、それを使って怪我を埋めるだけの容量が生まれるのだ。
「あああッ!! やっ、てやるよ………やってやるさッ!」
方針が固まった。これでも魔法学園の生徒だぞ、ここまでくれば埋まった数式を解くだけだ。
「〈地の力、大地の再生力、俺の肉を組み直せ〉!」
魔法陣を展開する。銃弾の出入口となった二か所に配置し、そこから一本の線のように分解を行う、魔力によってあふれる血を同時にせき止め次の瞬間に再配置された肉と骨が中を詰める。
「ッあ、ッはァ………!」
慣れないことをいきなり、それも時間制限までつけられた。脳みそは発熱し、心臓は痛いほどに高鳴っている。
「ど、どうだ………、モル、デアイ……ッ」
満足そうにそいつは口端を吊り上げで笑う。下品に笑うそいつはただの街の小娘のようでもある。
「よくやったな。だからこそのお前だ」
ようやく押し付けていた手を離してくれる。
握りつぶされていた手首はズキズキと痛み、現状一番の怪我であることに違いない。
「うるせぇな………。だが、やってやったぞ」
しっかりと発動したことに若干の驚きと、嬉しさはあるがさっきの極限状態のせいでうまくそれを認識できない。
だが俺は、確かに回復魔法を習得した。そう言えるだろう。
これが何に役立つかは置いて今は目の前の不気味な女、モルデアイと対峙しなければならない。
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