第34話 俺は何者なんだ?
「こ、こんなの……う、嘘……だよね? おい静音さん……静音さんってば!!」
目の前で起こった現実を否定するかのように静音が元いた場所を何度も何度も手で弄り確かめたが、そこには何もなかった。
「ふふふっ。あっさりと
静音さんの命を奪った女の子は未だ信じられぬ俺に対して言い聞かせるように『消えた』っと一言だけ告げると狂ったような笑い声を上げている。
「しず……ね? ぐすっ……何故オマエは……こうもあっさり死んでしまうのだ!!」
天音も俺と同じく目の前で起こった出来事が受け入れられず、溢れる涙を拭いながらそう叫ぶ。
「きゅーきゅー」
もきゅ子も静音さんが居た場所を何度も何度も手で確かめながら、悲しそうな鳴き声をあげている。
「あ~あ。みんなをこ~んなに悲しませちゃって『あの子は何で……消えのかな』な~んちゃってなんちゃって♪ きゃはははっきぃひゃひゃひゃひゃはーっ」
自分がその原因にも関わらず、俺達の神経を逆撫でするようにワザとらしく笑い狂っている。
「か、完全に壊れていやがる。天音……もきゅ子……」
俺はその彼女を見て決意したかのように立ち上がると天音達に声をかけた。
「うむ!」
「もきゅ!」
天音達も俺と同じく決意したように頷き、そして俺の隣に来てその女の子と対峙した。対して女の子も俺達の雰囲気と覚悟を察したように睨みつけ口を開いた。
「へぇ~アンタら私とマジで勝負しようっての? レベルすら表示されてないクセにぃ~? ……っざっけんじゃねぇよ! アンタらみたいな勝ち組にムザムザやられねぇっての!! せっかく私はメインヒロインになれたのよ、誰であろうとその邪魔はさせないんだからねっ!!」
目の前にいる女の子は怒り狂い全身からどす黒い霧のようなモノを身に纏い、足元には黒い魔方陣のようなモノが出現していた。
オオオオッッッッ。その音はまるで地獄で苦しみそこから這い出てくる呪詛のようにも聞こえる。そして俺達に向け詠唱をしないで魔法攻撃を仕掛けた来た。
ヒューンヒューン。魔方陣から黒い闇が飛び出すように天音ともきゅ子に向け放たれた。
「うわぁぁぁ」
「きゅゅゅっ」
天音ももきゅ子もその黒い闇がぶつかり地面へと倒れこんでしまう。
「天音!? もきゅ子!? 大丈夫か!!」
その問いかけも空しく返事がない。……まさか死んだわけじゃないよな?
「安心しなさい。
「た、楽しみだと……オマエの好きにはさせないからな!」
俺は前を向くとその女の正面へと躍り出る。
「ふん。アンタの出番は一番最後なのよ。何故なら仲間を一人……また一人……っと殺してアンタが悲しむ顔が見れなくなっちゃうからねぇ~♪」
「楽しみってのはそうゆう意味なのかよ……趣味悪すぎんだろうがこの悪党めっ!!」
その物言いと考え方に怒りを覚え、怒鳴りつける。
「私が……
「分かってた? ……何をだよ?」
俺は彼女が言ったその言葉の意味が理解できない。
「こうなることを、よ。そもそもアンタの
「さっきから何の話してんだよ? オマエの言ってる意味が分からねぇよ!」
(俺の言動がおかしいだと……おいおいそれは自分の間違いじゃねぇかよ?)
そんな彼女の物言いに対して顔をしかめてしまう。
「何でアンタは
先程とは打って変わったように今度は落ち着いた様子でそう語りかけてきた。
「認識って……俺にはさっきからオマエが何言ってるかさっぱり理解できねぇよ」
俺は本当に理解できず同じことを繰り返す。
「この世界が……
「作られた世界の認識? それに何者かって? はん! 今更何を言ってやがるんだよ、俺はこの物語の……」
そして俺はようやくその言葉の意味を知り、思わず息を呑んでしまった。そう俺は最初から気付くべきだったんだ。何で俺は
「
「…………」
そこに至りようやく彼女の言いたいことが理解することができたのだ。
『物語に住む登場人物が何故自分が物語の登場人物だって認識しているのか』って事なのだ。早い話その人が15年也の人生を生きてきたとすれば、それらすべてが自分ではない誰かによって作られた
(そもそも俺は何者なんだ? 俺は誰かに作られた存在なのか? じゃあこれまでの人生15年全部が……嘘ってことなのか? あ、頭が……頭が痛い!)
