宰相の諮問機関は躍動しているか


 その男が処刑された時

 それは、その男が火刑にかけられた時

 広場で多くの市民たちがそれを見ていた

 その男は最期まで、その彼の覚悟を表す褐色の衣を脱ぐことなく

 積み上げられた薪の上で磔にされたが

 人々に罵られ、唾されても

 その表情は静かなまま、変わることはなかった


 その日

 広場の上空には雲ひとつない晴天が広がっていたが

 それを彼を燃やす炎と、黒い煙が汚した

 清冽な朝の空気は人が焼かれる匂いで台無しとなった

 彼は炎にまかれても、その瞳を閉じることはなかった

 その目は焼かれて濁る最後まで、空の青を映していた


 青、青、あお、あおよ

 この世でただひとつだけ、

 真実、青いものよ

 ……空が、青い

 人々は時として、急にその事実に出会い戸惑う

 青は懐かしい

 子どものころの思い出の背景は、常に青空ではなかったか

 あの遊び狂っていた時代の空は

 いつでも青くはなかったか


 嗚呼

 それは

 この世にただひとつの青ではなかったか……

 失われてはいけないものではなかったのか

 人々よ

 歴史よ

 もはやあなた方にそれを取り戻す術はない




     アル・アアシャー 「青い空の処刑」






「では、本日はかねてよりの懸案でした、海軍の件と……その前に、例の賢者の群れグルポ・サビオスの件、それに、桔梗星団派の新たな動きの方を確認しておきましょうか」

 そう、今日の具体的な議題を口にしたのは、この宰相府最高諮問機関の長である、サヴォナローラだった。

「前回の流れでは、賢者の群れグルポ・サビオスの方へ、間者を潜入させたら、というお話でしたね?」

 その問いに答えたのは、学者たちや市長、ギルド総長の前、そして神官たちの下座、つまりはこの会合に集まった十四人のちょうど真ん中あたりに席を占めた、ザラ子爵ヴィクトルだった。

 彼よりも上座にいる、ザラ元帥大将軍エミリオは彼の腹違いの弟で、先帝サウルが男爵に叙すというのを遂に断り倒したために、元帥大将軍というこのハウヤ帝国の重鎮でありながら、爵位もないままだ。

 だが、このハウヤ帝国を実質的に支配している人々の中では、エミリオは兄よりも上位にあり、より皇帝のオドザヤ に近しい地位になっていた。

「それが、間者と言っても今回は、ある程度の大店の店の、それも主人じゃなくて成人してすぐの二代目、三代目の馬鹿息子ではないと、そもそも近付くツテがないと来た。彼ら同様の大商人の息子でなければ、馬鹿息子どもは誤魔化せても、すでに接触しているだろう桔梗星団派の輩には怪しまれる。だから、皇宮の影使いなどは使えない。……そうでしたな」

 ハーマポスタール市長がそう言えば、ギルド総長もうなずいた。

「困ったことだ。ただ、他家に間者を入れるのならば、まさにそこにおられるザラ子爵様のお家の手練れを送り込めば済む。だが、あの連中は皆、共通した出自のものばかりで占められている。だから、実在の大店の息子でなければだめなのです。そりゃあ、官吏や、治安維持部隊の隊員さんなんかにも、大店の息子さんはいるだろうが、そういう人じゃ、すぐに間者だと露見してしまうでしょうしなあ」

「先帝サウル陛下の御治世に、社会は急速に安定しました。それは、法律を守るよう厳しく官吏が市民を見張るようになり、金銭などでの癒着や不正、誤魔化しが効かなくなったからです。我々の世代の商店主や、隠居した先代みたいな世代には、規律は厳しくなったと言えば厳しくなりましたが、反面、安心して商売ができるようになったことが実感としてあるんです。不正や賄賂は旨味ももたらしたが、一つことを間違えれば、命に関わりましたからね。正直、サウル様の治世の初期には、享楽主義のレアンドロ帝時代のような奢侈な生活をする貴族が少なくなったために、商売の機会も、商品の売れ行きも落ち込みました。ですが、レアンドロ帝時代に羽目を外しすぎた悪徳貴族が、サウル様の登極と共に、いくつも取り潰されて、潮目が大きく変わりましたな」

「取り潰された貴族の領地が皇帝直轄領に変わり、皇宮の資産、つまりは国の予算が潤沢となった。貴族達が皇宮へ『お目こぼし願い』のために出していた賄賂が必要なくなったのです。だから、サウル陛下は貴族達の目を機にすることなく、思い切った政治が出来るようになった。……それからはまず、荒れていた街中の整備が進みましたな。それで、工事人夫として貧しい市民が職を得、危険極まりない地域だった下町が活気を取り戻しました。小金を蓄えて小商いを始める者も増え、我ら大きな商人も、大口の貴族のご注文は減ったものの、市民全体の生活が向上したので、結果的に採算は同じくらいに落ち着いた」

 代わる代わるに話す、市長とギルド総長の話を、カイエンたちは黙ったまま、真面目に聞いた。

 それは、賢者の群れグルポ・サビオスのメンバーたちの父親、祖父の代の商人たちの感覚であり、それを知ることは今、かなり重要なことになっていたからだ。

 カイエンも宰相のサヴォナローラ、それにパコなども、言わば、賢者の群れグルポ・サビオスの連中と同じ世代だ。だから、こうしたサウルの治世の始まりとともに大きく変化した社会の情勢について、生きた声で証言を聞くのは彼女等にとっても重要なことだった。

「ですのでね」

 話をまとめたのは、市長のパスクアル・デル・レイの方だった。

「我々の世代は、あの若造どもの主張する、『貴族には課税せず、商人から多額の税金を搾り取るのは、けしからん』などという考え方、主張なんぞ、そもそもあり得んのです。彼らは先先帝レアンドロ帝の時代であったら、貴族にもの申そうなどとした自分たちは、もうとっくに捕らえられ、罪状もないままに拷問の果てに処刑され、一つ穴に埋められてそれっきりだったなんてことも、知らんのですよ。あの頃は、大口のお貴族のご注文は多かったが、ちょっとしくじれば、ちょっと他の商人と仲違いでもすれば、即、密告。そして結果は決まっていた。店ごと、この街から抹消です。……ですから、我々、商人が本当に自由に商いを営めるようになったのは、サウル様の代になってから。あの馬鹿どもが恐れを知らぬ馬鹿のままで大人になれたのは、サウル様のおかげで時代が変わったからだ、ってことが、あやつらには、まるで実感できないのです」

 苦虫を噛み潰したような、市長の顔を見ながら、貴族代表で口を挟んだのは、ザラ子爵だった。こちらは貴族の代表といった格好だ。

「そうですねえ。元はと言えば、我々貴族は、領地の経営を皇帝陛下から任されている存在です。土地から得る収入の代わりに、いざ、戦争となったら、一年のうちの数ヶ月は、黙って戦場へ家臣たちを連ねて、手弁当で出陣せねばならぬ義務があるのです。もう百年以上も大きな戦はないが、ベアトリアとの国境紛争では、フィエロアルマ、ドラゴアルマとともに、クリストラ公爵はじめ、東の地主、豪族たちは出陣を余儀なくされておられた。だが、サウル陛下は見返りに、ベアトリアから奪った土地を地元の豪族に割譲なさった」

