第29話

木漏れ日をうけ煌く亜麻色の髪。

その華やかな雰囲気と対照的に容の良い唇は

痛みに耐えるように強く引き結ばれ、大きな瞳は

深い悲しみを湛えていた。


苦渋に満ちた表情は酷く陰鬱で、翼を奪われ

楽園を追放された堕天使の姿と重なる。


光と影が織りなす美しくも儚い佇まいは、さながら

一枚の絵画のように真澄の心を強く捉えた。


梢を渡る秋風が膝の上に置かれた本の頁を悪戯に捲ると

琉架は微かな吐息を零し、視線を落とした。

真澄もまた浅く短い息を吐いた後、ガラスの回転扉から外へ出た。

ゆっくりとした足取りで琉架の傍らに歩み寄る。


気配を感じたのか、僅かに顔を上げると読んでいた本を閉じ

芝生の上に置いた。

「…真澄さん」

少し掠れた声がその唇から漏れる。

折り曲げられた長い足を右手で抱え、膝の上に顎を乗せるような姿勢で

背中を丸めた。

白い指先が本の表紙をとんとんと叩く。

ドストエフスキーの『罪と罰』

「ねぇ・・真澄さん」

不意にその動きが止まる。

琉架は真っ直な視線を真澄に投げかけた。

思わず息を呑むほど端正な顔には、氷のように冷たい微笑が貼り付き

黒紫に見える双眼は無機質な鈍い光を浮かべている。


真澄は射竦いすくめられたように、言葉を発する事も目を逸らす事も出来ない。

琉架が気怠そうに口を開く。

「ボクの罪は何だろう…こんな忌まわしい力を持っている事?

 ・・それとも」

微かに瞳が細められた。

「この世に生まれてきた事なのかなぁ…」

淡々と吐き出された言葉は、そのまま琉架自身を傷つける。

再び膝に顎を埋め、目を伏せた。長い睫が小刻みに震えている。

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