第22話 この店の物をすべてもらおうか!

「(声若いな……もしかして俺達よりも年下の店主なのかな?)」

 ガシャンガシャン。一瞬小学生? そうとも思える容姿の女の子が店の奥からダンボールを持って出てきた。(もきゅ子を除く)俺達の中では一番背が低い静音さんよりも一回りほど背が低くかった。


 その子は腰に届くくらい長いの茶色のストレートヘアに白と青を貴重としたワンピース、青色のミット帽を被り動物の皮で出来た茶色の半袖ジャケットに茶色く厚いブーツを履き、そして大きな茶色カバンを斜めがけしていたのだ。たぶん作者のヤツはこの子にパイスラ要員を求めたのだろうが悲しいかな、その子の胸は真っ平らだった。

 ちなみにパイスラとはショルダーバッグの紐の部分を胸の谷間で挟むように斜めがけする事で大きな胸・谷間をより強調する読者待望のお色気サービスを指すのである。


「いやぁ~おまたせおまたせ♪ よいしょっと……ふぅ~。いやぁ今ちょっと奥にある倉庫の在庫整理してたもんで待たせちゃってごめんねキミ達!」

 そしてダンボールをカウンターの上に置くと一息つく間もなく俺達に話しかけてきた。


「で、お兄さん達は何をお求めなのかな?」

「え、え~っと……」

(こんな小さな女の子で、店のことが分かるのだろうか?)

 そんなことを思いなが、どう話せばいいのやらと戸惑ってしまう。


「んっ? 何かな何かな♪ 何を探してるのかな?」

 すっごく楽しそうにニコニコ顔で俺に何が欲しいのか聞いてきた。

「(もしかしてこの子が店の主なのかな? ……娘とかじゃなくて???)」

 俺はとりあえずその事を聞いてみることにした。


「あの~こんなこと聞くのは失礼かもしんないけど、キミがこの店の主なのか?」

「うんそうだよ♪ ボクがこの『道具屋・マリー』の主だよ♪」

「そ、そうなんだ……」

 俺よりも年下の子供が一つの店を切り盛りしているのかと思うと、いかにこの世界が大変なのかを窺い見る事ができた。


「で、お兄さん達はボクの店に何をお求めなのかな?」

 小さな女の子は年相応に可愛らしく首を傾げて『何でも言ってね~♪』っと明るく聞いてきていた。……さて、何て答えるどうする?)


『この店の物をすべてもらおうか!』文無しなのに見栄をはる

『キミって幼稚園児じゃないよね?』それは幼稚園児に対して失礼です

『キミのすべてが欲しい!!』犯罪者ルートへ


「(久々の選択肢が導入されたけど、相変わらず選択肢と補足説明には悪意が込められてるよなぁ。しかも三つ目は普通に犯罪だからな。とりあえず今の所は自重しようぜ! そんなことを思いながら俺はとりあえず無難な選択肢を選……

「この店の物をすべてもらおうではないか!」

 俺が選択肢を選ぶその前に天音が勝手に叫んでしまった。


「えーっ!! それほんとになの!? 店の物全部買ってもらえるの? ありがとう~お姉さん……大好きだよ♪」

「何こんなこと勇者なら当たり前のことだからなぁ~。くんかくんか♪」

 女の子は天音に大好きオーラ全開で抱きついていた。抱きつかれた天音も満更ではない表情……というよりも、すっごく嬉しそうに女の子の匂いかいでるな。匂いフェチなのかな?


 あと所持金0シルバーなのに勝手に話がどんどん進んでるんですけど……どうすんだよコレ? 俺がどう金の工面をするかと悩んでいると天音に抱きついてる女の子の表情が一瞬だけ見えた。


「ニヨソ♪」

「(っておいおい!! なんかどっかで見たことあるような表情してんぞあの娘……)」

 その表情を俺は既に知っていた。そして隣にいるメイド服を着たその人物に目を向けてしまう。そうそれは静音さんだ。あの娘からは何故だか静音さんと同じ匂いがする。例えるなら『守銭奴民族』の匂いだ。


