トリニ・コンドルカンキのペンシオン

 

 「あたしはトリニ」

 彼女はそう言って微笑んだ

 あなたを前から知っていたと

 出会うべくして出会ったのだと

 そう、言った


 わたしたちは信じたのだ

 お互いの懐かしいあの眼差しを

 いつか知らない過去に

 きっと見たものだと

 信じたのだ




     アル・アアシャー 「海の街の娘」より「星の娘たちは出会う」







 オドザヤがアイーシャに夜中まで悩まされていた同じ晩、カイエンとヴァイロンも大公宮に帰り着いたのはもはや真夜中、といった時間であった。

「あー、疲れた。あー腹減った!」

 早朝のオドザヤ訪問から朝礼への出席、連続殺人事件の現場、それからトンボ帰りに戻ってオドザヤと昼食、午後は士官学校のマテオ・ソーサの研究室、それから教授を馬車でまず士官学校教員の官舎へ送り、そこで教授の身の回りのものをヴァイロンが手伝って荷造りし、教授の指示である場所に教授を送って行って、やっとご帰還、という……書けば長文、読んでも長い、わからないからもう一度、的な一日の終わりがどうやら見えてきた大公宮の自室で、カイエンがそう叫んだのもしょうがないだろう。

 カイエンの足はもう腰から膝から足首、足の裏までが痺れたようになっていて、痛いというよりも痛重たいという感じになっていた。

 一回、付け根から取り外して休めたら楽だろうな、などと思ってしまうような感じだった。

 だが、盛りだくさんの一日のために頭の方はギラギラと覚醒したままなので、痛みを気にする神経の数が少ないのか、うめき声が出るほどではない。

 そもそも、ひ弱なカイエンがこの長い一日の後で、「腹減った」などと言えるのは、なかなかに珍しいことだった。

 この春からの騒動と、良くも悪くもでかいヴァイロンに毎日、朝から晩まで張り付かれる生活で、体力というものがついてきたらしい。

「サグラチカ、なんかつまめるものが用意できるかな?」

 そう聞くカイエンは自分の居間のソファに、長靴を履いたまま、半分転がったようになっていて、行儀悪いことこの上ないが、ここにはそれを気にする者はいない。

 カイエンの周りにいるのは、ヴァイロン、サグラチカ、女中頭のルーサに、女騎士のブランカとナランハだ。

 カイエンの世話は乳母のサグラチカと女中頭のルーサが全て行うのであるが、この日はもう夜中であることもあって、女騎士たちもすでに持ち場についていたのだった。

 サグラチカとルーサは、カイエンの着ている大公軍団の制服を部屋着に着替えさせようとしていた。

 すでにして女大公の「夫」みたいな感じになっているヴァイロンが、女主人の着替えの場面でウロウロしているのは、貴族階級のしきたりとしてはおかしなことであったが、現在、カイエンの部屋はイコール、彼の部屋でもあったので、誰も文句は言わない。

 男妾としてヴァイロンがもらった部屋には現在、あのサヴォナローラの弟のガラが潜んでいる。

 と、そのガラまでもが、ぬう、と大公の後宮の扉を開けて入ってきた。さすがは犬並みの男で、耳ざといものだ。

 ギロリ、とヴァイロンが翡翠色の目で睨んだが、ガラ相手では暖簾に腕押し、糠に釘だ。

「ええ、ええ、すぐにご用意いたしますよ」

 サグラチカはこんな時間でもきちんとしたなりで、髪の毛一つ乱れてはいない。優しくカイエンの上着を脱がせながら言う。

「ルーサ、あなたはここはいいわ。すぐにお食事をお持ちして。ヴァイロンたちの分もね」

 懐の深いサグラチカは突然住み着いたガラにも優しいのであった。


 やがて、大公殿下の食堂のテーブルに食事の準備ができると、その頃にはカイエンの着替えも終わっていたので、カイエンたちは食卓についた。

 皿の盛り付けを見れば、料理長のハイメが、真夜中にもかかわらず用意していたようで、カイエンはルーサにハイメにありがとうと伝えるようにいいつけた。

 こういう気遣いは、実はカイエンの父のアルウィンには出来なかったことで、サグラチカなどは複雑な気持ちになる。子供の頃から、カイエンは召使いまでも含めた他人の目を気にしすぎるところがあるのだ。きっと、足のことで何か言われているのではないか、といつも周りを気にして来たからだろう。

