第5話 いくつになっても性欲はある


インばば~」


桃鈴タオリンの自宅。

そう新しくはない一般的な住宅だが、彼女の部屋は2階にある。

その1階部分の扉を叩きながら、桃鈴が大きな声を出していた。

扉の側には看板があり、この場所が店であることを示唆している。


「銀婆ー!いるんだロ?エリオ返しに来た…」

「このガキャア!」


怒りの混じった声と共に、勢いよく扉が開いた。

桃鈴がサッと避け、中からは煙管を持った白髪の老婆が出て来る。

彼女は桃鈴と、小脇に抱えられた動物を一瞥し口を開いた。


「何度言ったらわかるんだい。この子の名前はエリオンヌだよ!そしてアタシの名前に婆を付けるんじゃない!」

「ハイハイ」

「憎たらしいガキだね…そんなんだから彼氏のひとりマトモにできないんだよ」

「ババアァ!人が気にしてることを言いやがってェ!」

「あん!?悔しかったらさっさと処女捨ててきな!」


口の減らない者同士で喧嘩が始まる。

彼女の名前はイン

桃鈴の住む家の大家であり、今回、宝石獣カーバンクルを預けていた依頼人である。






「何にしても仕事はきっちりやったみたいだね。今回の報酬はこれな」

「あいヨ」


髪や身なりを整えながら、銀が皮袋を差し出した。

それを受けとるのは、同じぐらいボロボロになった桃鈴だ。

古物商をしている銀の部屋は、相変わらず本物か分からない怪しい白磁の壺やら掛軸やらがところ狭しと並んでいる。

隅には積み上がった絨毯の上で、エリオンヌがすやすやと寝息を立てていた。

その飼い主は指で作った輪の中に、人差し指を抜き差しして桃鈴に笑顔を向ける。


「あ~あ。その様子じゃあ、アンタまだできてないんだろ?」

「そのハンドサインやめロ」


金が間違いなく揃っていることを確認して、桃鈴が呆れた声を漏らした。

仕事さえこなせば金払いは良いのだが、どうにも下品なことがこの老婆の悪癖だ。


「嘆かわしいね。アタシの若いときはそりゃあもう男は使い捨て、朝から晩までセックス三昧だったさ」

「うるせェエ!生々しい話やめロ!そこまでいくと羨ましくもないんだヨォ!」

「は~。あの頃はよかった…。最近は絶頂なんてそう感じないからねぇ」

「ババア…ここは地獄かヨ」


一見すると人間のように見えるものの、銀の正体は仙狐せんこである。

仙術を会得した狐の妖魔との話なのだが、どうも自身の煩悩のせいで一門を破門されたらしい。


「まだまだ現役はいけるんだから!アタシの変化ならどんな美女になってなれるよお!」


何度も言うが、銀は老狐である。

100歳はとうに越えており、見た目も骨と皮のみという表現がぴったりな干物だ。

そんな彼女が未だ好色家なのだから、全くもって「いい年こいて」なのである。


「化物の相手をさせられる男が可哀想ネ。大体、銀婆の変化には制約があるだロ」

「同郷のよしみで、毎朝毎朝家を破壊する奴に部屋を貸してやる優しい家主に、そんなこと言っていいのかい?」

「修繕費はきっちり請求してくるだロ。だいたい、あれはワタシのせいじゃないヨ…今日は仕事があるから帰るネ。また宜しくヨ」


彼女に付き合っていると日が暮れそうだと判断し、話を切り上げる。

銀はつまらなそうに天を仰いだ。


「あーあ!次は男でも紹介しておくれよ。報酬は弾むからさ。…アンタが最近よくつるんでるあの金髪の子、可愛い顔してるよね」

「さすがにそんな鬼にはなれないヨ…」






まさかそのような色情狂いの老婆に、いかがわしい目で見られているとは露ほども知らないエリオットは、出そうになるくしゃみを我慢していた。

