1-7 思い出の日
盗賊の襲撃から一週間が経った。
あいかわらず俺は騎士団の中で訓練をしていた。
模擬刀でハービヒトとの模擬試合中。
(ニムト。ハービヒト相手じゃお前の助けがないとヤバい。この剣筋はどうするんだっけ)
頭の中のニムトに聞いてみる。
(……)
ニムトは黙っていた。最近はニムトは黙っていることが多かった。
剣技のアドバイスを受けられないまま、その試合は負けた。当然であるが。
試合後、休憩所でニムトに改めて聞いてみた。
(どうしたんだよ。ニムト。最近黙ってばっかだぞ)
(……悪い……最近……眠くてな……)
虚ろ虚ろ答えるニムト。
そこにハービヒトがやってきた。
「最近調子悪いな。何かあったか」
「実はですねニムトが……」
最近ニムトが眠りがちだと話す。するとハービヒトは
「ニムトの魂がいよいよ消えかかっているのかもしれん」
そう答えた。
ニムトの魂はエリスの攻撃により5分の1の欠片になってしまった。だから俺が憑依することができるのだが、その欠片も長くは持たないという。
完全にニムトの魂が消える日が近づいている。そういうことだろう。
「どうすればいいんですか!?」
俺は縋るように聞く。
「最期の時は見送ってやることしかできん」
ハービヒトは言った。
「そんな……」
悲嘆に暮れる俺。
「それはそうと……などと片付けられる問題ではないが、来週はシャーロ姫の誕生日だ。今週末には給料日だから姫に親しい騎士として、何かプレゼントしてやれ」
そう言ってハービヒトは部屋を出ていった。
◆◇◆◇
そして週末。俺は給料日に貰った金貨の3分の2を巾着袋に入れて城下町をぶらついていた。
プレゼントったってな。やっぱりニムトが渡すべきだよな。
(なぁニムト。姫様へのプレゼント何がいい?)
(……俺が……稼いだ金じゃ……ないからな……)
ニムトは虚ろな声で答えた。
(お前が……決めろ……)
そんなこと言ったってな。
露店を見て回る。
後腐れないように食べ物なんかがいいかもな。
クッキーやチョコレートなどの甘い物を売っている露天商の前を通りながらそんなことを思う。
その後も色々な露店の周りを散策する
すると綺麗なアクセサリーを売っている店を見つけた。
高価なペンダントや指輪が並んでいた。
中に目を引くペンダントが2個トルソーに掛かっていた。
一つは黄色い宝石で星をあしらったペンダントで、もう一つは紅い宝石でハートをあしらったペンダント。
「旦那。このペンダントが気に召しましたか?」
店主と思われる白髪で背の低い老男が話しかけてきた。
「黄色い方が幸運の願いが込められたペンダントで、赤い方が愛を伝えるためのペンダントでさぁ」
プレゼントにはピッタリだと思った。しかし値段も張る。一つにつき給料の3分の1くらいの値段だった。
さて、どっちを買ったものか。友人としてなら黄色いペンダントだよな。
しかし、想い人から幸運のネックレスだけ渡されてシャーロ姫はそれでいいのだろうか。
◆◇◆◇
俺は川辺で休んでいた。
手にした紙袋の中にはペンダントが2つ。
(……その赤いペンダント……どうするつもりだ……まさか、俺からだとか言って……渡す気じゃないだろうな……)
「嫌なのか?嫌なら俺からって渡すけど」
(馬鹿野郎……。シャーロは……
「じゃあ、なおさら俺からって言って渡すよ」
俺はニムトに言った。
「この体は俺のものなんだし。俺のことは俺が決める」
そして
「姫がニムトが好きだというなら、俺はニムトとしてそれを受け入れる。そして俺がこの国の次期王になる」
(……んな……!?)