 食卓に並んだ料理は、全て柔らかく煮込まれた、お腹に優しそうなものばかりであった。

 ヴァイロンはほぼ三食全て、カイエンとともに食べていたが、ガラはそうではない。

 突然現れて住み着いた居候の彼は、通常は厨房のそばにある、使用人たちの食堂で食事をとっている。

 というか、突然現れたガラをあまり疑問も持たずに受け入れ、飯を食わせているカイエンの料理長のハイメは実はすごい肝っ玉の持ち主なのかもしれない。

 事情はルーサあたりが密かに使用人たちに話したのであろうが、さっさと納得して騒がない彼らはなかなかにすごい。執事のアキノやサグラチカの常日頃の教育の賜物であろう。

 カイエンはあまり好き嫌いがない。

 内臓のパイなどが強いて言えば苦手なくらいだ。

 この日も、カイエンは美味しそうにもりもり食べた。一緒に出てきたワインも適度に飲んだ。

 同じ夜にオドザヤがとった悲しい晩餐と比べれば、カイエンは幸せだったと言えるだろう。

「ごちそうさま!」

 カイエンは食事を終えると、さっさと寝室へ引き上げた。

 さすがに後ろにくっついてくるヴァイロンも、今夜はゆっくり眠らせてくれるだろう。




 翌朝、カイエンはいつもよりやや遅くに起床し、寝間着の上から絡みついていたヴァイロンのぶっとい腕から抜け出すと、上機嫌で洗顔やら着替え、朝食を済ませた。

 この日は十一月の最後の日で、カイエンには特に予定はなかった。また、イリヤあたりが「事件ですぅ!」と飛び込んでこなければ、だが。

 例の連続殺人事件ほどの大事件でない限りは、イリヤがカイエンを煩わせることはない。

 昨日の朝は、本当に特別に忙しかったのだ。

 大公軍団帝都防衛隊隊長のヴァイロンの方には、仕事があった。

 昨日、顧問の件を了承してもらった、マテオ・ソーサ教授の身の振り方についてである。

 教授によって、あの連続殺人事件現場に残された血文字の螺旋文字はカイエン並みに螺旋文字の教養のあるハウヤ帝国人か、もしかしたら帝国にいる螺旋帝国人ではないか、との示唆を受けたカイエンは、サヴォナローラの伝言もあって、教授を保護することに決めた。

 自分やサヴォナローラには護衛があるが、一教師のソーサ教授には何もないからだ。

 小一時間ほど話しただけだが、カイエンは教授に兄か父親のような親しみを覚えていた。

 同じように足が不自由だったからか、同じように脆弱な体を嘆いていたからか、同じ師から螺旋文字を学んでいたからか。

 いや、その時のカイエンにはまだわからなかったが、多分、二人は同じような魂を持っていたのだ。

 彼ら二人の最終的に希求したものは同じものだった。

 この時点では誰にもまだ知られぬことではあったが。


「ヴァイロン、昨日、教授を送って行った場所の近くには教授の私塾があると聞いたが」

 カイエンが大公宮の表の執務室の椅子に座りながら、そう聞くと、ヴァイロンは黙ったまま、カイエンの執務机の前の壁にある帝都の地図を示して話し始めた。

「昨日、教授を送って行ったのは、ここです」

 指し示した場所は、あの連続殺人事件のあった男娼窟のある港に近い一画と、川を挟んで向かい側の、しかし港からは遠い地域だ。だが、川には橋がかかっているので、行き来は容易いだろう。