 これを聞いて、次に話を引き継いだのは、意外にも、内閣大学士のパコ・ギジェンだった。

「私は実際の公務を行う官吏どもの総まとめを致しておりますが、大公軍団治安維持部隊の各署と連携しております市内の各コロニアの役所では、特に商人からの訴え状などは受けておらんのです。まあ、いざこざがないわけではありませんが、治安維持部隊のおかげで騒ぎは大ごとになる前に収まりますし。納税を怠る商店も増えたりはしておりません。その納税額も、実は先帝サウル陛下の命令で、ベアトリア戦役が終わってからはやや税率を下げておりますのですから」

 ちょっとぷりぷり怒った風情の、パコの丸くて憎めない顔を面白そうに見ていたのは、学者の先生方だったが、その中から、現在、法律・事業相談所の所長をしている、赤毛で、しゃれた片眼鏡におしゃれな髭の、オスカル・ネメシオがここで口を出した。

「そうそう、その通り! 私はこちらの大商人方の、道楽と税金対策で設立された私立学校で教えながら、事業相談所も営んでおりますが、賢者の群れグルポ・サビオスの若様たちの主張は、その親世代の方々には理解不能のようですね。しかしながら、怖いことは怖いのです。今後、数年のうちに彼らは父親の引退を促してでも、自分の店の店主に収まろうとするでしょう。その際、今のあの過激な主張と過激な感情を……ねえ? ソーサ君」

 いきなり指名されたマテオ・ソーサは嫌な顔をしたが、それでも自分に話が振られた理由は分かっているようだった。

「……まあ、ここで私の専門である、戦略学の原理が登場してきますな。賢者の群れグルポ・サビオスの背後に桔梗星団派があるからには、あの若者達、自分たちこそ時代のさきがけと思い込まされておりましょうからね。……すっかりそのように洗脳されているのですから。これから先、思いあまって、『天誅』とばかりに自分の父親であっても、貴族におもねる裏切り者とでも言って、秘密裏に病死にでも見せかけて抹殺しかねない。桔梗星団派は彼らのそう言う行動の『お手伝い』の汚れ仕事を嬉々としてするでしょうしね。……そして、今の市長やギルド総長のお話をうかがって確信致しましたが、彼らは自分らが商店主となった後、団結して納税反対を唱えても投獄されたり、店を取り潰されるなんて、夢にも思ってはいないのです。……先帝サウル陛下のおかげで得られた『市民の権利と安寧』は、当たり前のもの、昔から保証されていたものとしか思ってはいないのですから……」

 この言葉には、宗教界の代表者、アストロナータ大神官のロドリゴ・エデンも、オセアノ神殿のマリアーノ・ボテロも、黙って首を振った。

 親殺し。

 そんな罰当たりな事態が起こるのを、彼ら神官が見過ごすわけにはいかない。

 カイエンはここまで黙って聞いていたが、ここに至って発言を求めた。

「つまり、彼らは、皇帝陛下が彼らの活動が広がれば、彼らの言い分を素直にのむと信じている。いや、信じさせられているわけだ。……だが、先生、実際に大店の商店主となった彼らの人数によっては、団結して皇宮へ押し寄せられでもしたら……。私たちは非常に難しい采配を求められることになるでしょうね?」

 カイエンはもとより、オドザヤも、彼女らの祖父のレアンドロ帝のように、反対するものは根こそぎ「排除」してしまうような強権は発動しにくいだろう。時代はサウルの時代に、大きく変わってしまっている。

 若い市民達は皇帝の「強権」を「圧政」としか受け取らないだろう。

 そして、オドザヤもカイエンも、彼女らもまた、祖父のレアンドロ帝時代のような、言わば「暗黒時代」を知らない。二人だけでなくサヴォナローラなども、無理矢理に彼らを上から押さえつけることが、市民の皇帝への信頼を損なう行為だと思い、二の足を踏む世代なのだ。

 そして、先帝サウルによって、ハーマポスタール市民達はこの二十年以上、文化的な発展を享受しており、読売りに代表されるような、言論の自由をも謳歌している。カイエン達もそれを「利用」して、今まで桔梗星団派の工作に対抗してきたのだ。

 そこへ時代を逆戻しにするような政治が行われれば、賢者の群れグルポ・サビオスではない市民達とて、どちらの味方につくか。それはもはやあまりにも明白なことだ。

 そして、オドザヤもカイエンも、そんな事態だけは避けなければならなかった。

「桔梗星団派が、賢者の群れグルポ・サビオスの若者達を、人道にもとる親殺しまで厭わぬ異常な状態へ導いてしまう前に、なんとか内部に人を入れて、彼らの愚かな行動を阻止せねばなりませんね」

 宰相サヴォナローラが静かな声でそう言うと、横で元帥大将軍のエミリオ・ザラが低い笑い声をたてた。

 それはやや不遜な感じもしたが、続いた彼の台詞は、そこにいた誰もがあっと驚くような過激なものだった。

「ははあ! それなら我々為政者が、桔梗星団派の工作に先んじるには、その商家の馬鹿息子どもを先にこっちで『なんとかする』しかないでしょうなあ!」

 このあからさまな発言には、カイエンとサヴォナローラは顔を見合わせ、大神官の二人と、国立医薬院のニコラス・ベラスコ達は、露骨に渋い顔になった。

 彼らの仕事は「人々を救うこと」にあり、今や敵の走狗となったとはいえ、彼らの息子のような世代の若者をどうこうするなどという話に乗るわけにはいかないのだ。

 いや、聞いたからにはそれを阻止する方向で動かねば、彼ら自身の在りようが問われる。

 だが、下座の方にいる四人の学者先生達の反応は別だった。

「ソーサ君! こりゃあ、君のお得意のあれじゃないかね! 先手必勝のその先を行く、アレ、アレの出番じゃないか」

「こらぁ! 黙らんかネメシオ! 縁起でもない」

「ネメシオ君、それはだめだよ。それに、あれは国家が手を汚して簡単に出来る戦略じゃないし。いや、戦略でも戦術でもないね。それこそ、『人心を皇帝陛下から離してしまう悪政』だよ。後に禍根だけが残ってしまう」

 変な話を持ち出してきたネメシオ先生を一喝したのは、国立大学院の教授、通称「鉄腕」のマルコス・イスキエルド。

 呆れ果てた、と言う顔でたしなめたのは、今は民間に下りている戦術学が専門のエセキエル・ボノの、太ってまん丸い顔だった。

 名指しされたマテオ・ソーサ、大公軍団最高顧問は、意外にも、普通の顔をしていた。

「……古いことを思い出したものだね。さっき、控え室で出てきた話だったからかねえ。確かに、学生時代の私の座右の銘は『喧嘩は、売られる前にこっちから買いこんじまうんだよ。先手必勝なんざ、遅すぎる』だったが……」

