対決式ラーメン屋さんで完食などできない

ちびまるフォイ

あなたなりの対策を教えてください

ある日、学校の帰りに友達の案内でラーメン屋さんの前に止まった。


「ここが学校で言ってたラーメン屋さんか?」


「ああ、新感覚の対戦型ラーメン屋さんだ!

 3人で挑めば、誰か1人くらいは完食できるだろ!」


「大食いとか? 自信ないなぁ」


「ちがうちがう。とにかく中に入ろうぜ、見たほうが早いよ。

 味はとにかく保証するからさ。めっちゃうまいんだ」


「ふーん、じゃ俺帰る」

「この流れで!?」


テンションがやたら低い1人を何とか引き留めて店内に足を踏み入れる。

店内は1つずつブースが分かれているタイプのお店だった。


仕切りで区切られている1つの個室にはなぜかイスが2脚。


友達と並んで食べるのかと思っていたが、

店主がチャーシューぶつけてきたので間違いだと気づいた。


「お客さんは食い手でしょう? そっちのイスは話し手の席ですよ」


「は、話し役?」


店主は壁に書かれているルールをあごで差した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【ルール】

・ラーメンを食べる食い手と、妨害する話し手に分かれます

・食い手と話し手はお互いに無視はできない。必ず応答すること

・時間内にラーメンを食べ終わらなければ話し手の勝利

・話し手が勝った場合、勝負後に邪魔されずにラーメンがふるまわれる

・食い手が完食した場合、話し手にはラーメンが与えられない

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「つまり……隣に座る話し手の問いかけをさばきつつ

 完食すればいいんだね」


「ああ、そういうことだ」


「やっぱ帰ろうかな」

「ここまで来たんだから頑張れよ!」


まもなく、3人の話し手が店内に入って来た。

どうやら入り口は2つあり、どちらから入るかで決まるらしい。


俺の隣には話が好きそうな女が座った。


「よろしく~~」

「ど、どうも」


「へい、お待ち」


ちょうど話し手が来たタイミングでラーメンが出来上がった。

制限時間は設けられているものの、普通に食べる分には余裕がありすぎる時間。


「いただきます」


割り箸を割ってラーメンに伸ばしたとき、


「ねぇ、どこから来たの?」


女が慣れた口調で質問をしてきた。

ルール上、俺は問いかけを無視することはできない。


「あーー、この近くです」

「どのあたり?」


「〇〇町のとこです」

「へぇーー、近くに△△公園のところ?」

「はい」


全然口に運ぶタイミングがない!!

こんなに矢継ぎ早に質問されたら食事が進まない。


ラーメンはどんどん湯気を失い、麺がふやけていく。

制限時間は俺というより、ラーメンがおいしくなくなる時間なんだ。


「あたし、よくこの店来るんだぁ」


今だ! 質問じゃないので答える義務はない!

慌てて麺を口に運ぶと、あまりのうまさに涙が出てきた。


「なっ……! こんなにおいしいのか!?」


「でしょ。この店のラーメン食べちゃうと、他の食べれなくなるよね?」


箸が止まらない。女の言葉も耳に入らず、一心不乱にラーメンを運ぶ。

その瞬間、イスに電流が走った。


「いったぁ!!!」


女はニヤニヤしながら手元のボタンを見せた。


「今、あたしの話、無視したでしょ?」


「そ、そんな……あは、あはは」


「話し手は無視された場合に電流流せるようになってるの。

 強引に食べ進めようたって、そうはいかないから。私だって食べたいもの」


話し手は完食させまいと妨害してくる。

いったいどうすれば隙をついて食事を進められるのか。

というか、もうこのラーメン早く食いたいと胃袋が欲している。


待てよ。

確かルールには、俺からの質問も答えなければならないとあったはず。


「あ、あのぅ、お姉さんは……幸せってなんだと思いますか? 慣用句で!」


「か、慣用句? えーっと、なんだろ……えぇ?」


女が言葉に詰まった。

待ってましたとばかりにラーメンをかっ込んでいく。


麺の食感、野菜の甘味、スープの味わい。

感動が舌の上だけなく脳まで感動で震えてくる。


難しく抽象的な質問を投げれば答えに詰まるから時間ができる。


「うおおお! うめぇぇぇ!!」


「待って! 幸せは……そう! さ、サルも木から落ちる!

 いつも失うリスクと隣り合わせってこと!」


女は焦って強引な答えを導き出した。

ラーメンを食い進めた俺の様子を見て、時間稼ぎと気づかれたのだろう。


「ねぇ、それじゃ、あなたはどうなの? 幸せってなんだと思う? 慣用句で!」


「犬も歩けば棒にあたる。意味は……誰でも幸せなんて見つけられるってことで」


「テキトーすぎるでしょ!」


抽象的なものは雑に答えても間違いではない。

でも、もうこの答えを教えちゃったから次は使えない。


「君はこのラーメンをどう思う? 具材から1つずつ答えてよ」


「え゛っ……!」


女のカウンターに箸が止まった。

味のリサーチをしようにも食べることはできない。

でも、食べないと答えることはできなくて……。



 ・

 ・

 ・


「ありがとうございましたーー」


店を出ると、頭の中には食いきれなかったラーメンでいっぱいだった。

結局、俺は女の会話に翻弄されて完食できなかった。


「くっそーー……うまそうだなぁ」


店内では女がおいしそうにラーメンをゆっくり食べていた。

遅れて、友達2人も店内から出てきた。


「どうだった?」

「ダメだった、作戦失敗だよ」


「どんな作戦を使ったの?」


「話し手を銃で脅せば食い放題かと思ったんだ。

 ほら、ルールにも書いてないからセーフだろ」


「バイオレンスすぎる……」


「まさか隣がロボットだったなんて」

「しかも撃ったのかよ!!」


超演算のロボットによる妨害にはなすすべなく完食阻止。

一番帰りたそうにしていた友達にも確認した。


「お前は? どうせダメだったろ?」


「いや、完食できたよ。おいしかったね」


「「 うおおおい!! どうやった!? なにしたんだよ!! 」」


まさかの結果に俺と友達は食いついた。

店内で聞かされたどんな話よりもどん欲に。


「どうって……簡単なことだよ。

 あの店にはみんなラーメン食べたいと思ってるじゃないか」


「だから、どうやって話し手を黙らせたんだよ!! 教えろって!」






「ラーメンを2つ注文したんだ」




「なんてWIN-WINな解決策……!」


俺はこの友人のことを末代まであがめることを心に刻んだ。

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