 下町ではあるが、中流下級貴族たちの住む旧市街と背中でつながった「古い下町」とでも呼べる地域だ。

「連続殺人事件があったのはテルミナル・エステだな。下町地区の東の端だ。で、教授の私塾のある……そこは、なんといったか?」

 カイエンが問うと、ヴァイロンは地図を確かめてから答えた。

「ここはレパルト・ロス・エロエス地区です。ここの道には歴史上の英雄の名前がついています。帝都の旧市街の外では、最初にできた下町地域です」 

 ちなみに、エロエス、とは「英雄たち」という意味だ。

「教授は、そこに私塾を持っているのだな」

「はい」

 昨日、カイエンたちは慌ただしい中に聞いたのだが、マテオ・ソーサ教授は帝国士官学校に教授として勤め、官舎に住んでいる一方で、休日は下町に借りた部屋で私塾を開き、そこでアンティグア文字の読み書きから、螺旋文字から帝国の歴史、戦術学、簡単な科学までを教えているのだと言う。

 もちろん、下町の住民から満足な授業料が取れるはずもなく、教授は手弁当でそれらの活動をしているのだと。

 カイエンは深くは聞けなかったが、そこに頼 國仁先生の影響を見た。

 遠い異国まで来て、カイエンのような大貴族の子弟から、一般の学生たちにまで自分の知識を広めていた、頼 國仁。

 彼が螺旋帝国を離れ、遠いハウヤ帝国までやってきた理由はわからないが、彼には彼なりの目的や夢があったのだろう。

 カイエンは、少しだけ考えてから、決めた。

「教授をこの大公軍団の顧問に迎えることはもう決まっている。待遇については士官学校ともサヴォナローラとも相談しなければならないが、とりあえず、様子を見に行くとしよう」

 カイエンには何かの予感があったのかもしれない。

 運命の人に出会う予感が。




 一方。

 マテオ・ソーサは、レパルト・ロス・エロエス地区の、とあるペンシオンで目覚めた。 

 彼の借りている私塾の部屋の真上にある下宿屋だ。

 そのあたりの家は大抵が二階か三階建て。

 その建物も例外ではなく、三階建てのレンガ造りのペンシオンだった。レンガには真っ白な漆喰が塗られているので、清潔感はあるが、建物自体は古い。

 昨夜はこの帝都ハーマポスタールの大公殿下にここまで送って来てもらった。

 私塾として借りている部屋は一階だが、そこには教室と簡単な炊事のできる台所しかないので、彼はこのペンシオンの持ち主に頼んで泊めてもらったのだ。

 起き上がった部屋は二階。

 寝るだけの小さな小部屋の並ぶ階の一室だ。

 それでもいきなり来て泊めてもらえたのだから、感謝しなくてはならない。

 ちょっと傾いたベッドから起き上がった教授は、ベッド周りに置かれた鞄たちを見た。

 ああ。

 あのつまんない優等生が、将軍にまで成り上がったと感心していたら、この春に急転落して大公殿下の男妾に落っことされ、そして今度は大公軍団の帝都防衛部隊隊長に就任したヴァイロン君が手伝って詰めてくれた、身の回りの荷物だ。まああれは、昔から、でかいのに腰の低い、真面目ないい子だ。

 目立つ外見の学生だったが、ああいう子は人生も波乱万丈なんだなあ。

 変なことに勝手に感心しつつ、教授は起き上がり、枕元の自分の懐中時計を見た。

「あああ〜」

 ため息が漏れる。

 今日が学校の休みの日でよかった。大寝坊じゃないか。

 確かに、昨日夜にここへたどり着いたのは遅かったし、それからここの家主と話こんでしまったことも確かだが。

 教授は昨日着ていた服にそのまま袖を通し、共同の洗面所で歯を磨き、顔を洗ってから、杖をついて階下へと続く階段へ向かった。

 階段の踊り場には古風な木の枠の窓がある。

 彼が、ふとその窓から通りを見下ろした時。


 まさにその時、ペンシオンの前に、大公殿下の地味な馬車が着いた。

 周囲に配慮して、馬車には何の紋章もない。

 馬車を降りるカイエンは地味な服装で、馭者に化けたヴァイロンは大きな体をできるだけ縮めて、そそくさとペンシオンの軒の下に入った。体のでかい彼はどんなに地味にしても目立ってしまうのだ。

