第12話 これは果たして武器なのか?

「はぁはぁ……そろそろ終わりにすんべ。あんまりしつこい男は嫌われるだがんなっ」

 ペッペッ。っとアルフレッドは唾手すると武器であるピッチフォークを手から落ちないようしっかりと両手で持ち直し、いつでも俺に攻撃できるように中腰となりその機会を窺っている。


「ま、マジで怖すぎんだけど……」

 もはや表記の『ピッチ・・・フォーク』が『ビッチ・・・フォーク』に見えてしまうほど、色んな意味で恐れ戦いていた。その戦き様と言ったらもはや小野小町と同義と言っても過言ではない。そんな余計なことを考えているとアルフレッドが俺との距離を少しずつ縮めてきていた。


「(ま、まずい!? このままだと相手の攻撃範囲に入ってしまう。そして今にもケフィア的な白いモノを飛ばしてきても何ら不思議じゃないぞ! 何か打開策はないのか……)」

 必死に家の中を見回すがヤツが暴れたせいで主だったモノは床やらなんやらに散乱しているだけだった。そして気付いたのだが家の備品主に金目の物が無くなっており、静音さんの足元には茶色い麻袋がパンパンになって置かれていた。


「静音さん……その足元の袋は一体何だろ? 何だろ?」

 俺はその答えを知りつつも、その日暮らし風ヒロインのように語尾を繰り返して静音さんに聞いてみることにした。

「えぇ゛こ、これですか? これはそのぉ~バンダナ? そう僧侶に必需なバンダナですよ!」

「そんな大きなバンダナはこの世に存在しない!」

 静音さんの大ボケに速攻でツッコミを入れてしまった。


「(大体なんだよ僧侶に必需なバンダナって。誤魔化すにしても、もう少しだけ捻ろうぜ!)」

「いやいや本気本気。今のワタシはなんてゆうか、横領の不祥事が発覚して追い詰められた挙句、記者会見で開き直った公務員くらいの本気度ですからねっ!」

「うん、それはもう自白したのと同義だからね静音さん!」


「まぁそれは棚上げしまして……そろそろ場も温まってきたことですし『戦闘チュートリアル』でもしましょうかね? そこの農夫! ここでは手狭なので続きは外でしますよ! 言うなればそう野外お外deプレイというやつです♪」

 静音さんことクソメイドは自分のことを棚に上げ奉ると続きは野外プレイで……っと農夫のおっさんへと提案した。


「一体誰がそんな提案呑みやがるっていうんだよ……」

「はい分かりました! 貴女様の言うとおりですね! さっそく外に出ます!!」

 アルフレッドは静音さんが言うがまま、そそくさと家の外に出てしまった。


「(何なの??? この世界では誰も静音さんには逆らえない設定なのか?)」

「ふむ。なら私達も外へと出るとしよう、ほらキミも外へ出るぞ!」

 そうして俺と天音は外に出たのだが、何故だか時間をかな~り空けて静音さんが家の外へと出てきた。そして当然の如く麻袋自称バンダナを引っ張っていた。また袋が重いのか、ずるずるっと人気者のサンタのように袋を引きずりながら家から出てくるメイド姿はとてもシュールな光景である。


「(ど、どんだけ家の中のもん強奪してきたんだよ……)」

 冗談抜きに下手すりゃ家の外壁に縄をかけて家ごと盗みそうな勢いである。

「ふふっ」

『うーん、うーん!』っと静音さんが家の外壁にロープをかけ一所懸命引っ張ってる姿を想像してしまい、少しだけ笑ってしまう。


「まったくも~う、何を笑っているのですかアナタ様は! さすがのワタシでもそんなことはしませんからね!! ぷんぷん!」

 ぷりぷりと可愛く拗ねる静音さんは何故だかいつもよりも可愛く見えた。


「そもそもワタシならそんな非効率なことはせず、この家に火災保険をたんまり掛け火を放って燃やすくらいですからね(笑)」

「…………」

 何か怖い事をクソメイドが言っているが俺は無視することにした。そうして俺達は仕切りなおしと言わんばかりに家主であるアルフレッドと対峙する事となったのだ。


「オラ……一体なにしてんだべ」

 どうやら少しの時間を置いたことで気が削がれ冷静になれたのだろう。このままなら誤解を解いて説得すればどうにか戦わずに済むかもしれない。


「それでは困りますよ! 貴方は貧民階級の分際で勝手に施錠されていたドアを壊された挙句、家の中をメチャクチャにされて食べ物や備品そして金目のモノをすべて強奪されてしまい、その上で小銭ジャンプまでさせられたのですよ! それも名もなき民『村人D』にですよ! 本当にこのままであなたは後悔なさらないのですかっ!! あと貴方はチュートリアル的な役割なのですから、ちゃんとその役割だけは果たしてくださいな!」


 静音さんは長々と目の前にいるアルフレッドに説教を始めていた。もはやそれが説教なのか、ただディスりなのか分からない。まぁたぶん後者だろうけど。ってかいつの間にか俺の役割設定が『村人C』から『村人D』へと華麗なる降格されてるのは何故だろうね? あと静音さん、アンタ然も自分のした犯罪ことを俺に擦り付けないでくれよ!?


