第6話
「どうした真澄。ぼんやりして」
ハッと顔を上げると、デスクの横にマグカップを手にした宮沢が立っていた。
今日は美和子が休暇を取っているため、狭い事務所に宮沢と二人きりだ。
「いえ・・別に…」
俯き加減に小さく答えた。
宮沢は美和子の椅子を引き寄せると、隣に座り
「お前さぁ・・結衣ちゃんの結婚式に出席するのか?」
「え・・」
思いがけない宮沢の言葉に愕然とする。
「省吾さんも招待されてるんですか?」
無意識のうちに宮沢の名前を口にしていた。
入社以来、真澄が『所長』という役職名以外で宮沢を呼ぶのは初めての事だ。
この事務所に就職をする際、真澄が自らに科したルール。
兄の親友だからといって甘えたくは無い。
生真面目な真澄の性格を良く知っている宮沢は、何も言わずそれを受け入れた。
そんな真澄の動揺ぶりに苦笑しつつ、僅かに眉根を寄せながらバツの悪そうな
表情を浮かべた。
「や・・結婚の報告は電話で受けただけだ。
やっぱマズイだろ…ほら、アイツも来るだろうし…」
「あぁ・・」
真澄は納得顔で頷いた。
『アイツ』というのは神谷千秋・・宮沢の別れた妻の事を言っているのだろう。
宮沢に千秋を紹介したのは滝本結衣だと聞いている。
高校の頃からの親友である千秋を披露宴に招待しない筈はない。
宮沢を招待しなかったのは、祝いの席で元妻と顔を合わせる気まずさを考慮した
結衣の心遣いか…
「お前には届いたんだろ?招待状」
真澄が顔を強張らせたまま俯くと、宮沢は浅い息を吐き出した。
「まだ結衣ちゃんの事、許せないのか?」
強く噛み締められた真澄の唇が色を失くす。
あれから6年…
どんなに時が流れても心に残った深い傷は癒えることなく、不用意に触れれば
ドクドクと鮮血を溢れさせる。
「なぁ、前にも言ったと思うがあれは事故だ」
「解ってます!」
きっぱりと言い放つ声が微かに震えた。
解ってる・・
頭の中では充分理解している筈なのに、気持ちがそれを受け入れない。
”人殺し!”
あの日思わず叫んだ言葉が、今でも胸の奥底を疼かせた。
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