連なるクマ心

カゲトモ

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 暖かな春の陽気に購入するコーヒーの温度を迷ってしまう。日向は暑い位だけど日陰は少しひんやりするし。アイスかホットかどうしようかな。

 なんて考えていたらすっかりと駅前のコーヒーショップを通り過ぎてしまった。何のために俺は今考えていたんだ。今日はコーヒーを飲みたい気分なのに。

 うーん、今から回れ右をして戻ってもいいけどちょっと格好つかないし。あ、あの人と戻って来た。一度通り過ぎたのに恥ずかしー、とか思われそうで。いや、別に恥ずかしくはないんだけどね。むしろ戻ってくるくらいここのコーヒー好きなんだなって思うかもしれないし。いや、好きだし。うん、新作とか大体飲んでいるし。白いコーヒー気になるし。うんうん、やっぱり戻ろ。

 さりげなく、かつ落ち着いて進行方向を変えようとしてはたと思い出す。

 そう言えば、熊谷さんのところもテイクアウトが出来たはず。

あそこのカフェラテは美味しいし。さすがにテイクアウトのカフェカップにクマちゃんのラテアートは付けてくれないだろうけど。白いコーヒーはまた今度にすることにしよう。

 結局止めてしまった足を斜め右に出して森のクマさんへ向かう。ナチュラルテイストのカフェは、元ラガーマンのクマみたいな熊谷さんがオーナーだ。

男一人ではいささか入りづらいかと思われるけれど、意外と一人のサラリーマンの利用も多い。もちろんインスタバ映え狙いの女性も多いけど。

「こんにちは」

 生き生きとしたグリーンが飾られた店先には今日の日替わりランチが書かれてあった。今日はバジルとトマトのサラダ仕立てのガレット。うーん、コーヒーだけのつもりだったけど、ガレット位ならペロッと食べられそうな気がする・・・。昼飯は食べて来たけど、おやつとしてなら。

「今日の日替わりランチひとつ」

 だってここは料理も美味しいんだもん。仕事前の軽食をちょっと減らせば問題ないない。って、こうやって食べるから太るんだよなぁ。三十路なんだし、考えないと。なんてね、言ってるだけか。

「お待たせいたしました」

 しばらくしてガレットを持って来てくれたのは、先ほど席に案内してくれたお姉さんではなく、既にもう半袖のガッチリした男だった。

「ありがとうございます」

「いえいえ。この後ご出勤ですか?」

 人のいい笑顔で丁寧にサーブしてくれる姿はいつ見てもギャップに溢れている。心優しいクマ、みたいな。そしてそのクマは少しだけ奥手で。

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