第15話 例えドラゴンにも死んだふりが有効ですか?

「これは何なの?」

「まぁまぁ。そのままもう少しだけ見てて下さいな♪」

 静音さんがそう言うと棺下の四方がカパリっと開き、中からは小さなタイヤのようなモノが出てきた。『グィーングィーン』と言う機械音と共に地面へとタイヤが降り立つと支えていた棒が引っ込み始めた。


「これはまさか……」

 俺は既に正体がを理解しているにも関わらず読者への説明の為、静音さんに聞いてみることにした。

「アナタ様知らないんですか? これはタイヤですよ。これがあれば楽に棺を引けますよね♪」


「あーうん。そうかもねー。棺にタイヤ付属されたら楽に引けるもんねー」

 若干引き気味になりつつも、とりあえず棺をノックをするように叩いてみた。『コンコン♪』木とは明らかに違う金属のような軽い音がした。


「静音さん……この棺ってじゃなかったの?」

「えっ誰が木だと言いました? これは燃えにくいことで有名なチタン合金で出来た棺なのですよ。しかもハイテク仕様ですよ、ハ・イ・テ・ク♪」

「だからクソ重かったんだな。そもそも棺にハイテク機能とかいるのかよ。それに棺ってさ、最終的に燃やしたり土にそのまま埋めたりするんだろ? なのに燃えにくくしてどうすんだよ」

 もうツッコミ所が満載だったが、突っ込む気力が無くなってしまう。


「よいしょっと。ガチャン!! これで、っと。ふぅ~っ。ようやく完成しましたね」

 静音さんは何を思ったか棺の頭の方、つまり天音の頭付近に何か棒状のモノを突き刺すとその上に丸いモノを取り付けていた。どうやらあれはハンドルのようだ。


「わ~お♪ 嫌な予感がビンビンしてきたぜ♪」

 俺の第七感セブンセンス通称『不幸の架け橋』は嫌すぎるデスマーチを頭の中で奏でまくっていた。嫌な予感ほど当たるとはこの事を指すのだろう。

「さあっアナタ様。お早く棺の上にお乗りになりスケートボートの要領で必死こいて右足で地面を蹴ってくださいね! これならばきっとドラゴンでさえも追いつけないはずです!」

 静音さんは既に天音の棺の上に乗ると『オマエも乗りやがれ!』っと言ってきた。


「その棺ってさ、大人が二人乗っても、だいじょ~ぶ?」

「はい。十人乗っても、だいじょ~ぶ? ですので♪」

 静音さんは大丈夫言っていたが今考えると棺の上に人が十人も乗れるわけはなかった。俺は顔を引き攣らせ、若干心の中で不安に駆られつつも天音の棺の上に乗りハンドルをしっかりと掴むと右足で地面を蹴りドラゴンから……逃げ出した!


『ガタガタ……ガタガタ……ガタタタタタッ!!!!』

だがしかし、人間の足には限界があるのだ。しかもこちらには地の不利(地面が凸凹デコボコして砂利や小石による転がり抵抗)があり、空を飛んでいるアイツにはまったく無抵抗な地の利、いや空の利があったのだ。これはもう移動速度の差は明らかである。すぐ後ろまで迫ってくるドラゴンに対抗する術はないのか!? 俺は息も絶え絶えに静音さんに叫んだ瞬間、ドラゴンは口から火の玉を吐きこちらに飛ばしてくる。


「ガアアアアア……ぼわぁっ!!」

「静音さ……ってうわっ!? あっぶねーなおいぃぃぃっっ!! アイツファイヤーボールまで出せんのかよ!!」

 導線が逸れファイヤーボールは運良く俺には当たらずに後ろにあった畑や柵にぶつかり燃え広がっていた。それはまるで焼き畑農業を手助けしているような光景だった。


「この世界こんな燃えてて大丈夫なのかよ……」

「まぁ畑くらいなもんですし大丈夫ですよ。ねー」

「もーきゅっ♪」

 同じく走っているはずなのに何故だか静音さんの声は俺の真後ろから聞こえてくるように感じてしまう。


「(こ、このクソメイド……俺にだけ走らせて自分は棺の上に乗ってやがるのかよ!? ……うん? 何か『もきゅ』とか変な声が聞こえなかったか?)」

 俺は右足で地面を蹴りつつ、ふと後ろを振り向くと天音の棺の上には静音さんが何か赤い生き物抱き抱えながら足をブラブラさせて座っていたのだ。


「し、静音さん!! ソイツはまさか……」

「ええ。この子は先程居た子供ドラゴンの『もきゅ子』ですよ。アナタ様の背中に自爆せなんばかりにくっ付いていたので、落ちないようワタシが抱いているんです。ねー♪」

「もきゅもきゅ♪」

 どうやら後ろのドラゴンはこの子供を助けるため、俺達を追っているようだ。だから先程の攻撃も当たらぬようワザと逸らしたのかもしれない。ってかもきゅ子って……静音さんのネーミングセンス半端ねぇわ。


