Act.9 正誤の想い

 ミリアはただ、悲壮感に苛まれていた。

 なぜもう少し早く、彼が唱え始めた言霊の意味に気付けなかったのか。気付けてさえいれば、いくらでも止める方法はあったというのに。

 ……いや、或いはエルクが見抜いていた結果なのかも知れない。こんな方法を提案すれば、ミリアが絶対に首を縦に振らないだろうという事を。

「クロードライト!」

 地面に両手をつき、己の不様さを呪っていたミリアは、誰かに呼び掛けられて、ようやく周囲の景色が変わっている事に気付いた。

 血相を変えて駆け寄ってくるリンディと、数時間前に一度目にした野営地の風景。エルクが転移させてくれたのだから当然だが、それが尚更ミリアの胸を締め付ける。

「医療班、すぐに来てくれ! 生徒二名が重傷だ!」

 異変があった事は一目瞭然だったらしく、リンディは大声で呼び掛けた後、その場に屈んで意識のないバネッサとセシリーの容態を確かめ始めた。

 数秒で確認を終え、今度はミリアに視線を向ける。

「何があったクロードライト! ディアフレールはどうした? 一緒じゃないのか!?」

 白衣を着た治癒師の人間にバネッサ達を任せ、リンディはしっかりしろと諭すかのように、右手をミリアの肩に置く。

 後悔や悲嘆で止まりそうになる思考を必死に動かし、ミリアはどうにか言葉を紡ぐ。

「竜に……、コランダム級の竜に遭遇したんです……。エルクは、私達を逃がす為に、一人で……」

「コランダム……? そんな馬鹿な……。この森には下級竜しか出現しないと、『教団』からの報告が――」

「嘘じゃありません、この目で見ました! バネッサとセシリーはそいつに襲われたんです……! お願いします! 早く彼に……エルクに助けを――!!」

「――ッ! 魔よ来たれ、顕現せよエレメント・オン・アクチュアル!」

 悔しさを滲ませるような表情で即座に立ち上がり、リンディは式句を唱えながら懐から何かを取り出した。

 彼女が右手に持っているのは、縦長の真っ白な栞だった。何の模様も施されていないそれは、魔術の式句に反応して、青緑の淡い光を発し始めた。

 恐らく通信魔術を使う為の媒体なのだろう。さすがに冷静さを欠いているのか、リンディは栞を口許に近付け、ほとんど怒鳴り付けるように叫ぶ。

「現在試験中の全生徒に告ぐ! 緊急事態発生の為、現時刻をもって試験を一時中断する! 全員直ちに転移石ゲート・ストーンを使用し、野営地まで帰還せよ! これは決して演習ではない! 繰り返す――」

 右手の栞に向かって、リンディが必死に呼び掛けていた、その最中だった。

 突然、爆発のような轟音がどこかから鳴り響き、音源を知らせようとするかのように、灰味掛かった大量の砂塵が東の方角で高々と舞い上がった。

 恐らく大木が何本か倒れたのだろう。無数の野鳥が逃げるように空へ飛び去っていくのが見える。

 その光景が、結果的にミリアの証言を裏付ける事になった。半信半疑だった残りの教師陣が、皆一様に緊迫した表情となって動き始めたのだ。

「今すぐ野営地に帰還しろ! 急げッ!!」

 殊更乱暴な口調で締め括り、リンディは対策を講じる為に数名の教師を連れ立って仮設テントの一つへと入っていった。と同時に、野営地は俄かに騒がしくなっていく。

 すでに野営地へ帰還している生徒達へ呼び掛ける者。リンディとは別の通信魔術で、『教団』へ連絡を取ろうとする者。二次被害を防ぐ為、撤退の準備を始める者。

 厳しげな指示の声が飛び交う様子を、ミリアはただ呆然と眺めていた。

 一体なぜ、こんな事になっているのか。そして大切なパートナーを置き去りにして、自分はこんな所で何をしているのか。

 お前にできる事は何もない、とでも言うかのように、エルクは問答無用でミリアを撤退させた。その結果、自らの命が危険に晒される事などいとわずに。

 本当に、あの少年には迷惑を掛けてばかりだ。

 誰かを助けられる魔術師になりたくて、学園に入ったというのに。彼の力になりたくて、魔術の鍛練を頑張ろうと努力したのに。結局自分は何もできないまま、こうしてしゃがみ込んでいる。

 ……本当に? 自分は本当に、何もできないのだろうか?

