にぎやかうさぎ

 「にぎやかうさぎは猫のところだろう。あそこはいつでもさわがしいから」

 きまじめうさぎの案内あんないはナナカマドの道をいきました。


 たくさんの切り株があたりにふえて、白いけむりに甘いにおいがただよってきます。あなたがしきりにきょろきょろするので、ブルームは不思議そうです。

 「どうしたんです、店主さん」

 ――するんですよ、いいにおいが……。

 「あそこからだろう。猫のキッチン」

 きまじめうさぎが鼻をふんふんさせて言いました。ナナカマドの切り株の向こうに、煉瓦れんがのかまどを囲んではたらく猫たちが見えてきます。

 おそろいのコックぼうをかぶり、卵をるもの、小麦粉とまぜるもの、フライパンをふるもの……。みんなとてもいそしそうですが、息ぴったりに歌っています。


 焼けやけケーキ

 天までとどけ


 金目

 ねこの目

 きれいな焼きめ


 月のみついろ

 とっておき


 よく晴れた空に、きれいな焼きめのパンケーキがつぎつぎいあがります。それをお皿に受けとっているのは、茶いろの毛をしたうさぎです。

 「あれが、にぎやかうさぎだよ」

 きまじめうさぎはそう言って、切り株のかげを出ました。あなたもブルームをかかえていきます。

 「猫さんがた、ごきげんよう」

 きまじめうさぎが名前の通りに真っすぐまじめに頭をさげると、猫はフライパンをゆすりながら答えました。

 「こりゃうさぎさんとこの、きまじめさんじゃにゃいか」

 「にぎやかうさぎをむかえにきたんだが、いいかね」

 ぴょこんぴょこんとねまわっていたにぎやかうさぎは、きょとんとして立ちどまりました。パチンパチンとかまどから、まきのはぜる音がします。

 「ねえ店主さん、あんまり近づかないでほしいな。ぼく、あっという間にこげてしまいそう」

 ブルームが怖がってあなたに身をよせました。猫がにんまり笑います。

 「そうそう、気をつけにゃ。その火はとっても熱いのさ」

 となりで生地をかき混ぜているやつもにんまりします。

 「そうそう、にゃん千枚ってケーキを焼くんだから。あんにゃふうにね」

 その金目がきらっと光って、横の切り株のことを言いました。

 近づいてよく見てみましょう。それは切り株なんかではなく、お皿に分厚ぶあつく積みあげられたパンケーキなのでした。あなたのうでのひとかかえもある、切り株みたいなパンケーキ!

 あなたとブルームは、めずらしくって、うれしくて、きゃあきゃあ声をあげました。猫たちがおかしそうに笑います。

 「うにゃっはっはっ」「にゃあっはは」「あはっはははっ」

 最後のは、つられて笑ったにぎやかうさぎのものです。かまどの火にも負けないくらいに明るい笑いごえなので、辺りがぽっとなりました。

 「ああ、おかしい。それで、どうしたんだい。ぼくを迎えにくるなんて」

 お腹をかかえて、にぎやかうさぎが聞きました。

 「せっかちうさぎがたおれたらしい。で、このひとたちが伝言をたのまれたそうだ」

 「またなの。はっはっはっ。あんまり急ぐなっていつも言うのにね」

 むずかしい顔と、ころころ笑いが向きあって、ああだのこうだの話します。その横では、猫のフライパンから焼きたてのパンケーキがなげられています。それは少しもずれないで、切り株ふうパンケーキの天辺てっぺんに乗りました。


 「ねえ店主さん、ぼくたちそろそろ行かなくちゃ」

 ブルームが心配そうに言ったのは、新しい切り株がみっつも生えたときでした。あなたは思わず声をあげました。なにしろ、そのあいだじゅう、うさぎたちはおしゃべりに、あなたとブルームは猫たちの料理に夢中になっていましたので。

 かまどはいつしか、音もちいさくなりました。あなたが呼びかけると、きまじめうさぎも、にぎやかうさぎも、飛びはねて用事を思いだしました。

 「じゃあ猫さん、わたしら行くから」

 「はっはっ。せっかちうさぎがね、目をまわしたんだって」

 猫たちはコック帽をとって、それぞれ、せまいひたいをなでます。秋の空気に、汗がしっとりと心地よさそうです。

 「うん。そんにゃら、いってやらにゃいと」

 「おれたちも、そろそろ休けいにしようと思っていたところだ」

 「ああ、それにしても喉がかわいた」

 いっぴきの猫がべえっと舌を出しました。

 「ミルクはにゃいのか」

 「ぜんぶ使っちまったよ」

 キッチンにあるのは、空の入れものばかりです。

 ――それなら、待ってください。

 あなたは肩かけかばんから、ミルクのびんを取りだしました。

 ――喉がかわいてはなんとやら。町一番のミルクを、みなさんでどうぞ。

 「にゃあ、うれしい!」

 瓶は一本しかありませんが、作るのも、食べるのも大好きなこの猫たちは、もちろん分けあうことも上手うまいのです。

 「祭りの前のごちそうといこうじゃにゃいか!」

 「はっはっ。働きがいがあるってものだね。では、猫さんまた今夜」

 ごろごろと美味しそうにのどを鳴らす猫たちに手をふって、あなたたちはまた森をいきました。

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