 教授は、少しの間、宙を眺めて黙り込んでいた。

「そうだね。でも、この件に関してはもう無理だ。喧嘩はとっくに向こうから売られている。こっちももうとっくに言い値で買い取っているからね。……さっきの言を実行するとすれば、ザイオンの次の女王、トリスタン皇配殿下の姉君、エレオノール王太女と、兄君二人を廃し、トリスタン皇配殿下をザイオン国王にするとか、ベアトリアの王太子フェリクス殿下を廃して、第一王女であるマグダレーナ様か、そのお子のフロレンティーノ王子をベアトリア国王に立ててしまうとか、そういう極端な話になるだろうね。螺旋帝国自体には、もう喧嘩は売られてしまっているのだから。それに、螺旋帝国は、我々が直接に手を伸ばすには遠すぎる。だからこそ、向こうさまも桔梗星団派なんていう黒い手先を差し向けてきているんだから」

 このマテオ・ソーサの言葉を、真に受けた風を見せたのは、宰相のサヴォナローラ、それに話がこんな方向へ行く原因を作った、ザラ大将軍だった。

「……ソーサ先生、ボノ先生、今のお話、軍隊を動かさず、裏工作だけで実現できましょうか?」

 サヴォナローラがこう訊ねれば、ザラ大将軍もこう繋げる。

「さすがに、第一線の学者先生方のご賢察だ。それでは、今からでもこちらから遥か螺旋帝国まで、真っ黒な長い手を伸ばしていくべきですかな」

 この二人の大胆発言にも、学者の先生方は動じなかった。

 きっと、「とんでもないことを聞かされた」と脂汗をかいていたのは、大神官たちや、市長、ギルド総長などだけだっただろう。

 カイエンやザラ子爵、官吏をまとめる内閣大学士のパコなどは顔色一つ変えなかった。彼らは、この最高諮問機関の話の進み方如何では、何が出てきても驚かない心持ちに、もうとうの昔になっていた。

「どっちにしろ、始まりは暗殺です。だが、これは成功率が低い。この皇宮は通常の警備の他に、影使いの守りを幾重にもかけている。螺旋帝国だって、このハウヤ帝国の皇帝陛下の暗殺は、サウル先帝陛下の時代から、今までに幾度も考えたはず。オドザヤ陛下のご婚礼のパレードでのあれもそうだ。だが、あれは陛下の生死は二の次だったでしょう? 桔梗星団派は、まずは、あれによって皇帝陛下の治世に影を落とせればよかった。それと、桔梗星団派の力で今、どこまでのことが出来るか、試しただけに相違ない。それに、今、話題にしている賢者の群れグルポ・サビオスの若造達の根性試しでもあったでしょう」

 マテオ・ソーサがそういえば、エセキエル・ボノもこう言った。

「螺旋帝国にはこのハウヤ帝国の外交官が赴任していますね。宰相様はそこに影使いなどの手の者を派遣なさっているはず。しかし、今のお言葉からすれば、広大な螺旋帝国内では、このハウヤ帝国での桔梗星団派のような活動は難しいのでしょう。桔梗星団派は、盟主に前の大公、このハウヤ帝国の元、皇子アルウィンという『これ以上ない人材』を持っています。大公殿下には耳にするのもお嫌でありましょうが、あの方は今や国賊。皇統譜から名前も削られた存在です。ですが、彼が先の皇帝の弟だということはいまだに誰でも知っていることですから、オドザヤ陛下に成り代わることさえ、やりようによっては全くの不可能ではないのです。これと同じような立場の人間を、螺旋帝国側から寝返らせることは出来ていない、そうですね?」

 これには、サヴォナローラは正直にこう答えるしかなかった。

「はい。もし、螺旋帝国が前の古き王朝『冬』であったら、我々の側も、桔梗星団派のやっているような工作をすること可能でしたかもしれません。王朝末期の皇帝の一族ともなれば、鬱屈とした毎日を晴らしたいと思う輩もいたでしょうから。しかし、新王朝の『青』の皇帝、馮 革偉ヒョウ カクイは民衆に担ぎ上げられた平民です。家族、親族、そして親友、盟友などと言える人数も限られている。民衆は彼を自分たちが皇帝に押し上げた、と誇りに思っています。あの、チェマリのように使える人材は見つけられませんでした」

 サヴォナローラのこの言葉を聞くと、会議室の中はしん、と静まり返った。

 大神官達や、市長、ギルド総長、医薬院のベラスコなどは、話が急に大きくなったので、声も出ない様子だ。

 それは、次にカイエンが沈黙を破るまで続いた。






「では、現在の螺旋帝国ハーマポスタール副外交官の夏侯 天予カコウ テンヨや、その母親の周 暁敏シュウ ギョウビンなどの革命関係者を使えないかな。彼らは頼 國仁先生とも接点が大いにあったはずだ。もしかしたら、頼 國仁先生の自死を知って、気持ちが変わっている、もしくは揺れている、ということはあるまいか。……頼 國仁先生と周 暁敏、息子の夏侯 天予との繋がりが、馮 革偉とのそれよりも、濃かったとしたら? 彼らが今も、馮 革偉と運命共同体であるとは言い切れまい?」

 沈黙を破った、カイエンの言葉は皆には「何をいきなり」という思いで受け止められただろう。

 現在の螺旋帝国皇帝、馮 革偉の師匠筋だという、周 暁敏、その息子の夏侯 天予。

 そこに彼女の家庭教師だった頼 國仁は繋がっていた。

 彼は「女狩り」で前の王朝「冬」の最後の皇帝の側室とされた、馮 革偉の恋人の子である、星辰と天磊の皇女皇子の姉弟をこのハーマポスタールへ亡命させた張本人だ。

 だが、頼 國仁先生は、それ等のことに関わったことを是とせず、このハーマポスタールの国立大学院の研究室で首を吊って自死しているのだ。

 カイエンや教授にあの本、「失われた水平線」を与え、意図的に読ませたのは、頼 國仁だ。そして、結末の違う初版本を遺書のように遺して自死したのだ。

 つまり、頼 國仁は、かなり前の段階で、馮 革偉の革命に組しながらも、何がしかの「迷い」を持っていたと見るべきだろう。彼はその「迷い」の果てに、馮 革偉の陣営にいることに耐えられなくなったに違いない。その「迷い」の原因は、馮 革偉が、そしてそれに与するアルウィン達がやろうとしていること、作ろうとしている「未来」にあるのだろう。

 勿論、あの皇女皇子の姉弟の亡命劇の背後には桔梗星団派が、馮 革偉がいたことは間違いない。

 このハーマポスタールにいる外交官の朱 路陽も、副官の夏侯 天予も、螺旋帝国の走狗であり、皇帝、馮 革偉の直接の配下と言っても良いだろう。

 だから、カイエンは意図的に朱 路陽の名前は出さなかった。元は前の王朝の宦官の総支配、太監だった男だ。それが新帝の元へ走った。その理由は知らないが、星辰と天磊の皇女皇子を燃える王宮から脱出させ、頼 國仁に託した彼が、馮 革偉を裏切ることはないだろうからだ。

