ねぼすけうさぎ

 「ねぼすけうさぎは、りすのところだよ。あそこはねむるのにちょうどいいから」

 にぎやかうさぎの案内あんないはカシノキのあいだをいきました。


 秋の日暮ひぐれははやく、空はもう、うす桃がかった水いろです。猫のかまどのキッチンで、あんまりのんびりしすぎたようです。

 「見てみて、星が引っかかってるよ。ゆかいだねえ」

 にぎやかうさぎが上を向きながらしゃべるので、あなたも顔をあげました。暗くなりはじめた枝のかげに、ぽつんぽつんと光のつぶがさがっています。

 「星にしちゃ、はやいな。お月さまよりさきにくるなんて」

 きまじめうさぎがぶつぶつ言って、

 「ねえ店主さん。あれ、ほんとうに星かもしれません」

 教えてくれたのはブルームでした。

 「エチカおばあさんも、ときどき連れてくるんです。夜のあかりの番なんです」

 せっかくなのでよく見ようと背のびをしたあなたは、けれども、おやっと思いました。つるりとしてつんとして、ちかちかするそれは見おぼえのあるものでした。

 ――あれはきっと、りすさんの……。

 「そら、もうつくぞ」

 あなたが言いかけたとき、きまじめうさぎが一番前で目をしぱしぱさせました。

 「ここらは暗くなっても明るくて、いいところだなあ」

 にこにこしているのは、にぎやかうさぎです。

 なるほど、茂みのあちらがわが、ぽうっと光って見えてきました。こんなふうに調子をとる、かわいらしい声まで聞こえます。


 磨けやみがけ

 たからの実

 きゅ


 いちばんのっぽは

 よく光る

 いちばんちびは

 ながあく光る


 きゅ きゅ

 きゅ


 「いいぞ、いいぞ。あっはっはっ」

 「あ、こらっ」

 たまらずに、にぎやかうさぎが飛んでおどって出ていきます。きまじめうさぎが、あわててとめようとしましたが、ちょっと間にあいませんでした。

 「きゃっ」

 「きゅっ」

 「きゃっ」

 みじかくて高い鳴きごえ。あなたからは、飛びあがって一目散いちもくさんに木のうろへとかくれる、りすたちのすがたが見えました。やがて、いっぱいのちいさな目が、おそるおそるこちらをのぞきます。

 「あ、あ。なあんだ、うさぎさんたちだわ」

 「おどろいたわね。急に飛びこんでくるんですもの」

 にぎやかうさぎが頭をかいて、きまじめうさぎだって耳をさげずにはいられません。

 「いやあ、ははは。ごめんね、りすさん」

 「おどろかせてもうしわけない」 

 あなたも茂みをかきわけて、そこにはいっていきました。

 そのとたんです。

 「わあ、こんなにたくさん!」

 ブルームが声をあげるのも無理むりはありません。

 ぽうっと明るいのは、みがきぬかれたどんぐりでした。シャラシャラ、シャラシャラ、じゅずつなぎに合わさって、数えきれないほど枝からさがっているのです。そのかがやきは、ひとつぶ、ひとつぶが昼の光を残しているようにも見えました。

 「星だと思っていたのは、どんぐりだったんだねえ」

 にぎやかうさぎは全体をながめまわしながら、やっぱり楽しそうです。やれやれと、うろから出てきた、りすのうちのだれかしらが答えます。

 「そうですよ。草やなにかで磨いてね」

 「樹えきを使ってくっつけて」

 「今夜の飾りにするんです」

 またほかのだれかが、あなたの足もとに、ちょろりとやってきました。

 「まあ、おふたりともこんなところまで。林檎りんごは見つかりましたか?」

 それはこずえで出会ったくりいろの、やわらかな毛をしたりすでした。

 「どうも、りすさん」

 ――実はまだなんです。

 ブルームが答えて、あなたも苦笑いをしました。うさぎたちは顔を見あわせます。

 「へえ、ぼくたちだけじゃなくて林檎も探しているの?」

 「それは世話をかけてるな」

 りすたちはりすたちで、鼻をつきあわせて、こんなことを言いだしました。

 「そんなに探しものをしてくれるなら、今度お店にいってみましょうか」

 「いってみよう。なにか探してもらおう」

 「ランプがいいよ。越冬用えっとうようの丈夫なやつを」

 「暖炉だんろのがいい。うろに入る大きさの」

 ――どなたもどうぞ、いらしてください。

 町までのいきかたや店までの道を教えると、りすたちはきゅっきゅっと、うれしそうな声をあげました。きまじめうさぎがせきばらいをして、あいだにはいります。

 「ところでいまは、ねぼすうさぎを探しているんだが、いるかね」

 「ええ。ねぼすけうさぎさんなら、そこにいらっしゃいますよ」

 ちいさなたくさんの目が、いっせいに同じほうを向きました。灰いろの毛をしたうさぎが、ふかふかの落ち葉のうえで眠っています。頭もとに置かれたどんぐりが光って、少しまぶしそうです。

 ――うさぎさん、ねぼすけうさぎさん。

 「ちっとも起きないや」

 あなたが呼びかけて、ブルームが尾でくすぐりましたがいけません。

 「日の高いうちにいらして、どんぐりをながめていたと思ったら、すぐにこうですよ」

 「それからずっとですよ」

 りすたちが口を動かして、うなずきあいます。ねぼすけうさぎの鼻が返事をするように、ぷう、ぷう、と鳴りました。

 「はっはっはっ。こんなにぐっすりだったら、しばらくはだめさ」

 「まったく仕事もしないでねむっているなんて。もう夜になるというのに」

 「店主さん、どうしましょう」

 ブルームが、よわった声で聞いてきます。

 ――ええと、それなら、こうしましょう。

 あなたは、からになった鞄に、ねぼすけうさぎをかせて持ちあげました。

 ――ね。わたしが運んでいきますよ。

 ゆらゆらゆれるベッドのうえで丸い鼻さきが夢見心地に動きます。

 「まあ、しあわせそうな顔」

 ぴかぴかの光のなかで、みんな静かに笑いあいました。ねぼすけうさぎも、ぷう、と答えたようでした。

 「じゃあ、うさぎさんたち気をつけて」

 「また今夜あいましょうね」

 「これをどうぞ。もう暗くなりますから」

 「林檎が見つかるといいですね」

 夕やみが深まる森のなかで、ますます光るどんぐりを、りすたちは持たせてくれました。その一等星くらいのあかりが、見ているにもしていきます。

 あなたたちはそれぞれにお礼を言って、もときた道をもどりはじめました。

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