第23話 魔王襲来とギルドと疑念の払拭
「ダン、ダン♪ ダンダン♪ ダン、ダン♪ ダンダン♪」
俺の目の前にいたはずの静音さんがついに正体を明かして魔王の姿で現われた。しかも何気に
「うん? どうしたんだキミ? 早く来ないか……って魔王が何故ここにいるのだ!?」
今まさに店の中に入ろうとしていた天音が逸早く異変を察知すると急ぎ俺の元へ駆けつけてくれる。
「ま、まさか魔王自ら単身で攻めに来るだなんて……もしかして単身赴任(出張)でこの街に攻め入ってきたのか!」
さすがの勇者である天音も魔王の姿を見て動揺を隠せない様子……いや、こんな状況下でもいつもの天然ボケだけは健在だった。
「もきゅ~?」
もきゅ子だけは『何この茶番?』っという表情を浮かべ首を傾げていた。それはまるで魔王の正体を知っているかのように落ち着いている。
「(まぁ見た目は魔王っぽいけど、まんま静音さんだもんなぁ。もきゅ子が魔王の正体に気付いてもおかしくねぇよ。むしろこんなことに気付けない天音の将来が心配になってくるわ)」
「くくくっ。勇者よ、ワタシの姿を見て驚いているのか? ワタシはこの世界の魔王『アイギス』だ! かぁ~っはっ、はっ、はっ、はっ、は~っ」
魔王はそう名乗り上げると高笑いしだした。何気に腹式呼吸を意識しているのか、とても良い発音で笑い声を区切りまくってやがる。
そしてただ魔王が笑っている。それだけの事なのに俺達は一歩も動けなくなってしまう。いきなり目の前に魔王があらわれたプレッシャーもあるだろうが、もしかすると魔王の体から出ている闇のようなオーラが関係しているのかもしれない。だが勇者である天音はそのプレッシャーに耐え忍び、まるで激流に逆らうようにこう宣言した。
「ぐっ!? わ、私は『勇者』なんだぞ! いきなり敵の大将である『魔王』が現れたらそんなの驚くに決まってるじゃないかっ! 今後私を訪ねて来る時にはちゃんと事前に
「…………」
(ごめん天音さん。ここ笑わせるところじゃないんだよ。何その開き直り方? しかも何で逆ギレっなんすかね? そもそも相手は魔王なんだから事前にアポとか取るわけねぇだろうが!!)
俺は心の中で天音の物言いに対しツッコミを入れる。
「くくくっ。この
そう言うと魔王は俺達に頭を下げ丁寧にお辞儀をして謝罪してくれる。
「う、うーむ。魔王なのに意外と礼儀正しいヤツなのだな!」
天音もいきなり謝られてしまい戸惑いを隠し切れない様子。傍にいた俺はまるでコントを見ているような錯覚に陥ってしまい、頭痛と眩暈がしてよろけてしまう。そして読者の手前、右手で目と額を隠すような中二病っぽい動作で誤魔化すが内心この茶番に心底呆れ果ててしまったのだ。
「ちなみに魔王がここに現われた目的は何なのだ!」
天音は意を決して前に出ると魔王に問いただす。
「目的だと? はぁ~はっはっ。そんなものは決まっているだろう? この世界を支配するため、お前達勇者一行を殺しに来たのだ!」
「(魔王なのにこっちの質問にあっさりと答えちゃったよ。いいのかよそんなので?)」
「この世界を支配する……だと!? そんなの私だってしたいと思ってるのを我慢しているのだぞ!! そもそもこんな大事な時に静音のヤツは一体どこに行っているのだ!?」
「(いやいや、その静音さんが『魔王』なんだよ。いいかげんそれに気付いてくれよ)」
確かに目の前の魔王は髪の色とか服装は変わっていたが声は静音さんそのものである。人ではないもきゅ子ですら魔王の正体に気付いているのにこの
「おい静音、いたら返事をしろっ! 静音っ!!」
「(いや、天音。そんなので釣られるわけ……)」
「返事をしたら金をくれてやるぞっ!」
「(元気良くはっきりと大きな声で)はい! ……あっ」
「(おいぃぃぃ~っ!? 今普通に静音さんが素で返事しやがったぞ!? しかも何気に『(返事をして)しまった!』って表情しながら可愛らしく右手を口に当てて、ワザとらしく可愛さアピールしてやがるし)」
金の魔力に負けたのか、静音さんこと魔王は天音の問いかけに答えてしまったのだ。だが天音はその返事にすら気付いた素振りはなかった。
「もきゅ~?」
もきゅ子は『いつまで続くのこの茶番?』っと言った感じで俺のズボンの裾を掴んでいた。
「(もきゅ子。オマエの言いたいことは理解できるよ。俺だって同じ気持ちなんだもん)」
