第24話 ジャスミンへの疑念と初めての依頼

「で、お兄さん達は依頼を受けてくれるのかな? そのために来たんだもんね!」

 やはり先程の言葉は厭味を籠められていたのかもしれない。『お前ら金ねぇんだから当然依頼は受けるよな?』っとやや強い口調に思えてしまった。


「あ、ああ……俺達でも出来る依頼なら受けてみたいけど、大丈夫なのか? 普通ギルドとかって『互いの信頼』が大事なんだよな? 余所者の俺達なんかが依頼を受けちまうと他の依頼を受けてくれる人に迷惑かかんねぇのか?」

 一応紛いなりにもギルドの知識があった俺はギルドのことわりについてをジャスミンに聞いてみたのだ。後々それが元でトラブルになるとも限らないと危惧しての行動だった。


「ふふっ。お兄さんって気遣い上手なんだね? いや、それとも慎重派なのかな? でも心配してくれてありがと♪ うん、そうだね。お兄さん達パッと見で冒険者みたいだけど、もしかしなくても魔物と戦闘したことないでしょ? 違う?」

「えっ!? いや、まぁ……でも何で判ったんだよ?」

 俺はジャスミンに対して少しだけ警戒心を上げることにした。だがそんな俺の疑念を吹き飛ばすかのように彼女は笑いながらもその種明かしをしてくれる。


「だってぇ~お兄さん達の鎧や服が全然汚れてたり痛んだりしてないんだもん(笑)そんなの子供にだって判ることだよ~。ふふふっ」

 ジャスミンは然も当たり前のように笑いながら俺達の格好を指差して説明してくれた。


「あっそれもそうだよな……」

 確かに俺達の衣服は綺麗そのものだった。汚れどころか傷一つ無い。これでは言い訳のしようがなかった。俺はジャスミンに対する警戒心を解き、変な疑念を抱いてしまった事を心の中で謝る。


「それでワタシ達は依頼を受けることができないのでしょうか?」

 静音さんにしては珍しく率先してそんなことをジャスミンに聞いていた。たぶん一応この世界の管理人らしいから物語が円滑に進まないと彼女も困っての行動かもしれない……決してお金目当てでないことを祈るとしよう。


「うーん、そうだなぁ……あっ、ならこうゆうのはどうかな? ギルドを通さずにボク個人がお兄さん達に依頼をするの。これなら誰からも文句を言われないし、ギルドの名前に傷がつくこともないでしょ?」

 良い考えだ! っとばかりにジャスミンは手打ちをしていた。


「うん? ならジャスミン個人が俺達に依頼をするっていうのか? 何か困ってることでもあるのか?」

「う、ん……実はね。今朝のことなんだけど、この裏手にある井戸からおかしな声が聞こえてきたんだ……」

 笑顔がウリのジャスミンにしては珍しく歯切れが悪い感じでその依頼内容を話してくれた。


 聞けば今朝ジャスミンは昼の仕込をしようとこの宿屋の裏手にある井戸に水を汲みに行ったのだという。ところがいざ水を汲もうとすると井戸の奥底から眩いばかりの光が放たれ中から女の人の声が聞こえてきたのだという。だが何故だかその場を離れると光と声は聞こえなくなったという。ジャスミンは怖くなり水を汲むのも忘れ逃げ帰って来てしまった。


 水は飲み水にも必要だが、料理にも必要不可欠である。今はまだ水瓶に数日分の蓄えがあるのだが、事態は急を要するとのこと。依頼というのは『井戸の中から聞こえてくる、謎の光とその声の正体を突き止めて欲しい』とのこと。

 もしそれが本当に女の人だったら救出しなければならないし、もしかすると魔物が井戸の中に潜んでいるかもしれないとジャスミンは危惧して依頼を頼みたいのだと言う。


「……それで困ってたんだ。でもギルドを仕切ってるボクが依頼を受けてくれる人達に『怖い』なんて言ったらギルドの信用にも関わるし、どうしようかと困ってたんだ……お兄さん達! この依頼受けてくれないかな!!」

「井戸の奥底からから光が放たれて、そして声が聞こえる……確かにそれはちょっと怖いよな」


(もしかするとジャスミンが言ったように中に魔物がいるかもしれない。普通人間が井戸の中に入るわけがないし、もし仮に人が誤って落ちて助けを求めてるとしたらジャスミンが井戸から離れたら声が止んだというのもおかしいよな? それに何より光を放つなんて魔物以外いねぇよな?)