 だが、夏侯 天予は違う。

 何が違うか。

「……ああ、そうでしたね。夏侯 天予の父親は、シイナドラドの夏の侯爵マルケス・デ・エスティオだということでした。彼は育ちは螺旋帝国だが、血筋の半分はシイナドラド貴族、そういうことですね」

 カイエンの言を代弁してくれたのは、ザラ子爵だった。

「そうだ。そして、夏の侯爵マルケス・デ・エスティオはシイナドラド皇王家の一族ではないが、かなりあの国の歴史に絡め取られた一族なのだ。これは、私がシイナドラドで虜囚となっていた時にも感じたことだが、エルネストがこっちへ来てからは、確信を持っている」

(頭の中身はお粗末な野郎だったけどな)

 カイエンは思わず、左頬の傷を指で撫でていた。この傷を負う羽目になったのは、あの男のせいだ。

 カイエンの背後で、シーヴの気配がちょっと剣呑なものに変わる。彼は、あの場にいたのだ。それも、カイエンが顔に傷を負ったのは彼をかばったためだった。

 カイエンは、自分があの悲惨なシイナドラドでの出来事を、もはや淡々と語っている自分に驚いていた。

 あのまま、エルネストと会うことがなかったら、もしかしたら今もあの時のことは、開いたままの心の傷であったかもしれない。だが、エルネストがこの国へ婿入りして数年。彼女はもう知っていた。

 エルネスト個人が彼女にしたことは許せない。だが、彼は、今や螺旋帝国の後ろ盾を持つ反政府軍の前で封鎖されたシイナドラド皇王家唯一の希望なのだ。彼には、父皇王バウティスタに命じられた、「使命」があることも。

 そして、エルネストの「使命」なくしては、パナメリゴ大陸の西と東の国々の緩衝地帯とも言える、螺旋帝国の西側にある小国群を、螺旋帝国に飲み込まれてしまうであろうことも。

「私は、ここのエデン大神官からお聞きした事実から、夏侯 天予にだけは、言わば、『付け入る隙がある』と思うのだ」

 カイエンが実は今日ここで初公開する重要情報へと繋がる話題を、そんな言葉とともに始めると、真っ先にそれに食いついてきたのは、サヴォナローラのいつでも世界を突き放して見ているような、達観した顔だった。

「そうでしょうか? 彼は螺旋帝国人として生きてきたのでしょう? それに、彼を育てた母親、周 暁敏は馮 革偉の師匠筋と聞きます。このハウヤ帝国に外交官の副官として送られて来たのも、あの宦官上がりの朱 路陽と同じく、馮 革偉の信頼が厚いからでしょうに」

 サヴォナローラの言は、「何を今更」と、カイエンを責めているように聞こえた。

 カイエンはちょっと意外な気がして、サヴォナローラの顔を見てしまった。青すぎる青の目をした、夏の侯爵マルケス・デ・エスティオがサヴォナローラとガラ兄弟の血筋と、どこかで交差する先祖であろうことは、前に話したことがあったはずだ。エルネストが石碑の森ボスケ・デ・ラピダの話をした時だったか。

「同じ青い目の……先祖を同じくする一族のはずだ。……お前と夏の侯爵マルケス・デ・エスティオは」

 その時、カイエンの頭に蘇ってきたのは、暗い灰色の髪の色と、鮮やかすぎる青い目をした、シイナドラドの夏の侯爵マルケス・デ・エスティオの顔だった。

 顔つきはまるで似ていないが、あの青すぎる青の目の色、濃い灰色の髪の色は、他人の空似とは言えない。濃い灰色の髪はともかく、サヴォナローラやガラ、夏の侯爵マルケス・デ・エスティオの持つ、真っ青な目の色は、そこらにいくらでもいる「青い目」の人々の色とは全く違っている。

 普通、「青い目」と言えば、空色のような淡い色だ。中には鮮やかな色の者もいるかもしれないが、それでもこの三人の持つ目の色とは明らかに違う。

「全く、同じ色なんだって言っただろ?」

 カイエンがそこまで言って、意味ありげな表情を作って彼を見ても、サヴォナローラの顔色は変わらなかった。彼にとってはそんな事実は疎ましいことか、どうでもいいことでしかなかったのだろう。

 だが、カイエンは違っていた。彼女には、今日、この場所へ持ってきた、新しい情報があったのだ。

 それは、今日ここで話されるはずの、賢者の群れグルポ・サビオスへ潜入させる間者をどうするか、という前回から持ち越した懸案への一つの提案になるかも知れないものなのだ。

「……エデン大神官、夏侯 天予がアストロナータ大神殿の礼拝に現れるようになったのは、いつ頃からだと言っていましたっけ?」

 カイエンが上座からそう聞くと、このハーマポスタールのアストロナータ大神殿の大神官、ロドリゴ・エデンは、「やっと来たか」とばかりに、一枚の紙を持って立ち上がった。

 彼は、カイエンが本人は嫌々とはいえ、シイナドラドで星教皇スセソール二世として「即位」したことが、パナメリゴ大陸中に知れ渡って以来、カイエンをアストロナータ信教の頂点に立つ「星教皇猊下」として崇めている。だから、この時もカイエンに声をかけられると、彼の痩せた厳しい顔に緊張が走った。

 他の皆は、もうカイエンからこの話を聞かされていたマテオ・ソーサ以外は、もう、カイエンの言葉だけで話の方向がわかった者、まだ事情が飲み込めずにいる者、それぞれに目を光らせて、この大神官の言葉を待った。

「はい、お忍び……と申しましょうか、お名前やなんかは偽名をお使いで詣でておられたので、私のところまで話が上がってくるのに、かなりの時間がかかりました。それがもう、熱心な信者として大神殿に現れてから、二年にもなろうかと言うのです」

 言いながら、もう五十がらみの大神官は、懐から鎖で下げた、小さな丸い眼鏡を取り出した。これは近目が酷すぎて眼鏡を使っているパコと同じく、鼻と眼窩で固定するもので、なかなかに高価なものだ。

 ここには、片眼鏡をしている赤毛のオスカル・ネメシオがいるが、彼の場合は飾りだか、必要に応じたものだか、分かりはしない。

 同じくアストロナータ神官である、宰相のサヴォナローラの僧服は、褐色の長衣の襟元などに、わずかに青い線などが見えるだけのものだが、この痩せてカマキリのような厳しい顔つきの大神官の衣装は、褐色の僧服の上に、無地の青い長々とした袖なしの上衣を羽織った格好だ。

 前に、大公宮へカイエンへの「臣従」と、今まではシイナドラドへ送っていた、信徒からの喜捨を大公宮へ献金する、と言いにきた時には褐色の長い帽子から床へまで続いていた、青い長い長い装飾的な布地は付いていない。あれは大神官の最高礼装なのだと、カイエンは後から知った。

「失礼いたしました。この頃、細かい文字が見にくくなりまして」

 エデン大神官のその言葉は、自分がこれから話そうとすることを頭の中で、今一度まとめるための時間稼ぎのようだった。

「……螺旋帝国人の血が混じっていることは、一見しては分かりにくいそうですな、こちらの御仁は。それででしょうか、名前はこのハウヤ帝国人の名前を名乗っていたそうです。ええと、週末の礼拝は神殿から人が溢れ、外の広場にまで多くの市民が集まります。ですから、いちいち名前などは控えられません。ですが、神殿の奥所までいらして、神官の話を聞いたり、告解を求めたり、聖典の解釈などを聞く熱心な信者の集まりに参加いただいたりする時には、住所やお名前を聞き取って、帳面にまとめて管理しているのです」

