第11話 これが逆相対性理論の極みだ!

「ほら黙ってねぇで何か言ったらどうなんだよ、おい!」

 農夫のおっさん家主さんがブチ切れ5秒前。右手には干し草を掬うフォーク状の農機具ピッチフォークが武器として装備されており、さながらデーモン系モンスターっぽいシルエットで怖すぎる。


「おいそこの赤い髪の女。おめえはオラの家で何してたんだ?」

 農夫のおっさんは本棚に居る赤い髪が目立つ天音へと声をかけた。

「ふむ、私のことかな? 私は勇者でありこの家の本棚を整理していたのだ。ダメだぞ! 本の中にお金を隠しておくだなんて……」

「そ、そったら本の中にオラのへそくりさ、隠してあっただなんて……すっかりそのことを忘れてたべ。ほんとすみませんでした」


『これは私が生涯大事に預かっておくからな!』と天音は本に隠されていたへそくり5シルバーを自らの懐へと仕舞い込んでしまった。何故だか盗みに入った加害者の天音が説教をして、逆に盗まれた被害者の家主が謝るこの構図。ある意味で逆相対性理論の極みであった。


「(えっ? えっ? おいおい冗談だろ?)」

 俺は天音の自分棚上げ理論構築に対して驚くよりも先に若干引き気味になってしまう。そして今度は静音さんの方へと向き声をかけていた。


「あ、あの失礼ですが……貴女様は一体私の家で何をなさっていたんでしょうかね? あっ、いえいえ決して他意などはないのですよ。だから誤解しないでくださいね。こんなこと聞いてほんと申し訳ないです。はいー」

 農夫のおっさんはとても丁寧な標準語で静音さんにそう聞いた。それになんだかゲームに出てくる商人みたく両手をニギニギと手もみをして、静音さんのご機嫌伺いをしているようにも見える。


「(何で静音さんに対してだけ標準語なんだよ!! ってか、そもそも訛りじゃなくちゃんとした標準語で喋れたのかよアンタ!?)」

 一瞬そんなツッコミそうになったがなんとか心の中に思い留めた。だって右手に装備されているピッチフォークの武器が怖すぎるんだもん♪


「あ~ワタシですか? ワタシはこの家の施錠されたドアを作者から預かった体のマスターキーの名の元にモーニングスターの鉄球で無理矢理ぶち破り、家主である貴方の許可も得ずして盗みに入っている最中ですけど……何か文句でもあるって言うのですか!? そもそもこの家は本当に何にもない家ですね! 恥を知りなさい、この貧乏人風情が!!」

 などと静音さんは家主を恫喝していた。


「(もう盗人猛々しいとか、そんな生易しいレベルじゃなかったわ。もはやただの893ヤクザじゃねぇかよアンタ……)」

 俺は静音さんの見事なまでの逆ギレに対して、思わず感嘆の声を挙げてしまいそうになった。


「それはすみませんでした。ですが今年は長雨のせいで農作物が不作で自分が食べる物にも苦労するほどなんです。ですからその……」

「そんな言い訳がこのワタシに通用すると思っているのですか? ほら、その場で小銭ジャンプしてみなさい。さぁ早くなさい!!」

「は、はいーっ申し訳ございません! す、すぐに始めますので……」

 その有無を言わさずの静音さんの命令に対して家主は言うがまま素直に従いその重い巨体で小銭ジャンプをすると『チャリン♪ チャリン♪』っとポケットから何枚かのコインが床にこぼれ落ちてしまった。


「ほら見なさい! 1、2……5シルバーもポケットに隠し持ってたじゃないですか! もしかしてワタシの目を欺けるとでも思っていたのですか? もしやこのワタシのことを馬鹿にしているのですかね? モブキャラの農夫の分際でほんと良い度胸してますねぇ~」

 静音さんは農夫のおっさんが隠していた事に腹を立てお怒りモード。


「滅相もございません! ですが、そのこれは私の全財産でして……」

『だから言い訳しないの!』と更に恫喝して床に落ちた5シルバーを家主に拾わせた挙句、その全財産をすべて強奪してしまったのだ。


 そして家主は俺の方に振り向くとこう叫んだ。

「てめえオラの家で何やってんだ! ざっけんじゃねーぞこの野郎!」

「えぇっ!? お、俺はまだ何もしてねぇぞ!!」

(な、なんかコイツらへの怒りがすべて俺に振り向けられてねぇか……)

 先程とは打って変わった家主の態度。むしろ今までの鬱憤を吐き出すかのようにブチ切れていたのだ。


「てめえは何もしてねぇのに他人の家の施錠されてるドアを粉々に壊したり、タンスを開けたりするって言う気なのか!? ああん!! ま、まさかおめえ……最近流行の『盗人』なのか!? そうだべさ!!」

