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「そう言えばあのラテアート、お渡しする事は出来たんですか?」
店内にお客が少ないこともあり、熊谷さんがエプロンを外して向かいの席に着いたので、そう声を掛けてみた。もし向かいの席に座っていなかったとしてもどこかのタイミングで訊くつもりだったけど。
「え、あの、クマさんのことですか?」
「はい、無事お渡しできました?」
訊ねると熊谷さんは大きな体を小さくするように肩を寄せて視線を斜め下に落とした。それから小さく頷いて見せる。
「・・・はい」
「それは良かったです」
「つい先日、彼女がお店に来てくれた時、そっと渡してみたんです。まだ試作途中なので感想を訊かせてもらえたらって」
「なるほど」
ふんふん、なるほどなるほど。ちゃくちゃくと片思いの相手と仲良くなれているってことだよな。片想いの響子さんと。
去年の十二月、突然熊谷さんから恋の相談を受けた時のことを考えると、予想以上に速い展開かも知れない。だって熊谷さん見た目とは裏腹に内気だから。しかも俺みたいなやつに恋の相談をするくらい恋愛経験が乏しいのだ。
そして今、そんな熊谷さんが片思いの相手と仲良くなるために大いなる一歩を踏み出したのだ! すごいじゃん!
「やりましたね」
「ありがとうございます。まだまだ、ですけど」
そして本当につい先日、その片思いの相手がうちのお客様だと言うことに気が付いた。熊谷さん作クマのラテアートの写メをみせてくれたから響子さんに間違いない。
うーん、出来ればどこかでくっ付けてあげたいとは思うんだけど・・・ここで熊谷さんに「実は彼女、うちのお客様なんです」って言うのは違うような気もするし・・・
「彼女は喜んでくれていましたか?」
「はい、とっても!」
にっこりと微笑む姿に、この後のルートをグルグルと考えてみても、とりあえずはもっと仲良くなることしかないかな、と。例えば共通の話題を増やしてみるとか。
「よかったら今度また、うちに飲みに来て下さい。出来れば平日の夜に」
もし偶然出会うことが出来れば、すでに何かしらの縁が結ばれていると言うことにも、なるよね?
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