 ここまで聞くと、さすがに腐っても、いや、宰相という政治に関与する立場とはなっても、神官は神官で、サヴォナローラが口を挟んだ。

「エデン大神官殿。……つまり、夏侯 天予は、信徒は信徒でも、『至極熱心なアストロナータ教信者』である、ということですか?」

 本来なら、サヴォナローラなど、大神官のロドリゴ・エデンにとっては、一神官であるにも関わらず、先帝サウルに目をかけられて内閣大学士となり、その後に宰相という「俗世間」の地位を得た者である。つまりは悪くいえば「信仰よりも俗世への関わりを選んだ不届き者」として忌々しく思っていたとしても不思議ではない。

 だが、今の「国難」の中、宰相府の最高顧問機関の一員として、皇宮へ出入りする身となった今は、内心は別としてこの国の「宰相」への言葉遣いは丁寧にならざるを得ない。それが、自分の息子のような歳の「若造」であってもだ。

「……まさにその通りです。どうも、かの御仁は螺旋帝国にいた時分、少年の頃から、かの国では『天来神』と呼ばれるアストロナータ神への厚い信仰を持っていたようです。神殿へ来る時は、普通のハーマポスタール市民のような衣装に身を包んではおりますが、胸にはこれ、ここで私もしているような五芒星のペンダントを胸に下げているそうです。このハウヤ帝国では銀製のものが普通ですが、その御仁のものは作りが独特だそうで。螺旋帝国に多いという、桔梗星団派の天来神信仰の象徴シンボルである、桔梗星紋が青い翡翠に彫刻されたものなのだそうです。それが目立ったので応対した神官たちは当初から、あれは半分螺旋帝国人なのだろう、とは言っていたそうです。……名前の方はこちら風だそうですが。ええ、ここが肝心なのです。この二点を知り、私はこちらの猊……いえ、大公殿下にお話しすることにしたのです」

 エデン大神官は、カイエンを星教皇「猊下」と呼びそうになって、慌てて言い直した。大公宮へカイエンへの帰依を表明しに現れた折に、彼はカイエンから「私は星教皇である前に、このハウヤ帝国、ハーマポスタールの大公であることを忘れるな」と言われているからだ。

「……神殿詣での時は、フィルマメント・エスティオ、と名乗っているそうだ。父親の名前、夏の侯爵マルケス・デ・エスティオ、ドン・フィルマメント・デ・ロサリオ、そのものは避けたんだな。だが、どうせ変名なら、全然関係ない名前を選ぶべきだ。そうしなかったことが、まずは一つ、気になる事だな」

 カイエンは一度、周囲を見渡して息をつき、もう冷めかけた紅茶のカップに口をつけた。

 話はここからが重要なのだ。

「ここで思い出したのが、あの頼 國仁先生の自死の場に残されていた本、『失われた水平線』のこと、そして、その本の中に挟まれていた、天来神、つまりは螺旋帝国のアストロナータ信教の五芒星のペンダントなんだ。裏に、先生の『洗礼名』が刻まれた、ね!」

 カイエンがそう言うと、サヴォナローラとザラ大将軍は、顔を見合わせてから、同じような顔つきになった。

「そんなものを首から下げて、そんな名前を名乗るなど、まるでこちらに『気付いてください』と言わんばかりじゃないですか」

 サヴォナローラがそう言えば、集まった中のほとんどが同意するように「うん、うん」と顎を動かしている。カイエンはそれを見ながら、続きを教授に話してもらうことにした。あの、桔梗星紋のペンダントと、「失われた水平線」の謎に関しては、先年、マテオ・ソーサが立てた仮説があるのだ。

「確かに……頼 國仁先生は熱心な信徒であられました。私が師事していた頃も神殿参りは欠かさなかったようです。馬太マテオという洗礼名がペンダントの裏に刻まれておりました。あちらの国では熱心な信徒はこちらのパナメリゴ大陸西側の名前を洗礼名としてつけるらしいのです。エデン大神官殿や、サヴォナローラ宰相の出家後のお名前と同じくね。それをね、先生は持っておられた。これは殿下と私の想像なのですが、頼 國仁先生が自ら命を絶った裏には、馮 革偉たちの求める未来には、天来神の熱心な信徒としての先生には許容できない何かがあるのではないかと想像できるのです」

 教授がそこまで話しても、その場の皆の顔色は晴れなかった。それが、夏侯 天予の利用法とどう繋がっていくのか、まだちっとも分からなかったからだろう。

 カイエンも教授も、そしてロドリゴ・エデンも、この話をしたら、彼らが、いや、ここに集まった者のほとんどがそんな顔をするであろうことは承知していた。だから、彼らはこの話をどんどん先へと進めて行った。今度話し始めたのはカイエンだ。

「……私が夏侯 天予を最初に見たのは、まだ先帝サウル陛下がご存命の頃で、最後にまともに会ったのは、あの、一昨年のトリスタン皇配殿下の主催した仮面舞踏会のことだった。あの時は、ベアトリアの外交官、モンテサント伯爵と一緒に、私に不遜な挨拶をしてきたそうだ。あの時点では私が星教皇であることがシイナドラド皇王の『声明』として公表される前だから、彼にとっては、大公殿下の私なんぞはいずれは排除するべき敵の一人、でしかなかったのだろう」

 カイエンはここで、思わず、くく、と口の中で笑ってしまった。

 あの時、夏侯 天予とモンテサント伯爵に応対したのは、エルネストと、そしてカイエンに化けた、声のそっくりなアルフォンシーナだったからだ。今はもうそのことも秘密でもなんでもないが、ここで話しても仕方がない。

「だから、あの時点では彼も本国の意向に沿った形で、外交官として政治的に動いていたのだろう。だが、あの後、彼はアストロナータ神殿に名前も身分も偽って出入りするようになった……それが、シイナドラドが私が現在の星教皇スセソール二世だと、このパナメリゴ大陸中に声明を出したのがきっかけらしいんだ。時期的にも合致する。ここで思い出したのが、さっき話した、頼 國仁先生の洗礼名、それに信仰の厚さ、自死に至った理由なんだよ。頼 國仁先生の自決も、夏侯 天予はもちろん、知っていたはずだからな。もしかしたら、彼には私たちよりも先生の死の理由がよく分かっていたのかも知れない」

 カイエンがそう言うと、彼女が予想した通り、サヴォナローラは呆れたような声音でこう返してきた。

「宰相という世俗の地位を拝命してはおりますが、私はこれでもまだ、アストロナータ神官です。この最高諮問機関の人選が始まったのもあの頃。確かに、殿下が星教皇であることをシイナドラドが公開したのも同じ頃です。しかし、だからこそ、夏侯 天予の行動は、螺旋帝国の命令と判断するのが普通では?」

