きまじめうさぎ

 木もれ日と木かげがいろどる道を、あなたたちは歩いていきました。

 ときおり吹く風が、いちょうの木々の向こうから軽やかな音を運んできます。木琴もっきんをたたくような、ぽろころとした音です。

 高く、低く。高く、低く……。あなたのうでのなかでブルームが尾をゆらしました。

 「なんて、すてきな音楽だ。ちょっとのぞいてみましょうよ」

 音をたよりに近づいて、そうっと顔だけを出してみます。

 ひときわ大きないちょうの枝に鳥たちが集まって歌っています。天辺てっぺんでくちばしをふるっているのはきつつきで、ぽろころとした音は指揮しきの代わりに木のつらをたたいているのでした。

 鳥たちの歌はこんな具合ぐあいです。


 秋の森には

 秋のうた ぽろ


 月のころには

 山のべに


 いちょうの枝から

 巣だつ子ら ころ


 「ぼく、こんな歌はじめて聞きました」

 ブルームがうっとりと言ったとき、

 「そこまで、そこまで!」

 だれかが地団太じだんだをふんで演奏をとめました。

 気もちよく歌っていた鳥たちは一度にしんとして、指揮者のくちばしは空ぶりをしました。だれかが、きつつきにまた言います。

 「さっきより全体に歌が早いだろう、それだと悪いんだ」

 「そうは言いましても、もう何十遍なんじっぺんも歌っていますからね。みんなへとへとなんですよ、うさぎさん」

 それを聞いたあなたたちはびっくりして、いちょうのかげから飛び出しました。

 「本当だ、うさぎさん」

 そこにいたのは黒い毛をしたうさぎでした。

 突然とつぜんのお客に、鳥たちは残らず飛びたとうとしましたが、歌いての意地で、列をみだすまいとどうにかんばりました。

 「みなさん、こんにちは。とってもすてきな歌ですね」

 ブルームがあいさつをすると、鳥たちはいよいよ目を丸くして、両方の羽をもぞもぞさせました。ちらちらとお互いに目配せまでしています。

 「はい、はい、それでは少し休けい」

 きつつきが気を利かせて号令をかけます。それで、鳥の列はみんな風に吹かれた綿毛のように舞いちりました。

 「ああ、すっとした」

 「あたしもう羽のあたりがむずがゆくって」

 「ところで、だれだい、あのお客は」

 「見たことないよ、森ではね」

 ずっとこらえていたのでしょう。そちらこちらの枝でおしゃべりがはじまって、急ににぎやかになりました。みんな、あなたとブルームのようすをうかがっています。

 「なんとも落ちつきがなくてご無礼ぶれいを。鳥というのは、おしゃべりのくせに、はにかみ屋でしてね」

 そう言ったのは年長ものらしいきつつきでした。おしゃれな指揮者風のスーツとシャツ、頭には赤い帽子ぼうしまで乗せています。

 黒いうさぎはというと、そのときにはもう、はばたきで草地のみだれたところを直しにいっていました。

 ――じゃまをしてしまって、すみません。

 「めっそうもない。それより、ちょっと失礼しますよ」

 きつつきはひと足に飛びあがり、あなたの肩にとまったかと思うと声をひそめました。

 「あなたがた、うさぎさんのお知りあい?」

 あなたがうなずくと、まだ草地をなでているうさぎを向こうに、きつつきはもっと声をちいさくします。

 「それでしたら……まことに言いづらいんですがね、なんですね、あのかたを連れて帰ってはいただけませんか」

 「わたしからもお願いします」

 「わたしからも」

 いつに間にかおしゃべりをやめていた鳥たちが、あなたのくつやブルームののさきに集まってきました。

 「あのかた朝からいらしてまして」

 「なんと言うかまじめなかたで」

 「お祭りだからって張りきって」

 「あんまりうるさいものだから参ってしまって」

 「しっ」

 だんだんと声が大きくなるのを、きつつきがさえぎります。

 「まかせてください。ぼくたち、ちょうどうさぎさんをむかえにきたんです」

 ブルームが柄をそらしたので……胸を張ったのです……鳥たちは、ほっと息をついて重ねてお願いをしました。

 「じゃ、わたしら見ていますから」

 そこであなたはうさぎに近づいて、まずこう聞きました。

 ――もしもし。あなたは、きまじめうさぎさん?

 「そうとも」

 きまじめうさぎは横目でちらりと見て、鼻をぷすっと鳴らしました。

 「きみたちも唱歌隊しょうかたいかね。それなら、はやく並んで、ならんで」

 ――いえいえ、違うんです。

 あなたが頭をふるとブルームが続けます。

 「せっかちうさぎさんから頼まれたんです。うさぎさんたち、みなさん連れてきてほしいって」

 「なに、もしかしてみんなまだもどっていないのか。え、きみたちは、それでこんなところまで」

 せっかちうさぎが目を回してしまったところまで全部話すと、きまじめうさぎはうんと、むずかしい顔をしました。

 「そりゃいかん。みんなを集めなくちゃあな。だがその前に最後の練習をしなければ」

 それを聞いて、見守っていた鳥たちがちいちいと答えます。

 「もう無理むりですよ」

 「お腹がすいて歌えません」

 「本番には声が出なくなっちゃうわ」

 見かねたあなたたちも声をかけます。

 ――大丈夫ですよ、うさぎさん。

 「そうです。みなさんとっても上手だもの」

 「ううむ。しかし、いや、それならもうよしとしよう」

 きまじめうさぎはしぶしぶ聞きいれて、一緒に森をいくことにしました。大小の鳥たちが木のしたにせいぞろいして見送ります。

 「それではまた今夜」

 「きまじめさん、長々とありがとう」

 「ほかのうさぎさんにもよろしく」

 あなたはかばんからおやつのふくろを取り出して、きつつきに言いました。お店の名前がいれられた、リボンのついた袋です。

 ――腹がってはなんとやら。秋一番のクッキーをみなさんでどうぞ。

 「これはなんともありがたい」

 ぴいちい、よろこぶ声を聞きながら、あなたたちは鳥に別れていきました。

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