「んっ? アナタ様どうかなさったのですか???」

 何食わぬ顔で静音さんは自分の事を見ていたその理由を聞いてきた。

「(あっいや……俺達金がねぇのに天音のヤツどうすんのかと思ってさ)」

 あの娘に聞こえぬよう小声で静音さんへと話しかけたのだが、敢えて空気を読まないのかこんなことを叫んだ。


「えーっアナタ様ーっ。お金を1シルバーも持っていないのですかー! それは困りましたねー一体どうしましょうかー……(ね♪)」

「ぶっ!! し、静音さんいきなり叫んでアンタほんとに状況分かってんのかよ!!」

 しかもご丁寧にも『ね♪』だけを括弧閉じにして小声にしやがって!


「えっ……お、お姉さん達お金持ってないの???」

 あの娘すっげぇ悲しそうな顔してるんだけどさ。いやまぁ悪いのは全面的に天音こっちなんだけどね。


「あっいや、その実はだな……」

 天音は手をバタバタ上下に上げ下げして慌て、珍しく言い淀んでいた。さすがの天音でも所持金0シルバーだったことがバレてはいつもどおり強気で行くができないようだ。もちろん言い訳できぬ状況だからそれも致し方ないだろう。そんな天音をフォローすべく俺は一歩前に出る。


「いやあの俺達……実は魔王を倒す冒険者なんだよ。だから回復するのに使う薬草なんかの道具をだな融通して欲しいと思って店に来たんだよ」

 うん。我ながら会心の言い訳だったと思う。どうやら俺はテンパってるみたいだ。正直自分でも何言ってるか理解できなかった。そんな俺に追い討ちをかけるようにその子はこんな言葉を投げかけてきた。


「でもお兄さんお金全然持ってないんでしょ? それでどうやってボクの店で買い物する気なの? いくら魔王を倒す冒険者でも無料タダってのは無理だよ。しかもお兄さん達のような冒険者はたくさんいるしね。みんなに無料タダで配ってたらボクご飯食べられなくなっちゃうんだよ……」

「ぐはっ!? た、確かにそうだよな。生活するのにも金はいるもんな」

 その子の正論すぎる言葉に対し、もはや反論の余地がなく俺は店の床に膝をついてしまう。


「よっこいしょっと」

 ズッシリ。床とお友達になってる俺の背中にさ、何かが乗ったんだけど……なんだよ? 俺はその何かを確かめるためべく四つんばいになりながら首を後ろに向け、ソイツの正体を確かめることにした。

「……あのさ静音さん。俺の背中で何してるの?」

 そう背中に乗ってきたのはあろう事かクソメイドだった。


「えっ!? ああいえね、なんだか話長すぎて疲れちゃいまして。疲れたなぁ~っと思ってたら、なんだか良さそうな椅子がワタシの目の前に現れましてそれで座っただけですけど……それがなんだと言うのですか!? ワタシがどこに座ろうとアナタ様に関係あるのですか!!」

「そんな逆ギレする人初めてみたわ!! それにめちゃめちゃ関係あるんだよ。そこは俺の背中だしな!」


「…………ちっ」

「っ!?」

 ななな、なんで俺は今静音さんから舌打ちされちゃったの!? 俺が悪いのかよ……こんな理不尽なことってあるかよ?


「静音さん。そろそろどいてくんないかな?」

「ほんとにいいのですか? ワタシのおしりの感触……楽しんでますよね?」

「そそそ、そんなことないよボク!!」

(何故バレた……コイツエスパーかなのか!? まぁちょっとだけ興奮してたは事実なんだけど)