 今度は、カイエンとロドリゴ・エデンが顔を見合わせる番だった。

「それがそうとも言い切れなくなったんだ。……なあ? エデン大神官?」

 カイエンがにやにやしながらそう促すと、大神官は、隣に座っているオセアノ神殿の大神官、マリアーノ・ボテロの「大丈夫か」と言いたげな表情へもうなずいてみせる余裕を見せた。

「彼の、裏に洗礼名の刻み込まれた、翡翠の五芒星のペンダントですが、これとその、自殺なさったという頼 國仁先生のものとを見比べるため、夏侯 天予どのと応対した神官を連れて行き、大公宮で共に先生のものを拝見致しました。連れて行った神官によれば、先生のものと夏侯 天予のものは、大きさも意匠も、ほぼ同じものだそうです。……それだけでは、物証でしかありません」

 ここで、エデン大神官はちょっと息をついた。部屋の中が暑くなってきたこともあり、彼はそっと懐から出した布で、褐色のアストロナータ神官の長い帽子が覆っている秀でた額のあたりの汗をそっと拭った。

「しかし、皆様。信仰というのものは言わば心の問題。神官であります。この私が言うのは甚だ不適切ではありますが、心、ここでは信仰の重さを計るのは秤で計るようには参りません。ですが、それを計る術がたった一つだけ、ございます」

 ロドリゴ・エデンがそう言うと、それまで懐疑的意見の先鋒だったサヴォナローラの顔も、オセアノ神殿の大神官の顔までもが、「はっ」としたように真顔になった。一方で、宗教関係者でない、カイエン以外の人々の顔にはひたすらに疑念の表情が浮かんでいる。

「まさか……告解では……?」

 サヴォナローラが喉の奥から絞り出すような声、囁くような声で言うのを、カイエンは真横で聞いた。

「はい。それはその者の心の中の闇、『今まで余人に話せなかった秘密の暴露』を告解として神の御前で成し遂げた場合です。これは、我々、神の信徒としては、大げさに言えば命がけのようなものでございます。それまでの人生の悪しきものを、神の前に投げ出し、その裁可を受けるために行う、神聖な儀式なのです。聞いた神官は記録には残しますが、その記録は通常はそのまま神の御前に捧げられ、相当の期間が過ぎましたら、神の浄火で燃やされ、昇華されます」

「同じことは、私どものオセアノ神殿でも行なっております。……使徒にとりましては極めて重要、と申しますか、一生に一度しか出来ないことです。告解を行うことで身の内の闇をすべて吐き出し、正しく神の僕として生きられるのです。これは、簡単なようでなかなかに難しいものです。そんなことをせずとも、神は信徒をお護りくださいます。このままでは自分は神の救いに値しない、との苦しみにもがきにもがいた末に告解を求めるのが通常です。軽々しい気持ちで事に及んだ場合は、我々経験を積んだ神官にはすぐに分かります。そういう場合には、逆に信徒であることに値しない、と神殿から放逐されることもございます。そうなれば、もう神殿へは立ち入ることを許されません」

 エデン大神官の隣の、オセアノ神殿の大神官、マリアーノ・ボテロもこう付け足したので、その場にいた、「あまり信心などはない人々」にも、「告解」というものの重みは伝わったらしい。

「……かの御仁は『今までの己の罪を告白する』とおっしゃり、正に彼の方が知る限りの螺鈿帝国の陰謀、それがこのハウヤ帝国に及ぼすであろう影響について、赤裸々に担当の神官に告解したそうです。その神官は、その重要さには咄嗟には気付きもせず、ですが、正式な告解を執り行った場合の規則通りに克明な記録に残したのです……。もっとも、数日後にふと内容を思い出して怖くなり、私のもとへ駆け込んできたのですが」

 どうやら、ロドリゴ・エデンのところへ夏侯 天予の「告解」の件が伝わったのは、こういう「偶然」からだったようだ。逆に言えば、「偶然」がなければ、そのまま誰にも知られずに終わったという事である。

 だが、聞いていた諸氏にとってはこの話は、逆に夏侯 天予への疑いを強めたようだ。

「それこそ、敵の新手の仕掛けではないでしょうかね。その告解とやらの内容が正しいと、どうやって証明できるのです?」

 話を最後まで聞くのもバカらしいとばかりに、ザラ大将軍がそう言えば、兄のザラ子爵も苦笑して付け足した。

「こうして、大神官殿がここでそれを披露なさるのまでが、かの者たちの策略なのではありませんか」

 黙ってはいたが、カイエンは、この事情をもう知っている彼女とエデン、それにマテオ・ソーサ以外の人々の馬鹿にしたような目線を痛いほどに感じた。

「記録は、ここに持参しております。中身はこちらの大公殿下と大公軍団最高顧問のソーサ先生にお目にかけております。なかなかに重要な打ち明け話があるようでございます。ですが、話がそれだけならば、私も大神官と呼ばれる身、簡単にその者の信仰を鵜呑みにはいたしません。ここまでの歳に至るまでには、何度も人の心には裏切られてきておりますので」

 なんだか凄まじいことを言いながら、彼が差し出すきれいに糸で閉じられた帳面を、ハッと気がついて内閣大学士でアストロナータ神官でもあるパコが、席を立って受け取りに行く。その間も、大神官は言葉を重ねていた。

「お疑いはごもっとも。ですが、かのフィルマメント・エスティオと申す、螺旋帝国人との混血と思しき男が『神の御前に投げ出した』のはそれだけではなかったのです」

 話がそこまでに至ると、ロドリゴ・エデン大神官の声は神殿での礼拝でのそれのように、荘厳で真理に裏付けされた強さをもって皆の耳を打った。精神の作用が体にも影響したのか、先ほどは汗をぬぐっていたエデンだったが、今はすっくと背中を板のように伸ばし、顔も冷たく見えるほどに青ざめていた。

「……青い天空の塔修道院。皆様、もちろん、ご記憶でしょう。一人の螺旋帝国人の修行僧テンライによって、他のすべての修行僧が惨殺され、死に絶えた場所でございます。あそこはあの後、惨殺された修行僧たちの御霊を葬い、幾重にも清められ、再び修道院として機能しております。……フィルマメント・エスティオは、俗世を捨て、あそこへ身を投じ、生涯を過ごしたいとまで言っているのです。つまり、彼は心のうちの秘密のみならず、その体をも神の御前に投げ打ちたいと言い切ったそうです。実はその場で、ここまで話したからにはもう、帰ったら殺される、匿ってくれとも言ったとか。聞かされた神官は夏侯 天予どののご身分など知りません。ですから意味がわからず、とにかく心の安寧を祈ってやって、帰したそうですが……これが数日前のことだそうで」

 話がここまで来ると、サヴォナローラもザラ大将軍も、やっと話が眉唾ものではないと思えてきたようだ。この話を逆にこちら側から螺旋帝国の外交官、朱 路陽に漏らせば、夏侯 天予の命など風前の灯である。そんな危険を「正気」でするはずがないのだ。