目の前には彼の主人と、その客人がいる。


吟遊詩人トルバドゥールのラニャと申します」

「十二華族の精霊術士エレメンタリストが一族、フィオ・マリーゴールドだよ。今は領主もやっている。今回は来てくれてありがとう」

「いいえ。まさか僕の歌を領主様が直々に聴いてくださるとは…光栄です!」


そう言って深々と頭を下げる人物は、銀髪に褐色の肌を持つ若い男だった。

エリオットが一歩前に出て、彼に話しかける。


「ラニャ様。貴方には今日と明日の2日間、町の広場で演奏して頂きます。その間はこの屋敷の客室で寝泊まりしてください」

「明日には私も行くから宜しくね」


ラニャはその銀色の瞳を細めて、嬉しそうに笑った。


「ええ、ええ。ありがとうございます!ところで例の件ですが…」

「ああ。心配はいらないよ。行事の警備に当たっては町の警備団も貸すし…それに、民間の業者にも頼んである」


それを聞きエリオットが複雑な顔になるものの、隣でフィオは微笑んだ。


「彼女は優秀なんだ」






「ラニャは、領地内で今最も人気のある吟遊詩人だ」


種族は人間であり、年齢は20歳。

一般庶民の出自でありながら、その人気は飛ぶ鳥を落とす勢いで上昇し、その噂を聞き付けたフィオが自分のもとに招いたのだ。

ところが今回の公演に当たって、脅迫状が届いた。

文面は「中止しなければ命はない」との内容。


「若い彼には女性信奉者が多い。今回も熱狂的なファンの仕業だと思うんだが」


エリオットが顔を上げ、桃鈴を見た。

今回、彼女に行事の警護役として依頼が出されたのである。


「行事?対象ラニャの警護じゃなくてカ?」

「ああ。フィオ様に確認したが、本人ではなく催し物全体の警護という話だった。やはり何か違うのか?」

「…イヤ。まあ、あの様子じゃあ変なファンができるのも無理はないネ」


桃鈴がちらりと壇上に視線を運んだ。

ラニャは美青年である。

小さな顔に長い睫毛、まだ幼さが残る顔立ちからはごくたまに妙な色気が垣間見えた。

太陽の光を反射してきらきらと輝く銀髪は、まるでこの世のものではないように錯覚させる。

そんな彼がハープを奏でながら美しい歌声を披露するというのだから、本日この場に集まった者も女性ばかりだ。

女性も数少ない男性も、うっとりとした表情で聴き入っている。


「…エリオ?」


桃鈴がふと気がついた。

隣に立つエリオットの顔色が良くない。

眉間に皺を寄せ、顔には汗が滲んでいる。


「僕の名前はエリオットだ…。いや…その、気持ちが悪くて…」

「気持ちが悪い?」

「うう…気にするな。任務中だ…こんな無様な姿を晒している場合ではない…」


そうは言いながらも、呻き声をあげるエリオットはかなりつらそうだ。

その様子を見ていた桃鈴が口を開いた。


「……エリ、」

「キャーッ!」


桃鈴の声もラニャの歌声も掻き消す悲鳴が、その場に轟く。


「どうしてっ!どうして皆に聴かせてしまうの!?私だけに聞かせてくれれば良いのに!」


観客席。

その最前列で、騒ぐ女性がいる。


「あなたを手に入れてっ!ずっと一緒にいるの!」


そう叫びながら、彼女の体はむくむくと大きくなっていた。


「くっ!巨神族ティーターンか…!」


エリオットや警備員が慌てて動き出す。

巨人へと姿を変えた彼女は、逃げ惑う群衆を掻き分けてまっすぐ、ラニャの元へと足を踏み出した。


「ほら、一緒に行きましょう…?」


伸ばされた巨大な手が舞台に触れる。

そのまま彼を掴もうとした彼女の頬に向けて、小さな影がまるで弾丸のように飛んできた。


「ホァタッ!」

「がっ…!」


