第33話 赤い髪はメインヒロインの証!
「し、静音さん! 大丈夫か静音さん!!」
いきなりの事で状況が理解できず、ただ彼女の名前を叫ぶことしかできなかった。
「だ、大丈夫……ですよ……ア……ナタ様ぁっ……ごほっごほっ」
静音さんは口から血を吐きながら顔色の悪い笑顔でそう語りかけてきた。
「へぇ~背中を剣で刺されて大丈夫……ねぇ~っ。ならこれはどうなのよぉぉっ!!」
ブシャッ、ブシャッブシャッシャッ! その言葉に合わせるように剣を何度も抜いたり刺したりが繰り返され、静音さんの胸元からは大量の血が止め処なく溢れ出していた。それも何箇所も何箇所も時にグリグリっと剣で抉られていた。
「……ご…ふっ……ア……ナタ……さ……ま……助……け」
静音さんはまるで助けを求めるように俺を呼び右腕を伸ばしてきた。必死に右手を伸ばすが後ろから剣で刺されているため、その距離は数センチも縮まらない。
「アンタ、やっぱりコイツのことが好きなんじゃないの! ったく、もうほんっとこれ以上のラブコメは勘弁してよね、っと!!」
「ぐふっ……」
その声は最初楽しげでもあったが、最後はまるで恨みでも込められたような呪いの言葉にも聞こえてしまった。声から察するに
「静音大丈夫なのか!?」
天音が一歩前に出て静音さんの元へと駆け寄ろうとしていたが、その声の主の行動で遮られてしまう。
「ふん! アンタもそんなにこの子が心配なの? なら……っと!」
静音さんの胸元を貫き支えていた剣がその言葉と同時に勢い良く抜かれると、静音さんはゆっくりと前のめりに倒れこみそうになっていた。『このままでは静音さんが階段から転げ落ちてしまう!?』そう思い俺は駆け寄ろうとするがその女は倒れゆく静音さんを『うっとおしいのよ!』とまるでゴミでも扱うように蹴り飛ばし、静音さんは階段から転がり落ちてしまう。
「がはっ……がほっがほっ……ごほっごほっ」
静音さんは呼吸するたびに口から大量の血を吐き出しもがき苦しんでいた。それも俺の目の前で。
「静音さん!? 静音さん大丈夫か、しっかりしろ!!」
俺は目の前の静音さんに駆け寄るとすぐさま抱き起こすが、刺された胸からは血がたくさん溢れ出し、また口からも止め処もなく血を吐き出していた。それは誰の目に見ても助からないと思うだろう。だが俺は諦めきれず静音さんの意識を保たせるように名前を叫ぶ。
「静音さん死ぬんじゃないぞ。い、今止血してやるからな!」
素人目に見ても静音さんの傷口はもう何をしても手遅れなはずだ。だが何もしないわけにはいかず、俺は静音さんの胸を両手で押さえ圧迫止血しようとするのだが、何の意味も成さない。剣で何回も刺され黒色のメイド服は元の色が判らないくらい静音さんの血で真っ赤になっていた。
「にっひひひっ。アンタばっかじゃないの~。そんなもんですぐに血が止まるかってーの、ばーかばーか。きゃひひひひひひ」
その女は奇妙な笑い方で必死に止血している俺を小馬鹿にしている。そして何を思ったか徐に剣に付いた静音さんの血を指で挟み込むように拭うと、自分の髪へと塗りたぐり始めていた。
「赤い髪はメインヒロインの証! 赤い髪はメインヒロインの証ぃ~っ!! そうよ、そうなのよ。赤い髪はメインヒロインの証なのよ!! 赤い髪は……」
まるで呪文、いや呪詛のように静音さんが言った言葉を繰り返し呟いている。
「お前は一体何者なんだ!? 何故静音を剣で刺したのだ!!」
天音が怒りに狂いその女に対して叫んだ。対してその女はまるで当然と言った感じでこんな言葉を口にした。
「何者って……私は
天音の問いにその女は笑い狂いながらそう叫んでいた。
「ほ、本当のメインヒロインだって……この物語のメインヒロインは天音のはずじゃあ……」
「アナタさ……ま。彼女は……きっ……と……