 胸の内でそう問い掛けたミリアは、無意識に首を左右へと振っていた。

 そうではない。できないのではなく、できる事を探そうとしていないだけだ。自身に対する失望を言い訳にして、勝手に終わらせようとしているだけだ。

 彼のパートナーでありたいのなら、誰かを助けられる存在になりたいのなら、探し出せ。

 今の自分にできる事を――

(……! あれは……)

 その時、ミリアの目に止まった物。それはほんの数メートル先に建てられている、仮設テントの内部。

 作業机や椅子。備品が入った木箱や資料の山に紛れて、隅の方にいくつか立て掛けられている縦長の物体。恐らくは何らかの不測の事態に陥った際、移動手段の一つとして使用する為に持ち込まれたのだろう。

 幸か不幸か、現場は今非常に慌ただしくなっている。こっそりどころか、堂々と『あれ』を持ち出してもすぐには気付かれないはずだ。

 さぁ、選択肢はたった二つ。


『あれ』を使うか、使わないか。


(そんなの、迷うまでもないよ!)

 意を決して立ち上がり、仮設テントの中へと駆け込む。他のものには目もくれずに無人のテント内を横切り、『それ』に近付いて右手を掛けた瞬間だった。


「それを手にしたら、二度と戻って来られないかも知れないよ、ミリア・クロードライト」


 凛と響き渡ったその声は、仮設テントの入口の方から聞こえてきた。静かに振り返ると、入口に佇んでいる人物と目が合う。

 学園長、オズワルド・ヴァレンティア。一体いつ、どこから現れたのかわからないが、学園の長たる男は、感情の掴み難い表情でこちらを見つめている。

「確かにそれを使えば、戦場へ戻るのは容易だろう。だがキミが戻れば、キミを生かそうとした彼の意志は無下に扱われる事になる。キミが命を落とすような事になれば、尚更ね」

 リンディにでも事情を聞いたのか、まるで見ていたかのように核心を突く言葉を口にするオズワルド。エルクとは別の意味で内心が読めない彼は、一瞬たりともミリアから目を逸らさない。

「それでもキミは戻るつもりか? キミを助けようとした誰かの想いを、踏み躙ってまで」

 踏み躙る、という表現に、ミリアは一瞬ドキリとした。

 確かにオズワルドの言う通り、ミリアが戻れば間違いなくエルクは憤慨するだろう。死地から遠ざけてくれた恩人の想いを、無に帰してしまうのだから。

 だが、それでもミリアは思う。それはあくまでエルクの想いであって、決して二人の総意ではないのだと。

(だって私は、あなたに――)

 一旦オズワルドに背を向け、ミリアは専用の固定台に立て掛けられている『波動滑走機ウェイブ・ライダー』の拘束を解き、持ち上げた。

 右脇に抱えつつ、再びオズワルドと向かい合う。

「例えそうでも、私は行きます。だって彼を――エルクを死なせたくないから。自分勝手はお互い様です」

「……なるほど」

 吟味するかのようにミリアを見つめていたオズワルドは、やがて穏やかな顔で一旦瞑目すると、身体を横へずらした。

 そう言うと思っていたよ、とでも告げるかのように。

「余計な時間を取らせてすまなかったね。キミの思うまま、どこへなりと行き給え」

 右手でテントの入口を指し、あまつさえ早く行けと促すような事まで口にするオズワルド。

 さすがのミリアも、これにはやや唖然としてしまう。この人は他ならぬ学園の長であり、こちらは命令違反を犯そうとしている不届き者だ。どう考えても、制止するのが筋というものだろう。

「……私が言うのもおかしいですけど、止めないんですね」

 拍子抜けしたようにミリアが呟くと、オズワルドは不敵に口許を緩ませる。

「始まる前に言っただろう。『ほんの少しでも竜に立ち向かう気概が、勇猛さがあるのなら、左胸に守護者の紋章を持つ者として、どうか戦ってほしい』と。戦う意志を示している人間の邪魔をする権利は、私にはないからね。……まぁ、リンディ辺りに言わせれば、ここでキミを止めないのは教師として失格なのだろうが」