桃鈴の蹴りは見事頬の中心に命中。

巨人の体は体勢を崩し、轟音と共に地面に崩れ落ちた。


「ラニャ様!ご無事ですか!?」

「……」


エリオットが壇上へかけ上がり叫ぶが、ラニャからは返事がない。

他の兵士により巨人の体に捕縛する術がかけられていく様子を、じっと見ている。

その顔の上に乗るのは桃鈴だ。


「ラニャ様!?」

「彼女の…」


目の前で乱闘があったにも関わらず、彼は平然と振り向いた。

照明の影響か、銀色の瞳に赤い光が差しているように見える。


「今巨人を蹴り飛ばした、彼女の名前はなんというのですか?」






「脅迫状は、あの巨神族の女が送りつけたものだったようです。身柄は拘束しましたし、もう心配する事はないと思います」

「…そうですか」

「また朝に係の者が迎えに来ますから。明日もお願いします」

「…ええ」


全ての片付けが済んだ夕方、エリオットはフィオの屋敷にいた。

ラニャを今夜宿泊する部屋に通し、連絡事項を伝えているのだが、彼の意識は今一つ散漫としている。

ところが、外から扉がコンコンと叩かれる音が響いた瞬間、飛び起きるように反応した。


「呼んだカ?」


廊下から顔を出したのは桃鈴で、彼は直ぐ様立ち上がり彼女の手を取る。


「ええ、ええ!本日はどうもありがとうございました!お怪我はありませんか?」

「ないヨ。明日も公演があるからお前が無事で良かったネ」

「本当に凄かった!お強いんですね。ところで…」


にこにこと笑顔を浮かべていたラニャが表情を変えた。

声が低くなり、その幼さが引っ込む。


「桃鈴さん…。今日のお仕事はまだ残っているんですか?」

「あい。明日の警備の最終確認があるヨ」

「なら、終わったら僕の部屋に来てください。今日はここに泊まりますから」

「…それはどういう意味…おっト」


桃鈴が懐から、皮袋を落とした。

ちゃりんと貨幣の音がして、飛び退くようにラニャが一歩下がる。

桃鈴が拾い懐に仕舞うのを確認すると、彼女の耳に顔を近付けた。


「好きなように受け取って頂ければ。ただ来た場合は僕の都合の良いように解釈しますから…お忘れなく」


(僕もいるんだが…)

そのやりとりをむっつりした顔で見つめるのは、エリオットである。






桃鈴が屋敷のバルコニーに出ると、椅子に座っていたフィオは杯を傾けて微笑んだ。


「今日は大変だったみたいだね。お疲れ様」

「…良い身分だネ」

「お陰様で領主様だからねえ。桃鈴もどうだい?」


ボトルの中身は半分ほどに減っている。

フィオの前に腰かけて、桃鈴は首を振った。


「やめとくヨ。ワタシの仕事は催し物の警護なんだロ?」

「うん。私の目的はこの行事を平和に終わらせることだからね」

「…あいヨ」


フィオは机の上に肘をついて、手の甲に顎を乗せる。

首をかしげ楽しそうな表情を浮かべた。


「なあに?彼に誘われでもした?」

「……」

「行ってきて良いよ。仕事さえやってくれれば私は何でも構わない。仕事さえやってくれれば、ね」


含みのある言い方に、桃鈴が反応する。


「…フィオ。さてはお前気がついてたナ?嫌味な奴ネ」

「楽しんできてね」


にこにこ手を振るフィオにため息をついて、彼女が立ち上がった。


「桃鈴」


室内に入ると、呼び止める声が響く。

桃鈴が立ち止まり、声のした方向を見た。


「エリオ」

「…あいつの元に行くのか…?」


カーテンの傍で、仏頂面で立つ彼は不機嫌極まりない。

(不潔だ…。大体桃鈴、君は経験が無いんじゃなかったのか。いくら愛が欲しいからって夜中に男の部屋に行くなんて)

