第21話 意外な店の主の正体とは?

「うん? そういえば店の主は不在なのか?」

 思い出したように天音が言葉を発したことで俺はようやく我に返り本編に戻ってきた。そして何を思ったか、静音さんは徐に対面式カウンターの方に向かうとスイングドアをパカリッっと開いて内側へと入ってしまった。


「いらっしゃいませ。何をお求めでしょうか?」

「ぶっ!! し、静音さんが店の主役もやるのかよ!?」

「ええ、この物語では公募規定上の問題で文字数も限られており、これ以上登場人物を増やせないのです。ですからワタシが兼任してお店の人もやるわけですよ。はぁーっ」

 そうゆう静音さんは複数の役柄をこなすのが疲れるのか、大きな溜め息をついていた。


「して店の主よ、この街の武器や防具の質はどうなのだ? 最近は鉄不足で製品の出来があまり良くないと聞くのだが……」

 何事もなかったかのように天音は静音さんのことをこの店の主と認識して話しかけていた。


「そうですね~。お嬢さんの言うとおり魔王軍が攻め入ってからはこの街もすっかりダメになっちまいましたね~。ついこの前もお城の兵士が各家々を回って鍋や狩りに使う弓なんかを没収しちまいましてね~。そりゃ~酷いものなんですよ~」

「(コイツら違和感なく会話続けていやがるんだ? しかも静音さんは静音さんで、なに老母みたいな喋り方になってるんだよ……)」

 たぶん役作りであろう静音さんの喋り方に違和感を懐きつつも、俺は本編を進めるため話かける。


「あ、あの~実は俺達は冒険者なんです。もちろん目的は魔王を倒すことなんですが、実は……お金を全然持ってないんですよ。それでですね……」

 俺は一応目の前にいる人物をお店の人だと思い込みながら事情を説明することにした。実際問題、天音を復活させたおかげで持ち金は尽きてしまっていたのだ。


「あっそうなんですか? それはそれはアナタ様も大変ですね~。ならお店の中の物好きに持ってていいですよ」

「はっ? そ、それは無料で……ってことなの? 静音さんほんとにいいの?」

 俺と静音さんはもう役作りが面倒となり素で会話をしてしまう。


「ええ、もちろんですよ。元々この店はワタシのじゃないですしね。バレなきゃ大丈夫ですよ。それにアナタ様も初めてじゃないでしょうが……もし仮にバレたとしてもこちら側は魔王を倒す勇者一行なのですからなんとかなりますって(笑)」

 静音さんは悪びれた様子もなく大義名分はこちら側にあるから大丈夫だと言い張っていた。また農家に押し入ったときのように住人が帰って来なければよいのだが。


「ふむ。そうなのか? ならばみな手分けして必要なものを店から強奪して早く逃げるぞ。いいな、誰かに見つかる前にだぞ!!」

「おー!」

「もきゅ!」

「……マジかよコイツら」

 静音さんももきゅ子も天音の命令に従うみたいだ。ってか天音よ、お前その自覚あるんじゃねぇかよ……それは俺達が勇者一行じゃなくなった瞬間だったのかもしれない。そして各々思うがままに店内を見て回ることになった。


「俺はどうすっかなぁ……み、見るだけなら大丈夫だよな?」

 正直気は乗らなかったが武器や防具が必要なのも確かである。背に腹は変えられぬと一応俺も店内を見て回ることにした。一番初めに目に付いたのはやはり最初の剣だった。何の変哲もない剣なのだが、俺に現実の重みとやらを教えてくれた事もあり少しだけ気に入っていた。


「うん。コイツかな」

 い、一応店内を出なければ大丈夫なはず……っと自分に言い聞かせ、左手に携え更に見て回る事に。次いで冒険者が着るような衣服が目に付いた。思えばこちらの世界に来てずっと学校の制服だったので住人からは奇異な目で見られていたのを思い出してしまう。


 そこでこれまた一応着るだけ……っと心の中で言い訳しながらも手に取り、着替えることに。俺が選んだのは布で作られたワイン色の上着に白ズボン、それに動物の皮で作られた茶色の靴と胸当てと腕を守るコテ、更に緑色のマントと剣を携えるための皮ベルトを装着し先程の剣を左腰に引っ掛けて完成である。


「これで俺も一応は冒険者っぽくなったかな?」

 店内には鏡がないので自分で見える範囲なのだが、それらしい格好にはなったと思う。カチャ……カチャッ。俺は右利きなので左腰に携えた剣を試しに鞘から引き出し戻してみた。


「うん! これなら戦う時でも違和感ないな」

 最初剣を引き出す際マントが引っかかるのではないか? っとも疑問に思ったのだが全然そんなことはなかった。まぁ戦闘を主にする世界のようなのでその当たりのには気を配った工夫がなされているのだろう。


「おや、アナタ様その格好は……」

「あっ静音さん。変……かな?」

 どうやら静音さんに見つかってしまったようだ。下手をすれば笑われるとも思ったが、意外な反応が返ってきた。


「いいえ。とても良くお似合いになっていると思います」

「えっ? そ、そうかな……ありがと(照)」

 普段酷い事ばかり言ってくる静音さんに褒められて俺は照れてしまった。


「天音お嬢様ーっ。お嬢様もご覧になってはいかがでしょうか?」

「うん? 何を見ろと言うのだ???」

「もきゅ~?」

 鎧を見ていた天音と傍にいたもきゅ子がひょっこりっと顔を出す。


「いえ、アナタ様が着飾ったようですので」

「ああ、そうなのか? ふむ……これは確かに似合っているな!」

「もきゅもきゅ♪」

 天音も俺の下へやって来て上から下までを顎に手を当てながら品定めをして最後に俺を褒めた。もきゅ子も何か嬉しそうに鳴いている。


「んっ……何だか照れるな」

 普段褒められなれていない俺は身の置き場を無くしてしまう。

「そんな照れる事ないですよ。これでアナタ様もこの世界の立派なモブキャラに見えますし」

「はっ? も、モブキャラだって……」

 どうやら静音さんは俺をモブキャラとして褒めていたみたいだ。


「ふむ。この格好なら一番初めの『やられ役』としては申し分ないだろうな!」

「もきゅ!」

「や、やられ役だと……」

 天音ももきゅ子も俺のことをモブキャラ以下、戦闘時一番初めにやられる役として見ていたようだ。なんだろう……先程まで褒められ恥ずかしがっていた自分を恥じてしまう。どうやらまたもや俺の一人勘違い祭りのようだった。