 肩を竦めつつわざとらしく付け足すオズワルド。彼の態度が飄々としているせいで、本来なら感じて然るべしであろう緊張感が削がれていく一方だ。

 歩き出しながら、ミリアは思わず苦笑する。

「安心してください。マーフェス先生には、あとで私が怒られに行きますから」

「そうしてもらえると助かるよ。――なるべく早く応援を寄越すように努力はする。だが、過度な期待は持たないでくれ」

「……わかってます。その代わり、バネッサとセシリーの手当てをお願いします。とても大切な、友達なんです」

「了解した。任せておき給え」

 視線を合さず会話を交わし、テントを出ると同時にミリアは走り出した。

 十数秒で野営地の端まで辿り着くと、抱えていた『波動滑走機ウェイブ・ライダー』を地面に下ろし、左腕に操縦甲を嵌めて機体に飛び乗る。

 掌のボタンを押して起動させると、魔導動力機から風が生み出され、身体が僅かに浮遊する。あとは速度調整を行なえば、推進力によって前方へと駆け抜けられる。

「――オイ待て、クロードライト! どこへ行くつもりだ!?」

 発進する寸前、背後から聞き慣れた担任教師の声が聞こえたが、もう遅い。例え相手が誰であろうと、返答する気などミリアにはなかった。

 動力機から放たれた莫大な風によって、弾丸の如く発進したミリアの身体は、瞬く間に野営地から離れていく。

 制止の言葉を叫ぶ声など、すぐに聞こえなくなった。後で処罰されるかも知れないという考えなど、思い浮かぶはずもない。

 今この瞬間にも、その身を犠牲にしようとしている少年を助け出す。

 ミリアの内から湧き上がる想いは、その一点だけだった。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆






我が身は羽根、リインフォー我が身は風スメント

 唱えると同時に地面を蹴り付けた身体は、重力に逆らうほどの勢いで上昇し、『暴食』の攻撃を易々と回避した。

 空中で身を翻し、大木の幹を足場として定め、着地と同時に蹴り付ける。

「はああああああああああああああっ!!」

 急激な方向転換に即応できない『暴食』の首筋目掛けて、エルクは烈火の如き気合いと共に、背後から剣線を浴びせる。

 しかし擦れ違いざまに放った斬撃は、強固な鱗を切り裂く事ができず、甲高い音を上げて容易く弾かれてしまった。

(……身体能力を強化しただけの一撃じゃあ、弾かれるのは当然だな)

 入学以降に戦ってきた竜達とは訳が違う。階級ランクが上がればそれに比例して、竜の鱗の硬さも増していく。相手がコランダム級ともなれば、補助魔術によって強化された程度の剣撃など、素手で鉄の塊を砕こうとするに等しい所業だろう。

 一旦思考を中断し、地面に接する直前に身体を捻って向きを変え、左手と両足を使って滑走するように着地する。身体が完全に停止した瞬間、迷わず今度は右に跳ぶ。

 直後、『暴食』の巨大な口から放たれた盛大な息吹が、鎌鼬となって苔の多い大地を無慈悲に抉り取った。

 白亜の岩石の上に着地したエルクは、その破壊力に思わず目を剥く。

クロードライトあいつの級友達が血塗れになっていたのは、あれが原因か……!)

 この目で捉えた威力から察するに、彼女らもどうにか直撃だけは避けられたのだろう。でなければあの二人の身体は確実に、四肢のどこかが切り飛ばされていたはずだ。

(『魔力吸収ドレイン』ばかりに気を取られていると、あの鎌鼬の餌食になる。奴を仕留める為には、やはり――ッ!)

 思考の途中で胸の辺りに不快な違和感を覚え、エルクは二、三度咳き込んだ。

 口に当てていた左手を離すと、嵌めているグローブに紅い液体が染みを作っていた。

 攻撃と回避の為に、身体強化の魔術を継続して使っているせいだろう。術を単発で使うなら『呪い』の負荷は微々たるものだが、それが長時間ともなれば話は別だ。長引けば長引くだけ、『呪い』はエルクの身体を侵食していく。

 我が身の不自由さに、改めて苛立ちを覚えたその時。視界の左端から迫り来る、巨大な影を垣間見た。

大気よ、エア・我が防壁となれディフェンド!」

 回避が間に合わないと反射的に判断したエルクは、防御の為の魔力を生み出した。

 横薙ぎに振るわれた『暴食』の右前脚が、突破不可能な壁の如く、エルクを圧殺せんと襲い掛かる。しかし魔術によって生み出された鋭い風が、その勢いを相殺する為、エルクの身体を球体状に包み込む。

 両者の力がぶつかった瞬間。

 軍配は、『暴食』の方に上がった。

 殺し切れなかった衝撃が、風の防壁ごとエルクの身体を吹き飛ばし、地面に転がる白亜の岩石へと叩き付けた。

 衝突により生まれる轟音と、舞い上がる砂塵。身体の周囲を球体状に包む風の防壁によって、攻撃による傷を負う事はなかったが、それ以外はそうはいかない。

 咳き込む度、口から吐き出される紅い血潮。『呪い』による負荷に邪魔されて、その場に縫い止められそうになる身体を、エルクは必死に動かした。

 転がるように地面を這い、追い撃ちとして放たれた鎌鼬をどうにか躱す。

 しかし、着弾の証として発生した爆風に煽られ、エルクは数メートル吹き飛ばされてしまう。

「ぐっ……ッ!」

 大木の幹に背中からぶつかり、鈍い痛みに襲われた。それはまるで、こちらの気概をゆっくり挫こうとするかのように、じわじわと全身を侵食していく。

「……ッ! 魔力を糧に拘束せよマナ・バインド!」

 悪魔の囁きのような弱気を振り払い、新たな魔術を発動するエルク。

 それはこの攻防の間、あらかじめ地面のあちこちに刻んでおいた、相手を捕縛する為の術式印。エルクの体内で精製された魔力と言霊に反応して、黄金色に輝く無数の鎖が出現し、あらゆる方向から『暴食』の巨体を絡め取った。

 即座に攻撃に転じようと前進を開始するが、

『暴食』が雄叫びを上げると透かさず『魔力吸収ドレイン』が発動し、鎖は全て一瞬で砕かれ消え去ってしまう。

(くそ……っ。やはり魔術で継続的に奴の動きを止めるのは不可能か……!)

