第5話

見つめていると吸い込まれそうになる深く濃い紫。

真澄は軽い眩暈を覚えた。

「…あなた・・その…」

やっとの思いで絞り出した声が微かに震えている。

琉架は睫を伏せると、小さなため息を吐いた。

瞬きを繰り返した後、再び開かれた瞳は僅かに

青みを帯びているものの、何の変哲も無い黒色だった。

…今のは何?

あたしの見間違え?

目の前に座る天使のような顔をした少年は無表情なまま

じっと真澄を見つめている。

驚愕の感情に代わり、怒りが込み上げてきた。

真澄は気持ちを落ち着けるため、二度深呼吸をし

「悪趣味な手品ね。大人をからかって愉しい?」

怒気を含ませた口調に琉架は苦笑いを浮かべる。

「手品か・・まぁ、どう捉えてもらっても構わないけど…

とにかく手紙は返したから」

隣の椅子に置いてあった本の束を手に取るといきなり席を立った。

「ここ、真澄さんのおごりでいいよね?」

「え・・あ、ちょ・・ちょっと待って」

追いかけようと腰を浮かせかけた真澄を一度だけ返り見た。

深い孤独の漂う視線。

息苦しい程の切なさに胸が締め付けられた。


琉架の姿が夕日に紛れ消えても真澄は金縛りにあったように

その場を動けずにいた。

何だったの…あの子の瞳。

読みもしない手紙から書き手の想いが聴こえてくる?

そんな馬鹿な事…絶対に有り得ない。

今は色とりどりのカラーコンタクトがバラエティショップや

ディスカウントストアで簡単に手に入る。

手先が器用な子なら、一瞬の隙を狙ってコンタクトを装着する事は

可能なんじゃないかしら?

それに手紙だって…封を切らずに読み取る方法があるのかもしれない。

単にからかわれただけ…性質の悪い悪戯よ。

そう自分に言い聞かせてみても、何故だか気持ちがざわめく。

もしかしたら彼の言った事は全て真実なのかも・・

何の根拠もなく、そんな思いが頭を過ぎる。

最後に見せた翳りのある表情が、真澄の心を捉えて離さなかった。

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