第六話 見え始めた出口

 徐々に蒸気機関車の速度が落ち、ちらほら時計を確認する者が現れた。

「どうやら時間切れだな。もう新橋についちまう。」

勝ち誇った顔をする蛮カラ男は、どうやらこのまま逃げる気でいるようだ。

「残念だが、あなたにはまだいてもらわなければならない。」

「どうして俺が?罪人はこの兄ちゃんだぜ?」

老人に睨みを効かせるが、どこ吹く風で男を見据えている。

「いや違う。やはり彼は罪人ではないよ。」

「爺さん、まさか俺だって言いたいのか?」

男の額にじんわり汗が滲む。

その様子を目を細めて観察する老人は、首を横に振った。

「あなたでもない。」

安堵の表情が浮かぶが、そこに牽制を入れる。

「だが、あなたがこの事件に関して潔白というわけでもなさそうだ。」

客車内がざわつき、その元となった発言をした老人はシルクハットを被り直し、横にいる敢志に目配せをする。

「私は君を信じよう。」

そして客車に声を響かせる。

「この青年の言う事が正しいと私は確信した!」

乗客を巻き込む力強い声に、ようやく敢志は地に足が着いた気分になる。

だが、それとは逆に足元が不安定になりだした人物も…

「だが、この第一発見者である男は嘘をついている!」

みなの視線が一点に集中しはじめ、蛮カラ姿の男は逃げ場を無くす。敢志に向けられていた重い空気が疑念を深くして今度は蛮カラ姿の男を襲った。乗客はただ座席から首を伸ばしたり、立ち上がったりしてこの様子を見ているだけなのに、男を追い詰めていく。それに耐えきれなくなったのか、男を今までにないほどの慌てぶりを見せ始める。

「ま、待てよ!待て待て待て!いいか、あんたがこの兄ちゃんを信じるという事は、客車が増えた事を認める事になるんだぜ?!」

後方を必死に指さす男。もうすでにその先には例の客車はない。それを主張するが、老人は至って冷静だ。

「そういうことになるな。」

「どうやって客車が現れたか説明できるのかよ!」

天を仰ぐ老人…その一挙一動から目が離せない。一体全体どうやって客車が現れたのか、聞きたくてみなうずうずとしている。

そして老人は「ふう。」と息を吐き、一呼吸おいた後はっきりと

「無理だ。」

と答えた。

「えええ?!」

期待を打ち砕かれた敢志は慣性の法則に任せて壁に頭を打ち付け、窮地に陥っていた男もはっきりと言い切った老人に拍子抜けして言葉が出ない。

「しかし、私はこの青年を信じると言った、確信もしている。ならば…」

老人の瞳に熱がこもる。

「客車がどうやって現れ、そして今は影も形もないこの珍事、暴いてみせようではないか。」


新橋駅はもう間近。

同時にようやくこの謎の殺人事件にも終着点が見え始めた。

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