 家主は再びピッチフォークの武器を構え直すと、今にも俺のお腹にその鋭い刃先を突き刺そうと少しずつにじり寄って来た。


「ち、ちがっ……俺は盗人なんかじゃないぞ! いやそれらは全部静音さんがやったことだし。何で俺に責任転嫁されてんだよ!?」

 このままだとまたお腹に最先端のアクセサリーが増えてしまうだろう。だがそうはなるまいと俺は慌てて言い繕った。


「ほ、本当……なのか? まさかキミが盗人だったなんて。正直キミには心底失望したぞっ!!」

 などと天音からはこの世の終わりのように嘆いてしまい、

「アナタ様どうか一言だけ言わせて下さいませ。この泥棒が恥を知りなさい! こんのぉ~っ、童貞の分際で盗人野郎がっ!!」

 静音さんはそう吐き捨てるようにそんな言葉を浴びせると激しく俺を責め立てた。


「こ、こんなに理不尽なことってあるのかよ……とほほっ」

 俺は嘆きとも悲しみとも取れる言葉を口にしてしまう。

(あと静音さんのは全然一言じゃないよね!? ってかコイツら自分の仕出かしたこと棚に上げすぎだろ……ほんとヒロインなの?)


「そこだべさっ!!」

怒り狂った農夫のおっさんは手にしているピッチフォークを精確に俺の腹目掛け槍を刳り出してきた!

「うおっ!! あ、あ、あ、あっぶねーな、おいっ!?」

 ガシャンッ!! 辛うじてその刳りだされた武器を俺は本能的に避けた。だが避けたことで隣にあった大きなツボが割れてしまい犠牲となった。


「(あんな鋭利なモノで腹を串刺しにされたらボディピアスどころの話じゃすまないぞ!?)」

 割れたツボを尻目にそんなことを考えられる余裕があったが、たぶんそれはこの物語の主人公としての見栄である。

「よくもオラの家のツボさ、割ってくれたな!!」


『家主の怒りのボルテージが3上がりました♪』


「いやいや俺は割ってないよ、アンタだよアンタ! おじさんいくら家に押し入られて怒ってるからって、そんな鋭利な武器で攻撃するのは……」

「オラの攻撃さ避けるでねぇべ! まだまだガンガンいくべさっ!!」


『家主の作戦行動が『一緒にガンガンイクべさ♪』に変更されました♪』


「む、無茶言うなよ!? 本気で当たったら死ぬぞっ!! 一旦矛を収めましょうよ、ねっ! 大体何で俺ばっか狙われるんだよ! もしかして俺がこの物語の主人公で真の勇者操作者だからなのか!?」

※RPGなどでは基本、操作しているキャラが一番敵に狙われるよう設定されています


「(もぐもぐ)いいえそれは違いますよアナタSummerサマー。たぶんですが……ゴクン……一番弱いから狙われているんでしょうね(笑)」

「(ゴクゴク)そうだなぁ。所詮この世は強者が弱者をひれ伏せさせるのが常識であるしなぁ~(笑)」

「おいコラ、なにてめえら二人だけ飲み食いしてやがんだよ……」

 見れば俺が襲われているにも関わらず天音と静音さんはダイニングテーブルの上に座り、そこらにあった食べ物や飲み物などを食べ散らかしていたのだ。その光景はもはやヒロインと呼ぶには程遠い存在といえよう。しかも俺の『様』表記が英語で夏の意味になっていやがるしな。もはや誤字レベルだぞそれは!!


「オラん家の食べ物さ、勝手に食いやがってもう許さねぇぞっ! おめぇだけは生きて帰えさねぇから覚悟しやがれよ、この盗人めっ!」

「だから俺は何にもしてないってばっ!?」

『でろでろでろでーん♪ なんとあなたの目の前に野生の農夫こと『アルフレッド・マークス三世』が現われた! なんとなくコマンドを入力してください(ぺこりっ)』


「何かもうナレーションの表示すらバグってるんだけど! コレって本来もっと前に出てくる説明文だよね!? しかも家主の名前が『アルフレッド・マークス三世』とか、ちょっと貴族っぽくて何かカッコよさ気なんですけど!! あとあと街の人なんだから『野生』って枕詞はおかしいよね!?」

 俺は一息で出来うる限りツッコミをしてしまう。


「まぁぶっちゃけもう面倒だから『ここいらにぶっ込みゃいいじゃん♪』っとウェイウェイ的なノリでワタシが修正しときやしたよ!」

「おいクソメイド。てめぇが原因だったのかよ……」

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