 内心で苛立ちながら後退を選ぼうとしたエルクだったが、挙動を立て直すのは相手の方が早かった。

 大木のように太い尾が間近に叩き付けられ、途轍もない衝撃波が生み出された。『呪い』の影響で発作を起こし、踏み留まってしまったエルクは、襲い来る不可視の圧力を躱す事ができず、またも呆気なく吹き飛ばされてしまう。

 地面を乱雑に転がされた拍子に、握っていたはずのロングソードは何処かに放り出してしまったらしい。どうにか踏み止まったものの、視界が上手く定まらない。打撲や裂傷のできた身体は、間抜けなほど動きが鈍っていく。

(こんな事なら、一言礼を言っておくべきだったかもな……)

 遠からず訪れるであろう死を前にして、エルクは薄く笑みを浮かべる。その脳裏に思い浮かんだのは、相棒となった少女の姿だった。


『それとも怖いのかな? 一度失った他者との繋がりを、再び手にしてしまう事が』


 鼓膜を刺激する幻聴に問い掛けられ、僅かに俯くエルク。癪に障る言い方だったのは間違いないが、それでもオズワルドあのおとこの言葉は、確実に的を射ていたのだ。

 親しい関係を築くのが怖かった。またいつか失ってしまうのではないかという思いが、彼女に対して壁を作っていた。

 いつだって自分は、彼女に冷たい態度しか向けていない。相棒と呼ぶに相応しい行いなど、皆無だったと言っていい。

 しかし彼女はどうだろう。こんな碌でもない自分に、いつだって明るく声を掛けてくれた。朗らかに笑い、楽しそうに話し掛け続けてくれた。

 彼女には感謝してもし切れない。かつての師が命の恩人なら、あの少女は心の恩人だ。

 ならばせめて、その恩人に報いる為にも死力を尽くさなければ――!

魔よ来たれ、昇華せよエレメント・オン・サブリメイション……!」

 言霊の詠唱を始めながら、エルクは意識と身体を同時に奮い立たせた。

 激しい地響きを起こしながら迫り来る竜を見据え、右手に意識を集中させる。

「我が右手は光の御手。剣は無くとも刃はある。我が蒼き閃光よ。貫く力をこの手に満たせ。幾重にも、幾重にも。我はここに顕現する。万象全てを慈悲無く穿つ、神器の如き槍の名を」

 言葉を紡ぐ度に、口の中に鉄臭い粘りを感じ、集中力を阻害されそうになる。

 しかしエルクは挫けない。唇を動かす毎に、周囲に発生し始めた蒼白い雷電が、彼の右手を目指して集まっていく。

 最早回避に力を割くのは無意味。

 ならばやれる事はただ一つ。

(加減はしない。この一撃で、確実に仕留める!)

 言霊の詠唱は完了した。あとは術名を口にすれば、破壊の力が発動する。

 右脚を後ろに引き、腰をやや低く落とし、相手が射程に入るまで待ち構える。

 ――三……二……一、今だ!!

雷帝の神槍ライトニング・ランス!!」

 腹の底から鋭い咆哮を上げると同時に、矢を射るかのように右手を突き出す。瞬間、右手に集束していた蒼白い雷電が、一気呵成に放出された。

 まるで極太の帯のように前方へ撃ち出される雷電は、薄暗い森林地帯を眩く照らし出していく。

「グ……ッ、オオオオオォォォォオオォォォォォォオォッ!!」

 真正面からエルクの雷撃を受け止め、『暴食』は苦しげな咆哮を上げる。大地を踏み締めるその巨体は少しずつ、だが確実に押され始めている。

 しかしその時、エルクは異変を感じた。体内で精製し続けている魔力が、加速度的に消費され始めたのだ。

 魔術の行使による減衰ではない。これは明らかに外的要因。

 ――そう、『魔力吸収ドレイン』だ。

「それが………………ッッ、どうしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 有らん限りの声を、魔力を、立ち塞がる脅威へ向けて解き放つ。例え自身の全てが涸れ尽くすとしても、緩める事などできようはずもない。