 つまり、夏侯 天予は迷い続けてきたという事になる。

 カイエンが星教皇スセソール二世であることを、シイナドラドの皇王が大陸中への声明によって明らかにしてからも年月が経っている。

 そう考えれば、今回明らかになったこれは、迷いすぎての精神錯乱状態なのではないか。

 それだけは、その場の誰にも分かった。

「あの、青い天空の塔修道院の事件への関与については? それについて何か言ってはいないのですか! 敬虔な信徒として『告解』にまで及んだとすれば、神殿に大いに関係があるあの事件のことを話さないはずがありません!」

 サヴォナローラが思わず席から立ち上がってそう聞くと、大神官は静かに頷いた。

「桔梗星団派の仕業であることは告白しております。彼の国の前の王朝の皇子の仕業であることも。ですが、彼はそれ以上の情報は知らないようです。彼はあの事件の前後に、佩玉とやらを母国へ持ち帰る役を担っていたそうですから。その佩玉とやらを母国へ持ち帰り、そしてこのハウヤ帝国に戻った。しばらくして、こちらの大公殿下こそが新しき星教皇、スセソール二世であるとのシイナドラドからの『声明』を聞き、彼の中の少年の頃からの信仰が蘇った」

「夏侯 天予の言を借りれば、『あの瞬間に天地がひっくり返った』んだそうだ」

 星教皇本人のカイエンがそう言うと、宰相の最高顧問機関の面々は、しん、と静まり返ってしまった。

 それは、今の長くて面妖な話を、個々が頭の中で咀嚼し、判断を下すまでの時間だったのだろう。

 だが、会議室の壁際に黙って控えていた、カイエンの護衛のシーヴやセレステ、サヴォナローラの弟弟子で護衛の武装神官、リカルドなどには永遠のように長く感じられたに相違ない。






 しばらくして、ふっと目を挙げ、確認するようにその場に集まった面々の顔をぐるりと見渡したのは、ザラ大将軍のややしわがれた声だった。

 彼は、いかにも爺むさく、白髪混じりの髭の生えた顎のあたりを触りながら、それでもまだ首を傾げ傾げ、言ったのだった。

「では、大公殿下は、夏侯 天予を賢者の群れグルポ・サビオスへの間者として利用したら、とのお考えであるわけですか。……それはあまりにも危険な賭けでは? そもそも、奴の気持ちが本当なら、螺旋帝国の外交官、朱 路陽にとっくに消されているはずです。消されていないところを見れば、奴は神殿での振る舞いは巧みに隠しているということになります。つまり、夏侯 天予は現実的に考えれば、生きて修道院なんぞに逃げ込めないことは分かっている。だったら、奴を……ん? ああ、そういうことなら……」

 そう言いながらも、ザラ大将軍は別の見方に気がついたようだった。だから、兄のヴィクトル・ザラ子爵が次に発言した内容にもうん、うん、とただうなずいた。

「エミリオ、夏侯 天予は逃げられない。神殿での告解が本当でも、彼は外交副使でいるしかないんだ。今のままではね。彼は自分の振る舞いが、エデン大神官から大公殿下、そして今、この諮問会議にまで伝わったことは知らないだろう。だったら……」

「奴にはもう、大神殿詣でなんざやめてもらって、代わりに大公宮へ詣でてもらう、ということですか!?」

 年甲斐もなく、やっほう、面白え、という内心を隠すこともなく席を立って声をあげたのは、学者のオスカル・ネメシオだった。それを、隣の「鉄腕」マルコス・イスキエルドが、無言で太い腕を伸ばして無理矢理に椅子へ戻す。

「なんとまあ、複雑怪奇なるは人間模様でございますねえ。……しかし、アストロナータ信教の信徒ですか。それは、こちらでも調べてみる価値がありそうです。賢者の群れグルポ・サビオスの連中の中にも、熱心な信徒がおるかもしれませんから」

 そう、ネメシオとは違い、冷静な声で言ったのはハーマポスタール市長のパスクアル・デル・レイだった。

「そうですな! 宗教のことは盲点でした。確かに、大公殿下が星教皇猊下であられることが周知された時、もともとアストロナータ神殿の信徒だった者達は『この国、このハーマポスタールに星教皇猊下がおわしますとは。この街が聖地となったのと同じ』とか申して感激のあまり仕事が手につかなくなった者もおりました。大公宮出入りの御用商人に代わってくれ、と無理を頼む輩もおりましたっけ。それで、ギルド総会でも話題になったことがあります。賢者の群れグルポ・サビオスの若造どもの中に、アストロナータ信教の信徒がおらんかどうか、確認いたしましょう。おれば、そこから切り込んでいけるやもしれません」

 市長の言に、ギルド総長イサーク・カレーラスも同調する。

「国立医薬院にも、敬虔な信徒はおりますよ。出入りの薬物商にも」

 静かな声で、ニコラス・ベラスコ医師も付け足した。彼は薬物の専門家なので、医薬院でも外から入れる薬や医療用具などの仕入れに目が届くようだ。

 カイエンにはそこらの話は初耳だったが、彼らがそう言い出すであろうことは、炯眼なるマテオ・ソーサから、夏侯 天予の話を持ち出した後の予測として聞かされていた。

 カイエンが「教授、さすが!」という目で彼のほうを見ると、教授は「しーっ」と言うように唇に指を当てて見せた。そんな様子を、教授の「元、学友」の先生達が「あーあー、仕込み済みかよぉ」という表情で呆れて見ている。

「私が一度、秘密裏に、なんとかして夏侯 天予と会ってみよう。なに、ウチにはこの街の表裏を知り尽くしたのがいるから、呼び出し方も場所もなんとでもなるだろう。それで、星教皇としての私に心酔しているというのなら、こっち側に取り込んでしまえばいい。これは急いだ方がいいな。上役の朱 路陽も馬鹿じゃない。今まで夏侯 天予が生きて外交副使でいられたのは、奴もばれたら殺されると知っているからだろう。修道院に入りたい、ってのも、気持ちはそうだろうが、それをやったら消されることは自明のはずだ」

 カイエンが話をまとめるようにそう言うと、ザラ大将軍が、まぜっかえした。

「では、アストロナータ神殿での告解とやらも命がけではありませんか。夏侯 天予のやつ、実は大公宮へ話が伝わるよう、一芝居打ったのかもしれませんな」

 それへ、苦笑いしながら下座から答えたのは、教授だった。

「そこが、人間の弱くも逞しいところじゃないのですかね。実現不可能とは思いながらも、木のうろに向かって秘密を叫ばすにはいられない。先に、同じアストロナータ信徒としての心の中の葛藤の結果、自らこの世界から逃げるほうを選んだ、頼 國仁先生という例もありましたしね。先生はもうご老人でおられたが、夏侯 天予は若い。だから、この世界からは逃げたくなかった。だから、心の整理の一方では、おのれの保身もしっかりと考えているのでしょう」

「それはそうと、ちょっと暑いな」

 そこでカイエンが無意識に、ちょっと大公軍団の制服の襟元を緩めるようにしてそう言うと、黙ってシーヴが、会議室の窓辺へ向かった。

 真夏のことである。天井に近い天窓は開け放たれていたが、それでも部屋の中はもうかなり蒸し暑かった。

 窓の外は広い庭園で、木の一本もない大理石の敷かれた空間だ。それは、盗み聞きなどしようとしても出来ないように作られていた。そして、この部屋の中に元はザラ子爵家の優秀な影使いのセレステがいる以上、天井や他の部屋に潜むこともできない。