 この下町のペンシオンの前に一台だけでも馬車止まりがあったのはありがたいことだった。

 カイエンが一人で馬車を降り、ペンシオンの呼び鈴を鳴らした時、カイエンの真上の窓から声がした。

「おやあ。おはよう、セニョリータ」

 カイエンは見上げて思わず、顔を歪めてしまった。

 セニョリータ。

 それは下々の人々が若い未婚の女性を呼ぶ呼び方で、カイエンはそう呼びかけられたのは生まれて初めてだったからだ。

「……おはようございます。……教授プロフェソール

 カイエンは慇懃に挨拶した。

 頭の上の窓に飛び出した顔は、マテオ・ソーサのとぼけた顔だった。

「早いお越しですねえ。今、鍵を開けますよ」


 

 マテオ・ソーサ教授は、自らペンシオンの一階の玄関の鍵を開けてくれた。

 ペンシオンの一階には二つのドアがある。

 一つは二階と三階のペンシオンへつながるドアで、もう一つは教授の借りている私塾のドアだ。

 立派な方のドアが開くと、マテオ・ソーサの陰気なのに明るい顔が覗いた。

 顔立ち自体は陰気なのだが、表情の方は明るいのだ。

 カイエンとヴァイロンは玄関の中へ案内されたが、落ち着かない。

 教授はここの主人ではないはずだ。

 そこへ。

「先生、どちら様?」

 そう聞く、艶のあるはっきりとした強い声が、ペンシオンの奥から聞こえてきた。

 振り返る、マテオ・ソーサの華奢な肩越しに見えた顔。

 その時の印象を、カイエンは生涯忘れられなかった。


 一階の奥から、前掛けで濡れた手を拭きながら現れた、一人の女。

 年頃はカイエンと同じくらいだろう。

 だが、背がすらりと高い。その辺の普通の男よりも、かなり高いのではないか。

 筋肉質なのだろう、すっきりと伸びた体は細いが、伸びやかで力強かった。胸も大きい。

 歩みとともにカイエンに近づいてくる顔つきの中で、印象的なのは、そのアーモンド型の大きな目だ。

 螺旋帝国人か、と思うような黄色みを帯びた顔色の中で、その瞳は薄い茶色だ。そして、その瞳を囲むまつ毛は長く、濃い。

 分けられた前髪の下の広い額、まっすぐに伸びた眉はカイエンにも似て、太くきっぱりと長い。その下には、うりざね型のすっきりした顔。

 髪の色は黒く、そして髪は短かった。カイエンはこんなに髪の短い女を見たのは初めてかもしれない。

 彼女の髪は肩までも届かぬほどに短く切られていた。

 だが、少年のようにきっぱりとした顔に、その髪型はとても似合っていた。

「あら。先生のお客様?」

 そう聞く、声。

 カイエンはその声を初めて聞いた気がしなかった。

 教授が彼女の方を見たまま、言う。

「驚くなよ。こちらはこの帝都ハーマポスタールの大公殿下だ」

 カイエンの前で、彼女はあまりに自然に微笑んだ。まるで、隣町の女の子に会ったかのように。

「ああ。初めまして、大公殿下。……あたしはトリニ」

 トリニは言って、窓から入る朝日の中で、優雅に会釈した。

「あたしは、トリニダード・コンドルカンキと申します。大公殿下」

 と。


 カイエンは自分が、まぶしそうに目を細めたのを意識した。

 それくらい、彼女、トリニの笑顔は新鮮で、輝かしかった。

「……カイエン・グロリア・エストレヤだ。こちらはヴァイロン。よろしく、……トリニ」

 横で見ていたヴァイロンも目を見張っていた。

 なぜだかはわからない。

 ヴァイロンとカイエン、そしてマテオ・ソーサの三角形。そして、新しくここに形成されたのは、トリニとカイエンとマテオ・ソーサの三角形だ。