 せめぎ合い、拮抗していた両者の力は、しかし徐々に傾いていく。

 エルクの魔術が、再び『暴食』の身体を押し返し始めたのだ。

「グオオォオオオオオオォオオオオオォォォオオオオオォッ!!」

 突き出した右腕に、左手を添える。放出され続ける雷電が、更に極大のものへと変化する。

 そして漸く――

 完全に押し返した『暴食』の身体が宙に浮き、地面に叩き付けられて轟音を上げた。

 巻き起こる土煙によって視界が遮られ、巨竜の姿が見えなくなる。

「はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……!」

 自然と息が切れ、卒倒しそうになる身体をどうにか支え、エルクは踵を返して歩き始めた。

 呑気に休んでいる訳にはいかない。不測の事態に見舞われた事を自分の口から報告する為にも、先程放り出してしまったロングソードをさっさと見つけて、野営地に帰還しなくては。

 ……という自らの思考が、ただの現実逃避だと、エルクは嫌になるほど理解していた。

 観念するように足を止め、ゆっくりと背後を振り返る。そして改めて、現実の残酷さを思い知った。


 絶望の権化は、容易く消え去ってはくれなかった。


 ほとんど晴れ切った土煙の中心に、低い唸り声を上げながら佇む翼竜。黒と紅のまだら模様の鱗を纏った四肢は、かなりの損傷を受けているようだが、それだけだ。生命力を完全に奪い去るには至っていない。

 見込みが甘かったのだ。相手の能力の強さを完璧に測り切れていれば、防げていたはずの事態だろう。

「ギャガアアアアァァアァァァァッ!」

 まるで勝利の雄叫びのように、鋭く咆哮する『暴食』。放たれた圧力からは、未だ衰えが感じられない。

 ならばもう一度と、魔力を精製しようとした瞬間だった。

「ごふッ……!」

 下級魔術と、雷帝の神槍ライトニング・ランス使用のツケ。注ぎ込んだ魔力の量に比例して強まった負荷が、天罰のようにエルクの身体に襲い掛かる。

 我慢などする暇もなく、せり上がってきた血の塊を吐き出す。力の入らなくなった両膝は自然と折れ、頭を垂れるかのように地面に両手をついた。

 咳き込む度に紅い液体が零れ、流れ落ち、視界が一色に染まっていく。

(……偉そうに、自己犠牲を振り翳した挙句が……この、ザマか……)

 皮肉のあまり、自虐的な笑みが込み上げてくる。

 所詮、自分は死に損ないの人間だ。

 親に捨てられ行き場を失くし、一人彷徨っていた頃も。拾ってくれた師の尽力によって、仇の魔の手から一人生き存えてしまった時も。あくまで自分は、紙一重で生かされていたに過ぎなかった。

 どうしようもなく無力で。

 情けないくらいに非力で。

 何も、できなかった。

(……すみません、師匠。どうやらここまでみたいです。結局俺は、昔も今も肝心な時に力になれない、未熟者のままでした……)

 こんな情けない姿を師匠に見られていたら、きっと呆れられてしまった事だろう。この馬鹿弟子がと、叱責の一つや二つ、飛んできていたに違いない。

 這いずるように身体を動かし、近場にあった岩に背中から凭れ掛かる。

 手も足も、もう一寸たりとも動かない。絶え間なく全身を襲うのは、受けた傷による鋭い痛みと粘り付くような疲労感。

 僅かに動く首だけを持ち上げ、迫り来る死の神を呆然と見やる。

(……これで、やっと……)

 無意味に生き残ってしまった人生を終わらせられる。大切な人を犠牲にした罪を償う事ができる。

 ゆっくりと瞳を閉じると、濃密な闇が視界を染め上げていく。

 ここが、自分の終着点。

 不様な道化には相応しい、最期の瞬間だった――


「エルクーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 闇に響き渡る誰かの声。

 そして、聞き覚えのある駆動音。

 力強く自身の名を呼ばれたエルクは、瞼を開き、声の響いてきた方向を見やった。

 幻聴などではないし、幻覚でもあろうはずがない。木々の隙間を高速で駆け抜けてきたのは、『波動滑走機ウェイブ・ライダー』を操る薄紅色の髪の少女だった。

(あの馬鹿……、何で……)

 受け入れ難い事実を前に、先程までとは違った意味で思考が停止し掛ける。

 そんなエルクの心情など察するはずもない少女は、白亜の岩を発射台代わりにして勢い良く空中に跳び出し、『暴食』目掛けて右手を振るった。

灯火の矢ファイア・レイ!」

 発動した火属性の魔術が、次々に竜の身体へと降り注ぐ。

 全弾確かに命中したが、しかしミリアが放った灯火の矢ファイア・レイは、威力の低い下級魔術だ。ペリドットやアメシストには有効でも、相手がコランダムともなれば通用しなくなる。

 現に『暴食』の鱗は、無数の爆撃を受けたにも拘らずほとんど損傷していない。それどころか、今の攻撃で標的が完全にミリアへと摩り替ってしまった。

 あぎとを開き、殺傷必至な風を吐き出そうとする『暴食』。未だ空中にあるミリアの身体は恰好の的だった。

 ダメだ、やられる――!

