第28話

区立中央図書館。

歴史と伝統を誇るレンガ造りの建物は

レトロな佇まいを見せている。

平日の・・しかも午前中の図書館は

さぞ閑散としているだろうと思っていた真澄は

一歩足を踏み入れ驚いた。


穏やかな陽の差し込む窓際の閲覧席は年配者に占領され

専門書の並ぶ奥のテーブルでは学生と思しき若者が熱心に

調べ物をしたり、レポート用紙に文字を書き綴っている。

隣接する幼児コーナーに目を遣ると、子供に絵本を読み聞かせている

中年女性の傍らで、ギャル風の母親達が子供そっちのけで

おしゃべりに花を咲かせていた。


真澄は中央カウンタの横まで進み、ぐるりとフロアを見回すと

ジャンルごとに整然と並べられている書庫の間を一列ずつ確認していく。

『現代文学』『外国文学』『芸術・スポーツ・趣味』『歴史・伝記』……

一周し終えると2Fに上がり、視聴覚コーナーや談話室も覗いて見たが

琉架の姿はどこにもない。

吹き抜けの手摺に凭れかかると、小さなため息を漏らした。

…やっぱり見当違いだったみたいね

もしかしたら、近所のコンビニまで買い物に出ていただけで

今頃はあの広々としたリビングでのんびりと読書に耽っているのかもしれない・・


真澄は図書館を後にすると、駅へと続く道を戻り始めた。

その足が、ふと止まる。

確かこの建物の裏手には植物園があった筈。

数年前にごみ焼却炉の廃熱を利用した温室が作られ

ニュースでも度々取り上げられていた。

自宅からそう遠くない場所にありながら、今まで一度も訪れた事はない。

折角ここまで来たんだから、ついでに・・

図書館の脇の細い石畳を抜け、階段を上るとガラス張りの建物が見える。


『植物園』と呼ぶのが躊躇われるほど小さな温室に入ると

むせ返る様な花の香りに包まれた。

胡蝶蘭やカトレア、デンドロビューム等の鉢が飾られた

洋ランコーナーの横にはハイビスカスやブーゲンビリアが

南国ムードを漂わせている。

一番奥のサボテンコーナーでバスケットボール程の大きさの

サボテンを眺めていた真澄の視線がガラスの外に向けられた。


あれは…


植物園の脇にある芝生の張られたピクニックエリア。

大きな楡の木に寄りかかるようにして天を仰いでいる少年の姿。


それは間違いなく藤原 琉架だった。



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