第20話

「ねぇ琉架。ひとつ聞いてもいい?」

「なに?」

ペットボトルのお茶を真澄の前に置くと、琉架は小首を傾げた。

「その能力っていつ―――――」

真澄が全て言い終える前に、琉架の表情が硬く強張る。

「あ・・ごめん…」

あわてて口元を押さえると、琉架は小さなため息を吐いた。

「興味があるの?ボクの力に」

心持顔を近付けると耳元で囁いた。

「それともボク自身に?」

唇にドキリとするほど艶めかしい微笑を浮かべる。

でも・・その瞳は凍てつくように冷め切っていた。

真澄はきゅっと眉根を寄せ

「両方・・」

と答える。

「どうしてそんなに悲しい目をするの?」

その言葉に軽く目を伏せると、どさっとソファーに身を沈めた。

「話してあげようか?ボクの過去を…」

一瞬、端正な顔に苦悩の色が濃く映る。

白い繊細な指で前髪を掻きあげると、ゆっくりと口を開く。

「この忌まわしい力は遥か昔から受け継がれてきた遺伝なんだよ」

「…遺伝」

琉架は遠い目をした。

「ボクの母親はとある片田舎の出身で、母の実家では何世代かにひとり

 紫の瞳を持つ赤ん坊が生まれるんだ。

 その子は程度にこそ差はあるけど、人とは異なる力を身につけている。

 ボクの前だと曾祖母が紫眼しがんの継承者だった。

 大昔はこの力を使い、シャーマンとして栄華を誇っていたそうだけど・・

 時代の移り変わりと共に、その存在は忌み嫌われるものとなっていった」

言葉を切ると、陰鬱な視線を真澄に向ける。

「いつの頃からか、紫眼を持つ者は人里から離れた座敷牢に幽閉される

 慣わしになったんだ」

真澄は薄く開いた唇を右手で覆った。

座敷牢?幽閉?…そんな時代錯誤な言葉…

まるで昔話を聞いているようで現実味が湧かない。

そんな真澄の心の内を感じ取ったのか

「信じられない?」

苦々しい笑みを浮かべながら尋ねる。

「…ええ・・ごめんなさい。あまりにも突飛な話で…」

「当然だよ。ボクだって実際この目で見るまでは信じられなかったもの」

「え?」

「曾祖母の危篤の知らせがあった時、一度だけ母親に連れられ会いに

 行った事があったんだ」

その時の光景を思い出したのか、眉を曇らせる。

「本当に”牢屋”だったよ・・日当たりの悪い六畳間の窓には頑丈な格子が

 はめ込まれていて、決して外に出る事は出来ない・・

 紫眼の者が外の空気に晒されるのは魂が肉体から抜け落ちた時だけ」

「…どうしてそんな事を」

真澄の問いに長い睫を僅かに伏せ

「怖かったんじゃないの?

 強い力を持った人は、一目見ただけで相手の心の内側まで読み取る事が

 出来たらしいから」

ハッと息を呑む真澄に、琉架は肩を竦めて見せた。

「ボクにはそこまでの力は備わっていないようだけどね」

思わずホッと安堵の息が漏れそうになるのを、あわてて押し殺す。

また琉架を傷つけてしまうところだった…

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