「……それはもしも魔物の場合は『討伐』をする。人間の場合は『救出する』ということで基本的にはまず『調査』になるのですね?」

 静音さんはこの手の事に慣れているのか、淡々とそうジャスミンに質問をしていた。


『あっもちろん報酬は正当な額を払うからね!』っとジャスミンは必死に頭を下げ、両手を合わせながら今にも泣きそうな顔でこの依頼を受けてくれるよう頼んでいた。確かにギルドを仕切ってるジャスミンがそんなことに怯えるようでは依頼する人も、また依頼を受けてくれる冒険者達もジャスミンを信用しなくなってしまうだろう。なら、俺が取れる行動は一つだよな?


「ああ、いいぜ! 俺達で解決できるか分からないけど、その依頼受けてやるぜ!!」

 俺は啖呵を切ったように張り切ってそう宣言したのだ。

「ほんとぉ~お兄さん!! ありがとう~♪」

 ジャスミンは依頼を受けてくれた事に安堵し、今にも泣き出しそうな顔から一気に笑顔となり感謝の言葉を述べていた。そして二つ返事でこの依頼を引き受けてくれたのが嬉しいのか、俺の両手を手に取り自らの胸元で手で大切そうに包み込んでくれた。


「じゃ、ジャスミン!?」

 普段女慣れどころか手すら握ったことのない童貞代表人の俺はいきなり手を取られたことにも驚き、そして胸元で優しく手を包み込まれた事には更に驚いてしまう。ジャスミンはそれほどまでに依頼を引き受けてくれたのが嬉しいのだろう。


「お兄さん……」

「……ジャスミン」

 そしてそのまま俺とジャスミンは手を握り合ったまま、見つめ合ってしまう。もしかしたらこのままジャスミンとキッスを……。

「「こほんっ」」

 そんな俺達二人の雰囲気を壊すかのように傍にいた天音達がワザとらしい咳き払いをして邪魔する。


「あっいや……ははっ。こ、これはその……」

「あはははっ……」

 邪魔をされた俺とジャスミンは誤魔化すかのように笑いその視線から逃れる。そして誤魔化すかのようにジャスミンは天音達に話しかけた。


「あっでもお姉さん達は……依頼を受けて大丈夫なのかな?」

 ジャスミンは天音達に目を差し向け、少しだけ不安な顔をする。

「あっ……わ、わりぃ。俺一人で勝手に依頼を受けちまってさ……」

 俺は天音達仲間がいるにも関わらず自分一人だけでジャスミンの依頼を受けてしまい、バツが悪かったので節目がちに天音達に謝る。


「ふふっ。な~にいいさ。キミに先を越されてしまっただけで、本当は私だって困ってる人を見過ごせないと思っていたところだ。なんせこの私は勇者天音だからな! そうであろう静音、もきゅ子!」

 天音は俺に気遣ってか、いつもより大きな声で『勇者だから……』と言って笑っていた。


「ええ。そうですね。それにワタシ達がお金に困っているのも確かですしね。ジャスミンの手助けになるのなら一石二鳥というものです」

「もきゅもきゅ♪」

 静音さんももきゅ子も天音の言葉に同調するように喜んでジャスミンからの依頼を受けてくれるようだ。


「天音……もきゅ子……そして静音さん。ありがとう!」

 俺は本当に良い仲間を持ったと改めて自覚した瞬間だった。

「それでその問題の井戸はどこにあるのですかジャスミン?」

 静音さんはさっそくそのおかしな井戸の場所を聞いていた。


「あっ、うん。この宿屋の裏手の方だよ。行けばすぐ分かると思うよ。ボクが言うのも何だけど……お兄さん達気をつけてね! 危ないって思ったらすぐに逃げて来ても大丈夫だからねっ!! 変に遠慮してお兄さん達が怪我でもしちゃったら、ボク……」

 おせっかいで俺達が依頼を引き受けたとはいえ依頼人であるジャスミンは心配してくれている。俺はそんな暗い顔をして心配するジャスミンの気持ちを吹き飛ばすように明るくこう答えた。


「ははっ。そんな心配そうな顔するなってジャスミン! 俺達だって怪我なんかしたくねぇもん。もし井戸の中から魔物が現われて俺達だけで手に負えないようだったら、逃げ帰ってくるから安心しな!! なぁ~に逃げ足には定評があるんだぜ俺は♪ なぁみんなもそうだろ?」