「それが嫌だってんなら、元気になってこの体の主導権を俺から取り戻してみろよ!」
ニムトは黙っていた。
◆◇◆◇
シャーロの誕生日の前日の夜。俺はハービヒトと一緒に訓練場にいた。
「どういう風の吹き回しだ?夜通しで訓練がしたいとは……?」
ハービヒトが言った。
「いや、ちょっと最近ニムトが寝てばっかりで、俺一人で戦わなきゃいけない場面も出てくると思うんですよ。だからなんとかなるように力量を上げたくて」
「明日はシャーロの誕生日だ。何かしらのプレゼントは用意してあるのだろうな?」
「はい。なので誕生会スレスレの時間まで訓練お願します!」
「よかろう。打ち込んで来い」
打ち込みが始まった。打ち込みは時折休憩を挟みながら次の日の朝まで続いた。
◆◇◆◇
シャーロの誕生会は城の大広間で盛大に行われた。
戦争中とはいえ同盟国の遣いが出席し、シャーロと王に挨拶を贈った。
そして立食会の時間がやってきて各々自由に会話できる時間になった。
俺は体中に痣を擦りながら、眠気を堪えて立食が終わるのを待った。
そして誕生会も終わり解散の時間となった。
俺はシャーロとハービヒトの元にヨロヨロと駆けていく。
「姫……2人で話せないかな……?」
俺は眠気で虚ろ虚ろしていた。それでも我慢し、シャーロに問いかけた。
「ニムト。どうしたの!?そんなボロボロになって!」
「訳は……後で……話す……」
「いいけど……どこで話す?」
するとハービヒトがこう言った。
「裏庭で話すと良い。今は裏庭には誰もいまい。裏庭への入口は俺と部下で見張っていよう。」
◆◇◆◇
そんなこんなで俺はシャーロと裏庭の川のほとりで2人きりで座っていた。
「2人で話すのって何年ぶりだろう」
シャーロが川の水面を見つめながら言った。
「あの……俺、実はシャーロに……秘密にしてたことがあったんだ……」
「えっ……何……?」
「実は俺……二重人格者なんだ……」
「えっ……」
(なんだと……)
シャーロだけでなく、頭の中のニムトも動揺しているようだ。
「姫様が知ってるニムトは俺じゃない、もう一人の俺なんだ」
「待って……どういうこと……?」
「俺はニムトじゃないって言えば分かるかな」
「……??」
まぁ、そうなるのも無理はない。一発で看破したハービヒトが異常なんだよ。
「……整理させて。」
「あぁ……。いつまでも……待つよ。」
それから数分彼女は頭を抱えてぶつぶつ言ってた。
「ニムトが2人、ニムトの身体に居るってこと?」
「そういう解釈で構わない」
「じゃあ、大昔、君を守るよって言ってくれたニムトはどっち?」
「俺じゃない方だ」
「……」
彼女はショックを受け取っているようだ。
「でも、俺も君が大切じゃない訳じゃない。これを受け取ってくれるかい」
俺は彼女の首に黄色い星のペンダントを掛けてあげた。
「これは幸運のペンダント。君の幸運を祈って」
シャーロは黄色い星を手に取りそれを眺めていた。その表情には涙が浮かんでいた。
「そしてこれはもう一人の俺から」
俺は彼女に赤いハートのペンダントをかけてあげた。
「これは愛のペンダント。2人の永遠の愛を誓って」
彼女は暫くすると泣き始めた。
「もう一つプレゼントがある。俺は実は疲れてるときしかもう一人の人格と交代できないんだ。」
半分嘘である。ニムトは弱々しい存在だから、俺が疲れていなければ人格交代ができないのは確か。
しかしこう言っておけば、ボロボロに疲れてるからと言って、ニムトが消えかけてることを誤魔化すことができるからである。
「今から君の知ってるニムトに代わるよ。3……2……1……ゼロっ!」
俺は身体の主導権を頭の中のニムトに渡した。
「……」
ここまでお膳立てしたんだ。逃げるなよ。
そうニムトに忠告した。
観念したようにニムトは喋り始めた。
「やぁ、シャーロ……。約10年……ぶりだね……」
「……!……!」
シャーロは声が出ないようだった。
やがて口を開くと
「……10年間……どこ行ってたのよぅ……」
泣きながら言った。
「遠い地で……戦い続けたが……、君を……忘れたことは……一度も無かった……」
さてと。俺はニムトの頭の中で2人の会話を少し聞いていたが、眠くなったので眠ることにした。
2人の会話は夜通し行われたという。
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