「お、俺……俺はぁっ!!」
俺は頭が割れそうに痛くなり前のめりに倒れ込むと、その痛みから逃れるよう両手で側頭部を押さえつけ、その場に
『それでも……この運命に抗うしか道はないだろ?』
「えっ? い、今の声は……?」
「声? 何のことよ?」
どうやらその声は俺にしか聞こえなかったみたいだ。だがその言葉によって俺は迷いを振り切ることができた。そして立ち上がると女の子と対立する。
「ぐっ!? く、来るなら来てみろってんだ!!」
俺は腰に携えていた
カタカタ、カタカタ……手足が震え、それが伝わり剣身まで小刻みに震えてしまっていた。
「ふふっ。ほんとは怖いクセに……手足だけじゃなく声まで震えてんじゃないのよアンタ」
虚勢を張っているのを速攻で見破られ、俺は逃げ出したい気分になる。
「逃げないんだね……それならこれを食らいなさいな!」
『ぅぅぅぅぅ……があああああっ』
そう叫ぶと同時に先程天音達を襲った黒い闇が唸り声を上げが狼のような形になり、俺に向かい襲い掛かってきた。
「が……はっ」
その黒い闇が剣にぶつかると弾くこともできず、吹っ飛んでしまいそのまま大の字で倒れてしまう。
「ぐっうおぉぉぉっ……し、死ぬほどいてぇよ」
だが不思議なことに死んではおらず全身を叩きつけられるだけで済んでいた。何故俺は死なずに済んだのだろうか……。
ガキン! 倒れた俺の右頬を鋭い剣が掠めた。
「予定変更よ。せっかく手加減してやったんだからね。アンタは……直接殺してあげるわ」
女の子は倒れている俺に馬乗りとなり恐怖を覚えさせるため、わざと掠めるように床へと突き刺したのだろう。
「早く殺しやがれってんだ!」
俺は目一杯強がりを言い早く自分を殺すように怒鳴りつけた。
「アンタだって……ほんとは死ぬのが怖いんでしょ?」
「ああ、ほんとは死ぬのが怖いさ! それに超痛いしね!! これは死んだことがある人しか分からねぇ痛みだもんよぉっ。もし知りてぇってんなら、オマエも一回死んでみやがれってんだ!」
自棄になった俺は開き直りとも思える逆ギレしてしまう。
「そっ……じゃあ……アンタを殺して私は生きてやるよぉぉぉぉっ!!」
女の子は床に突き刺した剣を抜くと空高く振り上げそして、突き刺した。
「静音さん……ごめんっ!!」
俺は死期を悟ると同時に何故か静音さんに対して謝ってしまう。
『ビューッ!』そんな乾いた音がすると『ポタ……ポタポタ』っと俺の顔に温かい何かが落ちてきた。
「お、俺は……死んでないのか?」
(何か妙に温かい液体が顔を濡らしてるんだけど、もしかして彼女の涙なのか?)
そんなギャルゲー的展開に修正してもらうことを期待していたのだが、生憎と俺の予想は大きく外れてしまう。そして目を開けると更にとんでもない展開が待ち受けていたのだ。
『ポタポタ、ポタポタポタ……』
「こ、これは鉄の匂い???」
嫌な臭いが鼻一杯に広がり、そこでようやく俺は目を開けて状況を確認する。
「えっ? えっ? 何なんだよ……こりゃ……」
見れば女の子の体には一本の矢が刺さっていた。そして俺の顔を濡らしていたのはその傷口から溢れ出す血に他ならない。
「ぐっ……何で私が……こんな目に……遭うっていうのよ……せっかくメインヒロインに……なれると思ったのになぁー……ほんと嫌になるわよ」
女の子はまるで恨み言を紡ぐようにそんな言葉を口にしていた。
「お、おい大丈夫なのかよ! おいしっかりしろ!! くっそ、どっから撃ってきやがったんだ?」
(もしかするとまだ敵がいるっていうのか? 冗談も大概にしやがれよ)
俺は自分の上から倒れてくる彼女を支えると必死に声をかけ続け、そして矢が放たれた方向を探した。……すると、薄暗い王座の後ろに人影のようなモノが見えた。
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