「
静音さんは苦しみながらもどうにか声を絞り出し俺に伝えてくれた。
「このメイドさえ現われなければ、あっちの世界で私はそこにいる男と結ばれてメインヒロインになれたはずなのよ! それなのにそこの女がこの赤いのを担ぎ出したせぇでぇっっ!!」
まるで恨みを込めるように天音に向かって『お前のせいだ!』と睨みつけている。
「あっちの世界だと? 何を訳の分からないことを言っているのだ! それに私が静音からメインヒロインに仕立て上げられたというのか? で、デタラメを言うな!!」
天音はまるでその真実を受け入れられないとばかりに取り乱しそう叫んだ。
「いくらアンタが喚こうがこの事実は変わらないわよ。これならどうかしら?」
その声の主はまるで暗闇から光を当てられたように一歩前に出ると、その姿を俺達の前に晒した。その子は学校の制服を着ていた。
「えっ? き、キミだったのか……」
そう俺はその子と現実世界で逢ったことがあったのだ。それは入学初日の放課後、天音達から逃げる際に階段でぶつかりそうになった女の子だった。
「ええ、そうよ。やっと思い出した? あの時アンタがあそこで私とぶつかる
その子は静音さんをその視線だけで殺さんばかりに睨みつけ、今にも襲いかかって来るかのように興奮しきっていた。
「ごほっ……ごほっ……」
静音さんは息ができなくて苦しいのか、俺の胸元にしがみつき咳をするように血を吐いている。
「し、静音さん……」
俺は何も出来ずにただ彼女を抱きしめることしかできない。
「ワタシなら……大丈夫ですからねぇ……こんなのはかすり傷ですから……す、すぐに治りますよ……ふふっ……」
静音さんは自分がもう長くないのを悟っているのか、俺を安心させるため
「(すんっすんっ)そ、そうだよな……静音さんがこれくらいで死ぬわけないもんな!」
目から溢れるの涙を手で必死に拭い静音さんの思いを汲むように俺もいつもどおりの軽口を叩く。
「そ~んなに血を出しちゃってぇ~大丈夫……ねぇ~♪ きゃひひひひ」
その女の子はまるで俺達をあざ笑うよう奇妙な奇声と共に笑っている。俺はその声から静音さんを守るように強く強く抱きしめた。
「ふふっ……男性に抱きしめられるとは……このように温かいのですね」
「ああ、ああ!! ……そうだね静音さん」
もはや静音さんの目は見えていないのか、俺とは反対側に話しかけていた。俺は彼女の右手を取り自分の頬に当て自分の居るところを教えてやる。
「ちっ……ほんと良い雰囲気作っちゃってぇ~……イラつくわね!」
ビュー……ズシャリッ。女の子がそう言ったと同時に剣が投げられた。それはまるで静音さんの胸元へと吸い込まれるように突き刺さってしまい、
「がっはっ……ア……ナタ……さ……ま」
そして静音さんの命を奪ってしまった。
「し、静音さん? 静音さん静音さん静音さん……静音さーーん!!」
俺の頬に添えられていた血まみれの右手は、まるで静音さんの命そのモノ表すよう力なく地面へと落ちてしまった。
「静音さん……ううっ……ぐすっ……すっ……」
俺は死んでしまい動かなくなった彼女を抱き抱えたまま、溢れ出る涙を手で何度も何度も拭うがその流れを止めることはできない。そしてそれと同時に俺はこんなことを思ってしまっていた。
『この世界では例えヒトが死んでも
だからもしかしたら俺は心のどこかで油断していたのかもしれない……
突如として静音さんの体全体が光出すと同時に眩いばかりの大量の光が部屋全体を支配すると、やがて音もなく静音さんの体は光の玉となりそのまま消え去ってしまったのだ。
それはまるで俺の『言葉』を、そしてその『想い』すべてを否定するかのように
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