 だから、シーヴが中庭へ向かうガラスのはまった格子の大窓を開けようとしても、誰も止めるものはなかった。

「ありがとう、シーヴ。涼しい風が入ったな。ああ、リカルド、話が長くなった。何か冷たい飲み物を淹れてくれるか」

 カイエンが顔立ちはともかく、シーヴと、髪の色や肌の色、目の色まで同じ武装神官のリカルドにそう言うと、リカルドもまた無言のまま、控えの間に消えていく。きっと、外にはこういう場に控えるために選ばれた侍従がご用を聞くために控えているのだろう。

賢者の群れグルポ・サビオスへの間者潜入作戦の件は、次回の会議までには候補者が出てきそうですね。では、次の議題へと参りましょう。……海軍の提督人事の件でございます」

 宰相のサヴォナローラが、目の前に置いた資料の紙挟みをどかし、他に用意していたもう一つの紙挟みを開く。これにはかなり分厚い、名簿のような帳面が挟まっていた。

 その時、話の流れが変わるのを待っていたように、リカルドがワゴンに乗せて運んできた、冷たい飲み物は、涼しげな色のロマノグラスに注がれた、甘くない夏の涼茶だった。

 グラスには珍しい意匠で、長細くて丸い、瓜のような形の受け皿がついており、そこにはきれいに刻まれた夏の果実が、銀のスプーンの上に宝石のように盛られている。これで甘さを調節せよ、と言うのだろう。

「海軍軍人、海軍旗艦として登録済みの元船舶の船長、または船団の団長が海軍提督の候補者でしたな。わしは陸軍のことしか知らんが、提督というのは将軍とはまた違う役割になるのでしたな?」

 ザラ元帥「ハウヤ帝国陸軍」大将軍がそう言うと、サヴォナローラは静かにうなずいた。

「はい。陸の四つのアルマの将軍と同じく、いずれ、提督の上に総督の地位を設ける予定です」

 サヴォナローラの前に置かれた、分厚い名簿は、海軍軍船として登録済みの船の船長、船団の団長の名前や経歴が記されたものなのだった。






「ねえ、そろそろなんだろ? 提督人事が決まるのって」

 同じ頃。

 ハーマポスタールの軍港近くの珈琲屋。

 珈琲色の顔の二人の青年が、向かい合ってロン酒を珈琲とレモンで割る、という、真夏のみ注文出来る冷たい飲み物を飲んでいた。

 中を抜いた麦わらで吸い上げながら飲む、その飲み物は、砂糖を入れないとあまりにも奇天烈な味なので、周囲の大人達も適当に茶色の粉砂糖を入れて飲んでいる。もっとも、冷たいから溶け残ったのが底に溜まるのがこの飲み物の難点だ。

 質問したのは、平民の身なりながらもなんとなく育ちの良さが見えてしまう、きちんと撫で付けた黒い髪に、赤銅色の目をした、きつい顔の青年だ。

「……そうらしい。ウチは船団じゃないから、グレコ船長、選ばれないかもしれねーなー」

 そう答えたのは、珈琲色の顔色だけは同じながら、そこにはまった青い目が印象的な、海軍下士官の制服の青年だった。

「船長が提督になれなかったら、お前、ウチの船に乗るの止めるのか?」

 青年、海軍下士官のアメリコがそう聞くと、相手の上品だが厳しい線で描かれた神経質そうな顔の青年、バンデラス公爵家の長男、フランセスクの方はぎろり、と赤銅色の目を光らせてアメリコを睨みつけた。

「なんだと! 君、僕が一度決めたことを違える男だと思ってるのか!」

 フランセスクは気が短いので、アメリコなどが相手だと、すぐにこんな言い方になる。

「へーへー。そんな小器用なお坊ちゃんじゃねーことは、重々、承知でござんす」

 アメリコの方はいくつか年上なこともあり、余裕の返答だ。

「だけど、ウチは大公宮に鉄砲を納入した、って『実績』があるからねえ。いけるかもよ、船長?」

 真っ黒な巻き毛の前髪を、くるくると指で弄びながら、二杯目を注文するアメリコを見ながら、フランセスクは唇を噛み締めた。

 ここの珈琲屋は連絡屋も兼ねていて、アメリコとバンデラス公爵家の屋敷にいるフランセスクとの連絡を取り持っている。

「僕はその先の話ももう、お祖母様から聞いている。大公殿下は短銃の方はもう使いこなしているみたいで、先日は、皇宮に忍び入った不届きものに一発食らわせて撃退したとか……」

 カイエンがモンドラゴンの部屋で起こした「事件」は何しろ、短銃の発射音が皇宮中に鳴り響いたので、箝口令をかいくぐって情報は貴族社会へは漏れ聞こえていた。

「へー! あの顔色真っ青でちっこい大公さん、すっげーじゃん。トリニさんの強さで大公軍団すげえ、って思ってたけど、あの化け物どものおかしらのお姫さん、鉄砲には興味津々だったからなあ」

 アメリコは一人で納得していたが、フランセスクは眉をひそめた。

「大公殿下と、その下の大公軍団がすごいのは知ってるけど、今の? ええと、トリニ、さんってのはだれ?」

 アメリコは悪びれない。

「俺より背が高くて、俺より多分力も強い、とにかくすっげー強い、治安維持部隊の女性隊員さんだよ。ここだけの話だけど、あの元フィエロアルマ将軍のヴァイロン様より強えんだぜ」

 アメリコはこう説明してやったが、トリニを知らないフランセスクには「あのヴァイロンより強い」などという説明は眉唾物でしかなかった。

「ああ、そうかい。……提督人事が決まったら、デメトラ号は出港しそうかい?」

 フランセスクにとっては、デメトラ号に乗組むというのは、すなわち家出。それも公爵家の惣領息子の地位を放り投げることである。まさに人生の正念場であり、アメリコのように簡単には済ませられなかった。

「さあねえ。もうそろそろ、出港して商売にかからないと困るのは確かだけどね。海軍といっても今までは名称と軍服、軍旗を船に挙げろ、ってだけで、海軍軍人としての給金なんかはもらってないしさ。それでもハウヤ帝国海軍の名前と軍服で商売に損はないってんで、みんな適当にやってたからな」

 アメリコはグレコ船長が、真面目な顔で何やら書類に自分の経歴、船の乗組員の数、船の大きさと造船からの年数、武装などを克明に書くのに、長い時間をかけて苦しんでいたのを見ている。

「今頃、船長が書いた書類なんかを見ながら、上の方で会議して決めてるんじゃねえのかな。まあ、もうちょっと待ちなよ。夏から秋になると海流も変わるし、船出する頃には、商売以外の命令も乗っけて出港、ってなるかもしれないんだからさ」

 アメリコの言葉は、船乗りとして普通に思いついたことだったのだが、その後しばらくして、彼らはまさにそのような状況下で船出することになるのである。  

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