そんな俺ともきゅ子をお構いなしに物語はどんどん進んでいく。
「くくくっ。はあぁ~っはははははっ。ごほっごほっ……ゆ、勇者達よ。少しだけ待つがいい。い、今息整えるから……」
無理な笑いな為か、魔王は笑いの途中で咳き込んでしまう。そして何気に魔王から勇者であるオレ達へと『待った宣言』までしてきやがった。
「うむ。待ってやるからちゃんと息を整えててから、間違わずにセリフを言うのだぞ!」
『これは勇者なりの慈悲なのだろうか?』『はたまたもしもアニメ化した際の
「はーっははははっ。甘い、甘いぞ勇者一行よ。いくらセリフ途中で咳き込み『待て!』と言われてバカ正直に待つとはな! それではそのお礼にオマエ達を倒してくれるわっ!!」
「何ぃ~っ!? それは『お礼』には当てはまらないではないのか! そもそも魔王ならまず最初に勇者一行を倒すのが筋じゃないのか!? 何故魔王であるオマエは私達を狙うのだ!!」
「(天音、俺達がその勇者一行なんだよ。もしかして設定すら忘れてやがるのか? ってかオマエら真面目にやれや!! まともなのは俺ともきゅ子だけなのかよ……)」
もうこの場がカオス化していたが、もう少しだけこの茶番は続く。
「ならオマエ達には痛みを感じる
そう言うと魔王は右手に持っていた本のような物を掲げた。すると頭上に大きな火の玉が出現し次第に大きくなっていった。
「あ、あれは巨大な火の玉なのか。まるで……線香花火のようだ」
「(ごめん。だからさ天音さん。その
そんな『線香花火下から見上げてるの? そしてその後、落ちて灰になっちゃうの?』っと最先端のトレンドを突っ走る俺達だったのだが、そのときタイミングよく『ぷるるる~♪』っと電話の着信音が鳴った。『えっ? このタイミングで???』っと思ったのも束の間。
「はーい。もしもし静音ですけどぉ~」
あろうことか目の前にいる魔王はどこから取り出したのか、スマホ片手に電話に出てしまったのだ。
「(おい、何このシリアスな場面で電話に出てやがるんだよ!? しかも今まで散々『魔王』で通してたのにご丁寧にも電話口で『静音』ってしっかりと名乗ってるしさぁ!! もう隠す気ねぇだろうそこのクソメイド)」
そんなツッコミ真っ盛りの俺を無視するかのように魔王こと静音さんは通話を続けている。
「ええはい。あ~そうでしたか。分かりました。そのように致しますので……」
どうやら静音さんの電話が終わったようだ。
「(一体誰からの電話だったんだよ。そのあたり説明しないと読者が混乱しちまうよ……)」
まるで俺の心の声に同調するように魔王が補足説明してくれる。
「くくくっ。どうやら作者からとんだ邪魔が入ってしまい、しかも文字数の関係でそろそろ時間のようだ! あーあれはなんだぁー?」
いきなり間抜けな声で魔王は空を指差して俺達の注意を背けようとしていた。
「(いや、今時誰がそんなのに引っ掛かるんだよ……)」
そう俺は思ったのだが……
「何があった!! ドラゴンでも飛んでいるのか!?」
「もきゅ~?」
あろう事か天音だけでなく善良のもきゅ子までそれに釣られ魔王が指差した方角を見ていた。だが俺はそんなのには引っ掛からず、じっと魔王から目を逸らさない。
「(いやいや、アナタ様。天音お嬢様達と一緒にアホ面下げながらあっち向いててくださいよ。そんなに見られていたら着替えられないじゃないですか。あっち見ないとまたモーニングスターでぶち回しますよ!)」
などと静音さんこと魔王に武力で脅されてしまい、結局は俺も天音達同様アホ面を下げながら明後日の方向を向くことに。
「ほげらぁ~」
『見られていたら着替えられない? じゃあさっきはどうやって着替えたんだよ?』などと無粋なことは思っても口にせず、俺はアホな子のようにお口をアングリと開け放ちながら静音さんが着替えを終えるのをただ待つことしかできなかった。
「あっはい。もう大丈夫です」
そんな静音さんの声が聞こえ俺は明後日の方向から静音さんがいる正面へと振り返った。そこにはいつもどおり全身黒のメイド服に包まれ、魔女子さん印の大きめな帽子を被った静音さんが佇んでいた。
「(さっきまで『魔王』だったっていうのにすっげぇ普通にいやがるしな……)」
俺は抗議団体も真っ青になるくらい抗議したかったのだが右手に持たれた