ところが悶々と考え込むエリオットに、桃鈴はあっけらかんと口を開いた。


「ちょうど良いところに来たヨ。お前も一緒に来るネ」

「そう言う話をしてるんじゃな……へ?」






「桃鈴さん!」


ラニャが扉を開けると、そこには黒目黒髪の少女が立っていた。

それを確認した瞬間彼の顔は輝き、中を指差す。


「さあ、さあ、入って」

「……」


桃鈴が部屋に入ると、直ぐ様鍵を締めた。


「桃鈴さん…。来てくれたってことは、わかってるんですよね?」


ラニャがするりと彼女の頬に手を伸ばす。

彼の銀色の瞳はどこか熱を持っていて、艶かしく情熱的だ。

黙ったまま、彼女が恥ずかしそうに頷いた瞬間、ラニャが唇を重ねた。


「…っ」


桃鈴が咄嗟に後ろに下がるが、机に当たり行き詰まる。

それを良いことに、ラニャは一気に距離を詰め、小さな彼女を抱き締めるようにキスを続けた。


「…上手いですね」


舌を抜いて、息がかかる距離で呟く。

ぼんやりと彼を見つめる桃鈴の頬は上気し、肌は汗ばんでいた。


「気持ち良いですか?僕の唾液には催淫効果があるんです」

「…っは」

「おっと」


息を漏らしふらつく桃鈴を支え、耳元で囁く。


「特に血管に直接流し込むと、言い様のない絶頂を感じるそうですよ」


ラニャの瞳の色が変わる。

淡白な銀色から深紅に染まり、唇から覗くのは鋭く光る牙。

桃鈴の白い首元に手を伸ばし、それを突き立てた。

(さあ…あなたの強さは僕のものだ)

ぶつりと音がして、温かい体内に侵入する。

桃鈴が小さく声を漏らした。


「アッ…」

「!?ウォッ!オエエエエ!!」


ラニャが桃鈴から飛び退くように離れた。

口に残った血を吐き出しながら、ゲホゴホと咳き込む。

(なんっ、だ…これは…!)

かつてない衝撃に舌が震えている。

死ぬほど不味い。


「ぁン…思わず喋っちまったよぉ」

「!?!?」


しわがれた声に振り向けば、そこにいたのは桃鈴とは似ても似つかない老婆。

未だ喉に残る苦味がますます渋くなるような光景だ。

呆気にとられる彼の背後でばきんと音がして、天井が落ちてきた。


「ハン!馬鹿がァ!お前がワタシだと思ってたのはしわくちゃのクソババアネ!」


板と一緒に落ちてきたのは桃鈴で、涙が出るほど大笑いしながら指を突きつけてくる。

服が乱れたままの銀が、その言葉に噛み付いた。


「桃鈴!このガキャア!それが協力者に対する仕打ちかい!」

「フリってこと忘れてしっかり楽しんでたロ!さあエリオ!現行犯逮捕ネ!さっさと捕まえるヨ!」


意気揚々と背後を振り向くと、エリオットが床に四つん這いになって落ち込んでいるところだった。


「エリォオ!なんでお前が一番ダメージ受けてるネ!」

「何故…何故わかった!」


呆然としていたラニャが、我に返ったように声を出す。

桃鈴はちらりと、彼のハープに視線を送った。


「お前の歌声と音楽は人を惹き付ける…が、あれは魅了術の一種だナ?歌や楽器の音色に魅了術を組み込んで、聴いた者を虜にさせるような術ネ」

「っ…!」

「術式は往々にして、同系統の術者には効き辛いネ。エリオの具合が悪くなったのもそれが原因ヨ」


恐らく無意識のうちに、外部からの攻撃を弾こうと魔力を使っていたのだろう。

意識して跳ね返すならともかく、無理に長い間消耗し続けるような状態だ。

平衡感覚がおかしくなっても不思議ではない。


「あんな広範囲に、更には不特定多数に向けて魅了術を扱えるような生き物は限られるネ。少なくとも人間じゃないヨ。一部の妖精、人魚セイレーンに淫魔、吸血鬼ヴァンパイア…」