 エルクがそう感じたのとほぼ同時に、ミリアの方に動きがあった。

 彼女は空中で左腕の操縦甲を外すと、『波動滑走機ウェイブ・ライダー』本体を、『暴食』の口目掛けて蹴り飛ばしたのだ。

 一直線に急降下していく魔導機は、見事に口へと放り込まれ、放出寸前だった鎌鼬をその身で受け止めた。

 直後、本体後部に連結されている魔導動力機が切り刻まれ、口腔内で爆発を起こした。

「グギャアアアァアァァァアアァァアアアアアアァアァァァァッ!!」

 いかにコランダム級と言えど、鱗も纏っていない口の中を傷付けられれば堪ったものではないだろう。苦しげな咆哮を盛大に上げながら、『暴食』は悶えるように暴れ、エルクから距離を取っていく。

 するとその間に、ミリアは随分と格好悪い着地の仕方をして、『暴食』とは違う痛みに悶えていた。先程空中であれだけ華麗な身のこなしを見せたのは、単なる火事場の馬鹿力だったのだろうか。

「……っ、エルク! 大丈夫!?」

 必死な様子で走り寄ってきて、エルクの傍らにしゃがみ込むミリア。その姿を間近で捉える事で、改めて気付く。

 独特のバランス感覚が必要な『波動滑走機ウェイブ・ライダー』の操縦は、平地でも中々難しい。それを地面の起伏が多い森林の中で行なった結果だろう。何度も転んだりぶつかったりしたらしい彼女の身体は、至る所に土や泥で汚れができている。

 だからこそ、エルクは余計に腹立たしかった。

 そんな姿になるような真似までして、わざわざ舞い戻ってきた少女の事が。

「こ……っの馬鹿野郎! 一体何しに戻ってきた!?」

 湧き上がる苛立ちに任せて怒鳴り付けると、ミリアは心外だと言わんばかりに顔を歪ませた。

 この人は何を言ってるんだ。……と、彼女の表情が物語っている。

「何しにって……そんなの……ッ、エルクを助けに来たに決まってるでしょ!?」

「それが余計な世話だってのがまだわかんねぇのか!? どうしてお前はそうやって俺に関わろうとするんだ! 何を勘違いしてるのか知らないが、借りだの恩だのを返そうとされても迷惑なんだよ!!」

「……」

 吐き出す。溜まりに溜まった鬱憤を。

 ぶつける。彼女の心情などお構いなしで。

 そうしなければ、そうする事でしか、この状況から彼女を逃がす事ができないから。

「俺は助けなんて必要としてない! 助けてもらう資格があると思った事もない! だから放っといてくれ! さっさとここからいなくなれ! 俺が自分をどう犠牲にしようと、お前には全く関係ないだろうが!!」

「――ッ!!」

 バシンッ、と。

 風船が破裂するかのような盛大な音と共に、左頬に鋭い衝撃が走り抜けた。

 一瞬全てが停止し、エルクは先程までの勢いを無くして呆然としてしまった。

 じわじわと鈍い痛みを発し始める頬に触れ、ようやく脳が理解する。この痛みは、少女の放った平手打ちが叩き込まれた結果なのだと。

「馬鹿はどっちよ!!」

 瞳に涙を溜め、明らかに憤慨しているミリアの両手が、乱暴にエルクの胸ぐらを掴む。

 色白く華奢な両手が微かに震えているのは、エルクに心底憤っているからか。或いは――

「そうやって自分を犠牲にして死ねば、守れなかったお師匠さんに赦してもらえる。あなたはただ、そう思い込もうとしてるだけじゃない!」

「……!」

「あなたに罪があるのかどうかなんて、あなたの過去を知らない私にはわからない。でも……、それでも! あなたのやり方が間違ってるのはわかる! だって、きっとあなたのお師匠さんは、死に方を選ばせる為にあなたを助けた訳じゃないんだから!!」

 泣き出しそうになりながら、それを必死に堪え、少女は少年の在り方を断罪した。

 そんなやり方は間違っている、と。

(死に方を選ばせる為じゃ、ない……?)