「なんだ何もいないではないか……って魔王はどこへ行ったのだ!? それに静音っ! オマエ今までどこへ行っていたのだ!」
魔王に騙され何もない空を見上げながらお口をアングリ開け放っていた勇者天音は俺達の方へ振り返ると、いきなり魔王が消え去り探していた静音さんが目の前に現われた事に大層驚いていた。
「もきゅっ!? もきゅもきゅ! もきゅぅ~???」
もきゅ子は鳴きながら何かを訴えていた。俺にはもきゅ子言語はよく理解できないがなんとなくの意味なら察することができる。きっと『あれ魔王は? いつの間にか静音さんがいるよ! 一体どうなっているの???』って翻訳が妥当なところだろう。
「(ってかもきゅ子。オマエさっきまでオレと同じ立場で『何この茶番?』みたいな顔しやがってたのに、何でいつのまにかそっちの
などと心の中で思っても口には出さず、ツッコミ放棄している俺を他所に静音さんが天音の疑問に答えた。
「魔王さんなら何か作者の方に呼ばれまして……どっかその辺に行きましたよ」
『あっちの方向です』っと何食わぬ顔でしれっと静音さんはそう言い放っていた。自分の正体がその『魔王』にも関わらず……。俺はそんな静音さんを戒めることにした。
「静音さん。いくら何でもそんなので天音達が騙され……」
「そうなのか? なら当面の危機は去ったわけか。ならとりあえず宿屋の中に入ろうではないか。もうお腹も空いて疲れたし、温泉にでも入ってゆっくり休みたい気分だしなぁ~」
「もきゅもきゅ♪」
「……たーっ!?」
(おいおいマジかよコイツら? さっきまで魔王に殺されかけてたってのに、何普通にメシ食って風呂入ってくつろごうとしてんだよ!)
そんな俺を放置するかのように天音達は宿屋の中に入って行ってしまう。
「……もうどうでもいいや」
取り残された俺は考える事を諦め宿屋の中へ入ろうとしたのだが『やがて土に還れる宿屋・貴腐老人の館』っと書かれた看板を前に入るのを躊躇してしまう。何故なら窓から見たことがあるモノが
「(アレってさ、
既にオチが見えていたのだが主人公である手前、宿屋の中に入らないわけには行かず渋々ながらも入ることにした。
「らっしゃーせー♪ お兄さん達お泊りでっかー? それともご休憩なんでっかー?」
「……ジズさんだよね? 何でここに居るんだよ……」
宿屋の受付には冥王であるジズさんがいたのだ。しかもこの建物よりも断然大きなドラゴンが狭い宿屋の中いっぱいギッチギチに詰め込まれていたのだ。先程窓から見えたのはあまりにも巨大すぎて羽が飛び出していたのだろう。
ちなみに宿屋の中がどれくらい狭いかと言うと文字描写で表現するのが難しいところなのだが、ジズさんが動く……いや、言葉を喋り呼吸するだけでも木で出来た宿屋の中が『ミッシミシッ♪ ミッシミシッ♪』っとリズムカルに不穏な音を響かせ中にいる俺の不安を煽る感じだった。
正直いつ天井が崩れ落ちてきても不思議ではない。しかも天井から埃が『パラリラ~♪ パラリラ~♪』っと、ちょい暴走族のバイク音を意識したかのように俺の頭目掛けて降り注ぎまくっていた。俺は頭や服に付いた埃を払いながら、ジズさんに話を聞くことにした。
「そら~タネを明かせば簡単なことですわ。登場人物を少なくするためにワテが冥王と宿屋の主を兼任してますのんや。おっ姫さんやないですかー元気してはりましたかー♪」
「もきゅ♪」
「何でこうも役を兼任させて登場人物減らそうとしてやがんだよ……」
「まぁぶっちゃけアニメ化した際の制作費削減目的ですよね~。あっ効果音をセリフとして組み込んでいるのもそのためなんですよ~♪」
「(書籍化すらしてねぇのに何でアニメ化を視野に入れて小説書いてやがんだよ、作者のヤツは)」
そんな物語の摂理に苦言を示すと共にジズさんにギルドの場所を聞くことにした。
「それでジズさんに聞きたいことが……」
「あっギルドでんな? それならここを左に入った所ですわ」
「……」
何でこう揃いも揃って地の文を勝手に読解しやがった挙句数少ない俺の
「そうですか、それならばアナタ様さっそくギルドに参りましょう」
静音さんは天音ともきゅ子を率い、さっさとギルドの方に行ってしまった。
「アイツら俺を置き去りにするのかよ……」
「あれ兄さん、みなさんと一緒に行かへんのですか?」