「……」


最後の言葉に、ラニャが顔を歪めた。


「吸血鬼は銀を嫌がる。あの時ワタシが落とした金袋に不自然に距離を置いたのもそれだナ?銀貨を警戒してたんだロ?」

「…だが、俺は真っ昼間から太陽の下で公演をしていただろ」

「わざわざ人間と偽装してるのは何故カ?嘘の中に真実を混ぜればバレにくいネ。お前の正体は、半人半鬼ダンピールヨ」


半人半鬼ダンピール

吸血鬼と人間の混血であり、その両者の特徴を持つ魔族である。

純粋な吸血鬼程の力は持ち得ないが、弱点が補完されている場合が多い。


「お前はワタシに目をつけたネ。手下にするつもりなのはすぐに分かったから、罠にかけただけの話ヨ。カリカリのババア、しかも妖魔の血なんて不味くて飲めたもんじゃないだロ!」

「殺すぞガキャア!まあ、お陰で楽しかったけど、アタシの変化は声を出すと解けちまうんだよねえ。お預けされちまったし物足りないねえ…」


そう言いながら、銀がちらりとエリオットを見つめる。

そんな彼女をできるだけ見ないようにして、彼は冷や汗をかきながら口を開いた。


「み、魅了術を使って人気を維持してる歌手や芸人はいくらでもいる。短期間で解ける範囲なら罪ではないからな。が、吸血鬼が血を吸った相手は半永久的に傀儡となる。その方法は禁止されていた筈だ!」

「さらに言えばワタシの任務はお前の保護じゃなく、この行事を成功させることヨ。わざわざワタシを傀儡にしようなんて、明らかに何か目論んでるお前を見逃すわけにはいかないネ」

「ま、待ってくれ!見逃してくれよ!俺と一緒に逃げよう!そうしてくれれば桃鈴、お前を一生愛する!」

「うっ…!」


エリオットの頭がくらりと揺れた。

魅了術だ。

彼の声に乗せて、桃鈴へ使っている。

術が彼女には効かない事を彼は知らないのだろうが、言葉そのものに効果がある可能性が高い。

なにせ桃鈴は万年恋人募集中の愛に飢えた24歳である。

(まずい…!)

彼女に本気で逃げられたら、エリオットはなす術がない。

ところが予想に反して、桃鈴はさらりと、それはもう気持ちよく言い切った。


「嫌ヨ。ワタシ、年下は無理」

「!?お、俺は年下じゃない!吸血鬼は長命なぶん発育が遅いんだ!実年齢は30歳だ!これなら…」

「仕事関係で知り合った男も無理ヨ。あいにく愛されたいのはお前じゃないネ」

「クソッ…!贅沢言ってんじゃねえよブス!」


その言葉に腹パンを繰り出す桃鈴を横目に、年下でさらに仕事関係の男性であるエリオットは砂と化していた。

それに気が付かず、彼女は黙々とラニャを縛り上げる。


「何を企んでたネ。依頼者はいるのカ?」


フィオから借りたこの縄には、術封じがかけられている。

更に桃鈴の私怨により縄はみちみちに巻かれ、抜け出す事は不可能だ。

だがラニャはふてぶてしく笑った。


「ふん…。俺が喋ると思うか!あっさり吐くような奴は、この業界じゃあ信用されないんだよ!」

「そうカ…。ワタシもこんな鬼のような手は使いたくなかったんだけどネ」

「フン!拷問か!?不死身に近い俺に怖いものなどない!」

「銀婆」


桃鈴が振り向いた。

背後のラニャを親指で示し、淡々と口を開く。


「続き。していいっテ」

「えっ」

「やだぁ。嬉しいねえ。100歳以上年下の男の子とできるなんていつぶりだろうねえ!頑張っちゃうよお!」


銀が両手を動かしながら、彼に近づく。

そんなラニャの顔は今まで見たどんな時よりも真っ青だ。


「嘘!嘘!喋るから待ってえ!」

「あっさり吐くような奴は、この業界じゃあ信用できないヨォ~」


桃鈴が両手を広げて出ていく。

共に部屋を出るエリオットの顔は複雑だ。

同じ男として同情は禁じ得ないが、止めれば自分が犠牲になる気がする。

扉を閉めると同時に、ラニャの断末魔が響いた。


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