1-4 天使との再会
ハービヒトは去り際にこう言った。
「お前の絞首台での一件だが、俺にはお前が生き残ったのは偶然ではないように感じる」
……はぁ。 偶然ではないならなんなんだ?
ハービヒトは手を軽く振って去っていった。
後日、俺はシャーロの許可の元、城の一室に留まっていいことになった。
そして、ハービヒトに言われた通り、城下町をぶらぶらすることにした。
ニムトはあれからずっと寝たきりである。
ニムトの手持ちの荷物には硬貨が何枚か入っていた。それを何枚か拝借して町に繰り出た。
町は賑やかだった。通りには露店がいくつも出ていて、通りゆく人々でごった返していた。
腹が減ったので串焼きを一本買う。銅貨5枚だった。
牛肉だという。ほぇ~こっちにも牛が居るんだ~。などと買った串焼きを眺めていると、猫のような素早い仕草で串焼きをかっぱらっていく少女の姿があった。
あまりの一瞬のことに呆けたような顔で少女の後を目で追いかける。
ボロボロのフードを纏った子供だった。所謂家なき子というやつだろうか。
串焼きは諦めることにした。もう一本買おう。ニムトには悪いけど。そして腰元の財布に手をかけようとすると……
財布がない。
すると目の前には今度は別の黒いフードを被った少女がニヤニヤと財布をはためかせていた。
そして路地裏に逃げて行った。
こいつ……!
その少女の黒いフードは皺一つ無い綺麗なものだった。一瞬見えた顔も全然貧しさが感じられなかった。むしろいいところのイタズラ好きの少女といった風貌だった。
俺は追いかけることにした。能動的に動かしてこの新しい身体に慣れるチャンスでもある。
「待てコラ!」
俺は走った。街角を曲がり路地裏に入った。
黒いフードの少女が視界に入った。
「この!」
俺は全力疾走で彼女に追いついた。
彼女の方を掴む。
「うひゃっ」
彼女は短く悲鳴を上げた。そして
「こうでもしないと、人気のないところで年端も行かぬおなごと喋る勇気はないじゃろ?童貞だものの〜」
聞き覚えのある声がした。
フードを下ろした彼女は黒くて長い髪に西洋人形じみた整った顔。この世とあの世の狭間で出会った半天使グレイであった。
「グレイ!」
彼女は以前みたときは幼女だったが今は少女くらいの外見になっていた。背中に翼はなく、その姿は人間そのものだった。
「久しぶり。といっても3日ぶりくらいじゃの」
グレイは言った。
「こっちの世界で会うことになるなんて」
「実はお前に伝えておくことがあるのじゃ。お前の今の身体の元宿主が眠っているときしかお前には会えぬ。そういう契約での。だから早急に来たのじゃ」
身体の元宿主。ニムトのことか。
「ヨウイチ。端的に要件を伝える。お前の今の身体には不死の
……なっ!?
なんと言った!?
「お前が絞首台で死ななかったのもそのせいじゃ」
「そしてニムトが魔眼で即死しなかったのもその加護の一端によるものじゃ」
「まぁ、加護を施したのは厳密には妾じゃなくて上の者なんじゃが」
俺は戸惑って言った。
「なんでそんなことをする!?これは俺が生き残れるかどうかを試す試験なんだろ!?不死なら試験にならないだろうが!?」
「所謂異世界転生におけるチート能力と解釈してもらっても構わんぞ?」
「チートだと?そりゃ願ったり叶ったりだけどさぁ!」
グレイは何かを面白がっているようだった。
「まぁ、聞け。不死の加護があるからと言って死なないとは言ってない」
「…は?」
合点がいかなかった。
「言ったであろう。これはゲームなんじゃ。ゲームとして最大の敵を用意した」
そして
「貴様らが命からがら逃げ出してきたあの青髪のホムンクルス。奴こそ
「奴こそ人間ならば必ず殺すことができる最強のNPCじゃ」
「さて、死んでも死なない凡人と、必殺の能力者、どっちが勝つかの?面白くなってきたわい」
不死の加護。不死は不死でも限度があるってことか。
「奴と貴様は必ず戦う運命にある。奴を倒せるのはお前。お前を倒せるのは奴。トランプの大富豪で例えるならば一方がジョーカーで一方がクローバーの3と言ったところかの」
「せいぜいクローバーの3になるよう励むことだ」
グレイは楽しくてしかたがないという風に大笑いしていた。
そして
「では伝えることも伝えたし帰るか。さらばじゃ。妾はいつも空からお前を見ているぞ」
そういってグレイの背中から黒と白の一対の翼が生えてきて彼女を包み込んだ。繭のようになったそれはだんだん小さくなり、気が付くとそこには何も無かった。
「人間狩りのホムンクルス。エリス」
まだその姿は見ていないがその存在は打倒しなければならないらしい。
(誰かと喋っていたのか?)
ニムトが頭の中で起きたようだ。
ニムトにグレイに伝えられたことを教えるか迷った。
結局その夜、城の部屋で不死のこと、エリスのことについて話した。
(来たるべき戦いのためにお前は鍛えなければならない)
(やはりそのエリスを殺すのはハービヒトではない。お前なのだ)
ニムトはそう言った。
ベッドの中でその言葉が頭の中で響いていた。
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