 胸ぐらを掴まれたまま、エルクは呆然と少女の言葉を反芻した。

 まるで、自らが扱う雷撃魔術に撃たれたかのような衝撃だった。

 この五年間、愚かな自分を責めない日はなかった。『あの時』の光景を夢に見て、苦しむ事さえあった。自分は決して助けられたのではない。大切な人を犠牲にして、生き残ってしまっただけなのだと。

 だが目の前の少女は、その陰鬱な解釈を否定する。エルクの悲観的な考えを、真っ向から切り捨てる。

 死に方を選ばせる為ではない。

 ならば自分は今、なぜこうして生きているのか。

「……だったら教えてくれよ、クロードライト」

 自分でも気付かぬ内に、エルクは少女に問うていた。

 当事者の俺にわからない事が、なぜ赤の他人のお前にわかる。

 半ば責めるような気持ちで、エルクは少女に答えを迫る。

「俺の考えが、在り方が間違っているというのなら、お前にはわかるんだろ? 師匠はなぜ、命を掛けてまで俺なんかを助けたんだ……?」

「……そんなの、難しく考えるまでもないじゃない」

 八つ当たりのように詰め寄っても、それでも少女の様子に迷いはなかった。

 ゆっくりと、エルクの胸ぐらから両手を離し、ミリアは涙を堪えつつ、聖母のように穏やかな微笑みを浮かべた。

 浮かべて、囁くような優しい声音で告げた。


「あなたに生きてほしいから、だよ」


 それは、この身に掛けられた『呪い』まで解き放つかのような、眩し過ぎる言霊だった。

 自分には、そんな資格はないと思っていた。それを望むには値しないと、望むには罪深過ぎると、ずっと諦め続けていた。

 だが少女は言う。

 生きてほしい――

 それが、自らを犠牲にしてまでかつての師が願った、大切な想いであると。

 そんな都合のいい解釈を、自惚れを、自分なんかがしてもいいのだろうか?

 大切な人の為に、何一つ成し得なかったというのに。

「それにね、エルク。あなたに生きてほしいと思ってるのは、あなたのお師匠さんだけじゃないよ」

「えっ……?」

 それはつまり、お前も同じ事を思っているという事か。

 言外にそう聞き返したエルクには答えず、ミリアはゆっくりと立ち上がり、意を決したように背を向けた。

 そんな少女の肩越しに、息を吹き返した翼竜の姿を捉え、エルクは否応なく現実へと引き戻された。

「ダメだ、やめろ……っ! お前一人じゃ……そいつには……っ!」

 少女を引き止めようと伸ばしたエルクの右手は、しかし虚しく空を切った。

 ミリアはしっかりとした足取りで、『暴食』に向かって歩み始める。

 その歩調は徐々に早まり、やがて小走りになって、最後には駆け出していた。

「………………やめろ」

 この如何ともし難い状況で、なぜ彼女は、ああも力強く前進できるのか。

 生きてほしいと思っているのは、師匠だけではない。

 頭の中でそれを繰り返した瞬間、素直に嫌な予感がした。

 まさか彼女は、かつての師匠と同じように――

「やめろ……!」

 残された僅かな力を込めて制止の言葉を放っても、ミリアは止まろうとしない。その小さな背中が遠退いていくほど、エルクの胸には突き刺さるような不吉さだけが去来する。

 ミリアの向かう先に垣間見える『暴食』は、鎌鼬を吐き出す為の予備動作を行なっている。このままだと直撃してしまうのは明白だ。

「エルクを――」

 それでもミリアは止まらない。ただただ真っ直ぐに『暴食』を見据え、力強く大地を踏み締め進んでいく。

「私の大切なパートナーを、あなたなんかに殺させない!!」

 彼女の強い意志が、言葉となって放たれた直後。


 無慈悲なる殺傷の風が、寸分の違いなく小さな身体に直撃した。


 的中の証として轟音と土煙が発生し、破壊の余波がエルクの許へと吹き抜けてくる。

「――――――――――」

 言葉を、声すらも失って、エルクはただ愕然とその光景を見つめていた。

 まただ。また失ってしまった。

 自分の無力さが、非力さが、またしても悲劇的な結果を招いてしまった。

 なぜいつもこうなる? なぜ自分は、いつも誰かを犠牲にしてしまう? なぜ自分だけはいつも――

(無意味に、生き残っちまうんだよ……ッ!?)

 歯痒さが頭を垂れさせ、握り締めた両手は、湿り気を含んだ地面に爪痕を残す。

 ……もういい。これで本当に、無様に生きている意味はなくなった。このまま抵抗もせず、あんな化物になぶり殺されるくらいなら、『呪い』の付加で死ぬまで魔術を放ち続けてやる。

 そう思うと、煮え滾るような殺意が腹の底から湧き上がり始めた。

 まるで揺らめく陽炎の如く立ち上がり、意を決してエルクは顔を上げた。

 そこで漸く、気付く。

「…………………………クロード、ライト?」

 鎌鼬が巻き起こした盛大な土煙。それが晴れ始めた中心点で、よく見知った薄紅色の髪が揺れている。

 表情を窺い知る事はできないが、彼女はまだ生きている。傍から見た限りだが、命に関わるような怪我を負っている様子も見受けられない――

(……いや、待て。どういう事だ……?)

