第27話

昨日訪れたばかりの『アースレジデンス』に再び足を運ぶ。

最上階の角部屋。藤原琉架の自宅のチャイムを押す。

―――――……

数秒間隔をあけ再び押すも、応える気配はない。

”留守”?それとも”居留守”?

真澄は素早く廊下を見渡すと、そっと冷たい鉄扉に

耳を押し当てた。

部屋の中はシンと静まり返り、物音ひとつ聞こえてこない。

そのままの姿勢でスマホを取り出すと、発信履歴から

『藤原琉架』の番号を呼び出した。

微かに聴こえる”ボレロ”のメロディーが途切れ、無機質な

アナウンスの声に切り替わる。


「只今留守にしております。発信音の後にお名前と・・」


真澄はため息を吐きながら電話を切った。

時計の針は10時を少し回った頃。

琉架・・どこに行っちゃったんだろう…

学生ならば、教室で授業を受けているであろう時刻だが・・


エレベーターの階数表示を眺めながら、あれこれ思案してみるも

元より琉架の交友関係すら知らない真澄には思い当たる場所など無かった。

でも・・何か・・

琉架との会話の中に・・行動の中に…

小さなヒントを捜し求め、必死に記憶を辿る。

あ…もしかしたら?

不意にある場所が頭に浮かんだ。

エレベーターの二枚扉が開くのももどかしく外へと飛び出す。

確証は無い。

きっと徒労に終わる確率の方が圧倒的に高いだろう。

それでも…わたしは・・

真澄はじっとしていられなかった。


色づき始めた銀杏並木から零れ落ちる、秋の柔らかな日差しに

一瞬目を細めた。

清々しい青い空が真澄の心を後押しする。

自分の直感を信じ、足早に駅へと向かった。

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