ちいさな丘で

 せっかちうさぎのところへ帰ったときには、辺りはすっかり暗くなっていました。それでも道が見えたのは、りすからもらった光るどんぐりのおかげです。


 「まあまあまあまあ、みんな連れてきてくれたのかいありがとう」

 「あはっはは。きみ、なんだいそりゃあ」

 出迎でむかえたせっかちうさぎは、あなたの右の手袋てぶくろをすっぽり頭にかぶっていました。左のほうはというと、人さし指と中指のところを首にまわして、ぎゅっとむすんで、マントのようにしてありました。

 「とても温かくて気分がいいんだ」

 そりゃけっこうだがね、ときまじめうさぎが答えます。

 「もう夜になっただろう。この人たちの林檎りんごはどうするんだ」

 「えっ、林檎ってなんのことだい」

 きまじめうさぎは、どうやらあなたたち以上に気をもんでいたようです。せっかちうさぎに、ことの次第しだいを話してくれました。

 うんうんと何回も頭をふったせっかちうさぎが、

 「それならどうぞ謝月祭しゃげつさいにくるといい」

 と言うと、

 「でもそれって、森のお祭りなんでしょう?」

 ブルームが心配そうに聞きました。

 「はっはっ。平気、へいき」

 「わたしらのあとに、ついてくればいいんだから」

 「……こんなに気もちのいい寝どこなら、……ぷう。みんな歓迎かんげいする、……ぷう」

 あなたの肩からさがったままの、ねぼすけうさぎまでが、いびきまじりにさそいます。あなたはブルームと顔を見あわせて、にっこりと笑いました。


 せっかちうさぎを先頭に、どんぐりのかざりやなにかを持ったうさぎたちのあとをついていきます。

 お月さまのすがたは見えませんが、うす桃から青墨あおすみいろになっていた空が、ぼんやりとだんだん白く変わってきます。

 右の道、左の道をいくうちに、ブルームがちいさな声で言いました。

 「店主さん、見てください」

 あなたはもちろん見ていました。

 重そうな実をさげたいろいろな果物の木が辺りに茂ってきています。

 ぐみやなし、ぶどうに柘榴ざくろ。林檎の木があるのも見えます。夜道に、みずみずしい果物の香りが立ちこめました。


 最後に大きなうでを広げたあけびの木をくぐると、そこは広いひろい丘でした。

 「ああ間に合った。こちらへどうぞ」

 せっかちうさぎが、あなたたちを招きます。

 丘には、ほんとうの切り株をテーブルに、猫が焼いた切り株みたいなパンケーキ、野いちごやレモンのジャムのほか、丸々とした虹鱒にじます、木の実のサラダなど、ごちそうが山と並んでいます。

 まわりには、鳥や猫やりすはもちろん、くま鹿しか、きつねにたぬきまで、森じゅうの仲間たちが集まっていて、にぎやかに乾杯かんぱいを待つばかりのようでした。


 どんぐりのあかりが照らすテーブルへ、あなたたちはうさぎたちと一緒につきました。きまじめうさぎが丁寧ていねいに注いだシャンパンから泡がのぼります。

 ――ありがとうございます。

 「ぼくは飲めないけど、味を教えてくださいね」

 ブルームがあなたにこう言って約束をしたとき、林にかけられた薄布うすぬのが引かれました。みんながおしゃべりをやめて注目します。

 奥からあらわれたのは、年よりのみみずくでした。

 みみずくは片手にグラスを持ちあげて、いかめしい、歴史のあるくちばしで、あいさつをしました。

 「今夜お集まりのみなさん! 気の知れた仲間のみなさん! この森にも秋がきました。今年も盛大せいだいにお祝いをしましょう。お月さまの恵みと、われわれの幸福に、乾杯!」

 「乾杯!」

 「乾杯!」

 シャンシャンとグラスを合わせる音が響きます。楽しげな笑いごえがどこにでも咲いて、うさぎたちも上機嫌じょうきげんです。

 「さあさあどれでも召しあがって」

 「……ここはまぶしいなあ、……ぷう」

 せっかちうさぎが食べきれないほどのごちそうをお皿に盛ってくれたとき、ねぼすけうさぎは、あなたの足もとでいびきをかいていました。

 「はっはっ。ぼくが手伝ったパンケーキだ」

 「ああ、鳥たちが並んでいる。歌がはじまるぞ」

 にぎやかうさぎがパンケーキとつやつやのジャムを楽しむ横で、きまじめうさぎは自分のことのように鳥たちを見つめています。

 ぴかぴかの飾りのしたで、ぽろころとした合唱に合わせて、みんなが踊ります。あなたも、ブルームとステップをみました。

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