 二つの三角形は四角形でもある。

 いつか、トリニとヴァイロンが繋がれば。

 でもそれはまだ未来のこと。

「トリニ・コンドルカンキのペンシオンへようこそ」

 トリニと教授が何の驚きもない様子でそう言い、カイエンとヴァイロンは真っ白の漆喰で塗られた家の中へと招かれて入っていった。


 案内されたのは、大きな真っ黒の一枚板の食卓がある食堂だった。

 中庭に面した入り口に、平行に置かれた食卓には十以上の背中の高い真っ黒な椅子が並んでいる。そのすべてに、色とりどりの荒く編まれた細長い飾り布がかけられていて、目に華やかだ。

 下宿人の食事する場所なのであろう。

 部屋の壁はマテオ・ソーサの研究室のように真っ白な漆喰の壁で、床は切り出したままの石を貼ったものであった。

 教授が借りている一階の部屋は道に面しており、その奥にトリニのペンシオンの食堂と台所が連なっている。

 教室の真後ろは中庭になっており、その後ろの建物が食堂と台所。

 中庭には、小さな噴水があり、レンガに囲まれた中に幾つかの素朴な木のテーブルと椅子が置かれていた。冬になりつつある庭には草花も見えないが、夏には極彩色の花々が見られるのであろう。

 ペンシオンの住人は皆それぞれに仕事に出かけたらしく、人気はない。

 カイエンとヴァイロンは中庭に面した食堂の椅子を勧められ、そこにかけた。

 もう直ぐ十二月という日なのに、中庭に面した食堂はほのかに暖かかった。

 真っ黒な一枚板の食卓は、素朴だが味があった。

 庭に平行に置かれたテーブル。カイエンとヴァイロンは庭に向き合う側に座り、教授は庭を背にして座った。

「殿下、申し訳ないですが、私は朝食がまだでしてね」

 図々しい教授の声さえ、ここでは暖かい。

 トリニが、黙って奥の台所へ下がっていく。

 カイエンの足元で、真っ白な毛皮にところどころなんとも言えない色合いの茶色の斑のある猫が丸くなる。ちろりと見上げた目は白っぽい金色。

「そいつは、パンキン」

 台所から、トリニの声が聞こえた。

 カイエンの足首に、猫の首が乗っている。

 あったかい。

 そうっと、猫の頭に手を伸ばした時、トリニが盆にいろいろ載せて戻ってきた。

「お口に合うかどうかわからないけど」

 そう言って、彼女がカイエンの前に置いたのは、真っ黒な液体の入ったカップ。

 貴族階級ではほとんど飲まれない、南方生産の珈琲だ。

 香ばしい香り。

 トリニは、教授の前には珈琲だけでなく、卵や豆の赤いスープなども並べた。トウモロコシの香ばしくて甘い黄色いパンも。

 猫のパンキンが、カイエンの膝に乗ってきた。

 驚くカイエンに構わず、猫はカイエンの首元に頭を擦りつける。

「あらまあ」

 トリニは目を細めた。

 カイエンの横ではヴァイロンが、前では教授が暖かく微笑んでいる。

 カイエンは、真っ黒な珈琲のカップを取り上げた。

 確かな幸せがそこにあった。


 そしてそれは、これから始まるハーマポスタールの女大公カイエンの長い戦いが、その幸せな、下町の食卓で始まった瞬間でもあった。



 カイエン・グロリア・エストレヤと、トリニ・コンドルカンキ。

 それは、二つの星の名前である。

 海の街、ハーマポスタールの娘の物語を飾る、星の女神たちの名前である。

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