「ふむ。ではそろそろ隣の道具屋に行かないか? ここでは何も欲しい物が無かったしな。みんなもそれでいいかな?」

 そんな落ち込んでいる俺を無視するかのように天音は『さっさと次に行こう!』と静音さんともきゅ子に声をかける。


「ええ、ワタシも何も欲しい物はありませんでしたのでお隣の店に参りましょう」

「もきゅ」

 どうやら俺以外誰もこの店の物を持っていかないようだ。ってかそもそも天音は最初から鎧を着込んで剣を持ち、静音さんもメイド服に魔女が被るような大きな帽子とモーニングスターを持っていたのだ。もきゅ子もいるのだが、どう見ても癒し系要員のようだし戦うようには見ない。そして天音を先頭にしてこの『のんびり亭』のドアを開け出て、隣にある道具屋へと向かう事となった。


「っと言っても隣なんだよなぁ」

 玄関を出てはみたが道具屋はすぐ隣なのだ。しかも同じ並びとはいえ建物も繋がっていたのである。正直仕切りもなかったから『このまま直接行けばいいのに……』っと野暮な事を思ったのだが敢えては口にはしなかった。


「ここが道具屋なのだな! こんにちはーっ!! あなたの街の勇者の天音ですよー!」

 一応天音なりに目的地を口にして読者にも分かるよう配慮していた。ってかここでも天音はハイテンションに店に入る際挨拶をしている。挨拶……まぁ大事だよね? 続いて俺も店の中に入ろうとしたのだが入るのを躊躇してしまう。何故ならドアの横にはこんな張り紙がしてあったからだ。


『物を売るなら今がチャンス!! あなたの持ち物を限りな~く底値・・で買い叩きます! そしてどの店よりもたか~く売りつけてボッタクる・・・・・事をお約束します♪ すべてが揃う死の商人の館『道具屋:マリー』』

「(おい! この店ほんとに大丈夫なのかよ!?)」


 俺は誰に言うでもなく心の中でツッコミを入れた。たぶんこれを考えた作者にだと思うが……。この張り紙を見た瞬間『ひょっとして、この店は誰かから嫌がらせされてるのかな?』とも思ったのだが、最後に店主らしき女性の名前があったので更に混乱を招いてしまう。しかもご丁寧にも『底値』と『ボッタクる』の部分に黒点文字ルビ振り強調されており、より不安感が拭えない。


 昨今いくらネガティヴ商法が流行ってるからと言って、ここまでアレな店だとこれはもはや狂気とも言えるだろう。店に入るのを躊躇っている俺をまるで無視するかのように静音さんももきゅ子も何の躊躇もなく店の中に入って行ってしまうので、俺も慌ててその後ろをくっ付いて店内に入る。

『カランカラン♪』先程の店と同様にドアのベルが心地よく鳴った。表の張り紙とは裏腹に店の中は思ってた以上に普通……いや、いかにも道具屋っぽい雰囲気を醸し出していた。


「へぇ~中は案外ちゃんとしてんだなぁ~」

 俺は失礼ながら外の張り紙と店内とのギャップに思わず、そんな言葉が口から出してしまうのだった。そして店の床は先程の店同様木の板張り上なのだが動物の毛皮がカーペットのように広く敷き詰められており、とてももふもふしている。


 そしてふと棚に目を向けると棚一杯に薬品だかが入ったカラフルな瓶や本などが所狭しと並べられ壁にはインテリアの一種なのか、動物の剥製やこの国を表した国旗のような布物など様々な物が飾られていた。カウンター横には何故かユリのような白い大きな花が置いてあった。最初『この花は飾りなのかな?』っとも思ったが、白い花ビラの部分が光っている。


 どうやらこの花は何かしらの魔力を持っているのかもしれない。そしてカウンター上には色鮮やかに光を放つ石がたくさん飾られている。あれはファンタジーでお馴染みの『魔法石』や『クリスタル』と呼ばれる物かもしれない。


「やっぱりここは俺が知ってる世界じゃないんだなぁ」

 花びらが光ってるのもそうだが石まで光っているのだ。嫌でもここがファンタジーの世界だと納得せざろう得ない状況である。

「すみませーん! 誰かいませんかーっ!!」

 相変わらず元気な天音先生の挨拶。


「(ほんと天音はテンション高いまんまだよなぁ。疲れないのかな? もしかしてこれが真のメインヒロイン補正ってやつなのかもしれないなぁ~)」

 初めてあった時もそうだったが天音はずっとこの調子だった。そんなことを思い天音を見ていると店の奥の方から声が聞こえてきたのだ。てっきりさっきと同じく静音さんがカウンターの内側に回って接客をすると思ったのだが、どうやら違ったようだ。


「はーい! 今そっち行くからちょいとだけ待ってておくれよー!!」

 若い女の子の声でそこで待ってるよう言われた。聞いた限りでは子供のような高い声だった。

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