ジズさんの優しい言葉が俺の心に深く突き刺さった。俺は落ち込みまくりまるでゾンビのようにギルドに入っていく。
中は楕円形のテーブルと椅子が所狭しと並べられ、カウンター式のテーブルや暖炉などがあった。暖炉の上にはインテリアなのか、古めかしい弓矢が飾られている。そして壁際の床にはワインが入っている大きな樽がいくつも置かれていた。その内二つの樽には木で作られた土台の上に横に置かれ
「うん? 誰もいないじゃないか! おーいギルドの人はいませんかー? いなくても返事だけはしてくださーい♪」
天音はギルドに誰もいない事にご立腹の様子である。
「んっ……ほんとだな。ギルドの人もいないな」
俺は未だ立ち直ることが出来ずに気のない返事で天音に返答する。
「はーい♪ ちょっと待っててねー♪」
するとどこからともなく声が聞こえそこで待つよう言われてしまう。その声は若い女の子のようで室内ではない遠くから聞こえていた。もしかすると外で何かしらの作業をしているのかもしれない。そして二分ほど待つとその声の主が現れた。
「はぁはぁ。お姉さん達待たせちゃってほんとごめんね~♪」
それはさっき別れたばかりの女の子だった。
「「ジャスミン!?」」
天音と声がハモってしまう。そうそれは道具屋マリーの主であるジャスミンだったのだ。何故ジャスミンがこのギルドのいるのだろうか? その疑問を聞いてみることにした。
「ジャスミンがこのギルドを仕切ってるのか? あっとの店と一緒に?」
「へっへぇ~っ。そうだよ♪ ボクがこのギルドも一緒に任されてるんだ~♪ ちなみにこのギルドでは見て判るとおり夜には酒場になるし、昼間にはみんなが食事をする場所でもあるんだよ♪」
ジャスミンは得意げな顔をして右人差し指で鼻の下辺りを少し擦り自慢げにしている。どうやらこのギルドは『酒場』だけでなく『レストラン』でもあるようだ。
「そうなのか!? でもさっき遠くから声が聞こえたっていうのは……まさかあっちの店から俺達の声が聞こえて返事をしたわけじゃないよな?」
俺は窓から見える道具屋を指差しながらそんなことを尋ねる。
ふふっ。そりゃそうだよ~。ここから声なんか聞こえるわけないもん♪ 実はあっちの店とこっちの店はボク一人だけで切り盛りしててね、人手が足りないんだよ。でも昼間はみんな冒険に出ちゃってて、このレストランを利用してくれる人が少ないんだぁ。街の人も自給自足が基本だしね。だから基本的にはあっちの道具屋に居て、呼ばれればこっちに来て食事を提供するわけなんだよ♪」
ジャスミンはやや苦笑いをしながらも明るくそう答え、カウンターの上に置かれていた虹色の石を差し出してきた。
「ジャスミン、この石はなんだ?」
それは俺の目にはただ綺麗な色をした石にしか見えなかった。最初ジャスミンは驚いた表情を見せたが、すぐさま自信満々な笑顔を見せるとこう答える。
「あれ?? お兄さん達『魔石』を知らないの? もしかして別の所から来たのかな? この石には魔力が籠められててね、遠くに居る人ともまるで目の前にいるように会話することが出来るんだよ♪ どお? 凄いでしょ♪」
ジャスミンはその魔石とやらを掲げ、自慢げにしている。
「これが魔石なのか。しかも遠くに居る人と話せるとか、まるで電話みたいな機能を持ってるんだなぁ。へぇ~」
俺はジャスミンに断りを入れその魔石を手に取ると右人差し指と親指で挟み込み、光を取り入れるように中を透かして見ることにした。すると……中には何やら虹色の液体のようなモノが入っており、光と屈折するととても鮮やかな虹色を映し出してくれていた。
「でしょ~♪ 他にも魔石には炎の魔力を籠めて戦闘時に使ったり、一部の出力を制御して一般家庭で料理をする際に使ったりもしてるんだよ♪ 他にも水や風、回復魔法なんかも籠められる物もあるしね。だから例え魔法が使えない冒険者さんでも手軽に魔法を使うことが出来るんだ♪ あっ、ちなみにボクの店でも色々と取り揃えてるからお兄さん達も『もしもお金が出来たら』寄ってみてよね♪」
厭に『もしもお金が出来たら……』っと先程の文無し事件を強調されてしまった。だがそれもジャスミンなりの気遣いだと思いたい。ってかそう思わないと俺の心は保てなくなってしまうだろう。
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