 俺はジャスミンを安心させるようにワザと明るく振舞い冗談を言った。

「あ~はっはっはぁ~っ♪ 私は勇者だからな、魔物の一匹や二匹どうってことはないさ!!」

「もきゅもきゅ♪」

 どうやら天音ももきゅ子も俺の意図が伝わったようだ。


「まぁいざとなれば、アナタ様を犠牲にしてでも生き延びてやりますよ♪」

「静音さん、アンタ相変わらずオレを犠牲にする気なのかよ!?」

 そしていつものように静音さんも俺をる気に満ち溢れているようだ。だがこんなときでも静音さんのユーモア精神は健在なのだろう……ほんとに俺を犠牲にしないよね? それがユーモアだったと信じたい今日この頃。


「では『善は急げ』とも言うしな、それではさっそくその井戸とやらに行ってみようではないか!」

 天音のその言葉にみんな頷くと俺達は宿屋の裏手にあるという井戸に向かう事となった。

「ここがそうなのか?」

ジャスミンが言ってたとおり、井戸はすぐに見つかった。


 街の表側はレンガがしっかりと敷き詰められていておりちゃんとした道として整備されているのだが、裏手は普通に野原と言った感じになっている。どうやらこの街は住人の意識を保つ目的と外から来る冒険者に配慮して見た目だけを取り繕っているのかもしれない。


「まぁ畑あるくらいだもんね。それも仕方が無いのかもしれないよな」

 宿屋の裏庭は自分の土地を示すかのように木で作られた柵で覆われており、一応の線引きとして隣の家と区切られている。

「ふむ。どうやらアレが例の井戸らしいな」

 天音は庭の真ん中に設置されている井戸を指差しながら再度確認する。


「どうする? 一応はいつ戦闘になってもいいように、武器を出しておくか?」

 俺は井戸の中を調査する前に『もしも相手が魔物だった場合』に備えようと提案した。みんな異論なく頷くように各々の武器を取り出して戦闘に備える。天音は札束を、静音さんはモーニングスターを、そして肝心の俺はゲームのコントローラーともきゅ子を抱いていたのだ。


「…………そういえば、もきゅ子置いてくるの忘れてたな」

 そう俺はずっともきゅ子を抱きぱっなしだったのだ。正直この程好い重みに何故だか癒やしを感じつつあり、まったくもって違和感がなかったのだ。


 そして時折もきゅ子が『すりすり』っと甘えるように胸に顔を擦りつけきて、むしろヤバイくらいにカワイイっと思ってしまうくらいだ。だがさすがに戦闘になっては抱いたまま戦えないし、そもそも抱いているもきゅ子が危険に晒されてしまうだろう。俺は抱いているもきゅ子を井戸から少し離れている地面に降ろす。


「いいかもきゅ子。井戸は危険かもしれないからさ、ここで待ってるんだぞ。分かったか?」

「もきゅもきゅ♪」

 もきゅ子はまるで俺の言葉を理解したかのように頷くと大人しく地面に座り込み『気をつけてね~♪』と言った感じで手を振り見送ってくれた。


「よしっと。…………ごめんなみんな!」

「な~に、別に構わないさ」

「まぁもきゅ子も大切な仲間ですしね」

 俺は待っててくれた天音と静音さんに謝ると戦闘準備をする。


「……で、井戸の様子はどうなんだ? 声とか光が見えたのか?」

 もきゅ子を避難させるため井戸から少し離れていた間に何かなかったかと天音に聞いてみた。

「いえ、特にこれといって変化はありませんでしたね」

 隣にいた静音さんが何も変化がなかったことを伝えてくれた。


「うむ。正直こんなことは言いたくないのだが……もしかするとジャスミンの勘違いという可能性もあるからなぁ。まぁでも慎重になるに越した事はないだろう」

 さすがは勇者と言うべきか、天音は警戒心を緩めない。

「……とりあえず、近づいてみましょうか?」

 静音さんは『井戸に近づかなければ何も始まらない』っと、もう少し歩み寄って調べてみようと提案してきた。


「そうだね。遠くから眺めてても何も分からないしね」

 俺達は武器を構えたままゆっくりゆっくりっと一歩一歩井戸の方に近づき歩んで行く。正直井戸を実際にこの目で見るのは初めてだったが、その大きさはあまり大きくはなかった。人一人がようやく入れるほどの大きさだと思う。そんなことを思いながら井戸に近づいてみると……。


『ピカピカ、ピカピカ………(ませ)…………(した)」

 いきなり井戸口から光が溢れ出し、中からは女の人のような声が響き渡ってきたのだ。

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