第11話
墓参りを終え、駐車場へと戻る途中。
少し前を歩いていた宮沢がいきなり振り返った。
「ちょっと散歩でもするか」
目の前に立っている矢印形の看板を顎でしゃくる。
『浄蓮湖』
霊園のパンフレットの表紙も飾る優美な人工湖。
都内一の広さを誇る敷地のど真ん中に位置した大きな湖の周りには
四季折々の花々が植えられた花壇が点在し、訪れる人々の目を楽しませてくれる。
晴天の休日などには子連れの墓参り客が湖畔で遊ぶ姿も見受けられた。
真澄が小さく頷くのを確認すると、Y字に分かれた道を左手に進む。
「なぁ、真澄。さっきの話の続きだが、結衣ちゃんの結婚を祝福して
やってくれねぇか?」
途端、真澄の柳眉がさっと曇った。
歩く速度を落とし、自分の隣に並んだ宮沢の顔を見上げる。
「雅貴の事を思いながら、一生独身で暮らせなんて言えねぇだろ?
結衣ちゃんにだって幸せになる権利はあるんだから」
「解ってる・・けど…でも…」
「…真澄」
宮沢はいつになく真剣な面持ちを見せた。
「お前に取っちゃ酷な言い方かも知れねぇが…
雅貴は死んだんだ。どんなに思っても二度と戻っちゃ来ねぇ」
ハッと息を呑む真澄に、少しだけ表情を緩め
「結衣ちゃんも、正直まだ迷ってるみたいなんだよ」
「迷うって、結婚を?だったらしなければいいのに」
強い口調で告げる真澄の顔を見つめながら、宮沢は眉尻を下げた。
「あのな・・」
一旦ぎゅっと引き締めた唇を弛め、ゆっくりと口を開く。
「オレ、お前にずっと黙ってた事があるんだ」
真澄は真っ直ぐな視線を宮沢に向けた。
その瞳には警戒するような色が浮かんでいる。
「結衣ちゃん・・雅貴の子を身籠ってたんだよ」
「えっ…」
予想外の言葉に絶句する。
宮沢は正面に姿を現した湖面に目を遣ると
「あの事故の時にはまだ初期の段階で医者も・・本人ですら
気付いてなかったようだが…」
「…嘘」
やっとの思いで掠れ声を絞り出す。
宮沢流のブラックジョーク。どうせまたからかってるだけよ…
自分にそう言い聞かせ、必死に気持ちを落ち着かせる。
「いや、嘘じゃない」
「それなら!」
真澄は宮沢の横顔を睨み付けた。
「その子は今どうしてるの?まさか…」
『堕胎』
頭に浮かぶ二文字に胃の奥底がズンと重くなる。
宮沢の口からは小さなため息が零れた。
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