「ニヤソ♪」

「(笑顔がすっげぇ怖いんですけど)」


『主人公にドM属性が付与されました♪ うわっキモッ』


「…………何か今俺の精神ポイントがだだ減りしたんだけど、気のせいか?」

 ま、まぁいいさ。どうせいつものことだろう。気を取り直して物語を進めることにしよう。


「なら一体どうすりゃいいんだよ……」

「うーん、お兄さんお金無いんだよね? ならさ、向かいにある宿屋に『ギルド』があるのは知ってるかな? そこで依頼を受けて報酬を得るって手もあるんだけど」

「ギルドだって? ああ、確かギルドって色んな人に依頼されてそれを解決するってヤツだよな? この街にもそんなのがあるのか!」

 店の主である女の子は金に困ってる俺にそんなアドバイスをしてくれたのだ。困ったときこそ人の親切が身に沁みるものだ。


「ふむ。ならば私達もとりあえずそこに行ってみないか? ありがとうな、え~っと失礼なんだがキミの名前は?」

「ボクの名前はジャスミン。ジャスミン=ライラックだよ♪」

 ジャスミンと名乗った女の子は天音に右手を差し出して握手をしようとしていた。この時代がいつの時代をモチーフにしているのか分からないが握手をする文化があるのだろうか?


「よろしくなジャスミン。私は勇者天音だ。こっちが僧侶の静音で、その隣にいる小さいドラゴンがもきゅ子。そしてこっちが……ところでキミは誰だ?」

 天音は自分の役柄を名乗ると静音さんもきゅ子と紹介してゆき、そして最後の最後に俺で落としやがった。


「おい! 俺をオチに使うんじゃねぇよ!!」

『すまんすまん』っと謝る天音だったが、静音さんももきゅ子も『ぷぷぷぷっ……』っと肩を震わせながら口に手を当て笑うのを必死に堪えていた。もきゅ子にまで馬鹿にするこの物語の主人公で俺ある。


「俺の名前は……」

「さぁみんなギルドとやらに向かうぞー!」

「おー!」

「もきゅーっ!」

 カランカラン……俺を無視するように天音は号令をかけるとそのままドアに向かい店を出て行ってしまった。


「……何でだよ。何でいつも俺の時だけこうなるんだよ」

 一人置いていかれた俺は悲しみとも諦めとも取れる弱音を吐き床に膝を着いて落ち込んでしまう。そんな俺の肩がポンポンっと叩かれ振り向くとジャスミンが笑顔でこう言った。


「ま、お兄さん。人生生きていれば色んなツライことがあるんだよ。最後まで諦めないで頑張ろうよ♪」

 自分よりも年下のジャスミンにまで慰められ俺の精神ポイントはマイナスを指し示そうとしていた。そしてどうにか心の壁を頼りに立ち直ると俺はすぐさまジャスミンの店を出ると大通りを挟んで反対側にある宿屋へと向かうことにした。だが宿屋の前では天音達が中に入らずに立ち止まっていた。


「遅いぞキミ! 一体何をしていたのだ?」

「もきゅもきゅ」

「アナタ様、遅い人も早い人もは女の子に嫌われるのですよ」

 どうやら俺が来るのを待っていてくれたようだ。


「わ、わりぃな。待っててもらってさ」

 とりあえず思うことはあったが宿屋まで急ぎ走って向かい、待っててもらった手前素直に謝ることにした。そして武器も手に入れたことだし、俺は元の世界に帰るための方法である『魔王討伐』について静音さんに聞いてみた。


「静音さん俺達が倒すべき魔王ってどんなヤツなんだ?」

「えっ? ああ、魔王さんですか? アナタ様は魔王さんに会いたいのですか? なら今から用意・・しますので、ちょっと待っててくださいね」

「いや、魔王に会いたいとかじゃ……って用意???」

 俺は静音さんの言ってる事の意味が分からず混乱してしまう。そして静音さんが俯き俺が『具合でも悪くなったのかな?』っと心配したのも束の間、静音さんが顔を上げた瞬間ソイツは現われた。


「きゃははははははははっ」

「っ!?」

 そこにいたのは静音さんとは似て非なるモノだった。着ている服は同じメイド服なのだが、その上にはいかにも魔王らしいマントを羽織そして目と髪の色が天音のように序々に真っ赤に染まり背中にはドラゴンの羽のようなモノが生えていく。そして何よりソイツの体周りから吹き出ている闇のようなオーラ、それはまさに俺が想像していた魔王そのものだった。


『あなたの目の前にこの世界の『魔王』があらわれました。コマンドを入力してください』

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