「静音さん! お願いだからこれ以上おっさんを煽らないでくれ!」

 俺は静音さんにこれ以上事を荒立てないよう懇願する。

「そうだべさ! 僧侶様のありがたいご高説でオラは目が覚めたべ!!」

 だがしかし、時既に遅かったようだ。


『僧侶静音の説得によりアルフレッド・マークス三世は本来の目的を思い出したようだ! アルフレッド・マークス三世のテンションゲージがMAXとなり殺気満々になりましたよ♪』


「おら覚悟すんだべ! この『盗人E野郎』めがっ!!」

「わーっ! やっぱりこんな展開なのかーい!?」

 そして何故だか俺の役割設定がどんどん落ちているのはもはや気のせいではないぞ! そのうえ敵役のアルフレッドにはどうやら俺だけが標的のようである。もはや憂鬱ながらに『目標をセンターへとしてスイッチ』状態である。


「ふむそろそろ飽きてきたし、物語を進めるには勇者である私も参加せねばならないな! みんな各々自分の武器をとり戦闘態勢になれ~い!」

 ようやく天音が自分の役割を思い出したらしく 勇者として初めての号令を下し俺を援護してくれるようだ。


「ほんとやれやれですね。まったく仕方ないですね」

 また意外なことに静音さんまで参戦してくれるようだ。むしろ俺としては静音さん自体が1番の敵という認識をしていたのだが……。


「天音……そして静音さん! 二人ともありがとうっ!!」

 俺は物語も中盤に差し掛かり初めて『仲間』を得られたようだ。ただそれだけの事なのに目がうるうるとしてしまい、なんだか泣きそうになってしまう。


「(まぁ本当の原因は主にコイツらクソメイドで俺は完全に巻き込まれただけなんだけどね)」

 とは心の中で思っても口には出さないのが大人であるとしているので口には出さなかった。まぁ口にしたら余計面倒事になると思っただけなのだがな。


「(バサッ)さあ、どこからでもかかってこい!」

「(ダンッ)アナタ様……この貸しは高くつきますからね!!」

「(すちゃ)オラも準備できたべさ!」

 天音は銀行の帯がついたままの万札の束を両手に持ちながら静音さんは右手にモーニングスターを装備して地面に叩きつけ、そして最後に何故だかアルフレッドも自らの武器でピッチフォークを構え呼応していた。


「ってか天音は何で札束なの!! 成金セレブ感をアピールしたいのか!? そもそも腰に携えているいかにも勇者が持っていそうな伝説っぽい武器『剣』は使わないのかよ!? そして静音さん。僧侶なのにアンタが一番物騒なんだよ!! あと敵のおっさんも! アンタはアンタで何ちゃっかり俺達の仲間みたいな感じで混じってんだよ!?」

 もう周り全員が完全ボケ役ばかりなのでこの物語唯一のツッコミ役の俺は忙しすぎる状況である。そこである重要なことに気づいた。


「あ、あれっ……みんな(敵含む)は武器あるのに俺には武器はないの???」

 そう仲間達はいつの間にか各々勝手に武器が出現し、それを装備したのだが肝心要この物語の主人公たる俺には武器が一向に出てこなかったのだ。さすがにRPGの戦闘で武器なしの丸腰というのではそもそも戦うどころの話ではない。そう思った俺は他の奴らに気付かれぬよう小声で静音さんにおこづかいという名の賄賂をチラつかせて手招きをする。


「(静音さん。ちょっとちょっとこっちに来て!! ちらっちらっ)」

「はい? なんですかねアナタ様? ちゃっかり」

 この物語の管理人である静音さんならば俺の武器を出してくれるに違いない……そう思い目の前に敵がいるにも関わらず『ちょっと待っててね……』っと断りを入れた。戦隊モノの悪役のように律儀に待ってくれるアルフレッドに感謝しつつも、声が聞こえないように後ろを振り向き静音さんにヒソる。


「(静音さん。俺にも洋剣ロングソードみたいな武器とかないの?)」

 もうこの際例え『木の棒』が出てきても文句を言わんぞ!

「へっ? あ、あぁ武器ですか? もしかしてアナタ様も欲しかったんですか?」

「(いやいや静音さん。もしかしなくても欲しいに決まってるでしょうが! さすがにRPGモノの戦闘において『武器なし』の素手はさすがにキツすぎだもん)」


「まったくもう自ら戦いを挑むなら自前の武器くらい事前に用意しないとダメですからね! まったく一体全体何を考えていらっしゃるのやら……では今回だけ特別ですよ、はい。コレをどうぞ♪」

 うん、めっちゃ怒られてる。俺がいつ自ら・・戦いを挑んだのだろうか? 


「えっ? こ、コレが武器なのかよ……」

 静音さんから武器とやらを手渡されたのだがその武器とは……全体的の色としては真っ黒で左側にはいかにもな十字キーが、そして右側にはアルファベットが書かれた色付きのボタンが四方に、また真ん中には『Start』や『Select』などの配置。その左右にはジョイススティックが2つも付いていた。上側側面には『L』や『R』などのボタンが四つ付いていた。


 静音さんから渡された武器とは、いわゆるゲームコントローラーそのものだった!

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