第16話

宮沢のデスクの上に放り出されたままの”ガラケー”が

着信のメロディーを奏でる。

一昔前に流行ったアイドルグループのヒット曲だ。

「所長、携帯鳴ってますよぉ」

美和子は電話を手に取ると、資料棚に首を突っ込んでいた

宮沢の方へと差し出した。

「誰からだ?」

ディスプレー画面を確認した美和子の瞳がキラキラと輝き出す。

「真柴さんですぅ」

その声がワントーン跳ね上がった。

今にも通話ボタンを押しそうな勢いの美和子からあわてて携帯を取り上げる。

「もしもし・・おぅ、どうしたこんな時間に・・」

自分の席に戻り、話を始めた宮沢を美和子は恨めし気に眺めた。

電話の相手、真柴涼ましば りょうは宮沢の大学の後輩。

建設業界では1,2を争うトップ企業『真柴建設』の若き副社長である。

その上モデルと見紛うばかりのルックス。

玉の輿を虎視眈々と狙う美和子にとっては格好のターゲットだ。

不満そうに唇を尖らせながら、真澄の傍らに椅子を寄せると

「ねぇ、真澄さんも真柴さんとは親しいんですよね?

 今度合コン、セッティングしてもらえませんかぁ?

 専門の時の同級生も何人か見繕うんでぇ」

「う・・ん…そうね…

 でも、真柴さんて合コンとかするタイプじゃないと思うけど…」

真澄の気のない返事に美和子の表情がますます曇った時

デスクの上の電話が鳴った。

「あ、ほら。美和ちゃん、電話が鳴ってるよ」

渋々受話器に手を伸ばす美和子を見ながら、ほっと一息吐く。

「はぁい、宮沢探偵事務所ですぅ…え?宮沢ですかぁ?

 申し訳ございません。只今、宮沢は別な電話に出ていますがぁ・・

 はぁ・・葛城かつらぎさま?」

美和子の口にした名前に、真澄の肩がピクリと反応した。

「あぁ、美和ちゃん。こっちは済んだから、電話を回して」

宮沢が携帯を耳に当てたまま、大きな声を出す。

「んじゃ、またな」

相手の返事も待たずに通話を打ち切った。

美和子が電話を転送すると、すぐに受話器を取り上げた。

「葛城・・無理言って悪かったな。で、どうだった?

 そうか・・さすが優秀だな…うん・・うん…」

肩と顎で器用に受話器を挟むと、さらさらとメモをとる。

真澄は身を硬くし、聞き耳を立てた。

「サンキュー!助かったよ。

 あ、そうだ。今 涼から電話があってな、近いうちに三人で

 呑みに行かねぇか?…あぁ?

 もちろんキレイなおネエちゃんがいっぱいいる店に決まってるだろが。

 おぅ!そっか、楽しみにしとけよ。

 じゃあ、また連絡する」

電話を切った宮沢の口元には満足そうな笑みが漂っていた。

「真澄!」

名前を呼ばれ、あわてて立ち上がると所長席に駆け寄る。

「ほぃよ。ご所望の品だ」

メモ紙を差し出す。

「ありがとうございます。所長」

「礼なら葛城に言え」

「はい…」

葛城は宮沢が刑事時代に可愛がっていた部下。

真柴の幼馴染でもある。

警察の職を辞しても尚、現役刑事を動かす事の出来る宮沢に

尊敬の念を込めた眼差しを向ける。

「なぁ、真澄」

「はい!」

「どうせならキレイ処を揃えて、ぱぁっと合コンでもやっちゃぁどうだ?

 それなら葛城も喜ぶと思うぜ。もちろんオレも参加するし・・」

「所長!」

途端に真澄の眉が吊り上った―――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る