「アナタ様。ワタシにこの危機的状況を乗り切る良き考えがありますよ♪」

 だが全力で走っているので文句すら言えず静音さんの『良き考え』とやらを急す。

「静音さん! そんなのがあるならそれを早く言ってよ!!」

急急いそいそアナタ様。ワタシに良き考えが……」

「早く言えって早口・・って意味じゃねぇんだよ!!」

 たぶんワザとであろうが静音さんは早口で同じセリフを口にしていた。俺は走りながらでは雑なツッコミを入れるだけで精一杯であった。


「まぁおふざけもこの辺にして……アナタ様!! ここで止まってください」

「えっ? ここで???」

 俺はいきなり『止まれ』と素直に命令に従い地面を蹴る右足を止めてしまう。

 バサバサッ、バサバサーッ。どうやらようやく追いついたのか、巨大なドラゴンは俺の真後ろへと着陸した。


「静音さん、ここからどうするのさ!!」

 俺は迫り来る恐怖と焦りから静音さんに叫んだ。

「アナタ様、ガンジースタイル略して『ガンスタ』をご存知ですか?」

「えっ? が、ガンスタ・・・・ってなに???」

 俺はいきなり質問され上手く答えられない。


「まぁ一種の完全無抵抗主義を指すこの物語発の造語なのですが、要は熊に出遭った際の『死んだフリ』をすれば良いのです」

「し、死んだフリだって? それってドラゴンにも利くのかよ?」

「ええ。このワタシを信じてお早く『ガンスタ』を決めてください! さすればこのようなドラゴンでさえも手も足も出せないはずですよ!!」

 どうやら静音さんの良い考えとはそれを指すらしい。


「マジかよ……わ、分かった!!」

 俺は静音さんの指示どおりガンスタとやらをすることにした。だがこのとき、俺の背後で悪魔の微笑みデビルスマイルをしているクソメイドがいたことを知る由もなかった。そして俺は地面にうつ伏せお友達になりながら『気をつけ!』のポーズよろしく、手をふとももの横にぴしゃりと添えて完全無抵抗主義ガンスタを晒した。


「がるるるるる……」

 どうやら静音さんの言うとおり俺が地面で無謀な姿を晒しているにも関わらず、ドラゴンは手も足も出せず何の攻撃もして来なかった。どうやらドラゴンにも死んだフリは有効のようだ。


「(ふふふっ。いくら凶悪なドラゴンでもこの完全無抵抗主義ガンスタの前では手も足も……ぐはっ!? 何だ? 何が起こった!? テロか? テロでも起こったのか!?)」

 心の中で言葉を言い終える前に背中に強い衝撃を受けてしまった。俺はダメージを受けて目の前が星だらけの表示になっているが、状況を確認する為に右目だけを開けてその衝撃の原因を探ることにした。


「なんかさ、背中に農家のリヤカーみたいなのが乗ってるんですけど、ほらよく藁を積んだ馬で牽く馬車状リヤカーあるだろ? あれがさ、何故だか俺の背中に乗ってるんだわ」

 よくよく見れば巨大なドラゴンが農作業用に置かれていたのだろうリヤカーを器用にも翼の付いた手を使い手押し車の要領で俺を轢き殺そうとしていたのだ。


「やりましたねアナタ様! 見事ドラゴンの注意を惹くことが出来ましたよ♪ でもまさか手も足も出せないからと、代わりに台車道具を使いアナタ様を轢き殺そうとするとは……このドラゴンもなかなか頭が良いですよね♪」

「(果たしてその漢字の表記は合ってるのかよ? それよりも敵であるドラゴンを褒めてないで俺を助けろよこのクソメイドが。一体誰のせいでこうなったと思ってやがんだ!?)」


「がっはっはっはっはっ」

 敵のドラゴンにすらメッチャ笑われるんですけど。しかも『超腹いてぇ~、コイツ何で死んだふりとかしてんだよ(笑) でもさすがに『ガンスタ』出された時は正直焦ったぜ! この俺様でもガンスタの前では手も足も出せなかったよ。でも発想の転換っていうか、代わりにそこらにあったリヤカー出しちゃった♪』って感じで嘲笑われてるしな。


 そしてドラゴンがもうもう一度俺のことを轢き殺そうと少しだけ後ろに下がったチャンスを生かし、リヤカーの車線から外れるように横に転がりながら逃げた遂せた。


「……ちっ」

 そんな芋虫の生還を見て静音さんが残念そうに舌打ちをしていた。

「(もうさ、目の前のドラゴンよりも最大の『敵』は静音さんなんじゃないのかな?)」

 そんなことを思っていると静音さんが俺の元へ急ぎ駆け寄ってきた。

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