第9話 RPGにおけるお約束と家捜し

「そろそろ手始めに『チュートリアル』にお話を進めますね。ここでアナタ様に問題です! RPGにおける『お約束』とはなんでしょうか?」

「えっ? お、お約束? なんだろう……そしてなんでクイズ形式?」

 とりあえず思いついたことをそのまま口にしてみる。


「RPGにおけるお約束『操作コマンド』についてかな?」

「うーーーん……実におしいです! 正解は『家捜し』でした♪」

「はぁ……『家捜し』ね?」

『家捜し』ってつまりアレだろ? 他人の家に入って勝手に物を盗んでいくヤツ。確かにRPGのお約束ではあるけど、正直自分がそれをやるのはあんまり気が乗らないよなぁ。そもそもどこら辺がおしいん・・・・だよ?


「つまりさ、他人の家に勝手に入って泥棒するわけだよね?」

「ち、違うぞ!? 我々は決して泥棒なんかではないからな!」

「おわっ……って何でいきなり天音が登場してんだよ!?」

 いきなり俺の背後からそんな声がして振り返って見ると、そこには鎧を着込み腰に剣を携えた天音の姿があったのだ。どうやら本当に彼女がこの物語における『勇者様』の役割を担っているようだ。


「へっ? 天音お嬢様は最初からちゃんとそこに居ましたよ」

「そ、そうなの? 勇者のクセに存在感なさすぎだろ……」

「アナタ様はほんとうに酷いお方ですね。婚約者の天音お嬢様に対してそんな扱いをするなんて。よよよのよ~よお~っ! ババン!」

 何か静音さんが泣いてるマネしてるんだけど笑いをこらえてるのか、肩がちょっとぷるぷるしていた。あと何でか知らないけどさ、最後歌舞伎役者っぽくなってたよな? 一体何がしてえんだよアンタは?


「き、キミは大きな勘違いをしているぞ! 私たちはまだお金もあまりないし、武器や防具・かいふく草などの物資すらないのだぞ! それで外にいる凶悪なモンスター達とどう戦えと言うのだキミは!?」

「確かにまだ序盤も序盤だもんな? やっぱり偉そうに威張る天音の言うとおり……って俺が納得すると思ったのか! 天音は逆ギレしてるけどさ、それって要は泥棒する・・・・って事じゃねぇかよ!?」

「「…………」」

 二人とも俺から目を逸らすだけで何も喋らなくなってしまっていた。


「さて皆様にはさっそくRPGの一番のお約束である泥棒を……い、いえ『家捜し』をしてもらいます。では手始めにあそこにあるみすぼらしい農家の一軒家から参りましょうかね♪」

 静音さんはお店などが立ち並ぶ賑やかな所より、少し離れた静かな1軒の農家らしき家を指差していた。どうやらあの家が目標らしい。


 場所としては宿屋の右手奥の方にひっそりと隠れるように立てられた農家風の家だった。ドアの横には干し草をすくうフォーク状の農機具ピッチフォークが立てかけられており、家のすぐ横には馬に水を与える桶と馬繋場と木で出来た綱木などがあったが肝心の馬の姿はなかった。


「ふむ。とりあえずは家主がいるかどうかドアノックだな。誰かいませんかー? いなかったら返事をしてくださーい♪」

「普通さ、家に誰もいなかったら返事はできないからな天音よ」

「……どうやら誰もいないみたいですね」

 ガチャガチャ、ガチャガチャ。天音は再度留守を確認するように乱暴にドアノブを回し始めたが、どうやら鍵がかかっているようだ。


「何なのだ? この家はちゃんと鍵がかけてあるのだな……ちっ」

「まったく田舎のみすぼらしい農家のクセにドアに施錠するだなんて! 貧乏人のクセになんたる傲慢な態度なんですかね……ちっ」

 何かウチのヒロイン共が舌打ちしてんだけど、この態度と暴言はいいのかよ? あとドアの施錠と傲慢さはまったく関係ないぞ!


「んーっ。どうしたものやら……おい静音! なんとかできないか?」

「あっなんとかできると思いますよ、天音お嬢様」

 鍵がかかったドアをなんとかできるのかよ。ピッキングでもする気なのかな? まぁこの静音さんクソメイドならそれくらいマスターしてても、まったくもって何ら違和感がないよなぁ。


「静音さん。本当になんとかできるのか?」

 素直がモットーな俺は直接聞いてしまえるほどに厚かましかった。

「もちろんです♪ 何せこのワタシは『この世界の管理人』でもあります。またどんなドアでも開けられると噂のマスターキーを作者の方から預かっており、それを使えばこのようなドアなど造作もありません♪」

 なんてモノをなんてヤツに預けてしまってるんだ作者の野郎は!? もうこれでは静音さんクソメイドのやりたい放題ではないか!


「それでは……こほんっ。今からこのマスターキーっぽいモノを使いドアを無理矢理ぶち開けますので、ドアから少し離れて下さい!」

「んんっ!? は、離れる? 離れるって何だよ!!」

 何か不安な単語が聞こえてきたんだけどさ。確か『マスターキーっぽいモノ』と、あと『ドアを無理矢理ぶち開ける』となっ!?


「よし分かった。静音の邪魔をしないよう、早くキミも離れるんだ!」

 だがそんな俺の疑問を他所に天音に『離れるぞ!』と促され、ドアから少し離れることに。すると静音さんはどこから取り出したのか、モーニングスターを右手に持ち『ダダンっ!』っと地面に叩き下ろした。


「(あっ鉄球の重さで地面が少しへこんだわ)」

 そして静音さんは『ブンブン♪ ブンブン♪』と蜂さんみたいな大きな音を立て、モーニングスターの鎖を掴み振り回し始めた。

「(何かさ、もうこの後の展開がわかるような気がするわ)」

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