 自分でも驚くほど安心して、しかし同時に疑問に思う。

 あの破壊の風を受けて、なぜ何事もないかのように佇んでいられるのか。なぜ彼女は、傷一つ負った様子がないのか。

 何らかの魔術で防御態勢を取った? ……いや、そんな素振りは見られなかったし、例え魔術を使って防御したとしても、手傷くらいは負っていてもおかしくないはずだ。

 声を掛ける事も忘れ、疑問の答えを探すエルク。

 そんな彼の視界に、『それ』は現れた。

 ミリアが何らかの言葉を口にした瞬間、彼女の胸元から発せられた紅い光が、不可思議な模様の魔法陣を形成したのだ。 

(! あれは……あの魔法陣は……!)

 正円の内側と外側に、奇怪な文字列と記号が規則正しく配置された『それ』に、エルクは見覚えがあった。

 かつて彼の師匠が、魔術に関わる重要なものとして教えてくれた特殊なもの。いつかどこかで目にする機会があるかも知れないと言っていた、古より伝わる代物。

(『竜血封魔陣ブラッド・サークル』……!)

『それ』は、とある血の力を持つ者を制御する際に用いられる術式。とある血の力によって莫大な量の魔力を精製できるが故に、不発や暴走を起こしやすい能力を抑制する為の、一種の装置。

 その血の力は、覚醒した人間に爆発的な能力の向上をもたらす事から、世界を蹂躙し続ける『彼ら』に匹敵する力として、古くから畏敬の念を持ってこう呼ばれているという。


『竜血』、と。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆






 夢の続きを見ているかのようだった。

『暴食』が放った鎌鼬を、まともに喰らったはずなのに、ミリアは吹き飛ばされる事も怪我を負う事もなく、しっかりとその場に踏み止まっていた。

 そんな彼女の脳裏に唐突に再生された、過去の記憶。相変わらず顔は朧気で、名前を思い出す事も叶わないというのに、『あの人』の声は、言葉は、なぜかハッキリと浮かんできた。


『いいかい、お嬢さん。これをキミにあげる代わりに、約束してほしい事があるんだ』

『約束……?』

『そう。……時が経てば、キミはこの約束を忘れてしまうかも知れないし、忘れてしまったのなら、忘れてしまったままの方がいいと僕は思うのだけれど……』

『?』


 どこか憂いているような表情の青年に、幼いミリアは首を傾げた。なぜそんな顔をしているのかもわからないし、彼の言葉が何を意味しているのかもわからなかった。

 不思議に思うミリアの様子に気付いた青年は、苦笑しつつ小さく頭を振るう。


『ああ、ごめんよ。意味はわからなくていいんだ。キミにとっては些細な事だから。……とにかく、この約束を覚えていられる間は、どうか忘れないでほしい』


 ミリアの首に掛けられたペンダント。花形の銀細工の中央に埋め込まれている紅い宝石に触れながら、青年は続ける。


『これはおまじないだ。キミが本当に大切なものを守りたいと思った時に。自分の力で、誰かを守り抜きたいと感じた時に、この言葉を唱えるんだ――』


 歌うように、囁くように、優しげな声で紡がれるその言霊を、少女はゆっくりと復唱する。


活性化せよ、我が竜血ブラッド・オン・アクティベイション


 変化が訪れたのは、その直後だった。

 胸元から紅い光が発せられ、目の前に展開した不可思議な模様の魔法陣。数列なのか記号なのかわからない文字が規則正しく配置されているそれは、まるで迸る血潮のように脈動している。

 やがて未知なる紅い正円は、ミリアを取り込もうとするかのように近付いてきた。

 不可解な現象が起きているというのに、不思議とミリアの心は落ち着いていた。大丈夫、受け入れられる、と。

 扉を潜るかのように、新たな世界へ踏み出すかのように、ミリアの身体は魔法陣を突き抜ける。


 その瞬間、少女の姿は変革を果たした。


 桜のような薄紅色だった髪が、血を塗り付けたような真紅に染まり。

 穏和な光を宿していた両目が、まるで竜の如き獰猛な、緋色の瞳に変化し。

 竜のそれを思わせる、光輝く紅い翼を背中に備え。

 ミリア・クロードライトと名乗る少女は、人外の力を得た存在となった。

(何だろう……。身体中から、力が溢れてくる……!)

 自分の両手を見つめ、内より漲るものを実感する。

 かつて青年と交わした大切な約束。今の今まで忘却していた、特別な言霊おまじない

 大切なものを守りたいと、守れるだけの力がほしいと、心の底から願ったから、だから思い出せたのだろうか。


『大丈夫。キミならきっと守れるよ、ミリア』


 かつての記憶の中で、『あの人』は朗らかに笑ってそう言った。自分を信じて、この首飾りを託してくれた。

 覚醒した少女は、幻視した青年に頷き返しながら、『暴食』目掛けて前進する。

 恐怖はない。躊躇いもない。胸の内に湧き上がるのは、力強い確信だけだ。

 今の自分なら、大切なものを守り抜けると――!

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