第8話

道すがら宮沢が所轄県警から得た事故の状況について説明する。

「峠道のS字カーブでスリップして、そのまま山肌に突っ込んだらしい…

 下り坂だったせいでかなりスピードも出てたんだろうな。

 おまけに現場になった辺りは雪深い。雪道走行に慣れていない

 結衣ちゃんがハンドル操作を誤って…」

「結衣ちゃん?お兄ちゃんが運転してたんじゃないの?」

宮沢は憂鬱な視線をフロントガラスに向けたまま

「事故が起きた時にハンドルを握っていたのは結衣ちゃんだったそうだ。

 途中立ち寄ったコンビニあたりで、運転を交代したんじゃないのか。

 …あのバカ、シートベルトを締めてなかったらしい・・

 衝突の弾みで助手席に乗っていた雅貴が車外に放り出された…」

後部シートですすり泣いていた奈保子の泣き声が一瞬止まる。

真澄もハッと息を呑んだ。

「放り出されたって…お兄ちゃんは・・無事なんだよね?」

宮沢は正面を向いたまま

「判らん・・」

呟くように答えた。


朝靄の中にぼんやりと浮かびあがる白い建物。

『長野順正第一病院』

駐車場に車を止めると、小走りで緊急搬送口に向かう。

すぐに制服の警察官が駆け寄ってきた。

「安西雅貴さんのご家族の方ですか?」

「そうです」

真澄達の代わりに宮沢が返事をすると、若い警官は神妙な面持ちで

「こちらへどうぞ」

と先に立って歩き出した。

しんと静まり返ったロビー。

消毒の匂いが妙に鼻につく。

真澄は母の腕を取り、小刻みに震える身体を支えるようにして

宮沢の後ろに従った。

乗り込んだエレベーターは地下2Fへと降りて行く。

誰ひとり口を開く事もなく、重苦しい空気に押し潰されそうになる。

殺風景な白い廊下を進み、角を曲がった所で警官は足を止めた。

顔を上げた真澄の瞳が大きく見開かれる。

目の前のドアの上に掲げられているプレートには『霊安室』の文字が

刻み込まれていた。





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